逆都市化時代
内容紹介
都市における過密・高層化が繁栄だという幻想に、いつまで人々は冒されつづけるのだろうか。人口減少を逆手にとって、今こそ空間的・精神的な豊かさを実現する、環境共生都市をめざそう。都市再生、中心市街地活性化、テレワーク、交通問題、地方分権等、都市をめぐる様々な事象から、これからの都市がとるべき姿を指し示す。
体 裁 四六・256頁・定価 本体2200円+税
ISBN 978-4-7615-2341-1
発行日 2004/06/30
装 丁 前田 俊平
序 都市再生はゆとりと環境共生から
1 三番瀬では保全が再生
2 三番瀬の教訓と都市再生
3 ゆとりある環境共生都市
4 新時代の都市計画と都市
第1章 大都市の再生
1・1 都市再生法では都市は再生しない?
1 都市再生に必要な長期的な視点
2 都市再生政策の限界とまちづくりの方向
1・2 人口減少社会に向かう東京の課題
1 膨張する上海と縮小する東京
2 都心居住とオフィスビルの淘汰
3 ピントの外れた都市再生政策
4 人口減少下の東京のまちづくり
第2章 地方都市の再生
2・1 都市構造と中心市街地の活性化
1 都市政策の転換期における中心市街地問題
2 都市の構造と中心市街地
3 都市構造マスタープランの検討
4 都市構造マスタープランと中心市街地
2・2 中心市街地問題の構造と活性化の課題
1 中心市街地活性化の新制度
2 中心市街地問題の構造
3 中心市街地活性化の課題
第3章 市民社会とまちづくり
3・1 地方分権と都市計画
1 「分権と参加」の利点と都市計画
2 都市計画における地方分権の進展
3 自律型の都市計画―ポスト分権一括法の都市計画改革
4 都市計画からまちづくりへ―都市マスによる都市計画の広がり
5 都市計画の分権化を展望する
3・2 「知恵の実現」によるNPOの新展開
1 人と地域
2 知恵の実現
3 仮説の検討
4 知恵の実現をどう進めるか
5 知恵の実現の展開
3・3 新しい公概念と負担者受益
1 新たな計画論
2 新しい公概念
第4章 情報社会と都市
4・1 テレワークとは何か
1 テレワーク小史
2 テレワークの発展と期待
3 テレワークの展望
4・2 一千万人時代のテレワーク
1 テレワークを始める公務員
2 テレワーカー一千万人時代
3 テレワーク社会
4・3 テレワークと住宅・都市
1 ホームオフィス
2 テレワーク型住宅
3 意識の変化と価値の創造
4・4 情報通信と交通を考える
1 ITと交通―どちらが都市を変えるか?
2 情報通信の協調性
3 ITと都市構造
4 ITの効果を決める因子
5 ITと交通
6 IT化による交通の変化
第5章 交通と環境共生
5・1 都市交通と都市構造
1 都市交通計画の課題
2 交通手段と都市構造
3 自動車と公共交通
5・2 人間中心の交通体系を実現する諸方策
1 日本人の交通観
2 人口減少社会における公共交通
3 交通の改善
5・3 環境共生と社会資本整備
1 千葉都市モノレールの例
2 社会資本と合意形成
3 社会資本整備の課題
5・4 揺れる道路
1 道路特定財源制度の見直し
2 危機にある高速道路
逆都市化時代が始まった。都市の分析論を学んだ人は、逆都市化と聞くと八〇年代のクラーセンとパリンクの都市の発展段階論を思い出すに違いない。都市は都市化、郊外化、逆都市化という段階を経て、成長し、拡大し、やがて衰退していくというモデルである。衰退の先には再都市化が用意され、再び都市の成長が始まる可能性が示されているものの、盛者必衰というモデルは、日本人の人生観や世界観とも通じるものがある。
しかし、本書のタイトルを「逆都市化時代」としたのは、このような栄枯盛衰モデルを念頭に置いてのことではない。日本の都市が直面しているのは、全国的な人口減少時代の中で、すべての都市がやがて人口減少局面を迎えるという時代の転換期である。かつて毎年六〇万人以上の人口増加を経験した首都圏(一都七県)でも最近では毎年数万人と、増加数は激減しており、やがて、ゼロになり減少し始めるのは確実である。しかし、それは悲観するべきことではない。今日多くの女性が、乳幼児死亡率の低下、社会参加機会の増加、変わらない子育て時の母親への負担の集中などの条件を勘案して、晩婚や少子化を選択しているのは、他方で自己実現の機会の拡大により大きな価値をおいているからであり、積極的な人生選択が行われた結果として少子化社会が到来しつつある。
もちろん、すでに少子化対策の必要が論じられているように、現実に人口減少社会が始まれば、女性の社会参加を確保しつつ、少子化傾向を緩和するにはどうすべきかをより真剣に検討し、種々の対策を本格的に実施するようになる。したがって、私も日本の人口が二一〇〇年には現在の半分になるといった長期的な予測を信じるわけではない。しかし、当面する数十年については、すでにその時期に再生産年齢となる人々が生まれていることもあり、出生者の減少傾向は避けられない。つまり、全国的な人口減少社会は少なくても数十年間は続くとも思わなければならない。
日本の都市はその時代を積極的に利用して、開発への圧力が高かったこれまで都市化の時代にはできなかった都市と自然との共生というような、失われつつある価値を再生させるべきではないか。都市の駅は混雑し、その周りは高層オフィスビルに囲まれ、さらにそれを高層マンションが包み込んで広がっていくというような都市の密度モデルは、日本でもっとも忠実に実現されてきたようだ。しかし駅前にはオフィスや商店の代わりに公園やリクリエーションの場が広がっていてもいいのではないか? 都心部といえども中低層の住宅に住める街の方が快適なのではないか? 人が集まるための広場も都市の必要施設になりうるのではないか? 川は都市の中にあるからといって、コンクリートで覆われて放水路然とならなくてももっと自然な雰囲気を出してもいいのではないか?
こうした疑問を疑問として留めておかずに、実現できる時代が訪れようとしている。明治以来一四〇年、とくに成長と開発の時代であった戦後六〇年を経て転機を迎えることは日本の都市にとっては格好の機会でもある。子供が巣立った家にリフォームがふさわしいように、都市にも本格的なリフォームを施し、暮らしやすく、活動しやすくする機会である。同時にこれは、アジアと日本の間にも新しい関係をもたらす転機でもある。西欧を手本として都市をつくった一四〇年から、アジアの仲間たちとも論じ合いながら都市のあり方を考える時代が始まる。都市に携わる人たちにとって、実に大きな創造と実践の機会が訪れようとしているのではないか。
『地方自治職員研修』(公職研)2004. 11
人口は減少し、地価は上がらないということを前提に、まちづくりをどう進めるか。環境共生、都心居住、公民連携、テレワークなどをキーワードに、これからの都市計画とまちづくりのあり方を提言する。自動車交通の国際比較などから「交通と環境共生」を提言した章では、千葉都市モノレールなどを分析。旧建設省が推進したが、営業損益がマイナスのところもあり、コンクリートの塊を建てるモノレールより、路面電車やバスなどの他方式を検討するべきではと提案している。
『地域開発』((財)日本地域開発センター)2004. 9
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