中村好文 百戦錬磨の台所 vol.2
内容紹介
住宅建築家が40年間作り続けた理想の台所
住宅建築家、中村好文さんが理想とするのは、散らかっても使い倒してもへこたれない大らかな台所。本書は、大量の食器・道具を美しく仕舞える収納、大きな魚を捌けるシンク、自然と人が集まるアイランドカウンターなど、使いやすく工夫された台所の数々を、住まい手の使いこなしぶり、職人と語らう製作の舞台裏も交えて紹介。
体 裁 B5・144頁・定価 本体2700円+税
ISBN 978-4-7615-2798-3
発行日 2021-11-05
装 丁 大野リサ
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まえがき
1 六つの台所
三谷さんの家――築後36年目の台所
大磯のすまい――勝手口付きマンションの台所
なつあきの家――モルタル・カウンターのある台所
葉山の家――アイランド・カウンターは台所の主
Asano Family House――三世帯住宅、三主婦、三様の台所
Cliff House――手直ししながら使い継ぐ台所
2 工房対談
その1 阿部木工 阿部繁文さんの巻
その2 工作房 加藤治さんの巻
あとがき
千葉県の漁師町に生まれ、高校時代までその田舎町で暮らしました。大学に入り、19歳から東京で暮らすようになりましたが、賄い付きの家に下宿したので(今では想像しにくいことですが、50年前は自宅の一室を賄い付きで学生に貸す下宿屋はさほど珍しいことではありませんでした)、朝夕は下宿のおばさんの作ってくれるごはんを食べ、お昼はだいたい大学の食堂で済ませていました。
ここで、小声で白状しますが、実は、ぼくは20歳を過ぎるまで食べるものを自分でちゃんと料理をして食べたことがありませんでした。
実家にいたころは、料理好きだった母親がせっせと料理をしていましたし、上京して姉と暮らした短期間の食事は姉が作ってくれました。そしてその後は先ほど書いた賄い付きの下宿だったので、正直いって台所に立つ機会が……というより、必要がなかったのです。朝食のトーストや目玉焼きぐらいは作っていましたが、恥ずかしながら、お米を研いでごはんを炊いたことも、味噌汁を作ったこともなかったのです。
料理をするきっかけは、「本」でした。
ぼくは自分の人生で必要な多くのことを、「本」と「映画」と「旅」から学んだのですが、自分で料理をすることになったのは、伊丹十三の『女たちよ!』(1968年)と『ヨーロッパ退屈日記』(1965年)という2冊の本に出会ったからです。この本を読んだことで、無性に自分で料理というものをしてみたくなったのです。
ちょうどそのころは学園紛争の真っ最中で、大学は封鎖されて長期の休校状態に突入していました。たちまち生活は不規則になり、賄いの夕食を突然キャンセルしたり、アルバイトで深夜の帰宅が続いたり、下宿先のおばさんに迷惑をかけることが多くなってきたこともあり、引っ越すことにしました。
引っ越し先は、家賃が安く、部屋で自炊できることを条件に探すことにしました。そして、できれば山口瞳が「わが町」と呼んでいた国立という町に住んでみたいと思っていました。
運の良いことに、国立駅前の不動産屋にふらりと立ち寄ったとたんに、条件をすべて満たす貸し部屋が見つかりました。
その物件は、武蔵野の面影を残す櫟林の中に忘れられたように建っている古風な洋風の一軒家で、2階が大家さん夫妻の住まい、1階の2部屋が共同トイレ付きの貸し部屋というもの。小道に面した部屋のドアを開けると、正面に靴脱ぎの土間とバスタオルを二つ折りにしたぐらいの板の間、左手に4畳半の部屋。部屋の北側の壁の一部が出窓になっていて、そこが台所で、出窓のガラス窓一杯に桜の古木が枝葉を広げていました。部屋には間口一間(いっけん)の押入れが付いていて、独り暮らしの貧乏学生には贅沢すぎる部屋でした。しかも家賃は月額5000円で、国立駅北口から徒歩5分という、願ってもない好条件でした。
「台所」と書きましたが、実際にはまだ台所ではなく、幅約65センチ、奥行き約40センチの出窓の窓台に水道の蛇口と人造石を研ぎ出した流しがはめ込んであるだけでした。そこで、引っ越し荷物を運び込んで一段落した後で、さっそく台所を設える作業に取りかかりました。
まず日曜大工の店で鍋や食器を置くためのラワン材の棚板や棚受けの金物、有孔ベニヤのハンガーボードと付属のフックを買い、次に荒物屋で寸胴鍋やフライパン、包丁や菜箸などの細々した調理道具、そして通称「アサガオ」と呼ばれる鋳物のガスコンロを買い、帰りがけに燃料店に寄ってプロパンガスの契約をしました。そして、翌日の朝から丸一日かかって、とりあえず最低限の料理ができる台所らしきものを完成させました。
今にして思えば、これがぼくの手がけた台所の第1作目ということになります。
そしてぼくは、このときからこれまでの半世紀の間に倦まず弛まず350を超える台所(この中には自家用の台所が大小合わせて九つ含まれています)を作ってきました。
『百戦錬磨の台所』のvol.1ではその中から五つの台所を紹介しましたが、このvol.2ではそれとは少々条件と趣きの異なる六つの台所をご覧いただきます。
また、この本では、これまでぼくと二人三脚で台所を製作してくれた2人の木工職人と語り合う「工房対談」も収録しています。
さて、前置きはここまでにして、読者の皆さんには、台所から聴こえてくる軽やかな包丁の音や、漂ってくる美味しそうな匂い、料理をしながら口ずさむ鼻歌などを思い描きつつ読み進めていただけたら幸いです。
中村好文
1990年から2016年のほぼ四半世紀にわたって、ぼくはアメリカ東部とケンタッキー州に残るシェーカー教徒の村々を繰り返し訪ねる旅をしました。
この本の「なつあきの家」の章で、ぼくは家具をデザインする上で、シェーカー教徒のデザインから大きな影響を受けたと書きましたが、あらためて振り返ってみると、家具デザインだけでなく、建築設計(とりわけ住宅設計)に取り組む上で、シェーカー教徒から計り知れない影響を受けていたことに思い当たります。
シェーカー教徒たちが建築に取り組む際に信条としたのは、合理性、効率性、機能性、そして有用性でした。彼らは、物事を合理的に考え、効率よく機能を満足させることに心を砕き、その上で、建築に日々の暮らしに役に立つ創意工夫を巧みに盛り込んでいたのです。
ぼくが住宅を設計する際に知らず知らずのうちに自分に課していた基本姿勢は、まさにこのことでした。
住宅のなかで、合理性、効率性、機能性、有用性の四つのことが要求され、最も顕著に表れるところは「台所」です。もう一度、話をシェーカーに戻しますが、たとえば、マサチューセッツ州ハンコックのシェーカー村にある彼らの居住棟(Dwelling House)を訪れ、その台所に一歩足を踏み入れれば、このことを目の当たりにすることになります。
左/アメリカ東部ののどかな田園地帯にあるHancock Shaker Village。広い敷地内にシェーカー教徒たちの暮らしぶりを伝える大小さまざまな建物が点在している。白い円形の建物はこの村のシンボルでもあるラウンド・バーン。
右/シェーカー教徒たちが起居していた居住棟の最下階に、日当たりと風通しの良い素晴らしく気持ちの良い台所がある。創意工夫が「習い性」となったシェーカー人の調理道具のひとつひとつを眺めるのは至福のひとときである。
台所の中心に据えられた巨大な薪窯には、煮物用、揚げ物用、蒸し物用の三つの竃(かまど)があり、その他に大小二つの働き者のオーヴンが備えつけられていますし、室内を見渡せば料理をする上で便利そうな工夫がそこここにうかがえます。大きな窓からさんさんと陽の光が差し込む窓辺には、「リンゴの皮むき器」や「リンゴの四つ割り器」に代表されるようなシェーカーならではのユーモラスな調理道具(彼らが特許も取っていたご自慢の発明品です!)も並んでいて、思わず微笑を誘われます。
上/竃の前の床をフローリングではなく分厚い石敷にしてあるのは、はぜた薪や火の粉が床板を焦がすのを防ぐためだけでなく、石に蓄熱させて一種の床暖房にするためだという。
下/シェーカー教徒が特許を取得していた「リンゴの四つ割り器」。便利な道具であるだけでなく、独特のユーモアが漂うこの種の道具たちから、ぼくはどれほど多くの影響を受けたことだろう。
つまり、ここでは目にするものすべてが、合理性、効率性、機能性、有用性のオンパレードなのです。
この台所の床面は地面から1メートルほど下がったところにあり、いわば半地下的な場所ですが、規則的に並んだ開口部のおかげで、驚くほど明るく、爽やかな空気に包まれています。そのなんとも言えない晴れやかな心地の良さを一言で表現するのは難しいのですが、あえて言えば「朗らかな台所」ということになるかもしれません。
古希を過ぎたぼくに、今後、どれくらいの数の台所をデザインする機会があるかわかりませんが、ぼくとしては、四つのキーワードを常に念頭に置きつつ、これから手がけるすべての台所に「朗らかな気配」が宿るようにしたいと考えています。
中村好文
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