都市計画はどう変わるか


小林重敬 著

内容紹介

新たな時代の仕組みづくりと、再生への方途

急激な人口減少、市街地縮減、情報化や国際化により都市のあり方が変化し、都市計画には新たな仕組みが要請されている。これに直接関わってきた筆者が、行政によるコントロールの力(規制)、近隣社会によるコミュニティの力(協働)、民間企業によるマーケットの力(市場)の3つによる都市再生と地域再生への方途を説く。

体 裁 A5・224頁・定価 本体2500円+税
ISBN 978-4-7615-2432-6
発行日 2008-06-10
装 丁 上野 かおる


目次著者紹介まえがきあとがき

まえがき

1章 都市計画システムの転換

第1節 20世紀システムから21世紀システムへの転換

1 都市の構造転換
2 「地」のあり様と都市づくり
3 「図」のあり方と都市づくり
4 「図」の都市づくりと都市計画
5 21世紀システムへの計画体系の転換

第2節 生活世界の都市づくりと社会システムの都市づくり

1 市場原理と近代都市計画
2 〈社会システム〉と〈生活世界〉
3 〈私的世界〉と〈生活世界〉
4 〈生活世界〉とは
5 〈生活世界〉づくり
6 東京都都市ビジョンにおける社会システムと生活世界の表現

第3節 都市づくりの歴史的転換と現代的課題

1 成長社会の都市づくりから成熟社会の都市づくりへ
2 都市政策の歴史転換期と都市づくりの動向
3 様々に提起されている都市のあり方をめぐる課題と都市政策
4 都市づくりの方向性について
5 都市づくりの基本的な戦略

2章 都市再生と地域再生

第1節 大都市再生と都市計画の変革

1 都市再生ビジョン
2 都市づくりの方向性―都市計画における新たな公共性
3 都市計画における新たなシステム

第2節 都市再生・地域再生とエリアマネジメント

1 我国におけるエリアマネジメントのいくつかの類型
2 大都市都心部の「エリマネジメント」と地方都市中心部の「タウンマネジメント」
3 住宅市街地におけるエリアマネジメント

第3節 地域再生と「知」の時代の都市づくり

1 自動車的スペースとラジオ的スペース
2 境界と市場
3 都市再生とグローバル化、ローカル化
4 ローカル化に対応する都市再生
5 秋葉原と知価産業の集積
6 秋葉原の2つの動向─SOHO立地促進と大規模再開発

第4節 地方都市中心市街地再生と市街地像

1 中心市街地再活性化のむずかしさ
2 中心市街地の活性化は本当に必要か
3 中心市街地における都市居住を実現するための具体的な課題

3章 大都市及び地方都市の既成市街地再構築

第1節 近代都市計画の仕組みと住宅市街地

1 近代都市計画の仕組みと住宅市街地のあり方
2 都市の構造転換と住宅市街地
3 日本の住宅市街地を秩序づける仕組みと住宅市街地の現況
4 我国の今後の住宅市街地のあり方について
5 日本における住宅市街地像の確立

第2節 大都市既成市街地再編と新たな仕組み

1 既成市街地再編と容積率
2 既成市街地再編のためのツール
3 街区単位の規制と街区再編型プロジェクト

第3節 既成市街地再構築と「容積移転」に関わる制度

1 「容積移転」に関わる現行制度の概要
2 連担建築物設計制度
3 特例容積率適用区域制度
4 容積移転と容積割増

4章 新たな都市計画関連制度の動向

第1節 新たな「まちづくり三法」と地域再生

1 まちづくり三法改正の意図
2 広域調整の仕組みとその必要性
3 地方公共団体の新たな対応
4 高松丸亀町商店街の実践的タウンマネジメント
5 中心市街地再生を進めるにあたって

第2節 住宅政策の新たな動向と住生活基本法の創設

1 2000年住宅宅地審議会答申の示す新しい方向
2 ストック重視と「深い社会」
3 住生活基本法への道
4 住生活基本法の新たな理念
5 将来の住宅政策が進むべき方向性

第3節 都市再生・エリアマネジメント・景観、そして景観法制定

1 景観と全国総合開発法
2 国民意識の大転換と景観
3 「都市再生ビジョン」と景観
4 都市再生と地域再生
5 都市の状況転換とエリア(地域)の重要性
6 「都市再生」と景観

第4節 景観法制定と都市づくり

1 都市計画法制の基本的な枠組みと景観行政
2 景観法成立以前の都市計画法制の景観行政に関わる制度環境
3 自治体の景観条例による景観行政
4 景観条例による景観形成計画から景観法による景観計画へ
5 景観条例の景観形成地区等から景観法の景観地区へ

第5節 都市づくりへの市民参加と都市づくりの新たな担い手

1 都市計画制度と市民参加
2 次世代参加型まちづくりとまちづくり交付金
3 グローバル化に対応する土地利用管理運営

あとがき

索引

小林重敬〔こばやし しげのり〕

1942年東京生まれ。東京大学工学部都市工学科卒業。同大学院工学研究科都市工学専攻修了。工学博士。横浜国立大学工学部助教授、教授、大学院工学研究院教授を経て、現在、武蔵工業大学教授、横浜国立大学大学院特任教授。国土交通省社会資本整備審議会臨時委員、国土審議会特別委員、文部科学省文化審議会専門委員など。

〈近年の主な著書〉

『エリアマネジメント』(編著)学芸出版社、2005
『コンバージョン、SOHOによる地域再生』(編著)学芸出版社、2005
『欧米のまちづくり・都市計画制度』(編著)ぎょうせい、2004
『条例による総合的まちづくり』(編著)学芸出版社、2002
『都市計画マニュアル 総合篇』(分担)丸善、2002
新時代の都市計画1『分権社会と都市計画』(編著)ぎょうせい、1999
新時代の都市計画3『既成市街地の再構築と都市計画』(編著)ぎょうせい、1999
『地方分権時代のまちづくり条例』(編著)学芸出版社、1999
『地球環境と巨大都市』(分担)岩波講座 地球環境学第8巻、1998
『都市と法』(分担)岩波講座 現代の法第9巻、1997
『協議型まちづくり』(編著)学芸出版社、1994

我国では、20世紀末から21世紀にかけて都市のあり方が大きく変化しており、都市計画も対応を促されている。このような状況は、19世紀末から20世紀初頭にかけて、近世都市から近代都市への変化に対応して、近代都市計画の仕組みが成立していった状況と似ている。

近代都市計画の仕組みは、先進諸国では20世紀半ばまでに一応の完成を見たが、その後、1980年代後半になると都市のあり方が変化し、新しい都市計画の仕組みが模索されるようになった。

本書は、20世紀末から21世紀初頭にかけて、都市のあり方が構造転換ともいうべき大きな変化をし、それに対応して都市計画の新たな仕組みが要請され、我国もそれに対応してきた。その仕組み作りに直接かかわってきた筆者が、これまで考察してきたものをまとめたものである。

ところで、20世紀初頭の近代都市計画の成立は、ヨーロッパ諸国における産業革命を契機として進行した工業化の中で、その工業化を支える中枢管理機能の成長と深く関係している。

第1章では、1987年と1988年の2回、連続したテーマで開催された日本都市計画学会のセミナーにおける私の講演原稿をもとにしている。約20年前に考えた内容であるが、その後の都市計画のあり方の変化の枠組みは、この論文の内容に沿ったものになっていると考える。

欧米諸国では、産業構造の転換と都市への人口集中は長期間をかけて進行し、近代都市計画はそのような都市の状況変化に対応して徐々に形成されていった。我国の産業構造の転換と都市への人口集中は欧米諸国のそれに比べて、遅れて始まり、しかし急激にかつ大規模に展開した。そのことは逆に、20世紀から21世紀にかけての都市の状況の変化を、欧米諸国に比較して大規模に、かつ急激に経験する可能性が高いことになると考える。

近代都市計画が直面した都市の構造転換とは、一言でいえば「都市化」である。都市への人口集中に伴い、市街地が拡大していった。新規に形成される市街地を、新たな開発方式によって、新たに台頭してきた新中間階層、日本でいえばサラリーマン階層の要求を満たす市街地を秩序をもって形成してゆくことが、近代都市計画の課題であった。

しかし、今日の都市の構造転換は近代都市計画が直面したものとは逆に、人口減少に伴う市街地縮減である。都市計画の課題は新たな管理運営方式による市街地の秩序化である。そのことを「都市化」の言葉に対応して「逆都市化」と表現する場合もある。

我国で始まっている人口減少、市街地縮減は、これまでどの国も経験したことのないものとなる可能性が高い。したがって、21世紀における新たな都市の状況変化を見据えて、あらたな都市づくりの仕組みを構築することは、我国に課せられたいわば国際的な課題ではないかと考える。それはまた、今後のアジア諸国の都市構造の転換にも応用できるという意味でのグローバルな課題でもあると考える。

ところで都市づくりにかかわる力は大きく分けて、行政によるコントロールの力(規制)、近隣社会によるコミュニティの力(協働)、民間企業によるマーケットの力(市場)の3つに大別されると考えるが、その3つの力がどのような関係を築くかによって都市づくりの仕組みは変わると考える。近代都市計画はコントロールの力の発揮という形でまず成立し、都市への人口集中に伴う市街地の拡大を整序する役割を担った。やがて「近代化」は先進諸国では「民主化」と一体化することとなり、都市づくりにもコミュニティの力が働くようになり、参加手続きをはじめとする仕組みが導入されてきた。さらに近年の近代都市計画の特徴は、マーケットの力を有効に活用する仕組みが様々に工夫されてきたことでもある。

しかし、近代都市計画の仕組みは、あくまでも行政によるコントロールの力を中心に置く仕組みであり、とくに我国ではその色彩が強く、またコミュニティの力やマーケットの力とは個々に調整してきたにとどまってきた。そのため、近隣社会によるコミュニティの力、民間企業によるマーケットの力と協調して、都市づくりを新しい都市の状況に対応させてゆくものとする点では課題をかかえてきたと考える。その結果、現状はコミュニティの力とマーケットの力が葛藤しており、コントロールの力では十分に整序できない状況になっている。両者の力の葛藤を超えて、新たな都市計画の仕組みを作りだすことが、これからの都市計画に関係する者の課題である。

そのためには、近代都市計画が19世紀末から20世紀初頭の都市構造の転換に対応するために掲げたキーワードが「近代化」であったように、新しい都市構造の転換には対応するには新たなキーワードを見つけ出す作業が必要になる。

「近代化」の動向は、第2章で述べるように、「労働」と「家庭」、さらに「余暇」や「宗教」を分離し、また「公的」生活と「私的」生活を区別し、さらに男性と女性の生活が区分されたことに対応している。「近代化」は都市化の動向の中で新しい特有の「生き方」そのものであったと言われている。

そのことを逆にいえば、21世紀特有の新しい「生き方」を見つけること、そのことによって21世紀を支える新しい社会階層によって支持される都市計画の仕組みになると考える。

21世紀特有の新しい「生き方」を、都市づくりに関係して述べるとすれば、現在のところ「グローバル化」と「協働」の2つのキーワードが思い浮かぶ。「グローバル化」は先に示した都市づくりにかかわる3つの力の中では、民間企業によるマーケットの力(市場)と深く関係する言葉であるし、「協働」は近隣社会によるコミュニティの力(協働)そのものである。

しかし、これからの都市づくりを考えると、一方でマーケットの力による「グローバル化」を志向し、一方でコミュニティの力による「協働」を追求するということは、今まさに起きていることである。悪意でいえば、都市づくりの混乱であり、善意でいえば都市づくりの2層性である。

したがって、コミュニティの力と民間企業によるマーケットの力を2つともに活用する、新たな都市づくりに関わるキーワードが必要であると考えられる。それはコミュニティの力とマーケットの力を結集して「持続可能性」と「創造性」ある都市づくりによって「地域価値」を高めることであり、キーワードは「持続可能性」と「創造性」である。

その仕組みは、良質な地域社会を志向する新たな社会関係を構築し、都市づくりを進めることであり、新社会資本の構築ということもできる。

現在の我国におけるまちづくりの状況を見ると、「グローバル化」をテーマとして、競争の時代のまちづくりである都市再生が一方にあり、もう一方には衰退している地区を再生する「協働」をテーマとした地方都市の中心部における生き残りをかけた地域再生がある。

このような状況の中で、良質な社会を志向する新たな社会関係を構築するということは、地域に関わる地権者、商業者、住民、開発事業者などがつくる社会的組織によって「地域価値」を高めるための活動をすることである。それらの社会的組織は、都市づくりの担い手として、お互いの信頼関係を築いたうえで、「創ることへの参加」を通して、まちづくり活動を行う。

都市のこれからの状況を考えると、これまでの地方自治体という行政体によって括られる制度に基づく都市の位置づけは相対的に小さくなり、かわって、マーケットがつくる「圏域」(大都市であれば大都市圏)とコミュニティがつくる「単位地区」が重要な地域となってくると考える。

それでは行政によるコントロールの力はどこで発揮されるのかを考えてみる。第1に、縮減する市街地を抱えた「圏域」の運営へと向かう必要がある。積極的には例えば圏域全体を関係づけた「水と緑のネットワーク形成」であり、これは「持続可能性」に結び付く施策である。また消極的には縮減する市街地を荒廃にと向かわせない仕組みづくりである。

第2に、「単位地区」をコミュニティの力で可能な限り自主的に運営されるような仕組みづくりを支援することである。それは「まちづくり条例」のような従来型のものも役割を果たすと考えられるが、より積極的には「単位地区」の住民、企業者、自治会、NPOなどの地区で活動する主体が集まり、そこに一定の権限と財源を渡して「創造性」ある地区運営を実現することである。

これからの都市のあり方の変化に合わせて、これからはっきり姿を見せるであろう新たな社会階層が要請するまちづくりを支える都市計画へと変わってゆく必要があり、その時、日本の都市計画は真の意味で「グローバル化」することになる。

最後になったが、本書はこれまで筆者が執筆した多くの論文を見直し、再構成したものである。そのような手間のかかる本書を刊行することをお勧めいただいた学芸出版社の前田裕資氏、さらに校正などの労を取っていただいた村田譲氏に感謝の意を表したい。

2008年6月
小林重敬

本書の第1章の中心となっている内容は、約20年前に次の時代(21世紀システム)の都市づくりの仕組みがどのような方向に向かうのか考察したものである。

その後、国の都市づくり関連制度、都市計画法、建築基準法、住宅政策関係法、さらに国土法などの制度の創設や改正に関わることができた。都市計画法、建築基準法の分野では、約20年前の地区計画制度の創設から始まり、一昨年のまちづくり三法までである。また多くの地方自治体の条例の創設にも関係することができ、先進的な街づくり制度の誕生に関わることができた。さらに計画づくりについては、東京都都市ビジョンの策定、神奈川県の都市計画マスタープランの策定などにも関り、多くの民間地権者と策定した地区プランもある。その代表が丸の内地区の計画づくりである。また横浜のMM21はじめ、多くの市街地再開発事業にも関わってきたが、現在関わっている高松市丸亀町商店街の事業は新しい制度づくりであり興味深いものとなっている。

これらの都市づくりの仕組づくりは、それぞれ個々の小さな動きであるが確実に次の時代の都市づくりの仕組みに向かっていることは間違いない。しかし近代都市計画制度が1880年代にドイツ、イギリスで創設の動きが始まり、1900年頃に最初の体系的近代都市計画制度が生まれ、その後、先進諸国で採用されたことを考えると、現在は次の時代の都市づくりの揺籃期にあると考える。

しかし問題は、近代都市計画が新中間階層という20世紀の中心的な階層の支持があり、支えられてきたように、次の時代の都市づくりの仕組みを支える階層の姿が十分には見えていないことである。

次の時代の都市づくりを支えるキーワードは「持続可能性」と「創造性」である。現時点で「持続可能性」を支える活動の中心にいるのはNPOなどの地域とのつながりが必ずしも明確でない組織であり、一方「創造性」を支える活動は、そもそもまとまった意思表示をしない人々であるため、現在のところ新階層とはいえない状況にある。

次の時代の都市づくりの仕組みは、「持続可能性」と「創造性」を実現するものとする必要がある。そのことによって次の時代の都市づくりを支える新たな階層が誕生し、次の時代の都市づくりはしっかりした基盤を持つことができると考える。