町家棟梁
大工の決まりごとを伝えたいんや

荒木正亘・(聞き手)矢ヶ崎善太郎 著

内容紹介

京都の町家は、市井の人びとの住まいとして脈々と受け継がれてきた。それらを改修してきたのは、神社仏閣・数寄屋などもこなすほど高い技術をもった大工棟梁であった。60年以上にわたって町家にかかわってきた大工棟梁が、何を見て、どう考え、建物と格闘してきたのか。町家の再生にかけた人生を次代の若手に向けて語る。

体 裁 四六・200頁・定価 本体1600円+税
ISBN 978-4-7615-1288-0
発行日 2011/08/01
装 丁 KOTO DESIGN Inc.


目次著者紹介はじめにおわりに補遺読者レビュー

はじめに
第1章 お出入りの大工が見守ってきた町家――町場大工として
第2章 大工の決まりごとを伝えたいんや――再生の技の極意
第3章 大工は隠し技をたくさんもっている――木を生かす
第4章 かぼちゃの花は咲いたか――私の修業時代
第5章 祇園祭と夜なべ――職人の四季と祭式
第6章 町家は固めたらあかん――町家と構造
第7章 目にものさしをもて――若者たちへ
付 章 京町家の歴史と意匠――特別講義/矢ヶ崎善太郎
おわりに

著者

荒木正亘(あらき・まさのぶ)

株式会社アラキ工務店取締役会長
昭和八年(一九三三)生まれ。京都建築専門学校卒業。昭和二十二年より京都市中京区の工務店で大工の修業を始める。昭和三十年に父の経営する工務店(現 アラキ工務店)に後継として入社。昭和四十八年法人化とともに代表取締役に就任。平成十五年取締役会長。一級建築施工管理技士、一級技能士、二級建築士、宅地建物取引主任。

主な役職

京町家作事組副理事長。古材文化の会 顧問。全京都建設協同組合 顧問。武庫川女子大学非常勤講師。

アラキ工務店

http://www.kyoto.zaq.ne.jp/araki/

聞き手

矢ヶ崎善太郎(やがさき・ぜんたろう)

京都工芸繊維大学大学院准教授

荒木棟梁からの聞き取り作業がはじまってまもなく、東日本の大震災が発生しました。

テレビの画面のあの悲惨な映像に、自然の前では人為がいかに無力であるかを思い知らされたのでした。

しかし、これまでの建築の歴史をみると、我々の先祖たちはいつの時代も災害を被(こうむ)るたびに、それを克服ための創造力が喚起され、そこに新しい技術や意匠がうまれてきました。

京都でも伝統的な町家が年々減り、地域コミュニティの様態もかわりつつあります。今こそ、都市住宅としての京町家を見直し、そこに発揮された大工の仕事に、さまざまな知恵と工夫を学ぶことが急務であるといえましょう。

インタビューの最初に、荒木棟梁から「施工マニュアル」と書かれた私家版の冊子を手渡されました(一八〇ページ参照)。ただ黙々と鑿を叩く。そんな寡黙な職人はだしそのままの荒木棟梁ではありますが、多忙な仕事のかたわら、こつこつと貯めてきた家づくりの極意を、スケッチと文字で書きとどめていたのでした。これこそ「京町家の技を若いもんに伝えたいんや」というお気持ちが強く込められた一冊でした。そんな荒木棟梁のことばに耳を傾けてみませんか。

「気恥ずかしい」とおっしゃりながらも、まずは生い立ちや自慢話をポツポツと語りはじめてくださいました。興が乗じてきたら大工の技と矜持を多弁に、そして声高に語ってもらいましょう。

矢ヶ崎善太郎

職人が歩んできた道を本にする話を、数年前、学芸出版社の京極様より話があったときはお断りをしていたのですが、今回、京都工芸繊維大学の矢ヶ崎善太郎先生と対談形式で本にまとめましょうと勧められて、このような本となり、大変恐縮しております。

職人である私の話は、見覚え、聞き覚えの域を出ず、話をまとめるのに苦労されるのははじめからわかっていました。昔から、職人は、聞かれたことは答えることができても、順序立てて話すのが大の苦手ですから、本の原稿ができていく過程で自分の言ったことを忘れる始末でした。ただ、何回も構成を重ねていくなかで、自分にも少し自信が出始めました。この本が、職人を目指す今の若い人たちに少しは役立つものがあり、こころよく読んでいただけるのかなと思います。

私のつたない話のなかから、昔と今の職人の違いや仕事の違い、昔気質の職人が何を考え、何を信条に仕事をしてきたか、少しでも伝わればと思っています。来年、傘寿を迎える集大成にすることができ、本当にうれしい限りです。

今回、矢ヶ崎先生に大変苦労をおかけし、また、構成に協力いただいた松井久恵様、学芸出版社の知念様に頭の下がる思いでいっぱいです。

今、このあとがきを書きながら、私を育てていただいた多くの方たちの顔が走馬灯のように目に浮かんでくる次第です。

荒木正亘

6~7年前になるだろうか。町家の住み手と作り手が集まる「第1回全国町家再生交流会」が京都で開催され、参加した時のことだが、休憩時間に若い職人衆を前に、「構造柱は背割り入れたらあかん。永くもたへん」と柔らかな面向きと口調で話された小柄な年配の方が印象深い。それが8月に出版された「町家棟梁」の著者である荒木棟梁との初めての出逢いと教示であった。

近年になって、町家や古民家あるいは伝統的町並みが脚光を浴びはじめ、伝統的な暮らしが見直されてきた。しかしながら、多くの町家や古民家が姿を消し、伝統的町並みも失われつつある。失われないまでも不適切な改修で本来の建物のもつ構造や機能が損なわれているのが現状である。今、作り手に何が求められているかが課題である。

同書は荒木棟梁が大工として60余年に渡る庶民の生活文化として、脈々と受け継がれてきた京町家の再生にかけた人生を語り口調で赤裸に綴られている。長年地道に培われた経験で大工の決まりごととしての多くの伝統の技が図解をまじえ紹介されている。そして、狭い敷地ゆえの建て方を考慮した京町家ならではの構造の仕組みが解き明かされている。さらには、Eディフェンスで町家の実大振動実験を行い、耐震性の立証までされた。つまり、仕口や継手一つにしても大工の技が全てにおいて理由があり、それが長年培ってきた大工の知恵と工夫による作法と言える。一方では、現在では薄れがちな大工職人と施主や地域のつながりについては日頃のメンテナンスや四季折々の慣習の手伝いであり、地域の祭事での役割ごとを通じて信頼関係が構築され、大工職人が社会的責任を負っていたことも忘れてはならない。最後には棟梁の願いとして棟梁塾という若手の育成の場をつくられ、大工の決まりごととしての技の継承も着実に進められている。全国で伝統と奮闘されている作り手やこれから大工職人をめざす若者にとって最も相応しい教科書と言える。

棟梁とは、2年前に全国の作り手で組織した「作事組全国協議会」で御一緒し、作り手の課題克服のため、町家再生の手ほどきをして頂いている。ついこの間も「町家は固めたらいかん」と教示して頂いた。全国作り手の町家棟梁と言っても過言ではない。

(NPO法人八女町並みデザイン研究会理事長/中島孝行)

担当編集者より

京都工芸繊維大学の矢ヶ崎先生とともに、聞き書きの作業を進めていたのですが、しばしば、こちらの質問を予想していたかのように「こういうもの書いたんやけど」と本書のもととなる資料をたくさん頂戴しました。それらは、すでにこの本の仕上がりを予想されていたかのようなものばかりでした。あふれんばかりの言葉の数々に、一冊には到底こめられない奥行きを感じました。本書は荒木棟梁の伝えたい事柄のうちのごく一部を、読みやすい形に仕上げたものです。町家の改修をしながら、多くのことを考えてこられた荒木さんの片鱗に触れていただければと思います。

(C)

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