地域の力が日本を変える
内容紹介
厳しい経済情勢に加え、震災によるダメージは計り知れない。脆弱な基盤の上に成り立っていた社会。地域の再生なくして日本の活性化はない。住民が主体となり、自立した持続可能な地域を目指すにはどうすればよいか。具体的な事例や、第一線で活躍する実践者へのインタビューから、これからの地域再生にむけた諸方策を示す。
体 裁 四六・216頁・定価 本体2000円+税
ISBN 978-4-7615-2512-5
発行日 2011/07/01
装 丁 コシダアート/上原 聡
第1章 いかに地域を再生するか
1・1 地域を取り巻く環境
1 地域を取り巻く厳しい状況
2 地域再生政策をめぐる政府のこれまでの対応
3 地域再生をめぐる新たな動きと明るい兆し
1・2 地域再生推進のための2つの戦略
1 目指すべき地域再生の姿
2 地域内循環型経済の構築
3 地域コミュニティの再生
第2章 地域の「強み」を生かした再生への方策
1 地域資源を生かす小規模ビジネス
2 企業誘致に過度に依存しない地域産業政策の展開
3 地域の「誇り」と雇用を支える伝統産業の活性化
4 街の「顔」となる中心市街地の再生
5 交流人口の拡大による地域内消費の拡大を図る
6 お金の地産地消と地域を想う「志金」の活用
7 地域の民間団体や人材の活用と、外部人材の登用
8 生活の足となる公共交通をどう維持していくか
第3章 実践者が語る地域再生のヒント
Interview 01 地域の「強み」を生かした起業により雇用の創造を図れ―観光まちづくりによる地域再生
清水愼一(㈱JTB常務取締役)
Interview 02 社会交流欲は商いと街を元気にする─人と街と商いのリンケージ
松本大地(商い創造研究所代表取締役)
Interview 03 地域の「宝」をビジネスに変える仕組み─オンパクの挑戦
野上泰生(NPO法人ハットウ・オンパク運営理事)
Interview 04 「場所文化」を生かし、賑わいを創出する―地域を想う「志金」を生かす
後藤健市(LLC場所文化機構代表)
Interview 05 美しい村づくりが人を呼び、世界を結ぶ―農の景観を生かしたブランディング
浜田 哲(美瑛町長)
第4章 これからの地域再生
4・1 これからの地域再生のポイント
1 地域への愛着と誇りの再建なくして地域の再生なし
2 地域再生の主体はそこに暮らす住民自身
3 分野横断的・総合的な地域再生の取組を進める
4・2 地域再生をどう進めるか―推進のための仕組みづくり
1 地域ぐるみのパートナーシップの重要性
2 実践指針となる戦略をつくる
3 地域経営事業組織を構築する
4・3 地域の自主・自立時代にふさわしい地域再生政策の実現に向けて
一瞬にして多くの命と日常の穏やかな暮らしを奪った東日本大震災。大量消費によって物質的な豊かさを追求する右肩上がりを前提とした社会が永続的なものではないことを気づかされることとなった。
本当の豊かさとは何か。幸せとは何か。私たちは、これまでの生き方や価値観を、根本に立ち返って今一度、見つめ直すことが求められている。
過疎化・高齢化が進む被災地域の本格的な復興がこれから始まろうとしている。一日も早く被災地に笑顔が戻ることが期待される。この大震災を教訓に、どのような地域社会をつくっていくのか。それは、過疎化・高齢化の進展等によって衰退が進む地域に共通するテーマでもあり、これまでの地域再生のあり方や進め方が試される場でもある。
これからの地域再生は、地域経済の成長だけではなく、むしろ地域住民が実感する地域での「暮らしの満足度」や「幸福度」をどう高めていくかに価値軸が置かれるであろう。個人所得などの経済的側面でみるとこれまで以上に厳しいかもしれないが、豊かな自然環境の中で、家族との絆やコミュニティとの関係性を大切にし、温かいコミュニティに守られながら、自己実現を図ることができる心豊かな暮らしを実現できる環境を、そこに暮らす住民が主体となって、どう形づくっていくかが問われている。
とりわけ、地方の中山間地域や小都市を取り巻く環境は厳しい。人口減少や少子・高齢化が著しく進展し、それに伴う地域経済の規模の縮小も懸念されている。いわば将来の日本の諸課題を先取りした地域とも言える。こうした地域を主な対象として念頭に置きながら、地域住民が主体となった持続可能な地域の再生を効果的に実現するためには、どうすればいいのか、どのような仕組みの構築や取組を進めていけばいいのかを明らかにするのが、本書の目指しているところである。
東京財団の「新しい地域再生政策研究プロジェクト」では、既存の地域再生関連施策の検証を行うとともに、地域再生を効果的に推進するための政策や仕組みについて研究を進めてきた。2010年3月にはこの研究内容を政策提言として取りまとめ、東京財団ホームページにおいて公表したが、国会議員をはじめ、自治体関係者や地域再生に携わる実践者等から好評を得た。
本書は、国・地方自治体の政策担当者や最前線で取り組んでいる地域再生実践者を主な対象として、これまでの研究会での議論の内容や発表した政策提言をベースに、具体的な事例や全国で活躍している実践者のインタビューを紹介しつつ、これからの地域再生のあり方や地域再生を効果的に進めるための具体的な諸方策などをできるだけ分かりやすく書き起こした実践的な内容となっている。
第1章では、東京一極滞留時代、消滅集落の発生、投資余力が減少し新規投資できない社会の到来など地域を取り巻く環境の変化や、現在推進している地域再生政策のレビューに基づく現行制度の課題を整理した。その上で、これからの地域再生の目指す姿がどのようなものであるべきかや経済的に自立した持続可能な地域の再生を進める上で「地域内循環型経済の構築」と「地域コミュニティの再生」が鍵となることを示した。そして第2章では、地域再生を効果的に推進するためにどのような事業や取組を進める必要があるかについて、具体的な8つの方策を詳述した。
第3章では、全国で活躍している5人の実践者、清水愼一氏(㈱JTB常務取締役)、松本大地氏(商い創造研究所代表取締役)、野上泰生氏(NPO法人ハットウ・オンパク運営理事)、後藤健市氏(LLC場所文化機構代表)及び浜田哲氏(美瑛町長)に地域再生の取組について伺っている。地域で進めていく上で起こる様々な課題等に対して、どのように解決してきたのか、また地域再生を進める上でのポイントなどを、具体的な地域での取組事例を交えながら、語ってもらった。
第4章では、 地域再生の主体は住民自身であり、地域への愛着と誇りの再建が地域再生に不可欠であることや、地域の多様な主体によるパートナーシップと地域経営事業組織の構築の重要性を指摘した。その上で、これからの地域再生政策の立案や支援制度の具体化に当たっての留意事項を整理した。
地域での具体的な実践例について学びたいという方は、第3章を先にお読みになってもよいだろう。また、国や自治体の職員の方で、地域再生政策を推進するための具体的な施策や取組を検討する上でヒントになるものをお探しの方は、第2章や第4章からお読みいただくことをお薦めしたい。
本書が、被災地域を含め、日本に暮らす一人ひとりの住民が幸せを実感できる魅力的な地域の再生と、それを通じた美しくしなやかな力強い日本の再生の一助となれば幸いである。
2011年5月 井上 健二
近年、地域再生が政治の世界でも大きく取り上げられ、政策面でも地域再生法の制定や地域活性化に関する政策が政府の重要政策として位置づけられるなど一緒のブームと言えるような様相を呈しています。しかし、地域を訪れてみると、こうした永田町や霞ヶ関のブームとは裏腹に、高齢化や人口減少の波は容赦なく襲いかかり、地域は沈滞ムードに覆われたままです。
こうした地域の実態を目の当たりにし、どうすれば地域再生を効果的に進めることができるのか強い関心を持っていたところ、非営利・独立のシンクタンクとして、社会を良くしていきたいという志の下に、政策研究、人材育成などの活動を行う東京財団との運命的な出会いがあり、実効性のある地域再生政策を取りまとめるべく、地域再生政策研究をプロジェクトリーダーとして進めてきました。
研究を進める上で大切にしたことは、現場の視点です。可能な限り地域に赴き、地域再生の実態をしっかりと見て、肌で感じるとともに、そこに暮らす方々のお話に耳を傾けることを重視してきました。地域に愛着と誇りを持ち、「地域を何とか元気にしたい」と熱く夢を語り、生き生きと活動する多くの地域再生実践者にも出会うことができました。語り合いの中で実感し、学んだことは、地域には大都市以上に素晴らしい資源が溢れ、豊かな暮らしを実現する可能性があることや、優れた人材がたくさんいること、そして、地域再生は地域に暮らす住民自身が進めるものであるということでした。
豊かな地域の文化が咲き誇る、世界から憧れられる美しい日本をつくりたい。そのためには、地域が元気でなければならない。地域の再生なくして日本の活性化はありません。
地域の厳しい実態や日本の投資余力を考えると、地域再生は待ったなしの状況にあります。
暗闇を灯す炎のように、再生に向けた地域の熱い想いは、着実に広がってきています。こうした住民主体の地域再生の灯を消すことなく、的確に後押しできる政策を打ち出していくことが、今、求められています。本書はその一助となれば、という想いで取りまとめたものです。
ここまでお読み頂いた読者のみなさん、ありがとうございます。地域再生の取組や政策づくりを進めていく上での何らかのヒントをつかんでいただけたなら、それは私にとって大きな喜びです。
本書発行にあたり、ご多忙の中、快くインタビューに応じ、示唆に富んだ貴重なお話を聞かせていただいた、㈱JTB常務取締役の清水愼一氏、商い創造研究所代表取締役の松本大地氏、NPO法人ハットウ・オンパク運営理事の野上泰生氏、LLC場所文化機構代表の後藤健市氏、美瑛町長の浜田哲氏、また、ここにお名前は挙げることがかないませんが、研究会や視察先で地域再生の取組について教えてくださったたくさんの「地域を良くしたい」との想いを持つ同志の皆さん、そして全面的にお力添えをいただいた学芸出版社の中木保代氏に大変お世話になりました。心より御礼を申し上げます。
最後に、愚痴一つこぼさず、研究活動を全面的にサポートしてくれた妻・理香に本書を捧げたい。
井上 健二