ハードワーク! グッドライフ!
内容紹介
自ら起業し組織づくりに悩むコミュニティデザイナー山崎亮が6人のパイオニアとの対話から考える、個人と会社のオープンでパワフルな関係。プロフェッショナルな個人が活躍しながら、同時にお互いを高め合い、若手も育つチームづくりはいかに可能か? 終身雇用や年功序列を超えた所に、自分も組織も豊かにする働き方を探る。
体 裁 四六・236頁・定価 本体2000円+税
ISBN 978-4-7615-2577-4
発行日 2014/10/01
装 丁 UMA/design farm
PROLOGUE studio-L が選んだ働き方 山崎亮
働き方が問われている
高めあう個集団、studio-L
志を同じくする仲間が一つにまとまった
現代の職人集団“ギルド”を目ざす
始まりは大学の研究室のような職場
そして「ライフ・イズ・ワーク」な日常
採用後も働き続けるのは一〇〇人のうち二人
合流一年目は無報酬となる理由
報酬の仕組み
熱意を削ぐ「分業」システム
studio-L が直面している課題
CONVERSATION 1 ワークライフバランスとは何か 駒崎弘樹
働き方をデザインするために
「昭和脳」の上司を「平成脳」に変えられるか
中小企業が生き残るには「働きがい」と「働きやすさ」
「夕方六時から全開」を「六時に帰る」に変えた
アフター6でできる「お試し起業」のすすめ
「感謝」という報酬があるからやっていける
ライフがワークを支える
働き方の変革は、地域や家庭も変える
仕事の種は課題の多い地域にこそ眠っている
ワークライフバランスの真の意味
人口の一万分の一が変われば、変革は起きる
レビュー自分でバランスを決めることの大切さ 山崎亮
CONVERSATION 2 その価値は誰のためのもの? 古田秘馬
古田流、価値の再発見
古田流、人生の選択──サッカー選手になろうとイタリアへ
まず先に「夢」を描いてしまう
好きな分野で走る。仕事はついてくる
公園で古事記を語り合う日々が生んだもの
お金より、まず楽しさを追いかけて
カネがなければご馳走してもらう
働き方の方法論より大切なこと
価値あるものを提供できているか
利益を生むのは、価値を見極める力
それは誰にとって価値のある企画なのか
マスではなく、コミュニティ単位がヒットを生む
「朝」という負荷を乗り越えた先に集まる人たち
足を運び、人に会うことからしか始まらない
マーケットではなく、自分に響く価値を信じて
レビュー価値の見つけ方、共有の方法 山崎亮
CONVERSATION 3 起業家としての成功と、会社の成功 遠山正道
個人性と企業性を両立できるのが食の小売り業だった
社長になる!と決めた
自分でジャッジがしたいから
思いついちゃったアイデアの営業マン
社長の役割は常にウキウキしていること
やりたいことをビジネスに着地させる
企画書という「物語」を共有する
憧れの外食産業になりたい
スマイルズの五つの言葉
「公私混同」ではなく「公私同根」
マネジメントのコツはない!
頼まれもしないことを、あえてやってみる
小さなことでも、心が動く瞬間を逃さない
次に勝負できる仕事環境を整える
実務と共感を兼ね備えた人と働きたい
レビュー起業することと、経営することの両方をいかに楽しむか 山崎亮
CONVERSATION 4 フリーランスのチームワーク 馬場正尊
フリー・エージェント方式とチームの一体感の両立
「先が見えちゃった不安」からの脱却
趣味で始めた個人ブログが事業に
本という「企画書」で世の中にビジョンを投げかける
ライバル同士でもギスギスしない関係性
採用の責任を分け合う新・後見人制度
「社員旅行」という名のモチベーション装置
社員教育の難しさ
地方のソリューションの鍵は地方のなかに
個人の人間力で切り開く泥臭さも必要
「よそ者」の提案をどう採り入れていくか?
一課に一人「ストレンジャー」を採用してみる
「よそ者」として入って行く側の心得とは?
やりたいことより「今やれること」を追いかける
「オフサイド」ぎりぎりを狙うトライアルの気持ちで
日銭を稼ぎながら無風地帯のビジネスに乗り出した
レビューチームであるために必要なこと 山崎亮
CONVERSATION 5 面白い会社のつくり方 柳澤大輔
鎌倉の会社、面白法人カヤック
社員全員がウェブクリエイター
やらされ仕事じゃない、自分事感覚を
軸のあるフリーランサーと働きたい
退職者も巻き込んだクリエイターの生態系が“カヤック”をつくる
経験やノウハウは蓄積より更新が重要
採用も面白く──人事部の創造的採用企画
カマコンバレーで働く理由
多様性こそが面白さの源泉に
〈面白い仕事〉は数値で計測できる
数値化、見える化で働く人の意識が変わる
会社は大きくしないといけないと気づいた
経営理念は「バージョン4」に更新中
オープンでハードな職能集団
直感が生んだロジカルな仕組み「サイコロ給」
「直感」と「論理的思考」のバランス感覚
レビュー個人の面白さと会社の面白さの両立 山崎亮
CONVERSATION 6 育つこと、育てること 大南信也
過疎の町、「奇跡の人口増」のきっかけ
仲間との小さな成功体験
地元に雇用がないのなら、仕事を持った人に移住してもらおう
ワーク・イン・レジデンス
日帰りできない「遠さ」がもたらす濃い人間関係
巻き込む人の数ではなく「質」で見る
一〇年続けてみると取り巻く人の心も変わる
ものごとは長期的に見る、しつこくやってみる
焦らない関係づくりが、副産物を生む
ブレークスルーのヒントは先入観のない移住者の「つぶやき」
過疎化・高齢化のモデルを日本の輸出品に
レビュー楽しみながら待つことの難しさ 山崎亮
働き方が問われている
毎日きれいなオフィスに通って、たくさんの人に囲まれて仕事をしているけれど、このままの働き方でいいのか。目の前の仕事が、果たして本当に自分のやりたいことなのか──。
そんな漠然とした疑問を持って毎日を過ごしている方は、意外に多いだろう。最近よく、「誰かのためになる仕事がしたい」「給料のためではなく、大切な価値を生み出す『何か』のために働きたい」「人生を消耗させるためではなく、人生を豊かにするために働きたい」といった声を耳にする。
「はたらく」という言葉は「傍を楽にする」という意味を含んでいるという説がある。気の利いたシャレである。僕はこの説が好きだ。誰かを楽にする、楽しくすることが働くことであり、そこに対価が発生する。地域社会を少しずつ良くしていこうとする努力の積み重ねが働くということなのだろう。
とはいえ、経済優先の効率主義、いってみれば儲け主義が先行する現代社会においては、そうした衝動はお腹の下の、さらに下の方に沈めておかないと、どうも塩梅がよくない。それでもなお、「本当にこんな働き方でいいの?」「何のために働いているの?」という内なる心の声を消すことは難しい。会社の仕事が終わった後に社会貢献活動をしたり、週末起業をして会社の外で仲間づくりをしたり、試行錯誤を始めている人が増えている。それは、心の渇きのようなものをなんとか潤そうとする試みではないだろうか。
僕は「はたらく」ことを「傍を楽にすることを通じて、自分自身の価値を高めていくこと」だと捉えている。それを実現する組織が、僕にとっては二〇〇五年に独立して立ち上げた事務所studio-Lなのだ。有志四人の集まりからスタートし、コミュニティデザイン、つまり地域づくりのお手伝いをしてきた。この事務所に最近、大企業や官庁をわざわざ辞めて入ってくる人がいる。うまく続けられる人もいるし、途中で辞めてしまう人もいる。
原因はいろいろあるだろう。コミュニティデザインの現場では、地域の「おっちゃん」や「おばちゃん」たちとやりとりすることが多い。これまでの仕事相手とは全然違う論理で動く人たちばかりだ。頭で考えながら仕事をしてきた人たちが、心を通わせる仕事に慣れるのには時間がかかる。自分のキャリアやノウハウが通用しないことも出てくる。加えて、メンバー各人が個人事業主であり、チームでもあるような僕たちの働き方そのものに慣れるのも難しい。自立した個人として能力を高めるよう求められる仕事でもあり、スタジオのメンバーや仲間と協力してプロジェクトを遂行することも求められる。その結果、大きな組織での働き方からこの特殊な働き方へと円滑に移行できない人が出てしまうようだ。(つづく/PROLOGUEより抜粋)
「ハードワーク! グッドライフ!」。本書のタイトルもまた、これまでの本と同じく編集者が提案してくれたものに従った。対談のなかで、駒崎さんは「ハードワーク・ハードライフでいきたい」と述べている。当然のことながら、この時の「ハードワーク」は、かつての「モーレツ社員」をイメージさせるものではない。ファッションブランドの「グローバルワーク」が出版する同名の雑誌の創刊号(二〇一一年)で、同誌の編集長に就任した水島ヒロさんと経営学者の米倉誠一郎さんが対談しているのだが、ここでも「今こそ、ハードワークを」がテーマになっている。最近、「ハードワーク」という言葉に新たな可能性を感じる人が増えつつあるのかもしれない。かく言う僕も、新しい輝きを持ちつつある「ハードワーク」という言葉に魅力を感じている。
「グッドライフ」については、何度も言及してきたとおりである。ジョン・ラスキンや内村鑑三の言葉を出すまでもなく、僕はこれまで「善き人生」とは何かを考えながらコミュニティデザインの仕事に携わってきた。そして、「グッドライフ」を考えれば考えるほど、「ハードワーク」、つまり熱心に働くことについて考えるようになった。また、仲間とともに熱心に働くための仕組みを考えるようになった。朝日新聞の諸永裕司さんから連続対談の企画をもらった際、働き方というテーマを提案したのはこうした背景があったからだ。
六人のハードワーカーとの対談は、全て品川駅近くにあるコクヨの「エコライブオフィス品川」で行われた。参加者は毎回六〇人程度で、大企業の社員から個人事業主まで様々だった。毎回のプログラムは以下のとおり。まずはゲストから生い立ちや活動内容や働き方について講演してもらう(四〇分間)。次に参加者が六人ずつのグループに分かれ、ゲストに投げかける質問について話し合う(二〇分間)。その後はグループからの質問にゲストが答えていく(六〇分間)。こうして二時間の対談を終えた後は、食事をしながらゲストと交流してもらう。毎回、楽しく刺激的な時間を過ごすことができた。
一連の対談を文章化してくれたのはライターの古川雅子さん。その内容を再編集し、書籍化してくれたのは学芸出版社の井口夏実さん。装丁はUMAの原田祐馬さんが担当してくれた。井口さん、原田さんとは、もう何度も一緒に仕事をさせてもらった。二人とも善きハードワーカーである。
六人六様の働き方からは、多くの刺激をいただいた。とても感謝している。伝統的な農村型コミュニティが成立しにくくなり、それをモデルとして生まれた大企業コミュニティも組織運営が困難になりつつある今、六人のゲストが示してくれた新しい組織運営が大企業コミュニティの運営にヒントを与えることになるかもしれないし、農村型コミュニティの運営に新たな風を吹き込むことになるかもしれない。六人からいただいた知見を無駄にすることなく、コミュニティデザインの現場で積極的に活用していきたい。
本書が、あなたの働き方や生き方をいい方向に変えるきっかけになれば幸いである。それぞれの職種や価値観に応じて、新しい働き方が発明されることを楽しみにしている。本書を書き終えた今、僕はさらに詳しく「働き方」について調べてみたいと感じている。そして、機会があれば「新しい働き方」を実践されている方々を取材させてもらい、その内容を次の本にまとめてみたい。その時、取材先の本棚に本書を見つけることを夢見つつ、今回はこの辺で筆をおくことにする。
二〇一四年八月 山崎亮
刊行記念トーク@京都
ハードワーク!グッドライフ!~新しい働き方に挑戦する二人の対話~
塩見直紀+山崎亮/10月6日・京都