商空間のデザインエレメント

加藤吉宏 著

内容紹介

エレメントで押さえる商空間デザインの勘所

計画・ファサード・開口部・色・材質・照明・家具の七つのエレメントから商空間デザインを読み解く設計者のための教科書。フード、リテール、ヘアサロン、オフィス、学校など自身の作品を含む93作品を豊富な写真と図面で紹介。建築、インテリアデザインの勘所を押さえ、多様化する商空間のニーズに応える提案力を鍛える。

体 裁 A5・184頁・定価 本体2600円+税
ISBN 978-4-7615-2749-5
発行日 2020/08/10
装 丁 Iyo Yamaura


目次著者紹介まえがきあとがき紙面見本

まえがき 拡張する商業施設のジャンル

1章 デザインエレメントと建築計画――プランニングの重要性

1 飲食店の計画

客席がプランを決定する――開く空間・閉ざす空間
狭小間口のプランをどうさばくか――客席に個室感を持たせる
環境を含めてプランをつくる

2 物販店の計画

ディスプレイがプランを決定する1
ディスプレイがプランを決定する2
空間のコンセプトが物を演出する

3 ヘアサロン(サービス店)の計画

セットミラーの造形が平面計画を決定する
光庭を中心に機能的なプランにする

4 オフィス(業務空間)の計画

企業のアイデンティティをプランで表現する

5 学習塾の計画

学習塾=新たな教室という考え方
遊び場のような学び空間をつくる

6 学校の計画

学び空間を開くデザインにする

column  プランからデザインは始まる

2章 ファサード――ファサードで差別化を図る

1 内部空間とファサード

ロゴで文化を表現する
伝統的要素でデザインする
商品コンセプトと連動したファサード
内部空間を期待させるファサード

2 商業施設としての存在感

高さでインパクトを出す
シンプルなファサードにチカラを与える
見え隠れする空間で引きつける
ダブルスキンで機能性とデザイン性を生む
コンクリートにパターンをデザインする

3 外部環境とファサード

内に閉じず地域に開く
室外を活かして活気を生み出す
建築と環境との対比をデザインする

column 目立つだけがファサードではない

3章 開口部――開口部の内と外からの見え方がポイント

1 外部からの見え方をデザインする

同形状の窓で変化をつける
開口部の外側にデザインする

2 開口部としての機能

開口部の内側にもう1 つの窓機能をもたせる1
開口部の内側にもう1 つの窓機能をもたせる2

3 インテリアの開口部

開口部で空間を変化させる
多彩な色をもつ開口部で空間を仕切る

column  窓は見知らぬ世界を覗かせる

4章 材質――マテリアルは意味をもつ

1 金属の表現

鉄の錆をデザインする
異なるテクスチャーのアルミをパターン化する1
異なるテクスチャーのアルミをパターン化する2
アルミ板をデザイン加工する1
アルミ板をデザイン加工する2

2 ガラスの表現

ブラスト加工に映る鏡をデザインする
カラーガラスにフリーハンドでブラスト加工する
ガラスの柔らかな表情を活かす

3 木の表現

形の異なる木製縦ルーバーでデザインする
木板壁をモデュール化する
竹の自然感をデザインする
木製格子組みで空間をつなげる

4 異種素材の表現

ビニールテントで多機能をデザインする
木片圧縮材を加工し壁をつくる
オリジナルのコンクリート板をつくる

column マテリアルは空間を示唆する

5章 色――空間づくりでは色はマニュアル通りにいかない

1 色によるインテリアのイメージ

色から空間をデザインする
楽しく学べる色のある空間をデザインする

2 素材を生かす

天然の色むらをデザインする
色で木目を引き立てる
無機質板を自然な風合いへ

3 色を主張した形

色は形で変化する
空間をインクジェットでアートする

column 色は感情を沸き立てる

6章 照明――影は光を強調させる

1 型どる光

光で形をあらわす
光でデザインに寄りそう
光で形をやわらげる

2 演出する光

揺らぐ光を演出する
アートな光を演出する
デザインの核となる光を演出する

3 光をデザインする

ジッパーのついた照明で形を変化させる
アクリルを通して光をデザインする
和紙素材で柔らかな光をデザインする
レディ・メイドからオリジナルのスタンド照明をつくる
オリジナルシーリングライトで演出する

column 光こそ造形の源

7章 家具――主張する家具は空間の中心となる

1 空間デザインと家具機能を併せ持つ造作家具

内外部のディスプレイを兼ねる造作家具
空間と一体化したワインラック
ディスプレイ機能をもつ巨大化した椅子
可動式ディスプレイ棚をデザインする

2 椅子は機能とデザインで空間に影響を与える

異種素材のパーツをつないで椅子をつくる
コミックのフキダシをデザインした椅子
心地よさはディテールから始まる

3 空間のイメージをテーブルが表現する

アートオブジェクトとしてのテーブル
テーブルと空間を同時にデザインする
浄化機能をもつテーブル

あとがき エレメントから導くデザイン

加藤𠮷宏(かとう よしひろ)

1957 年愛知県生まれ。1980 年愛知工業大学工学部建築学科卒業。1980 年から設計活動に従事。1985年加藤𠮷宏アトリエ創立。2013 年名古屋工業大学大学院工学研究科社会工学専攻博士後期課程終了。博士(工学)。現在、愛知産業大学造形学部建築学科教授。JCD デザイン賞、IIDA 国際照明デザイン賞(アメリカ)、MUSE Design Awards(ニューヨーク)他受賞多数。著書『仕掛ける空間デザイン』(六曜社、2015 年)。

拡張する商業施設のジャンル

現代において商空間は従来の商業施設から領域を広げ、更に細分化している。それは、時代の動向に大きく影響を受けながら、国内だけでなくグローバルな情勢のなかで経済を形成しているからだ。この多様化の時代に商空間は変化を要求されており、その用途の機能を満たすだけでは魅力を与えるものとはならない。

なぜ多様化し細分化しながら拡張していったのか。昭和初期の商業施設は、ほとんどが専門店であった。しかし昭和30 年代後半の高度成長期とともに大型店舗が増加した。それは、商業施設の扱う商品の均一化の始まりであり、それは価格競争へとつながっていった。このような時代を経て、現代においては、ニーズに応じた顧客獲得のための専門性の高い店舗が出現してきた。これらの商空間は、手を変え品を変え隙間を狙ったビジネスを展開している。その結果、商空間の提案においては、表現の手法にも細分化が求められ、ディテールやデザインにおいても多くの表現が必要となっているのである。

本書は、多様化した商空間に対応したデザインをするために、デザインエレメントを分類し、写真と図面を加えながら解説したものである。商空間にとって重要となる建築計画、ファサード、開口部、色、材質、照明、家具を7 つのエレメントとし、それらを25 項目のデザインエレメントに分類した。従来型の商業施設にとどまらず、学習塾や学校といった新たな商空間を含め、自身がデザインした58 作品74 アイテムと関連作品35 作品を分かりやすくまとめている。

建築、インテリアデザインを学ぶ学生や、建築家、インテリアデザイナーの表現力と構成力をつけるためのテキストとしてご活用いただければ幸いである。

エレメントから導くデザイン

現代、我々の生活様式の変化は、個人よりも公共的な環境において目まぐるしいものがある。時代性によるトレンドや経済の動向は大きく商業の核を揺るがしている。今やビジネスの枠組みは細分化している中、ニーズさえ合致すればどんなに小さな隙間であってもチャンスを掴むことができるのである。

建築の分野では、21 世紀に入りLED という新たな光を手に入れ、間違いなくそれまでのデザインとは異なる提案を導いてくれた。21 世紀の中盤を見据える時に来て、まさしく世界共通の魂となりうる「AI」がすべての環境に浸透し始めている。商空間・商環境の広いフィールドの中で、どのような形で「AI」と共存していけるかは、未知ではあるが新たな発想へとつながると思うのである。

商空間を計画するにあたり、空間の見せ方はビジネスの方向性から成り立ち、コンセプトから計画へと展開していく。しかしながら、全てのデザインが同じ手法によって進むわけではなく、集客するための方法を個別に模索しなければならない。
筆者が建築の仕事を始めた頃、建築雑誌を見ながらデザイン手法を読み取ろうとするものの、その内側のディテールについては想像するのみであった。しかし、作り方を考えることこそが、デザインする行為の始まりなのである。現代においては、実際に現場で調べる前に簡単に情報を入手することができてしまうため、「なぜ、そのデザインに至ったか」を深く知る余地がない。本書では、7 つに分類したデザインエレメントをディテールとともに図面化することで、デザインの起こし方を理解することができる。商空間となる場を見据えながら、コンセプトがディテールを生み出しデザインとなっていく過程を示したのである。

デザインとは、形となった言葉である。そこから発する言葉は誰もが自由に語ることができる。そこには、正解など必要ないのである。形となったデザインこそ、多様性を含む言葉であり、自由の証でなければならない。

2019 年12 月に中国武漢で発生した新型コロナウイルスによる影響は、今年の始めには日本にも迫ってきた。それは、瞬く間に世界的なパンデミックとなった。5 月末になって緊急事態宣言が徐々に解除となったが、この間、仕事はリモートワークに、教育機関は休校に、そして街中の商業施設は営業自粛となり、現代人にとって未曾有の経験となった。

建築は、生活をより良いものとするため、あらゆる発展と共に変革し続けたが、しかし我々が経験したこのウイルスによって、命を守るために、身のまわりの生活から変革を余儀なくされることになった。その変革の波は生活から空間へと移行し、既に新たな様式の時代に入ったと考えられる。この先のポストコロナにおいては、新型コロナウイルス以外のウイルスに対する空間機能もデザインの基準に加えられ、「ウイルスモデュール」による距離感を考慮した空間サイズや、衛生環境などによる「ウイルススタンダード」の空間構築は、商空間の機能とデザインにおけるもう1 つのデザインエレメントを引き出す要因になると思うのである。

2020 年5月