石井 良一 著

内容紹介

コンパクトに暮らせる地方都市のための提言

コロナ禍で人々の働き方、暮らし方が大きく変わり、都市のあり方は大きな影響を受けている。しかし、現行の縦割り型で全国画一の都市計画制度ではオフィス・物流施設・店舗・滞在施設等の新しい立地ニーズに迅速に対応できない。職住が融合し、コンパクトな暮らしを楽しめる地方都市を目指すための徹底した分権改革を提言。

体 裁 A5・172頁・定価 本体2500円+税
ISBN 978-4-7615-2766-2
発行日 2021/03/10
装 丁 中川未子(よろずでざいん)


目次著者紹介はじめに関連イベント
はじめに

第1章 アフターコロナ時代に都市はこう変わる

1.感染症と共存する都市

2.都市における暮らしや働き方の変化

3.アフターコロナ時代の都市の変化のメガ潮流

(1)オフィスの変容
(2)実店舗の減少加速化
(3)スマート工場化の促進
(4)ワークライフ融合のツーリズムの拡大
(5)都市のデジタルシフト

4.都市の変化を阻む立地規制

(1)東京都心ビジネス地区の量から質への転換
(2)住居系用途地域におけるオフィス需要の拡大と立地規制
(3)住居系用途地域における物流機能のニーズと立地規制
(4)街なか商業地の質的転換と住居系用途地域への店舗立地規制
(5)環境への負荷が少ないハイブリッド型工場の増加と厳しすぎる立地規制
(6)食料自給促進を担う植物工場の立地規制
(7)自然公園地域への滞在施設の立地ニーズ

5.地方都市の受入れ基盤を迅速に整える必要性

第2章 地方で生じているさまざまな危機

1.都市のスポンジ化と個性の喪失

2.農業の衰退と農村の変容

3.森林の荒廃

4.繰り返す自然災害

5.小規模自治体の存在と進まない広域連携

第3章 アフターコロナ時代のニーズにこれまでの制度で対応できるのか

1.土地に対する私権の強さ

(1)近代的土地所有権の創設
(2)土地の所有と利用に関する欧米との違い
(3)公共の福祉の優先を掲げた「土地基本法」の制定

2.国土全体をマネジメントする国土利用計画制度の機能不全

3.アフターコロナ時代の機能再編を阻む全国画一的な都市計画制度

(1)国主導で整えられてきた都市計画制度
(2)都市計画区域に関する曖昧な責任分担
(3)市街化調整区域、非線引き白地地域の多さ
(4)全国一律の用途地域
(5)整備から運用の時代に入った都市施設
(6)スプロール的開発を認めている開発許可制度
(7)コンパクトシティ形成に向けての制度改革

4.新規参入者を拒む農地制度

(1)農地法、農業委員会による新規参入の壁
(2)農振法で優良農地は守られているか
(3)農家が農地を保有しておくインセンティブの存在
(4)土地所有者としての権利意識を前提とした農地中間管理機構による農地集約化

5.生産でなく管理を重視してきた森林制度

6.自然災害頻発地に対する居住規制の弱さ

(1)ハザードマップによる注意、行動変容の喚起
(2)土地利用規制、建築防災対策実施の義務化

7.機能再編ニーズに迅速に対応できない計画及び開発調整手続き

第4章 アフターコロナ時代にどう都市をマネジメントするか

1.都市構造改革に向けた国レベルでの動き

2.土地利用への公共的コントロールの強化を求める民間からの提案

3.市町村独自の新しい都市計画制度構築の試み

(1)長野県安曇野市―合併を契機とした全市対象の土地利用マネジメントの推進
(2)静岡県伊豆市―都市計画区域の全市域適用と複数の条例による非線引き区域の規制・誘導
(3)栃木県桜川市―田園都市づくりをめざした市域全体の土地利用マネジメントの推進:農村集落一括地区計画の策定

4.欧米の都市計画から学ぶ

(1)アメリカの都市計画制度―自治体が独自に地区に合わせたゾーニングを実施
(2)イギリスの都市計画制度―国の指針をふまえ自治体が開発計画を策定

5.アフターコロナ時代の都市マネジメントの視点―ワイズユース&コンパクトライフ

6.都市計画制度に関する717市町村アンケート調査から―小規模自治体ほど高い改革への期待

第5章 提言:アフターコロナ時代の都市計画制度―縦割り打破、地方分権による土地利用マネジメント改革

(1)計画主体と広域調整―市町村を決定主体に
(2)対象区域―市町村全域に
(3)全国一元的に「土地利用データマップ」の構築を
(4)国土利用計画・総合計画を「市町村都市マスタープラン」に一本化
(5)市町村都市マスタープラン地域別構想
(6)線引きは廃止し、市町村が独自にゾーニングを決定
(7)地域別構想にもとづき地区計画を推進
(8)10年以内に着手できない計画決定済都市施設は廃止
(9)市町村は予め開発許可ガイドラインを策定公表する
(10)優良農地を保全し農業を強化するゾーニング
(11)森林を保全し林業を強化するゾーニング
(12)市民や事業者が関わる機会の拡大
(13)所管部局及び専門人材の活用
(14)計画の進捗管理は公開で
(15)都道府県の役割
(16)国の役割、所管、財源
(17)導入までのロードマップ

おわりに 都市計画制度改革がもたらす変化への期待

参考文献

石井 良一

早稲田大学理工学大学院修士修了。ペンシルバニア大学都市計画大学院Ph.D。(株)野村総合研究所で、国土、都市計画、行財政改革、産業政策に関するコンサルティング業務に従事。その後、野村アグリプランニング&アドバイザリー(株)にて、農業、アグリビジネスに関するコンサルティング業務に従事。2003年4月より滋賀大学客員教授(非常勤)、2012年4月より滋賀大学社会連携研究センター教授に就任。現在、滋賀大学産学公連携推進機構副機構長、経済学部教授。専門は都市計画、地域経済政策。技術士(都市および地方計画)、一級建築士、農業経営アドバイザー(日本政策金融公庫)、総務省地域力創造アドバイザー。土地利用計画制度関連では、高島市国土利用計画策定委員会委員長、東近江市都市計画審議会委員長等を務めている。
著書:
「電子自治体経営イノベーション」(共著)2002年4月、ぎょうせい
「パブリックサポートサービス市場ナビゲーター」(共著)2008年4月、東洋経済新報社
「自治体の事業仕分け-進め方・活かし方-」(共著)2011年6月、学陽書房

2020年初春以降、新型コロナウイルス感染症が日本及び世界で猛威を振るい、発生から1年以上が経過し、ワークスタイルやライフスタイルを大きく変化させている。人同士の接触をできるだけ避けるために、在宅ワーク、リモート会議で仕事をこなし、通販での買い物やデリバリーでの飲食を行う人が増えている。アフターコロナ時代には、都心に毎日通勤し密集して業務をこなす形から、郊外の自宅や地方部の滞在施設等でリモートを活用し業務をするスタイルを併用することが普通になる。都市のデジタルシフトが進み、どこにいても公共サービスを受けることができるようになる。大都市都心部の本社機能や支社機能を縮小する企業も続出している。商業業務地域を中心部に設定し、郊外には住宅を配置するという画一的な都市のあり方も時代にそぐわなくなるだろう。密を避けて地方での生活を希望する動きが強まり、地方都市にとって、オフィス機能の分散、2地域居住や移住の動きはコンパクトなまちづくりへの追い風となろう。

我が国の都市計画制度は、明治維新以降、欧米の都市をモデルに、都市への急激な人口流入を管理し、良好な市街地環境を形成することを目的に発展してきた。1919年に旧都市計画法が制定され、住居、商業、工業地域というゾーニング制度、都市計画制限、土地区画整理制度などが創設され、高度成長期の1968年には都市計画法が抜本的に改正され、区域区分(線引き)制度、開発許可制度の導入、市域を超えた都市計画区域の設定などが盛り込まれ、以降、建築、土地利用の規制誘導、新市街地や都市計画施設の整備などが進んだ。最近では多くの権限が基礎自治体に移譲され、住民主導のまちづくりとの連携も進められている。

アフターコロナ時代の動きに対応できず、現在の都市計画制度は次第に機能不全になろう。既に、地方部で人口減少が進行し、空き家、空地、耕作放棄地や所有者不明土地の問題が深刻になっている。今後、我が国は急4激な人口減少社会に突入する。土地の有効活用を図り、コンパクトな市街地形成を迅速に進めなければならないが、縦割行政で全国を統一的なルールで縛っている現在の都市計画制度や農地制度の下で、その実現を図るのは困難になるだろう。変化の時代には、住民に最も近い市町村に権限を集め、柔軟にまちづくりを進めることが必要である。

本書は、アフターコロナ時代の都市の変化を見据え、これまでの経緯や現状で生じている課題を整理し、都市計画制度や関連制度を抜本的に見直し、市町村が市民とともに市町村全域を対象に、都市をマネジメントする考え方を具現化しようとしたものである。コロナ禍を好機と捉え、都市全域を賢く利用し、コンパクトな暮らしを再構築する運動を始めなければならない。第1章では最近の変化を踏まえ、アフターコロナ時代における都市の変化を展望した。第2章ではコロナ禍以前より地方で生じている危機を明らかにした。第3章では、こうした変化や危機に対して、既存制度ではうまく乗り越えられないことを論述した。第4章では、アフターコロナ時代における都市マネジメントのあり方をこれまでの提案も参考としながら整理した。第5章では、新たな都市計画制度のたたき台を示した。

本書を執筆する動機は、滋賀大学に赴任以降、地方都市の都市計画の実情を知ったことにある。また、私が主宰する社会人向け講座「滋賀大学公共経営イブニングスクール」において、2013年度に都市計画について学び合った内容が反映されている。本書を執筆するにあたって、2020年6~7月に全国の1万人以上の市町村にアンケート調査を実施したが、717市町村から回答を頂き、さまざまなご意見を頂戴した。多くの市町村が都市計画制度に対して、疑問と変革への期待を持っていることを知り、執筆への後押しになった。協力いただいた市町村の皆さまにはここに感謝の意を表したい。また、新潟食料大学食料産業学科教授武本俊彦氏、立命館大学環境都市工学科教授岡井有佳氏、滋賀県立大学環境建築デザイン学科准教授轟慎一氏からは貴重なご助言をいただいた。本書が刊行できたのは滋賀大学経済学部の出版助成の賜物である。滋賀大学でいただいた教育と研究、社会貢献の貴重な機会は何物にも代えがたい私の宝である。編集にあたっては学芸出版社の岩崎健一郎氏にたいへんお世話になった。

私は90年代初頭にアメリカペンシルバニア大学都市計画大学院に留学していたが、その際サマージョブとして4ヶ月間ニューヨーク市役所ブロンクスオフィスに勤務する機会を得た。毎日自転車に乗って、測定器で建物の用途、高さや容積を測って記録した。それは現状を把握し、実態に合わせてダウンゾーニングを行うためであった。用途地域は国が定めるのではなく、自治体が自治体の戦略に基づき、それぞれの地区の現状に合わせて設定するものだと知った。あれから30年位経ったが、ようやく我が国でも市町村が自分たちの貴重な土地資源をどのように有効に活用するか、どのようにして生活の質の向上を図るかを考える時代が来たように思える。本書がコロナ禍を乗り越え、その先にある未来のまちづくりを考える礎になることを願っている。

2021年3月
著者 石井良一