ぼくらがクラウドファンディングを使う理由

佐藤大吾 監修/山本純子・佐々木周作 編著

内容紹介

つながりができるからお金が集まる、お金を集めるからつながりができる。スタートアップや震災復興、福祉、医療、スポーツ、アート、政治、研究、地域振興と12分野の成功者インタビューで、“コミュニティづくりと資金調達”というクラウドファンディング成功の両輪を解読。次なる挑戦者の背中を押すノウハウやエール満載!

体 裁 四六・224頁・定価 本体1800円+税
ISBN 978-4-7615-1360-3
発行日 2016/05/01
装 丁 木村 幸央


目次著者紹介まえがきあとがき推薦文書評イベントイベントレポート
はじめに

1章|先駆者に訊く。少額多数型の資金調達Q&A :佐藤大吾

Q1: 寄付型クラウドファンディング・サイト
「JapanGiving」の創設のきっかけを教えてください
Q2: 購入型クラウドファンディング・サイト
「ShootingStar」を始めたきっかけを教えてください
Q3: クラウドファンディングで資金調達に挑戦する人が、まず考えるべきことは?
Q4: どんな人が向いていますか?
Q5: 成功の秘訣は、ズバリ何ですか?

2章|実践者に学ぶ。12プロジェクトの舞台裏

1 地元の食材「なまり節」を全国に届けたい
気仙沼の高校生による商品開発が地域を元気にする!
〈地域〉 一般社団法人i.club代表理事:小川悠さん

2 古生物・モササウルスの研究を続けたい
学術研究の新しい情報発信のかたち
〈研究〉 東京大学大学院理学研究科博士後期課程:山下桃さん

3 組み立て式ロボットを商品化したい
ニッチなプロダクトの支援者は世界中にいた!
〈ものづくり〉 機楽株式会社代表:石渡昌太さん
株式会社ミヨシ代表取締役:杉山耕治さん

4 バドミントン世界ツアーに挑戦したい
日本初のプロ選手を支えた143人のサポーター
〈スポーツ〉 元プロバドミントン選手:池田信太郎さん

5 みんなで使えるオフィスと図書室をつくろう!
支援者が仲間になるシェアの場づくり
〈建築・不動産〉 株式会社ツクルバ代表取締役 CCO:中村真広さん

6 市民のチャレンジを行政が応援します!
全国の地元出身者に支援を募る、県庁クラウドファンディング
〈行政〉 島根県庁しまね暮らし推進課ほか:田中徹さん・田中壮一さん・吉田篤史さん

7 革新的なミュージックビデオをつくりたい
まだ見ぬ表現を待ち望む、ファンから託された制作費
〈デザイン〉 PARTYクリエイティブ・ディレクター:川村真司さん

8 全市民に市政報告書を届けたい
政治を身近に!政策に込めた想いの拡散装置
〈政治〉 枚方市議会議員:木村亮太さん

9 だれもが利用できる病児保育サービスをつくろう
働くおかんを支えるチャリティランナーの連携プレー!
〈福祉〉 NPO法人ノーベル代表:高亜希さん
NPO法人ノーベルファンドレイザー:北村政記さん

10 会田誠の展覧会づくりに参加しませんか?
1400人の個人協賛が支えたアーティストの反骨心
〈アート〉 森美術館チーフ・キュレーター:片岡真実さん

11 ケニアの診療所を存続させたい
456人の新オーナーが子どもたちの命を救った
〈途上国〉 NPO法人チャイルドドクター・ジャパン理事:宮田久也さん

12 未知を描き、対話を生むドキュメンタリー映画づくり
共感が共感を呼ぶ、資金調達の連鎖
〈映画〉 ドキュメンタリー映画監督:佐々木芽生さん

3章|クラウドファンディングを読み解く

まだ5年、だが急速に浸透しつつあるクラウドファンディング :山本純子
行動経済学でクラウドファンディングを読み解く :佐々木周作

おわりに

●監修者

佐藤大吾(さとう・だいご)
一般財団法人JapanGiving代表理事。1973年生まれ。大阪大学在学中に議員事務所でのインターンシッププログラムを提供するNPO法人ドットジェイピーを設立。2010年3月より、クラウドファンディングサイト「JapanGiving」を開始。著書に『1.21人に1人が当選! ”20代、コネなし”が市議会議員になる方法』(ダイヤモンド社)、共著書に『初歩的な疑問から答える NPOの教科書』(日経BP社)『若手知事・市長が政治を変える: 未来政治塾講義I』(学芸出版社)など。

●編著者

山本純子(やまもと・じゅんこ)
株式会社アーツ・マーケティング代表。1974年生まれ。1997年に慶応義塾大学美学美術史学専攻を卒業後、ゲーム会社マーケティング・マネージャー職を経て 2009年同大大学院アート・マネジメント分野修士過程に入学、同年独立。クラウドファンディングを含むデジタル戦略の講演、コンサルティングなどを行う。著書に『入門クラウドファンディング スタートアップ、新規プロジェクト実現のための資金調達法』(日本実業出版社)。

佐々木周作(ささき・しゅうさく)
大阪大学大学院経済学研究科博士後期課程、および日本学術振興会特別研究員。1984年生まれ。京都大学経済学部卒業後、株式会社三菱東京UFJ銀行を経て現在に至る。専門は応用ミクロ計量経済学、行動経済学。

機が熟したら。タイミングさえ合えば。近い将来に。いつか実現したいという夢をだれもが胸に抱いているだろう。それは起業して、自分の創り出したサービスを社会に根づかせたいということかもしれないし、アフリカの子どもに安価な医療サービスを届けて、彼らの命を救いたいということかもしれない。

しかし、多くの人にとって、機は熟さないし、タイミングも合わなければ、近い将来は遠い将来に早変わりする。なぜだろうか? 理由の一つとして口々に言われるのは、そんなお金はないから、である。確かに、金融機関からスタートアップの資金を獲得することは狭き門だし、審査の俎上に乗ることさえ難しい場合もある。そんなにやりたいなら親・親族、友人・知人に頭を下げて頼れという声もあろうが、身の回りにパトロンになってくれるほどのお金持ちがいるかどうかは運次第、というところもある。
自分の夢を応援してくれそうな人を探し出し、その人に投資してくれないかとお願いしてみる、そんな風に夢のスタートラインに立つことすら、簡単でなかったのだ。……これまでは。

時は流れて、事情は変わりつつある。クラウドファンディングという名の資金調達方法が世の中に根づき始めたからだ。クラウドファンディングとは、「群衆=大勢の人々」という意味のクラウド(Crowd)と、「基金」という意味のファンド(Fund)を合わせて造られた言葉だ。つまり、金融機関や親・兄弟など特定の機関や個人に対してではなく、不特定多数の人々にあなたのやりたいことを宣言して、賛同・共感してくれた複数の人から小口の資金を集めて、目標金額まで調達する方法だ。FacebookやTwitter、InstagramなどのSNSが世の中に浸透したことで、やりたいことの宣言文を不特定多数の人の目に触れさせることはずっと簡単になった。それに伴い、クラウドファンディングも身近な資金調達方法として育ってきたのだ。

2016年現在、やりたいことの宣言は、クラウドファンディング・サイトという専用サイトを利用することでだれでもできるようになっている。夢のスタートラインに立つために越えなければならないハードルは、登録にかかるちょっとした時間だけだ。

日本の新聞記事にクラウドファンディングという言葉が登場し始めたのは2011年頃で、もう5年も前のことだ。この本を手に取ってくださった皆さんも、クラウドファンディングという言葉を、テレビや新聞記事、雑誌の特集などで何度も見かけたことがあるだろう。クラウドファンディング・サイトを訪れたことがあるという人も多いにちがいない。

しかし、クラウドファンディングでの資金調達に踏み切れないという人や団体はいまだに少なくない。やりたいことのスタートラインに立つことはずいぶんと簡単になったかのように見えるのに、心理的なハードルは根強く残っている。それは、なぜだろうか?

クラウドファンディング・サイトで調達を宣言したところで、あとは自動的に資金が集まるなんてことはありえないと、簡単に思い至るからかもしれない。やりたいことの宣言文がSNSで拡散されるとは言っても、芸能人やプロスポーツ選手でない人のつぶやきが、即座に何百、何千リツイートもされるなんてことは期待できない。金融機関やパトロンにお願いしていたときと同じように、あなたの紡ぐメッセージを、多くの人の共感が得られるくらい説得的で、魅力的なものに仕立てる必要がある。それは時として、一つの機関や個人から資金を調達することよりもずっと大変な作業かもしれないのだ。しかし、予想される苦労に反して、この5年の間にクラウドファンディングで資金調達に挑戦する人の数は増え、クラウドファンディングの専用サイトも把握できないくらい登場し、調達金額の最高記録は何度も塗り替えられた。今では、途上国支援や医療・社会福祉、地域振興から芸術・スポーツ、ものづくり、起業、政治、学術研究に至るさまざまな分野で活用されている。それはきっと、クラウドファンディングのように、不特定多数の人の応援の声を受けて資金調達するからこそ獲得できるメリットがあるからだ。

本書の目的は、さまざまな分野でクラウドファンディングに挑戦し、成功させた12のプロジェクト・18名の企画者へのインタビューを通して、そのメリットの全貌を明らかにすることだ。「クラウドファンディングは単なるお金集めではない」とは、今回のインタビューのなかで、頻繁に登場した言葉だ。彼らは、「数ある資金調達方法のなかから、なぜ、クラウドファンディングを選んだのか?」から「苦労した点」「戸惑った点」、そして、「工夫した点」「目標達成の秘訣」「実際にやってみて感じるメリット・デメリット」まで余すところなく語ってくれている。自ら挑戦して成功した人だからこそ掴める感覚を、本書を読むことで、読者の皆さんにも追体験してもらえるだろう。そして、「もしもクラウドファンディングに挑戦したらどのような未来が待っているか」を正確にイメージできれば、やりたいことを実現するために、あなたもクラウドファンディングを使うべきかどうかをまっとうに判断できるはずだ。

クラウドファンディングの基礎知識

本章に入る前に、基礎知識として、日本国内の代表的なクラウドファンディング・サイトとその分類を紹介しておく。まず、国内のクラウドファンディング・サイトには、JapanGiving・READYFOR・CAMPFIRE・MotionGallery・Makuake・ShootingStar・GREEN FUNDING by T-SITE・FAAVOなどがある。これらのサイトの内、JapanGivingは「寄付型クラウドファンディング・サイト」に属し、それ以外のサイトは「購入型クラウドファンディング・サイト」に属すると言われる。

二つの違いは何だろうか? 寄付型の特徴は、「やりたいこと」への支援が、税制上の寄付になることだ。支援者は年度末に確定申告することで、所得控除や税額控除など寄付税制上の優遇を受けることができる。

購入型の特徴は、「やりたいこと」への支援が、“リターン”と呼ばれる支援へのお返しと支援金額を交換する商取引に該当することだ。リターンは、たとえば、制作された映画の先行チケットであったり、開発されたアプリやスマートウォッチであったりする。リターンは、支払い後数カ月程経って支援者のもとに届けられることがほとんどなので、購入型クラウドファンディング・サイトでの支援は、言わば、リターンとなる商品を予約注文していることに近い。

ほかにも、「投資型クラウドファンディング・サイト」という分類もあるが、本書では扱わない。本書で、「クラウドファンディング・サイト」と呼ぶときは寄付型か購入型のどちらかを指している。

本書の読み方

本書は、大きく3つのパートに分かれている。

1章では、佐藤大吾が、五つの質問に答える。佐藤は、日本で唯一、寄付型クラウドファンディング・サイトと購入型の両方を運営する人物だ。「両サイトの設立動機」から「どんな人が向いているか」「成功の秘訣」まで、佐藤だからこそ答えられる質問を揃えた。この章を読むことで、クラウドファンディングについてのおおよその肌感覚を掴んでもらえるはずだ。

2章では、山本純子と佐々木周作が、インタビューを通して、18名の企画者による12プロジェクトの舞台裏に迫る。「なぜ、クラウドファンディングに挑戦したのか?」から「成功の秘訣」「実際にやってみたからこそわかるメリット・デメリット」まで、成功者に憑依するような感覚で追体験してもらえるだろう。

3章では、山本と佐々木がそれぞれの立場からクラウドファンディングを分析する。日本のクラウドファンディングの創成期から多くの事例を観察してきた山本は、5年間の歩みという観点から2章の事例を総括している。行動経済学という分野で、なぜ人は寄付をするのか、を研究している佐々木は、なぜ人はクラウドファンディングで支援するのか、を行動経済学の考え方に照らし合わせながら読み解いている。これらは、クラウドファンディングについて自分なりの考えを整理するときに参考にしてもらえるだろう。

2016年3月 佐藤大吾・山本純子・佐々木周作

この本の出版企画がスタートしたのは、2013年の初め頃だったと思う。

当初は、クラウドファンディング市場の規模や国際比較のように、統計情報を多く採り入れた白書的なものを目指していた。しかし、進めていくなかで量的な現状把握をメインにすることは得策ではないと思い至った。新たなサイトが把握できない程たくさん登場し、そして消えていく。一時点の状況を何とか切り取っても、その情報はすぐに風化してしまう可能性が高かったからだ。

歳月を経ても変わらないものはなんだろうか? それは、人の考え方や感情だろう。何を考え、何に迷い、心惹かれたかは、時代が移り変わってもそう大きく変わらないはずだ。そのことを念頭に、成功者の意思決定の流れを丁寧にすくいとる方針に軌道修正していった。目指したのは、クラウドファンディングという言葉が聞かれなくなるような未来まで残り続けるクラウドファンディングの本だ。

結果、出版まで数年かかったが、約5年間の事例を俯瞰することができた。日々ダイナミックに変わる状況のなかで「変わらない人の気持ち」が少しは浮き彫りにできていたら嬉しい。

本書がようやく日の目を見るのは、原稿の確認、やり取りに何度も協力くださったインタビュイーの皆さん、また、趣旨を理解し情報提供に協力くださった各サイト事業者の皆さんのおかげだ。また、大竹文雄先生、大阪大学超域イノベーション博士課程プログラム、日本学術振興会、そして担当編集者・岩切江津子さんにはさまざまな場面でお力添えいただいた。この場を借りて、深く感謝の意を表したい。

2016年3月 佐藤大吾・山本純子・佐々木周作

評:長浜 洋二
(株式会社PubliCo 代表取締役CEO)

クラウドファンディングは単なる資金調達の場ではない。

“クラウドファンディングは単なる資金調達の場ではない。”

本書で取り上げられている12プロジェクトから得られる知見はこれに尽きるだろう。

クラウドファンディングで資金調達を行うことは、取りも直さずプロジェクトの価値を世に問うということ。プロジェクトの内容をインターネットをつうじてつまびらかにし、それにどれだけの社会的な価値や魅力があるのかを伝えなければならない。

価値創出型のプロジェクトであれば、具体的にどのような歓びや体験、発見、出会いなどが得られるのかを伝え、課題解決型のプロジェクトであれば、社会課題の可視化に始まり、その課題の深刻さや緊急度、解決策の妥当性などを伝え、潜在的な支援者から審判を受けるということだ。

クラウドファンディングは、企画者による価値提供と支援者が得られるベネフィットのマッチングの場だ。

そして、クラウドファンディングで資金調達を行うことは、プロジェクト達成に向けた決意表明をするということでもある。つまり、プロジェクト企画者内部の結束力を問うということだ。

プロジェクトの開始直後の1週間で目標金額の30%を達成するということは想像以上にハードルが高く、挫けそうになるはずだ。そのハードルを乗り越えるためには、企画者内外のステークホルダーを巻き込みながらプロジェクトの存在や価値を社会に伝播するしかなく、関係者一人ひとりが自分の役割や出来ることを自問自答しながら結束して乗り越えるしかない。

クラウドファンディングのクラウドは“群衆”であるが、規模は小さくとも、企画者側にも“群衆”が必要なのだ。

プロジェクトをつうじて本当に集めなければならないものは何か? そして、本当に集まったものは何か?

本書の12プロジェクトの舞台裏を覗くと、きっとこの答えが見つかるはずだ。

※下記イベントは終了しました

クラウドファンディングをどう使うか、活動の本質を突き詰めて考える