図説・日本住宅の歴史
この書籍には後継版があります
『改訂版 図説 日本住宅の歴史』平井聖 著
内容紹介
著者手書きの400枚の図と、平易な解説文が楽しく描く日本住宅通史。これからの住宅のあり方を考えるために、我国の住宅の歴史をふりかえり、私達の住宅がどのような経緯ででき上がったか、どのような特色をもっているかを探る。住居史のテキストとして最適の書。
体 裁 B5・144頁・定価 本体2200円+税
ISBN 978-4-7615-2009-0
発行日 1980/07/20
装 丁
はじめに
●先史時代の住居
竪穴住居
竪穴住居の資料
集落
竪穴住居の構造
中国の竪穴住居
高床建物
高床建物の例
高床建物はいつからあるか
高床建物の用途
高床建物の構造
中国の高床
校倉造の構造
高床の神殿
平地住居
平地住居の出現
竪穴住居から平地住居へ
柱をたてた平地住居
床の発生
町家の床
農家の床
●支配階層の住宅
寝殿造
古墳時代から奈良時代へ
平面の変遷
建物の構造
寝殿の生活
寝殿の建具
寝殿造の原型
法住寺殿
寝殿造の復原
寝殿造と家族構成
浄土教の寺院
寝殿造の池庭
寝殿造の南門
大路・小路と寝殿造の住宅
主殿造
大井太郎のすまい
寝殿造から主殿造へ
平面の変遷
主殿の平面
主殿造
天井・建具・登
納戸
押板
付書院
違棚
台所
風呂
書院造
座敷飾
平面の変遷
複雑になった饗応作法
室内空間の展開
武家住宅の構成
武家住宅の規模
御座の間の分化
武家住宅の玄関
台所と清所
雨戸の出現
庭
数寄屋風の書院
数寄屋風の意匠
数寄屋風の意匠の起源
数寄屋風書院の外観
●民家
町屋
町屋の敷地
敷地と建物
町屋の構造
町屋の平面
中世の京の町割
二階屋
敷地の間口と建物の間口
裏長屋
江戸の街の生活
江戸の街と町屋
すまい
矩;縫と蚊帳
台所
井戸・洗濯
湯殿
木引
大工
大工の棟梁
屋根を葺く
左官
地形
鍛冶屋
畳屋
農家
絵巻・扉風に描かれた農家
下野の村
分棟型の農家
農家の構造
農家の平面形式
農家の構成
現存する古い農家
農家の様式
書院造の影響
●近代の住宅
サラリーマンの住宅
明治のサラリーマン住宅
激石の描いた明治30年代の生活
大正期の都市住宅
和洋折衰の住宅
居間中心型の平面
台所
かまどと囲炉裏・井戸
幕末から明治期の台所
関東の脆座式の台所
近畿の通り庭型の台所
外国人のみた日本の台所
住宅改良運動と台所
建築家と台所
田園都市
田園都市の誕生
洗足村の住宅
昭和初期の中流住宅とその生活
同潤会の分譲住宅
その後の田園都市
集合住宅
東京市営古石場住宅
第2次大戦前のアパート事情
同潤会のアパートメント
第2次大戦後の公営不燃アパート
最小限住宅
生活最小限の住宅
第2次世界大戦・敗戦
戦後の最小限住宅
懸賞設計
森於菟博士の住宅
おわりに-現代の住居と生活
索引
旅先で,その日の宿がきまるとほっとする.旅なれていても,よく知っている土地でも,その日の宿がきまらないと落着かないし,不安である.私達にとって,寝る場所を定めること,これが住居の第一の条件である.
安心して寝ることのできる場所をつくるのにも,地域や民族によってちがいがある.寒い所では,寒さを防ぐために壁をがっしりと積み,屋根をかけて密閉された家をつくる.壁に石を積む人々がある.乾燥している所では, 日乾煉瓦を積む.厚い土壁を塗る場合もある.木材が豊富な所では,丸太を積み上げて丸木小屋ができる.木も石も土もなし、北極海に近い所では,氷を切って半球を伏せたような家をつくる.
寒い所の家には窓がほとんどなく,あっても小さい.同じようなつくりの家が暑い所にもある.中近東の暑くて乾燥した地域では,窓の小さい家をつくる.暑い太陽の光をさけ,熱気が入らないようにと考えている.
家をつくる材料も,木・石・煉瓦・泥・氷のほかに,毛皮・竹・木の葉・藁・布など,地域によってさまざまである.
気候のよい所では, 何もつくらなくてもいい.盗られる物もなければ,道端に寝ていてもかまわないのだが,普通は財産や生命を護るために囲をつくることになる.そのような場合には,屋根より壁が大切である.敵や獣に襲われる恐れのある所では,まわりを囲む壁が家をつくる基本である.
一方,雨の多い所の住居は,屋根が基本である.屋根をつくって,雨が降っても安心して寝られるようにする.地面にそのまま寝ていたのでは水びたしになるから,床(ゆか)をつくる.木や竹で床をつくるほかに, 土壇をつくることもある.洪水の恐れのある所では,床を高くする.人の背くらい高くすると,洪水に安心であるばかりでなく,動物に襲われることもない.また,涼しくていい.床下で家畜を飼うこともできる.
寝るためにつくられた家に,人聞が技術を持つようになると,次々と新しい機能が加わる.火を使うようになると,炉やかまどが生まれる.暖をとること,炊事することなど,火を使って生活が複雑に展開する.まず,住居の中で炊事する場所が分離する.火は実用的な役割だけでなく,神聖なものとされ恐れられた.住居が棟を分け,いく棟かで構成されるようになると,必ず炊事のための建物が建てられている.
農耕が盛んになり,収獲物を貯えておくようになると,毎日獲物を追いかけたり,木の実を探したりしなくてもよくなる.昼間の生活も,住居の中で次第に大きな割合を占めるようになる.また,階級も生まれ,上層の家では家族のために建物を建てるようになる.
日本の住居は間仕切が少なく,寝る所を区画するほかは,壁で仕切ることはない.板敷あるいは畳敷の室内は,寝るにも食事をするにも人に会うにも,ちょっと模様替するだけでいい.このような便利な生活様式も,近代の生活改善運動や建築学では未分化の非衛生なものとして排斥されている.食事は食堂で,一家の団欒は居間で,勉強や寝るのはそれぞれの個室でと機能に対応する部屋を用意し,機能分化することが良いことだとされてきた.洋風の椅子式生活様式も入ってきた.
このような機能分化や椅子式生活の導入は,敗戦後の狭い家を小さい部屋に細分化してしまった.個室をいくつか確保し,食事をつくり食べる部屋を設けると家族が集まり語り合う部屋がなくなってしまう.椅子式生活で家具がふえ,ますます部屋を狭くしている.ただでさえ,家族の生活がばらばらで話し合いの時聞がとれないのに,住居の事情はさらにそれを不可能にしている.
これからの住居のあり方を考えるために,これまでの日本の住居の歴史をふりかえり,私達の住宅がどのような経緯ででき上がったか, どのような特色をもっているかを探ることにしよう.