体験交流型ツーリズムの手法


大社 充 著

内容紹介

ニューツーリズムに地域が取り組むための本

2008年10月に観光庁が新設されるなど、観光・交流による地域再生への期待は高い。そこではエコ、グリーン、ブルー、長期滞在、産業観光等、地域資源を活かし、地域で取り組むニューツーリズムが主役だ。そのプログラムづくりの秘訣、地域に求められる人材織づくりの考え方を、20年に渡る豊富な経験からまとめた待望の書。

体 裁 四六・192頁・定価 本体1600円+税
ISBN 978-4-7615-1246-0
発行日 2008-06-30
装 丁 上野 かおる


目次著者紹介まえがきあとがき関連情報

はじめに

1 地域主導で生まれ変わろうとする国内の旅

1 観光立国宣言と地方都市(町村)
2 低迷する国内の旅
3 インターネットの普及により変わる旅行業界
4 マーケットの変化と旅行業界の行方
5 国内旅行の低迷を打破する「着地型」の旅

2 求められる本物の旅とは

1 「観光化」を指標として考える
2 「お客さま扱い」と「遠くから来た知人扱い」
3 「本物」体験と「観光化」のジレンマ
4 お祭りにみる「観光化」と「非観光化」
5 「本物」の凄さをどう伝えるのか
6 伝え方の工夫で感動を深める

まとめ 本物の旅づくりのポイント

3 地域に求められるマーケティング能力

1 「誰のために何をするのか?」を考える
2 マーケットをもう少し詳細に見てみよう
3 滞在型の旅に不可欠なまちの魅力
4 他者依存からの脱却と地域の自立
5 交流から滞在へ、滞在から移住へ
6 旅行業法の規制緩和と地域に期待されるもの
7 地域の旅行業界はどう対応すべきか

まとめ マーケットを意識した仕組みづくりを

4 地域の魅力をひきだす滞在型プログラム

1 滞在型プログラムの意義
2 プログラムづくりに不可欠な「意図」
3 ケーススタディ① 冬の月山プログラム
「雪国の暮らしと自然」
4 ケーススタディ② 夏の軽井沢プログラム
「軽井沢散歩 避暑地のリトリート」
5 ケーススタディ③ 高知プログラム
「四万十川の清流とニタリクジラの海」
6 ケーススタディ④ 琵琶湖プログラム
「秀吉が駆けた戦国の史蹟を訪ねて」
「信長が夢見た安土城と近江商人の里」
7 ケーススタディ⑤ 京都滞在型特別プログラム
「京都百景」
8 ケーススタディ⑥ 長崎・五島プログラム
「祈りの島・五島列島の教会群をめぐる」
9 プログラム企画のポイント

まとめ エデュテイメントの旅

5 地域資源の活かし方

1 地域特性とともに資源の持つ価値を考える
2 「自然」という資源の活用法
3 自然はまさに「一期一会」の資源
4 歴史的な人工建造物等の活用方法
5 人工建造物等が残っていない場合の歴史の活用方法
6 「人」にみる地域資源
7 地元の人を活かすのも、また人

まとめ 自分たちの地域の誇れるものは何かを徹底的に考えよ

6 地域主導の旅づくりに求められる人材

1 まず第一に必要な人材は、コーディネーター
2 コーディネーターに求められるスキルとその機能
3 地域主導の旅におけるサービスの質とホスピタリティ
4 ボランティア・サービスの質的管理の必要性
5 不可欠な安全管理能力

まとめ プロもボランティアも必要

7 地域がつくる旅の未来を考える

1 地域の優位性はどこにあるのか
2 地域と旅行業に求められる 着地オペレーター機能
3 地域主導の旅の流通システム
4 人材育成システムを、だれがどう作るか
5 マーケットの育成が業界の課題

まとめ 地域の意図をカタチに変える

おわりに

大社 充〔おおこそ みつる〕

1961年兵庫県生まれ。1985年京都大学卒。
1987年からエルダーホステル協会の創設に参画。まちおこしや地域づくりに役立つプログラムづくり、自然や歴史文化を活かした着地型集客コンテンツの開発に取り組んで20年目を迎える。現在、NPO法人グローバルキャンパス理事長。

〈現在の委員など〉

・国土交通省「ニューツーリズム創出・流通促進事業推進協議会」委員(2007~2008年)
・経済産業省「体験交流観光・集客サービスビジネス化研究会」委員(2007年)
・経済産業省「体験交流サービスビジネス化調査委員会」委員(2008年)

〈主な著書〉

・本間正人/大社充著『人生を一瞬で変える旅に出よう』山と渓谷社、2007年

産業の創出に頭を悩ませる地方都市やその周辺市町村では、今新たに観光・集客交流に取り組む地域が増えてきている。財政的に厳しさを増すなか、地域資源をうまく活用することにより多くの資金を要することなく交流人口を増やす試みに期待が寄せられているのである。

90年代後半から「体験メニューづくり」が全国各地で進められたのは記憶に新しい。歴史や文化、自然などの地域資源を活用した体験プログラムをつくり、それらを素材に域外の人をも呼び込んで交流人口を増やそうという試みであった。ところが、旅行会社と提携して修学旅行生の受け入れを可能としたわずかな地域以外は、メニューはつくったものの地元小中学生の体験学習に利用される程度で域外から人を招き入れるには至らないのが実際のところであった。また、目ぼしい資源がなく観光での集客が難しいとなると、農村の再生も視野に入れ、「田舎ぐらし」の希望者を募るなど移住促進に力を入れるのも全国的な傾向である。

一方、旅行業界に目を向けると、国内旅行が低迷するなか新しい形態の旅が注目を集めている。従来は、大規模マーケットを背景に大都市圏の旅行社が主催する発地主導のパッケージツアーが主流であった。ところがインターネットの普及など情報化が進み、旅行社の情報優位性が崩れ、旅人のニーズも大きく変化した。そして登場してきたのが、地域のことを熟知した地元の人が主導的な役割を担って旅づくりに取り組む「着地型」とよばれる旅である。
パッケージツアーが商品化されて以降、旅の事業者はマスマーケットに対してスケールメリットを追求しながら旅の商品を流通させてきた。一方、顧客を受け入れる地域の側では「観光化」が推し進められ、この数十年の間に、多くの観光客を受け入れることで地域自身が「消費」され、大切なものを失っていったと感じさせるところも少なくない。

本書は、この「観光化」を、人と人の関係性の視点から定義し、その定義にもとづいた地域づくりに役立つ旅の本質、およびその形態や流通について、事業者と地域の両面から考察しながら、具現化に向けた方策を提示しようと試みるものである。観光化されない地域づくり、お客さま扱いしない交流型サービスといった、マスツーリズムとは、ひと味異なる地域主導のオルタナティブな旅を誰がどのようにつくって流通させていくのか具体例を示しながら議論を進めていきたい。

なお本書は、過去20年にわたって全国各地で地域資源を活用した地域主導(着地型)の旅を企画運営してきたグローバルキャンパスの豊富な経験と蓄積されたノウハウにもとづいて書かれている。特にプログラムづくりにおいては幅広い事例を交えながら詳しく解説してあるので、エコツーリズムやグリーンツーリズム、長期滞在型観光や産業観光など「ニューツーリズム」と呼ばれるあらゆる分野の旅づくりに参考になると思われる。お役立ていただければ、幸いである。

かつてアウトドアが盛んなことで知られる北海道のまちを訪ねたときのことである。あるアウトドアスクールのスタッフ研修のためニュージーランドから来日していたトレーナー(講師)が深刻な表情で話しかけてきた。

「あなたは東京から来たのですか?」
「はい。そうですが…」

「スタッフの研修のため来日したのですが、彼らの技術があまりに低いのに驚きました」と語りだした。初対面のまったく関係のない私にいわれても困ると思ったのだが、彼は続けてこういった。

「このままでは死人が出てもおかしくない」。

そして「人の命を預かる仕事なので確かな知識と技術がなくてはならない。資格制度をつくるか最低限のガイドラインが必要で、それは民間ではなく政府の役割です」。そう語る彼の真剣な表情から、ことの深刻さが伝わってきた。
彼に頼まれ、後日、主要な野外活動団体の連絡先を知らせたが、その後このことは忘れていた。そして02年、北海道で「アウトドア資格制度」がスタートしたのを知ったとき日本の現状を憂いていた彼のことを懐かしく思い出した。この間、10年近い歳月が流れていた。

日本で海外渡航の自由化がはじまったのは64年。日本人の海外旅行の歴史はまだ50年にも満たない。新たなフェーズを迎えようとしている国内旅行もパッケージツアーが生まれてからさほど歳月はたっていない。しかし地域づくりは人の暮らしの長さだけ歴史があり、これからも引き続き営まれ続けるものである。

本書では、地域が主導的な役割を果たしながら集客交流サービスを展開するひとつの方向性について述べてきた。「観光化」の光と影の両面を見極めながら、地域の実情にあわせてマスツーリズムにかわる新たな旅の形態を生み出していくことが、地域の伝統や文化を守り活性化へ導くひとつの道筋である。

過日、90年代から人気の高い温泉地の写真を見た。メインストリートの写真からはどこのまちか判別がつかなかった。外部資本も流入して日に日に変貌を遂げ、このまちもまた画一化が進んでいた。難しいことは承知の上で、まちの個性を生かした魅力づくりを期待したい。

今後、新たな旅づくりにおいて、観光協会、まちづくりグループやNPO、宿泊施設、地域の旅行会社、そしてバス・タクシー会社、農事組合法人や漁協など、各地にさまざまな地域オペレーターが誕生するだろう。黎明期のいま、そうした地域オペレーター同士が情報交換を行い、自立に向けたさまざまな取り組みを支援するネットワークづくりが必要ではないかと思われる。ご関心をお寄せの方は、ぜひ下記の連絡協議会まで。

最後に、本書の執筆にあたって、なかなか筆が進まない私を我慢強く励ましてくださった学芸出版社の前田裕資さん、そして本書の中核となるプログラムづくりの情報を提供してくださった各地のコーディネーターのみなさんに御礼を申し上げたい。

大社 充
平成20年5月

全国地域オペレーター連絡協議会

○趣旨(目的)

地域資源を活用した旅づくりの主体となる全国の地域オペレーター(地域プラットフォーム)が、それぞれの現状や、商品開発や品質管理、販売チャンネルの開拓といった抱えている課題について情報交換を行ったり、地域におけるプロフェッショナル人材の育成や組織マネジメントについての研究や研修を通して地域振興とオルタナティブな旅の発展に寄与することを目的とする。

○参加対象者

旅行業や宿泊業、旅客運送業、アウトドアやエコツアーを営む事業者、観光協会や環境・自然保護NGO、まちづくり団体やNPO、都道府県や市町村の担当者など、本会の目的に沿った団体および個人

○活動内容(案)

①着地オペレーター連絡会議の開催 (年1回程度)
②人材育成やマネジメントの研究・研修会の開催
③機関誌やメルマガの発行
④首都圏マーケットの開拓における協働サポート
⑤その他、本会の目的を達成するための諸活動

○お問い合わせ先(事務局)

NPO法人グローバルキャンパス
「GCJ総研」内
〒150-0001渋谷区神宮前6-23-13-5D
電話:03-5469-0680/FAX:03-5469-682