地域創造のための観光マネジメント講座

観光力推進ネットワーク・関西/日本観光研究学会関西支部 編

内容紹介

観光を活かした地域創造を成功させるには、どのように考え、マネジメントし、進めていくべきか?地域の“宝”を「探し、磨く」「誇り、伝える」「興す」という3ステップで、ニューツーリズムや着地型観光、マーケティングから観光商品づくりまで、観光と地域づくりについて幅広く解説。行政・地元リーダー必見の教科書。

体 裁 A5・216頁・定価 本体2400円+税
ISBN 978-4-7615-2635-1
発行日 2016/11/25
装 丁 KOTO DESIGN Inc. 山本剛史


目次著者紹介はじめに
はじめに

序論 「図」の観光から「地」の観光へ(吉兼秀夫)

STEP1 地域の宝を探し磨く新しい観光

第1章 「地」の観光としてのエコミュージアム(吉兼秀夫)

1.1節 「地」の演出による観光創造
1.2節 エコミュージアムの事例

第2章 宝探しとエコツーリズム(真板昭夫)

2.1節 観光資源を地域の価値にする作業「宝探し」
2.2節 観光資源の価値の共有化とブランド化を目指す商品開発の秘訣
2.3節 持続可能な観光運営に必要な4つの仕掛けと3種の神器

第3章 見えない宝を探し、創りだすコンテンツツーリズム(原一樹)

3.1節 コンテンツツーリズムとは何か
3.2節 コンテンツツーリズムの分類と諸事例
3.3節 兵庫県西宮市におけるコンテンツツーリズムの取り組み

第4章 ヘルスツーリズムと地域創造(辻本千春)

4.1節 ヘルスツーリズムとは(定義)
4.2節 日本のヘルスツーリズムと地域
4.3節 「天草ヘルスツーリズム」──ウォーキングによる再生

STEP2 地域の宝を誇り伝える観光マーケティング

第5章 基本となるサービスとホスピタリティの考え方(野村佳子)

5.1節 サービスとは
5.2節 サービスとホスピタリティ
5.3節 観光地におけるホスピタリティの事例

第6章 観光マーケティングの枠組み(国枝よしみ)

6.1節 なぜ観光にマーケティングが必要なのか
6.2節 観光における市場の特徴
6.3節 分析とツールの活用
6.4節 マーケティング戦略
6.5節 高取町住民の観光まちづくり

第7章 顧客と地域人材のマーケティング(森山正)

7.1節 顧客の戦略的価値
7.2節 顧客満足とリピート率
7.3節 顧客と人材のマネジメント
7.4節 地域におけるマーケティング

第8章 地域創造を支える観光人材の育成(福本賢太)

8.1節 観光人材に関する主な動き
8.2節 地域創造を支える観光人材
8.3節 新たな観光人材による価値創造

第9章 地域における観光商品づくりと観光事業への活用(清水苗穂子)

9.1節 魅力的な観光商品化のための準備
9.2節 観光商品化の考え方
9.3節 観光商品化と観光事業への活用の事例

第10章 プロモーションとイベントの活用方法(桑田政美)

10.1節 プロモーションにおける観光デザインの視点
10.2節 イベントの構造
10.3節 イベントの効果と記録の重要性

STEP3 地域の宝を興す観光マネジメント

第11章 多様な主体の総合力による観光地域づくり(高田剛司)

11.1節 観光地域づくりに取り組むフラットな場の形成─伊勢観光活性化プロジェクト会議─
11.2節 観光に関わる市民の裾野の拡大─まいまい京都─
11.3節 2つの事例から共通して言えること

第12章 観光マネジメントとまちづくりの計画(小阪昌裕)

12.1節 観光とまちづくり
12.2節 まちづくりの前提条件
12.3節 課題・将来像・方策

第13章 事業推進のための制度の活用と資金の調達(金井萬造)

13.1節 観光事業振興の取り組みを振り返る
13.2節 観光事業推進に向けての制度・資金確保
13.3節 事業資金づくりのアイデア(事業の初歩的対応)

第14章 地域プラットフォームの役割と展開(森重昌之)

14.1節 地域社会から見た観光の捉え方
14.2節 地域プラットフォームという仕組み
14.3節 地域主導の観光の推進に向けて

第15章 地域創造型観光のマネジメント──成功事例からみる7つの原則(小長谷一之)

15.1節 観光の構造変化──なぜ観光とまちづくりが接近し、「地域創造型」観光が重要になってきたのか?
15.2節 まちづくり・地域づくりが成功する一般ルール
15.3節 具体的な観光まちづくりのマネジメント

NPO法人 観光力推進ネットワーク・関西(通称:NPO観光力ネット)

観光力を活かしたまちづくりを広く啓発・普及していくことを目的として、2004年日本観光研究学会関西支部の会員が中心となって設立された。産・官・学・市民のネットワークを活かした活動を展開し、観光の普及・発展をはかるための人材育成を行っている。また観光研究者・実践者と観光を学ぶ学生(観光系大学の学生による学生連絡協議会を設置)が協働して関西の観光力を推進している。日本観光研究学会関西支部と連携・協力し行っている事業の主なものに「地域創造のための観光マネジメント講座」(12~1月開講)、「学生研究発表大会」(2月)、「観光地でのインターンシップ」(随時)など。
ウェブサイト
http://www.kankoryoku.jp/

日本観光研究学会(JITR) 関西支部

日本観光研究学会は、観光に関する研究とその連絡・連携および促進を図り、観光研究の発展に貢献することを目的として設立された学術団体である。1986年に「日本観光研究者連合」としてスタートし1994年度に現在の名称になった。関西支部は2003年に設立され、現在、主に関西圏に居住する約200名の会員で構成されている。本部(東京)と連携し、学会活動を積極的に推進するとともに関西における観光研究の発展および地域の観光振興に貢献することを目的としている。またNPO法人観光力ネットワーク・関西とも連携しながら観光人材の育成等を支援している。

執筆者

吉兼秀夫(よしかね・ひでお)

阪南大学国際観光学部教授。1949年山口県生まれ。奈良県明日香村在住。1981年明治学院大学大学院社会学研究科博士課程満期退学。(財)環境文化研究所研究部長を経て1998年阪南大学国際コミュニケーション学部教授就任。2010年より現職。著書に『新しい観光と地域社会』(共編著、古今書院、2000年)ほか。

真板昭夫(まいた・あきお)

北海道大学観光学高等研究センター特任教授。1949年新潟県寺泊生まれ。1973年東京農業大学農学科卒、2001年東京大学農学博士号取得。(財)政策科学研究所、(財)自然環境研究センター、京都嵯峨芸術大学を経て、(株)未来政策研究所大代表取締役(2014年より取締役顧問)。2014年より現職。著書に『観光デザイン学の創造』(共著、世界思想社、2006年)、『宝探しから持続可能な地域づくりへ』(共著、学芸出版社、2010年)ほか。

原一樹(はら・かずき)

神戸山手大学現代社会学部観光文化学科准教授。1976年長崎県生まれ。1999年東京大学文学部卒、2005年同大学院人文社会系研究科博士課程単位取得満期退学。日本学術振興会特別研究員、神戸夙川学院大学観光文化学部准教授等を経て2015年より現職。著書・訳書に『哲学の振る舞い』(共著、東信堂、2010年)、『観光研究のキーコンセプト』(共訳書、現代図書、2014年)ほか。

辻本千春(つじもと・ちはる)

大阪観光大学教授、観光学研究所所長。1953年神戸市生まれ。近畿日本ツーリスト(株)勤務を経て2014年から現職。2014年大阪市立大学大学院創造都市研究科後期博士課程修了。博士(創造都市)。著書に『1からの観光事業論』(共著、碩学舎、2016年)、『都市構造と都市政策』(共著、古今書院、2014年)ほか。

野村佳子(のむら・よしこ)

摂南大学准教授。大阪府生まれ。関西学院大学文学部卒、神戸大学大学院経営学研究科修了。日本航空(株)勤務を経て、2010年より現職。著書に『キャリア開発と人事戦略』(共著、中央経済社、2004年)、『現代 人的資源管理─グローバル市場主義と日本型システム─』(共著、中央経済社、2014年)ほか。

国枝よしみ(くにえだ・よしみ)

大阪成蹊短期大学副学長、観光学科長、教授。日本観光研究学会常務理事兼関西支部長。関西学院大学大学院経営戦略研究科後期課程修了。博士(先端マネジメント)。日本航空(株)、ホテル日航大阪を経て奈良県広報広聴課参事、観光交流局参与。2003年大阪成蹊短期大学観光学科准教授に就任、教授を経て2014年より現職。著書に『これでわかる!着地型観光』(共著、学芸出版社、2008年)、『1からの観光事業論』(共著、碩学舎、2016年)ほか。

森山正(もりやま・ただし)

神戸山手大学現代社会学部教授。事業会社(ホテル、USJ)で取締役等を歴任。阪南大学国際観光学部教授を経て現職。兵庫県朝来市などで地域活性化事業に携わるほか、兵庫県商工会連合会事業審査委員、松原市産業振興ビジョン委員長、JICA観光人材育成事業リーダー などを歴任。著書に『現代の観光事業』(共著、ミネルヴァ書房、2009年)、『観光入門』(共著、新曜社、2011年)ほか。

福本賢太(ふくもと・けんた)

追手門学院大学社会学部教授。1968年兵庫県生まれ。1990年同志社大学経済学部卒、(株)日本交通公社(現(株)JTB西日本)入社。2003年同志社大学大学院総合政策科学研究科博士前期課程修了、2007年神戸夙川学院大学観光文化学部教授を経て、2015年より現職。著書に『現代の観光事業』(共著、ミネルヴァ書房、2009年)ほか。

清水苗穂子(しみず・なほこ)

阪南大学国際観光学部教授。2004年大阪市立大学大学院文学研究科前期博士課程修了。文学修士。近畿日本ツーリスト(株)、アメリカン・エキスプレス・インターナショナル, Inc.、羽衣国際大学准教授を経て、2011年より阪南大学国際観光学部准教授、2015年より同教授。著書に『これでわかる!着地型観光』(共著、学芸出版社、2008年)、『生きている文化遺産と観光』(共著、学芸出版社、2010年)ほか。

桑田政美(くわた・まさよし)

神戸国際大学教授。1947年鳥取県生まれ。JTBにて国内企画商品開発・宣伝担当、博覧会、自治体の観光振興事業、MICE事業等多数に携わる。京都嵯峨芸術大学教授を経て2014年より現職。関西学院大学大学院博士前期課程修了(MBA)、大阪市立大学大学院博士後期課程修了(博士・創造都市)。著書に『観光デザイン学の創造』(編著、世界思想社、2006年)、『イベント学のすすめ』(共著、ぎょうせい、2008年)ほか。

高田剛司(たかだ・たけし)

(株)地域計画建築研究所(アルパック)チーム長。1970年埼玉県生まれ。1994年埼玉大学教養学部卒、1996年名古屋大学大学院国際開発研究科博士前期課程修了。技術士(建設部門・都市及び地方計画)。著書に『これでわかる!着地型観光』(共著、学芸出版社、2008年)、『地域のチカラ』(共著、自治体研究社、2009年)。

小阪昌裕(こさか・まさひろ)

(株)地域計画建築研究所(アルパック)主幹。1954年京都市生まれ。1978年京都工芸繊維大学工芸学部住環境学科卒、1980年筑波大学大学院修士課程環境科学研究科修了。著書に『これでわかる!着地型観光』(共著、学芸出版社、2008年)。

金井萬造(かない・まんぞう)

立命館大学経済学部客員教授。1943年大阪府大阪市生まれ。1966年京都大学工学部土木工学科卒。1968年同大学院修士課程修了。1970年(株)地域計画建築研究所入社。1986年京都大学工学博士号取得。2008年立命館大学経済学部教授。2013年より現職。著書に『これでわかる!着地型観光』(共著、学芸出版社、2008年)。

森重昌之(もりしげ・まさゆき)

阪南大学国際観光学部准教授。1972年大阪府豊中市生まれ。金沢大学経済学部、同大学院経済学研究科修士課程を経て、シンクタンクに勤務。その間、北海道大学大学院国際広報メディア・観光学院博士後期課程を修了し、2010年博士(観光学)取得。2011年阪南大学に着任。著書に『観光の地域ブランディング』(共編著、学芸出版社、2009年)、『観光による地域社会の再生』(現代図書、2014年、観光学術学会教育・啓蒙著作賞)ほか。

小長谷一之(こながや・かずゆき)

大阪市立大学大学院教授。1959年生まれ。1982年京都大学理学部卒、1985年東京大学大学院理学系研究科修士課程修了、1989年京都大学大学院文学研究科博士後期課程中退。大阪府立大学講師、大阪市立大学経済研究所・同経営学研究科助教授を経て、2005年より現職。著書に『経済効果入門』(編著、日本評論社、2014年)、『地域活性化戦略』(共著、晃洋書房、2012年)ほか。

2004年、日本観光研究学会関西支部の会員が中心となり、NPO法人観光力推進ネットワーク・関西(通称:NPO観光力ネット)を設立しました。

設立の趣旨には、観光力を活かしたまちづくりを広く啓発・普及していくことが、我が国にとって今後ますます重要となり、そのために産・官・学・市民のネットワークを活かした活動を展開していくことが望まれ、観光の普及・発展をはかるための人材を育成することの重要性が謳われました。

このため、NPO観光力ネット設立時から観光講座を活動の重要な柱と考え、講義内容などを2年間かけて検討したうえで、「第1回 地域創造のための観光マネジメント講座」を2006年11月~2007年1月の土曜午後に7回連続で開講しました。以降、毎年開催し多くの修了生を送り出しています。一般論や概論ではなく、できるだけ具体的な問題提起と問題解決を行う「理論と実践を学ぶ場」なので、地元で起業した修了生も出てきました。

地域資源の掘り起しから、それをしっかりと観光資源に磨きあげ、国内外に発信し、地域ならではのおもてなしで観光客を迎え入れる。このようなプロセスにおけるマネジメントスキルは一度の講演などを聴いても修得できるものではありません。この講座の第10回開催の節目にあたって、より多くの人々にその内容を読んでいただき、「地域創造のためになぜ観光マネジメントが必要か」を考え、その実践手法を学ぶテキストとして、また観光系大学の教材として活用していただけるようにと本書を出版するに至りました。

本書は次のとおり3部に分かれています。

ステップ1では「地域の宝を探し磨く新しい観光」、ステップ2では「地域の宝を誇り伝える観光マーケティング」、ステップ3では「地域の宝を活かし興す観光マネジメント」、となっており、宝を探す、磨く、誇る、伝える、興す、を順番にそって勉強できると同時に、ニューツーリズムについてすぐ知りたい方はステップ1、マーケティングについてすぐ知りたい方はステップ2、まちづくりについてすぐ知りたい方はステップ3と、部分的にも読者の必要性に応じて使えるようになっています。

地域創造型観光の最大の特徴は、これまでの観光概念と異なり、すべての地域で原理的にできるということがあります。したがってすべての地域の地域創生に貢献します。これに対し、これまでの旧来型の観光は、典型的な名所旧跡を持つ一部の地域でしかありえなかったと言えます。すなわち、どのような地域でも、地域資源を新しく発掘し、それを観光資源として育てていくことができることが地域創造型観光です。この手順を「宝の5段階(探す・磨く・誇る・伝える・興す)」と表現します。このようなことができるようになった背景には、これまではあまり観光資源とはみなされていなかったものまで観光資源化するようになった「新しい観光(ニューツーリズム)」という大きな潮流があります。
そこで序論ではまず、ゲシュタルト心理学の絵(図)とその背景(地)のモデルの考え方を切り口に、これまで注目されてきた名所旧跡観光が「図」の観光であり、そのときは絵の背景(地)でしかなかった多くの素材が、これからは新しい観光資源として注目され、新しい観光のベースとなる理由を説明します。

そしてステップ1では、このように、地域創造型観光の振興にあたり、まず最初に必要な地域資源の宝を探して、磨くプロセスを説明します。その典型例が上記のようにニューツーリズムなので、それをベースに紹介します。

第1章では、そのような「地」の観光発掘の典型としてのエコミュージアムの考え方を紹介します。第2章では、エコツーリズムを例に、宝探しから地域づくりにつなげる考え方と事例を説明します。続く第3章では、今、ニューツーリズムの典型例として話題になっているアニメや映画などに関わる地域資源による観光であるコンテンツツーリズムをとりあげます。第4章では、古くから親しまれ、かつ最先端の観光と言うべきヘルスツーリズムについて、ニューツーリズム、そして地域創造型観光という視点から概説します。

しかしながら、このようにして、これまであまり知られていなかった「地域の宝」を発掘し磨いても、顧客である観光客に知られる(伝わる)ようにならなければ、観光は成立しません。そこで、ステップ2では、マーケティングの手法をもとに、いかにして、ステップ1で探した宝を、顧客にアピールし、選んでいただけるようになるかを順に説明します。

まず、第5章では、そもそも観光がサービス業であり、それゆえに、他の産業と異なるサービスとホスピタリティの特別な性質を持っていることを理解することから出発します。第6章では、そもそもなぜ観光にマーケティングが必要なのかについて述べ、「SWOT分析」「マーケティング調査」「STP」「4P」などのマーケティング手法の標準的手順を紹介します。第7章では、さらに的を絞り、既存顧客のロイヤルティやリピート率の重要性、また、サービス業では直接顧客に接する従業員が命であることから、従業員に対してマーケティングする「インターナルマーケティング」が非常に重要なことを示します。第8章では観光マーケティングを支える観光人材にフォーカスし、まず、観光人材に関する主な政策の流れを説明し、地域創造を支える観光人材を、観光産業、観光関連産業、地域観光の3つに分類し、優れた例を紹介します。
ステップ2の前半で観光マーケティングの戦略と人材マネジメントについて説明してきたあと、ステップ2の後半では、いよいよ観光マーケティングの代表的な戦術として、いかなる観光振興においても有効な中核的手法である「観光商品づくり」と「プロモーション」「イベント」について、専門家が具体的に述べます。

第9章では、観光商品の複合的特徴を説明し、観光商品を「中核的商品」「支援的商品」「付加的商品」に分類した後、だれもが観光商品づくりをできるワークシートを提案します。ますます盛んになるイベントについては、第10章でその構造、定義と6分類(博覧会系、見本市系、祭り系、文化芸能系、スポーツ系、集会系)を示し、イベントの構成要素(6W2H)と4つの管理(品質、工程、予算、安全)について説明することで、効果的なイベントやプロモーションの方法を考えます。
最後に、このように宝を発見し、顧客(観光客)に伝えること(マーケティング)ができたとしても、次に、観光地運営主体の組織形成と計画・運営(実際の観光まちづくり)を実際に行う段階、すなわち「宝を興す」という段階を完成させなければなりません。この現実の観光まちづくり・地域づくりのマネジメントについてはステップ3で述べます。
まず、第11章では、フラットで市民主体の組織づくりが有効に働いた伊勢市と京都市の2事例を紹介します。続く第12章では、まちづくりの前提条件としての「ニーズ:外的要因」「シーズ:内的要因」の整理、「課題」「将来像」「コンセプト・イメージ・ターゲット・キーワード」を書き、「政策」を提案するという、観光を活かしたまちづくり計画の立て方を紹介します。計画を進めるうえで重要になるのが、観光事業推進のための制度の活用や資金の調達です。第13章では、まず観光事業振興の取り組みの歴史、次に制度・資金の確保、最後に事業資金づくりのアイデア(事業の初歩的対応)を説明します。そして、第14章では、それらを支える観光組織には、①関係者の中に、地元や地方自治体なども含まれ、②「水平型ネットワーク」であるという点で、「地域プラットフォーム」が重要であることを示します。

最後の第15章では、地域創造型観光のマネジメントが重要となってきた背景とともに、一般的なまちづくり・地域づくり環境の中で成功するための原則を確認し、成功例で見られる実践的なポイントについて総括し《7つの原則》として紹介します。

本書は上記の「観光マネジメント講座」のいわばエッセンスをまとめたものであり、観光にかかわる産業(旅客、宿泊、旅行会社等)に従事される方々、地域(行政、観光協会、地元団体、NPO等)で観光振興をしようとする担当者にすぐに役立つことはもちろん、観光研究者にとっても有益な、地域創造型観光のための多くの重要な研究成果を掲載しております。本書が、これから観光に携わろうとする方、すでに関わっている方、学生のみなさん、一般読者のみなさんにとって有用であればと願っています。

各章末には「あなたのまち」について考える課題を掲げ、実践的課題解決への一歩を踏み出せるように配慮しました。それはあなたが具体的にイメージできる、あなたにとっての「まちや地域」から活動を始めてほしいからです。そして、さらに進んでリアルの「地域創造のための観光マネジメント講座」に参加いただきたいと思っております。参加者、講師陣との課題の共有、またその解決方法のディスカッション、これらを通じての人的ネットワークの構築など、その意義は大きいはずです(詳しくはホームページhttp://www.kankoryoku.jp/をご覧ください)。

最後に、NPO観光力ネットの創設にご尽力いただいた初代理事長・故堀川紀年先生、「地域創造のための観光マネジメント講座」の開設と運営に大きな力を発揮された2代理事長・故前田弘先生に感謝の言葉を送ります。また、本書の出版に際し、適切なアドバイスとご協力を賜りました(株)学芸出版社の前田裕資社長並びに編集部神谷彬大様に心より御礼申し上げます。

本書が読者のみなさんに役立つことを祈念し「はじめに」に代えたいと存じます。

2016年10月

NPO法人観光力推進ネットワーク・関西 理事長  桑田政美

日本観光研究学会 会長  吉兼秀夫

日本観光研究学会 関西支部長 国枝よしみ