減災と市民ネットワーク

三舩康道 著

内容紹介

敷地をこえて活躍する企業の消防隊、帰宅困難者を助ける店舗やホテル、生活物資を確保するスーパーや生協、市民の力を結集するボランティアなど、減災のための住民・企業・行政のネットワークをいかにつくりあげるか。ハード面のみに頼らない、真に災害に強い地域社会をつくるまちづくりのあり方を、事例をまじえて解説する。

(本書は東日本大震災を踏まえ『防災と市民ネットワーク』を全面改訂したものです)

体 裁 A5・224頁・定価 本体2500円+税
ISBN 978-4-7615-2537-8
発行日 2012/09/01
装 丁 コシダアート


試し読み目次著者紹介はじめに

令和6年能登半島地震を受け、下記のページにて、内容の一部を著者のご協力のもと公開しております。

※内容の無断転載等は禁じます。

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はじめに

第1章 市民ネットワークによる減災に向けて

1 阪神・淡路大震災の教訓
2 東日本大震災の教訓
3 市民ネットワークによる減災への課題

第2章 人のネットワーク 1 専門技術者

1 新たな人(専門技術者)のネットワークに向けて
2 東京消防庁災害時支援ボランティア
3 大工さん救助隊
4 自動車整備工場による道路啓開、救急・救助作業
5 コンクリートミキサー車による消火用水の運搬
6 タクシー防災レポーター

第3章 人のネットワーク 2 一般ボランティアと連携ネットワーク

1 新たな人(一般)のネットワークに向けて
2 特定非営利活動法人 日本沼津災害救援ボランティアの会 〈地域型ボランティア〉
3 特定非営利活動法人 日本災害救援ボランティアネットワーク 〈ボランティアのコーディネート〉
4 認定特定非営利活動法人 日本NPOセンター 〈NPOの支援〉

4章 物資のネットワーク

1 新たな物資のネットワークに向けて
2 ガソリンスタンドでの防災資機材収納ボックス貸し出し
3 不用浄化槽の防火水槽への転用

第5章 場のネットワーク

1 新たな場のネットワークに向けて
2 震災時土地利用計画
3 災害時における公園利用のガイドライン
4 オープンスペース利用計画の策定フロー
5 見附市刈谷田川遊水地

第6章 情報ネットワーク

1 新たな情報ネットワークに向けて
2 自律分散型ネットワーク
3 広域連携ネットワーク

第7章 地区のネットワーク(自主防災活動)

1 新たな地区のネットワークに向けて
2 セイコーインスツルメンツ高塚事業所自衛消防隊 〈企業の地域への貢献〉
3 アサヒビール東京工場近隣災害支援隊 〈企業の地域への貢献〉
4 神戸市防災福祉コミュニティ 〈住民と企業の協定〉
5 みなとみらい21地区の防災細則 〈企業間の取り決め〉
6 墨田区災害復興支援組織 〈専門家グループの支援〉

第8章 地域のネットワーク

1 自力復興、地産地消を目指して
2 弁当プロジェクト 〈柏崎市における組合の取り組み〉
3 木造戸建て仮設住宅 〈住田町の取り組み〉

第9章 行政のネットワーク

1 平成7年は行政間応援協定元年
2 名古屋市の「丸ごと支援」
3 遠野市の「後方支援活動」

第10章 帰宅困難者対策

1 帰宅困難者問題に向けて
2 東京都帰宅困難者対策条例
3 災害時帰宅支援ステーション
4 東京駅周辺防災隣組
5 マンションと品川区の帰宅困難者収容のための協定
6 事業所と港区の帰宅困難者支援協定
7 浅草寺と台東区の帰宅困難者対策の協定
8 帰宅困難者対策へ向けて

第11章 これからの防災訓練

1 防災訓練の新たな流れ
2 簡易救出訓練実施マニュアル 〈静岡県の自主防災活動〉
3 市民ネットワーク参加による時系列的訓練 〈7都県市合同防災訓練〉
4 市街地での発災対応型防災訓練 〈京島文化連合町会〉
5 図上訓練(DIG) 〈地図を使った机上シミュレーション〉
6 帰宅困難者訓練 〈東京都中心の合同訓練〉
7 防災教育と訓練の成果 〈釜石の奇跡〉

資料編

1 アサヒビール㈱東京工場全体の消防計画
2 みなとみらい21街づくり基本協定・防災細則
3 東京都帰宅困難者対策条例
4 港区防災対策基本条例
5 災害時における帰宅困難者の一時滞在施設に関する協定書

主要参考文献

三舩康道(みふね やすみち)

1949年岩手県生まれ
千葉大学工学部建築学科卒業
東京大学大学院工学系研究科博士課程修了
工学博士、技術士(建設部門、総合技術監理部門)、一級建築士
現在:ジェネスプランニング㈱代表取締役
希望郷いわて文化大使
墨田区災害復興支援組織代表
NPO法人災害情報センター理事
新潟工科大学教授、国際連合地域開発センター日中防災法比較研究委員会委員、スマトラ島西方沖地震・インド洋津波バンダ・アチェ市復興計画特別防災アドバイザー、見附市防災アドバイザーなどを歴任。

著書:

『東日本大震災からの復興覚書』共著(万来舎、2011年)
『[東日本大震災・原発事故]復興まちづくりに向けて』共著(学芸出版社、2011年)
『東日本大震災からの日本再生』共著(中央公論新社、2011年)
『まちづくりキーワード事典 第3版』編著(学芸出版社、2009年)
『災害事例に学ぶ!21世紀の安全学』共著(近代消防社、2005年)
『まちづくりの近未来』編著(学芸出版社、2001年)
『安全と再生の都市づくり』共著(学芸出版社、1999年)
『防災と市民ネットワーク』(学芸出版社、1998年)
『地域・地区防災まちづくり』(オーム社、1995年)など

東日本大震災の発生した平成23年3月11日は、忘れられない日になった。

阪神・淡路大震災後、それまでの施設整備のハード面に頼る防災に、市民ネットワークというソフト面の対策が不可欠と思い、『防災と市民ネットワーク』という本を出版させていただいた。しかし、今回の東日本大震災発生後、あらためてそのテーマの必要性を感じた。そのため『防災と市民ネットワーク』をもとにしながらも、新たに取材し、今回『減災と市民ネットワーク』を上梓させていただいた。「減災」と書名を変えたのは次の理由からである。

千年に1度と言われるマグニチュード9.0の東日本大震災は、災害に対する国民の意識を変えた。それは想定外の災害であり、我が国は災害対策を根幹から見直さざるを得なくなった。

これまでは、発生頻度が30年や50年に1度という程度の災害に対して、「一人の生命も失わせない」という立場で国の防災対策が立てられてきた。これは、このように発生頻度の高い災害に対しては、その対策コストは巨額にならないからである。

そして、今回の千年に1度の巨大災害に対して、防潮堤や建築物に巨費を投じて備えるという考え方には経済的にも限界があることを知った。
そこで、巨大災害対策としては、被害をできるだけ少なくする方向へ考えるようになった。つまり、これまで「防災」を基本としてきた姿勢から、「減災」へと舵を切るようになったのである。例えば、居住施設は安全な高台が良いが、経済活動を行う施設は低地でも良いというように全ての被害を防ぐことから転換したのである。

「減災」という考え方は、専門家の間では、阪神・淡路大震災以前から議論されていた。しかし、阪神・淡路大震災が発生しても、「減災」は我が国には根付きにくく、当時は「防災」という表題の本にさせていただいた。それが、今回の東日本大震災により、社会的に「減災」が受け入れられるようになり、今回は『減災と市民ネットワーク』としたものである。

ここで、我が国の災害対策を少し振り返ってみたい。

関東大震災(大正12年(1923))を契機に9月1日が「防災の日」と制定された。その後、我が国では多くの地震を経験し、その度に、市街地の不燃化、液状化対策、新耐震基準による建築基準法の改正、避難地や避難路の整備、そして防災公園の整備など、主にハード面での防災対策が推進されてきた。

阪神・淡路大震災(平成7年)では、多数のボランティアが救援活動を行い、マスコミは平成7年をボランティア元年と呼ぶようになった。そして、政府は1月17日を「防災とボランティアの日」と定め、1月15日から1月21日までを「防災とボランティア週間」と定めた。

そして、大規模災害時にはハード面のみの防災対策には限界があり、さらに行政や自衛隊そして消防などの公的機関による救急・救助活動は、すぐには行われず、限界があることが明らかになった。

被災地にあってまず地域を守るのは行政や防災機関ではなく、その地域に関わりのある住民や企業である。そのため、地域に関わりのある住民や企業、そしてボランティアのネットワークによる救援活動というソフト面の対策が不可欠と考えられるようになった。

そして、平成23年の東日本大震災は、津波ばかりではなく、原子力発電所事故も引き起こし、世界中の関心が集まり、原子力発電所の是非は、国際的な話題になった。文明が高度に発展するにつれて、被害の大きさは個人の手が届く範囲を超えて大きくなる、そのようなことを感じさせられた災害であった。

そして、防災から減災へと国民の意識も変化した。国は、津波防御および施設整備の考え方として、数十年から百数十年に1回程度発生する「レベル1津波」の場合は、「防災」として、人命を守る、財産を守る、経済活動を守ることにしている。そして、五百年から千年に1回程度発生する「レベル2津波」の場合は、「減災」として、人命を守る、経済的な損失を軽減する、大きな二次災害を引き起こさない、早期復旧を可能にすることにしている。このように災害の規模で防災から減災へと対応を変えている。

このように社会が防災から減災へと転換をしている今こそ必要なことが、市民ネットワークである。

学校での被害が報告される中、釜石の奇跡と言われた、鵜住居小学校、釜石東中学校の児童・生徒約570人が無事に津波から生き残った話は感動的である。しかし、このようなことも日常的な啓蒙や訓練が行われてきた結果である。

今後、我が国の災害対策は、従来のハード面の対策に加え、住民や企業、行政そしてボランティアのネットワークというソフト面の対策を充実し、社会の減災性能を向上させることが課題となる。21世紀はこのような市民ネットワークというヒューマンウェアをベースに新たなコミュニティが創造されなくてはならない。

東日本大震災における被災地を歩くと「絆」という言葉が多く見られた。困ったときの助け合いの大切さが見直され、被災者が混乱もなく静かに順番を待つ情景等が、海外のメディアによって紹介され、東北人そして日本人の他人を思いやる心や忍耐の心が評価された。復旧・復興にはそのような心が原点となる。今こそ、減災というキーワードを基本にコミュニティの再生を見直す時である。これは地域再生であり、日本再生につながる。

そのためには地域力の向上が必要である。地域力は個人個人の力が集約されたものである。そのため、これからは個人個人が「絆」「忍耐」「できることを実行する」という自らの「人間力」を発揮し地域力の向上に努めなければならない。これが、ヒューマンウェアの原点である。このような努力の延長上に新たな安全文化が創造される。

本書は、住民、企業そして行政を加えた市民ネットワークによる減災について取り上げたものである。ここでは阪神・淡路大震災や東日本大震災を踏まえて市民ネットワークの考え方を整理し、事例を取り上げ、また、帰宅困難者対策など新しい問題についても提案させていただいた。このような市民ネットワークの構築が進み、社会の減災性能が向上されるように自らも努めたい。

本書の執筆にあたっては多くの関係者より資料の提供をいただきました。そして、前著もそうですが、今回も学芸出版社の前田裕資氏のお世話になり出版の運びとなりました。ここで関係した方々にあわせて感謝申し上げます。

平成24年7月  三舩康道

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