土壁・左官の仕事と技術
内容紹介
環境にやさしく、健康な暮らしには欠かせない、呼吸する壁。木造の伝統工法を支え、耐震性にもすぐれた土壁が、再び注目を集めている。壁と職人の歴史から道具や下地・仕上の特徴、現代の住まいに活かすための実務工程上のコツ、京都ならではの数寄屋、土蔵、炉壇工事まで、名匠と第一線の壁塗職人があますところなくつづる。
体 裁 四六・192頁・定価 本体1800円+税
ISBN 978-4-7615-1172-2
発行日 2001/02/20
装 丁 上野 かおる
一章 壁塗の歴史
『左官』の由来
伝承の見えない壁
塗壁の移り変わり
壁塗のはじまり/壁下地の導入/大陸からの技術/住居土壁から城郭白壁をへて、数寄屋土壁へ/茶の湯の流行/ポルトランドセメントの登場/そして現代へ
塗壁から見た地域差
消えゆく各地の工法/土地に産する材料を使って
京都と各地の壁巡り
日野法界寺阿弥陀堂/『春日権現霊験記』土倉図/慈照寺東求堂/聚楽第、桃山城諸建物/三十三間堂太閤塀/妙喜庵待庵/玉林院蓑庵/仁和寺遼廓亭/仁和寺飛涛亭/角屋/二條陣屋/近畿地方の特色/東日本地方の特色/西日本地方の特色
二章 左官仕事と道具・材料
左官の仕事
屋根工事/壁工事/その他の工事/組積工事/漆喰彫刻・彫塑工事
道具・工具について
鏝の歴史/元首鏝から中首鏝へ/材質による分類/形状および使用工法による分類/左官関連道具
材料の種類
色土/砂/色砂/石灰/荒壁土(練り土)/中塗土/7657/糊(海苔)/顔料/ひげこ(チリトンボ)/布連/麻布/和紙
材料の調製(練り方)
荒壁土/貫伏せ土/チリ廻り土/角測り土/中塗土/上塗土
三章 塗壁工法の下地・仕上
京土壁工法
竹木舞下地/荒壁塗/裏返し塗/貫伏せ/チリ墨打ち(墨出し)/布連・ひげこ(チリトンボ)打ち/チリ廻り塗/底埋め塗/中塗/上塗/養生/手入
下地の種類と特徴
木摺り下地/金網下地/石膏ラスボード下地/平ボード下地/コンクリート下地/ブロック下地/合板下地
仕上の種類と特徴
荒壁仕上/中塗仕上/切返し仕上/水捏ね仕上/糊捏ね仕上/繊維聚楽仕上/引摺り仕上/叩き仕上(引起こし仕上)/聚楽銑屑入り仕上/漆喰押え仕上/漆喰パラリ仕上/大津磨仕上/大津並仕上
特殊な壁仕上
油壁仕上/樹脂入り壁仕上/模様壁仕上/防水剤塗布壁仕上/錆出し壁仕上/象嵌壁仕上/ひび割れ壁仕上/漆喰壁模様仕上
四章 実務工程
壁仕上別施工例
荒壁仕上/本聚楽水捏ね仕上(中塗・上塗同日仕上)/本聚楽水捏ね仕上(中塗乾燥後、糊土引仕上)/本聚楽糊捏ね仕上(糊土、銀杏草炊き糊使用)/本聚楽糊捏ね仕上(糊土、粉末糊使用)/油壁仕上(水捏ね油入り)/引摺り仕上/聚楽銑屑入り仕上/漆喰パラリ仕上/大津磨仕上/黄大津並仕上(灰土下塗/砂漆喰下塗)
特殊な施工例
模様壁仕上(生石灰クリーム使用)/防水剤塗布壁仕上/錆出し壁仕上/象嵌壁仕上
その他の施工例
炉壇塗/本三和土仕上/深草砂利三和土風仕上(洗い出し仕上)
工期短縮のために
職人の技量と道具の工夫
補修の仕方
亀裂/傷/剥離/変色/カビ
五章 数寄屋壁と土蔵
京都の数寄屋壁仕事
壁下地/荒壁塗・裏返し塗/貫伏せおよび板壁下塗/チリ廻り塗諸工法/窓廻り工法/中塗・上塗/塗面戸工法/塗回し工法/数寄屋壁の修理、復元工事
京都の土蔵仕事
壁土の準備/竹木舞下地/塗代定木/荒壁塗(一番手打ち)/荒壁塗(二番手打ち)/屋根土荒打ち/裏返し塗/台輪塗荒壁/大ムラ直し/竪角(立角)起し/瓦裏漆喰/中塗/上塗/扉前口廻り工法(窓庇廻り共)
六章 職人の矜持
京都左官仲ヶ間組
仲ヶ間誓約書/仲ヶ間掟書/仲ヶ間値段書/御得意先名前帳/明治の左官
技は一生の修業から
材料づくりの難しさ/徒弟修業再考/戦前の徒弟制度/徒弟の一日
京壁と茶の湯
茶室の壁/格式と場所
職人の気構え
職人衆への願い/若き職人育成のために/出入方制度/信頼が生む仕事/職人の責務
壁は聞いて読んで観て学べ
むすび
用語集
佐藤嘉一郎(さとう・かいちろう)
大正10(1921)年、江戸期より続く井筒屋関谷家の別家・佐藤左官の三代目として生まれる。昭和12(1937)年、京都市立第二工業学校建築装飾科卒業。家業に従事し、数寄屋・土蔵の左官仕事を主として現在に至る。佐藤左官工業所代表。
京都府左官工業協同組合副理事長・京都左官職業訓練校校長を歴任、現在は、京町家の再生を手掛ける京町家作事組理事・京町家再生研究会会員。また、作庭家で茶人でもあった故重森三玲氏の指導を受け、京都林泉協会会長をつとめる。その他、京都伝統建築研究会会員等。著書に『日本の壁―鏝は生きている』(共著、INAXブックレット)、『全国庭園ガイドブック』(共著、誠文堂新光社)。
佐藤ひろゆき(さとう・ひろゆき)
昭和26(1951)年生まれ。高校卒業後、家業である佐藤左官工業所に就職し、同時に立命館大学2部(夜間)理工学部に学ぶ。卒業後、東京の西京工業で修業し、土壁・漆喰壁を中心に研鑚を積む。帰京後は主に、茶席・数寄屋建築の土壁を施工する左官職として現在に至る。
日本左官業組合連合会青年部副部長・京都左官協同組合監事。一級技能士・職業訓練指導員・二級建築施工管理技士。
しかも戦後建築界の変貌によって、自分達老職人が見て見習工が修業したり技を盗むような基準となる建物や工事が激減し、工場製産の統一化された新建築が全国的に氾濫している。施主もそれで納得し、居住しているのが通常で、これでは遠からず伝統的な建築工法が消滅するという危機感も広がっている。
我々が長年にわたって先人から伝承してきた工法や技が時代の波に呑まれて消滅してよいのか。また第一線で活躍される多くの職人衆、中には金筋〈きんすじ〉と呼ばれる腕自慢のその技が、自分一代のものとして墓場まで、その先は自然消滅でよいのか。長年のコツや手順など、安易に若者に教える事に異を称〈とな〉える昔気質の職人衆も多いが、大工職の如く図面や書式では表わせない左官壁工法では無理な話で、このままでは将来の文化財や名建築の改修や復元にも大きな支障が生ずる事は必至である。
そこで、先人より叩かれながら学んだ工法や、失敗を重ねて会得した手順など、平素あまり発表する機会のない事柄を、各地の同職や次代を荷う若者、また現代の建築を推進する建築士、業界各職、さらに建築を求められる施主の方々まで、今では不可解な工法として敬遠されがちな塗壁、竹木舞下地から幾多の工程を経て強力で美しく、かつ資産として次代に伝え得る建物のためにも、真の日本の土壁が完成するために本著がその手引書とならん事を願うものである。
もとより非力の身で国内すべての工法を解明する事は不可能である。特に伝統工法では各地の気象、習俗による地域的な特色、意匠や工法が伝えられている。本書を叩き台として、後日各地の同職衆により、第二、第三、そしてゆくゆくは全国的な塗壁参考書が刊行されんことを。
2001年1月
佐藤 嘉一郎
佐藤 ひろゆき
なし