色彩の手帳 建築・都市の色を考える100のヒント

加藤幸枝 著

内容紹介

都市を構成する「色」をどう選び、設計するか。色彩計画の考え方から手法・プロセス、著名建築の測色まで、色彩計画家の経験を100の柔らかな文章と写真に凝縮した、色の見方・選び方が変わるヒント集。「色は難しい」と感じ、何となく・無難に色を決めがちな建築・土木設計者、景観まちづくりに関わる行政関係者必携!

体 裁 A5変・240頁・定価 本体2500円+税
ISBN 978-4-7615-2714-3
発行日 2019/09/20
装 丁 伊藤祐基

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はじめに

Part 1 色を知り/色を考えるための50のヒント

I 環境色彩デザインの考え方

01 これさえあれば
02 その地から採集する
03 今現在、をまずは尊重してみる
04 秩序と多様性
05 情報→文脈→意味
06 色の役割
07 そこに色が必要ですか
08 考え方の拠り所となるもの
09 決定に至るまでの要因の整理
10 それでも色を使いたいとき
11 それでも失敗したくない、という人へ
12 色の良し悪し
コラム――赤とまち

II 配色がもたらす効果

13 明るい「印象」はどうすればつくれるか
14 心地良い暗さ
15 高明度色の彩度
16 色相が持つ特徴
17 「なかったこと」にする色
18 色彩による統一感と変化の両立
19 彩度0.5が助けになる
20 目地色による補正と演出
21 色とかたち①
22 色とかたち②
23 見え方には「特性」がある
24 決めるまでの段階的な比較と迷い方
25 群の配色
26 正しく色を見せる
27 ひとまとめ
コラム――茶とまち

III 自然界の色彩構造

28 自然界の地色①
29 自然界の地色②
30 自然界の地色③
31 単色に見えても
32 自然界の図となる色①

33 自然界の図となる色②
34 空や海・川の色
35 木の色の変化
36 距離の変化と色の見え方
37 自然は変化する
38 時間が育てる色
39 色の観察の練習
コラム――黒とまち

IV まちと色の方法論(のようなもの)

40 環境と色が持つイメージ、それぞれとの相性
41 雰囲気のある広告
42 馴染ませることで、見えてくるもの
43 白紙に計画、はあり得ない
44 演出が映える色使い
45 変化する周辺環境
46 建築以外の要素がつくる彩り①
47 建築以外の要素がつくる彩り②
48 飽きる・飽きない
49 賑わいは活動がつくる
50 誘目性のヒエラルキー

Part 2 色彩を使いこなすための基礎知識と目安

V 基本となる色の構造

51 表色系とは
52 マンセル表色系
53 色相[しきそう]
54 明度[めいど]
55 彩度[さいど]
56 トーン
57 色の見え方の特性①
58 色の見え方の特性②
59 色の見え方の特性③
60 配色の調和とは
61 色見本の種類と使い分け
コラム――緑とまち

VI 目安となる建築・土木の色とその値

62 十和田市現代美術館
63 東京都美術館
64 ヒルサイドテラスC棟
65 ヒルサイドテラスD棟
66 同潤館
67 LOG
68 馬車道駅
69 ミキモト銀座2丁目店
70 虎屋京都店
71 とらや工房
72 へリタンス・カンダラマホテル
73 渋谷ストリーム
74 隅田川の橋梁群
75 東京ゲートブリッジ
76 三角港のキャノピー
77 出島表門橋
78 伏見稲荷大社
コラム――白とまち

VII 目安となる素材の色とその値

79 コンクリート打ち放し
80 自然石
81 煉瓦
82 木材
83 屋根材(瓦)
84 ガラス
85 アルミサッシ
86 塩ビ管
87 塗膜防水・シール

Part 3 色彩計画の実践に向けて

VIII 色彩計画の考え方

88 まずは測ってみる
89 色を測るときのコツと留意点
90 集めた色を並べ替える
91 離れてみる、近づいてみる
92 条件を整理し、選定の根拠を探す
コラム――青とまち

IX 色彩計画のプロセス

93 色彩計画の進め方
94 色彩計画の流れ
95 景観計画における事前協議や届出
96 ストライクゾーンを設定する
97 塗装見本の指示の仕方、検証の方法
98 現場で色見本を比較、選定する際の留意点
99 単色での判断ではなく、比較して関係性を見る
100 色彩を計画する

あとがき

参考――測色結果のまとめ
――測色結果から読み取れる情報

加藤幸枝(かとう・ゆきえ)

1968年生まれ。色彩計画家、カラープランニングコーポレーションクリマ取締役。
武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科卒業後、日本における環境色彩計画の第一人者、吉田愼悟氏に師事。トータルな色彩調和の取れた空間・環境づくりを目標に、建築の内外装をはじめ、ランドスケープ・土木・照明デザインをつなぐ環境色彩デザインを専門としている。
色彩の現象性の探求や造形・空間と色彩との関係性の構築を専門とし、色彩計画の実務と並行し、色彩を用いた演習やワークショップ等の企画・運営、各種団体の要請に応じたレクチャー・講演会等も行っている。
近年は景観法の策定にあわせ、全国各地で策定された景観計画(色彩基準)の運用を円滑に行うための活動(景観アドバイザー、景観審議会委員等)にも従事している。2011年より山梨県景観アドバイザー、2014年より東京都景観審議会委員および同専門部会委員、2017年より東京都屋外広告物審議会委員等を務める。

『色彩の手帳』は「色は苦手」「色は難しい」「色は結局好き嫌いだから」「自分には色選びのセンスがない」と一度でも感じたり、考えたことのある“ 全ての”人のために制作したものです。

私はこれまで行政や民間企業、そしてさまざまな地域の市民など、多様な立場の方々とともに仕事や活動をしてきました。28年という決して短くはない実務の経験の中で、その地域ならではの景色の持続性について考えるうち「デザイナーとしての自分が何かひとつ、明確に・厳格にものごとを決めることにあまり意味(効果)はないのかもしれない」と感じるようになりました。

もちろん、大小を問わずひとつのプロジェクトの色彩(+素材)設計を統括的に任され、隅々まで綿密に検討・選定・指定を行うことも多くあります。一方、そのような場合でも仕事をともにする方々の「何を根拠に色を選べば・決めれば良いのか」というあまりにも多くの問いに対し、自身が何かを決めて終わりではなく「色選びの手がかり」や「色の選び方のヒント」をお伝えし、その成果や効果を共有する方が、もしかすると「色彩計画家」としての職能はもっと広く、そして永く活かされるのではないかと考えるようになったのです。

「環境色彩計画」という領域は、1975年、日本で初めて色彩計画家という肩書で仕事を始めた私の恩師、吉田愼悟が海外で方法論を学び、実践してきた新しい分野です。吉田が武蔵野美術大学で学生時代を過ごした1960年代は高度成長期のさなかにあり、日本は工場の乱立による環境汚染や高層建築物の出現によりそれまでの環境を大きく変化させていました。1975年、フランス・パリ在住のカラリスト、ジャン・フィリップ・ランクロ氏のアトリエでの研究留学を終え、帰国した吉田の初めての仕事は、広島大学のキャンパス計画だったそうです。フランスで学んだ「色彩の地理学」に倣い、大学周辺の土や民家の瓦の色等を採集し、「地域のカラーパレット」を新しい計画に展開するという手法はここから始まりました。

「地域には地域の色がある」という指標は私自身にとってとても明確で、その環境が持っている・培ってきた文脈に「まずは」従うという手法は長く私たちの仕事を支えてくれました。一方、大変な速度で変貌し続ける都市や、それに比べ緩やかではあるものの、やむを得ず開発の手を逃れられない地方都市や中山間地域などでも、環境の様相が5年、10年の単位で大きく変化し、地域の色を見出しにくくなっていることも事実です。

自身が頼りにしてきた指針や手法が根底から揺らぐような事態には「まだ」なってはいないと感じるものの、それが建築家や行政の建築・土木担当者等、他の分野の方々と共有しうる「共通の価値」にはなり切れていないとも感じています。

それでも、多くの方が「色彩の検討・選定・決定における明確な指針」を求め苦悩されている状況に対し、自身の経験と実践が役立てられるのではないか――。『色彩の手帳』は、そのような現代の課題に対し、決してひとつではない「最適解」を「読者の方が自ら」導き出すためのヒント集です。

何色が良いか、どの組み合わせがベストなのか。私自身もこれ、という明確な答えは持ち合わせてはいません。それでも、本書に示したいくつかの見方や考え方、ある環境が持つ法則などには、数多くのヒントが詰まっています。

どうかぜひ楽しみながら、たくさんの答えを見つけ出していただけると、大変嬉しく思います。
何せ100項目ありますので、少なくともこのうちの2つや3つは、必ず何がしかの役に立つのではないかと思う次第です。

本書はまた、一応3つのパート・9つのテーマに分類していますが、同時にどこから読んでいただいても良い構成も意識しています。全体を通してのテーマは「色と色の間で起きていること」です。パートごとのつながりはもとより、項目同士の「つながり」や「関係性」についても、点と点をつなぐようにして、読者の皆さんの手で「編集」していただけると良いなと考えています。

一度読んで面白かった・おしまい、ではなく。たとえば何かの折に本書を取り出し、ぱっと開いた頁から、色の見方や選定の方法を考えてみる――。そんな自由で、楽しい使い方も想定(妄想?)しています。

それでは、色を見る・色彩を体感することから始めて参りましょう。
観察と検証、実践の先には、決して好き嫌いやセンスの問題ではない、多様で時にがらりと変化し、私たちを飽きさせることのない色彩環境が待ち受けているはずです。

加藤幸枝

100のヒント、いかがでしたか。「色を使って」みたくなったり、「色を探しに」出かけたくなったりしていただけたら、それだけでもう、大変嬉しく思います。

私は学生時代からのアルバイトも含め、約30年、色彩を扱う仕事をしてきましたが、「はじめに」にも書きましたように、さまざまな環境で仕事をするうち、年々私自身が色を選ぶ・色を決めることよりも、選定の際の考え方や根拠、そしてそれがどのような効果や影響をもたらすのかということを、関係者間で(適切に)共有することが重要なのではないか、と考えるようになりました。なぜその色なのか・その色でなければならないのか。色が単独で存在することはなく、周囲や背景にある色との「関係性によって見え方が決まる」ということを意識すれば、対象としての色の評価や印象よりも「色と色の間で起きていること」が見えてくるはずだ、と考えてきました。

対象とは時に厄介なものです。恋愛対象、に置き換えれば、夢中な時は日夜その人のことばかり考えてしまうことが想像できます。けれども、対象であるその人との「関係」を想うとき、そこには自分と相手との距離感や間合い、会話の密度など目に見えない空間・時間が存在し、それが蓄積され溶け合うことで、二人の間に「関係性」がつくられていく、と例えることができます。

相性の良し悪しもありますから、すべてが関係性の見極めによってうまくいく、とはもちろん限りません。それでも私は、「何かと何か(色と色・人と人・人とモノ…等々)の間で起きていること」をじっくり・丁寧に・しつこく観察することで、そこに起きている現象性や何かと何かが影響しあう状況を見続けていきたいと思っています(ああ、こんな例えで伝わるのかな…)。

本書の執筆にあたり、日々の業務に追われる中、大変多くの友人・知人に励まされ、背中を押していただきました。この場を借りて、ご協力いただいた皆さまに心よりお礼を申し上げます。中でも、出版社からの書籍化の話をご紹介してくださったEAUの田邊裕之さん、そして学芸出版社編集担当の神谷彬大さんには、本書の企画段階から大変熱心にご助言をいただき、順序や頁ごとの関連に奥行きと厚みが生まれました。このお二人のご尽力がなければ、本書を書き上げることはできなかったと思っています。本当にありがとうございました。また、多様なテキストや写真・図版をわかりやすく・美しく整えてくださったデザイナーの伊藤祐基さんにとっては、本書が初の書籍デザインとなります。『色彩の手帳』でデビューを果たしていただけることもまた、大変嬉しい限りです。

書籍化のお話をいただいてから約2年が経過してしまいましたが、こうして100のヒントとして、私の経験や体験を多くの方に伝えることができますこと、心よりありがたく、また嬉しく思います。学術的な正しさ、というよりは「より適切に」意味が伝わるよう言葉を選び、何度も書き直した項目も少なくありません。

そして読まれる方の経験や知識によっては、異なる解釈や評価があって然るべき、と考えています。私はこれから本書を携え、ぜひ皆さんの多様な解釈に触れてみたいと考えています。色彩・配色がつくり出す効果や影響について、そしてそれらがつくり出す魅力あるまちなみについて、ともに考え、実践して参りましょう。

2019年8月吉日

色彩計画家 加藤幸枝