増補改訂版 プロでも意外に知らない〈木の知識〉

林 知行 著

内容紹介

木造需要の高まりを踏まえた定番書の改訂版

木の機能や成長に関する正確な知識、実際の商品や誤った使用例などを明快に解説した定番書の改訂版。環境意識の高まりや中大規模木造の拡大といった潮流を踏まえて記述・事例を更新したほか、難燃化処理や耐火構造部材など防耐火加工技術の動向や、開発著しい「CLT」「NLT」の最前線、規格化された新構造材について増補した。

体 裁 A5・268頁・定価 本体2500円+税
ISBN 978-4-7615-2770-9
発行日 2021-04-20
装 丁 KOTO DESIGN Inc. 山本剛史

レクチャーシリーズ「Dr.ハヤシの木材講座」紙面見本目次著者紹介はじめにおわりに正誤情報

『プロでも意外に知らない木の知識』増補改訂版の刊行を記念した、著者・林知行さん(京都大学生存圏研究所特任教授)によるウェブ講座シリーズ。
樹木の性質、林業の現況、木材の基礎知識、加工技術の動向など、読者のみなさんからの“木にまつわるアレが知りたい!”を募集します。
ご意見・ご感想フォームよりどしどしお寄せください。

公開中のラインナップ

sample01_口絵_ちょっとした勘違い

sample02_5_木質建材の種類

sample03_12_実大材の強度特性

sample04_27_丸太

はじめに
ちょっとした勘違い1~6

1章 木材利用の常識・非常識

1|木材利用の意義
2|樹木の成長
3|木材の強度発現メカニズム
4|木材の物性と水分
5|木質建材の種類
6|構造用建築材料として木材の長所と短所
7|木材と木質材料の耐久性

2章 木材の強度的性質

8|木材の変形と外力
9|いろいろな強度
10|強度の異方性
11|強度特性に影響を及ぼす因子とそのバラツキ
12|実大材の強度特性
13|実大材の強度試験
14|実大材の許容応力度と下限値
15|構造信頼性
16|強度等級区分
17|E-F表示

3章 木材の加工

18|製材(ひき材)
19|機械加工
20|乾燥
21|接着
22|接着の技術
23|たて継ぎ
24|配向
25|積層接着の力学的意味
26|難燃化処理

4章 木質建材の強度特性

27|丸太
28|製材
29|たて継ぎ材
30|集成材
31|単板積層材(LVL)
32|PSLとOSL
33|Iビーム(I-Beam)
34|合板
35|OSB
36|直交集成板(CLT)
37|NLT
38|接着重ね材・接着合せ材

5章 材料から見た木造建築

39|伝統構法
40|在来軸組構法
41|金物構法
42|プレハブパネル構法
43|枠組壁工法
44|丸太組構法
45|中大規模木造

6章 ちょっと悲しい実例集

おわりに
参考文献
索引

林 知行

京都大学生存圏研究所生活圏木質構造科学分野特任教授。秋田県立大学名誉教授。国立研究開発法人森林研究・整備機構フェロー。農学博士。
材料学会論文賞、木材学会賞、杉山英男賞などを受賞。
単著に『ここまで変わった木材・木造建築』(丸善出版、2003年)、『木の強さを活かす-ウッドエンジニアリング入門』(学芸出版社、2004年)、『今さら人には聞けない木のはなし』(日刊木材新聞社、2010年)、『目からウロコの木のはなし』(技法堂出版、2020年)、編著に『フォレスト・プロダクツ』(共立出版、2020年)、その他分担執筆多数。

─改訂にあたって─

本書のオリジナルともいえる『ウッドエンジニアリング入門』が刊行されたのは2004年3月でした。当時はまさに木材・木造建築に強い追い風が吹き始めた時代でした。

阪神淡路大震災の反省から木造住宅に関する研究が激増し、その結果を受けて品確法の施行や建築基準法の性能規定化等々、木造建築のレベルアップに向けての施策も始まっていました。

しかし、1960年代から四半世紀にわたって続いた木造建築の暗黒時代の悪影響は払拭されておらず、木材・木造に対する取り扱いは、まだまだ情緒的なままでした。建築関係の雑誌や啓蒙書に、情緒性はたっぷりだが、非科学性もたっぷりという記事が散見されたのです。

そこで、そのような状況を改善すべく、「ウッドエンジニアリング」、すなわち伐採された丸太が様々な加工を経て木造建築の構造体になるまでをカバーした科学技術体系の入門書を執筆することにしたわけです。

この本は好評を持って受け入れてもらえました。ただ、出版後10年を経ずして、耐震性能をはじめとする様々な木造研究がさらに進み、関連図書やマニュアル類が数多く出版されるようになりました。もはや「ウッドエンジニアリング」の川下領域である木造建築そのものについては、この本で取り上げる必要がなくなったのです。

とはいえ、「ウッドエンジニアリング」の川上領域である木材の特性や、さらに川上にあたる樹木に関しては、正確な知識が十分に浸透しておらず、一部の建築材料学の教科書や建築の啓蒙書には、明らかな誤解や記述のミスが残ったままでした。さらにインターネット上に氾濫する間違い知識の多さには目を覆わんばかりのものがありました。

そこで、2012年9月に「ウッドエンジニアリング」の川上領域を補強し、川下領域を縮小する大改訂を行い、書名も『プロでも意外に知らない木の知識』と変更して、装いも新たに刊行することとしました。

その後、さらに8年が経過して、3刷りを数える間に、木材・木造を取り巻く情勢にさらに強い追い風が吹くようになりました。環境負荷の少ない建築材料として、木材と木造建築の優位性を社会全体が理解するように変化してきたのです。また、木造住宅の耐震性能や断熱性能が格段に向上したと同時に、研究の主な対象が、小住宅から中大規模木造建築へと変化・進化してきました。

さらに、大型の木質材料であるCLT(直交集成板)の登場は、それまで非現実的と考えられていた多層の中大規模木造建築を現実のものとしました。それと同時並行で、耐火木質構造部材も研究開発が進み、現在では木造建築の可能性がさらに大きく広がりつつあります。

ただ、その一方で木材の扱いに慣れていないゼネコン等が、生物資源材料である木材製品に過度の品質管理を要求したり、鉄やコンクリートを単に木材に置き換えただけといった設計施工を行ったりするなど、不慣れさに由来する事案も目立つようになってきました。

このような状況のなかで、新たに登場してきた新木質材料や新技術の紹介を中心として、前書に加筆したのが、今回の改訂版です。前書と比較して、木材の物理的性質のように、基本的に変化が無い内容はそのままですが、川下領域において他書に譲るべきと判断した部分については、遠慮無く省略しました。

もちろん、入門書という本書の性格を考慮して、表現は厳密さを追求するよりも,わかりやすさを第一に考えて、できるだけ平易にしてあります。また、数式だけに頼ることは避け、図と写真を多用して解説するよう努めました。

なお、ページ数の関係から本書で触れることのできなかった分野については、信頼できる参考文献やホームページを巻末に紹介していますので、是非それらを参照していただきたいと思います。

現在、世界は未だウイズコロナのまっただなかにあります。まだまだ先の見通せない状況が続いているとはいえ、「木造では他の構造よりも材料に対する深い知識が必要である」ことは、アフターコロナの時代になっても、変わらぬ事実です。木を知らなければ安全・安心な構造体は造れません。本書が木を知るための一助となれば幸いです。

2021年4月
林 知行

「はじめに」でも少し触れましたが、本書のオリジナルともいえる『ウッドエンジニアリング入門』が刊行されたのは2004年のことでした。以降、17年が過ぎ、わが国における木材と木造建築を取り巻く情勢は大きく変化してきました。

刊行当時、①木材・木質材料の信頼性がより向上する、②木造住宅の性能、特に耐震性が飛躍的に向上する、③地球環境問題から木造利用が進む、④特に国産材の利用が進むといったことは、私自身も予測していましたし、それを目標として、研究・普及啓発活動を行ってきました。

しかしながら、地球温暖化等、世界的な環境問題の高まりのなかで、世界有数の地震国であるわが国において、多層の中大規模木造建築が現実のものとなるとは、まったく予想できませんでした。これは木材・木質構造の研究者としては、予期せぬ喜びではあったのですが、手放しで喜べたわけではありません。というのも、正直なところ、中大規模建築に関する鉄骨造や鉄筋コンクリート造の技術レベルに比べれば、木造のそれは、現在においてもなお、試行錯誤の段階を脱した程度でしかないからです。

今後、中大規模木造建築がさらに成長を遂げ、他の構造のように、ごく当たり前の建築構造となるためには、技術そのもののレベルアップと、携わる関係者の木に関する知識の蓄積が必要です。本書はそのような方々に是非知っておいて頂きたい入門的な内容を工学的な知識に基づいて懇切丁寧に説明したつもりです。

もちろん、ページ数の制限があるため、関連分野のすべてを網羅することはできませんでしたが、入門書としての目標は十分果たせたと思っています。

本書の内容をさらに知りたい方のために、巻末に入手が比較的容易な参考文献を載せておきました。ただ、この分野の移り変わりは激しくて、出版時期が古くなった文献では内容が現状とずれてしまっている可能性があることには、十分ご注意ください。

なお、筆者の狭い意味での専門分野は「木質材料」と「木材接合」です。このため、少し専門から離れた基礎的な分野や木材加工の分野については、諸先輩の研究や著書に依拠せざるを得ませんでした。筆者の浅い理解のために、誤解している点があるかもしれません。ご叱正頂ければ幸いです。

最後になりましたが、編集全般に関しては、学芸出版社の松本優真氏に大変お世話になりました。記して深くお礼申し上げます。

本書P23「図1・5 わが国の森林蓄積の推移」の凡例に誤りがございました。
正しい図を掲載いたします。PDFはこちら

お詫びして訂正いたします。

2022年3月4日 学芸出版社編集部