歩いて読みとく地域経済

歩いて読みとく地域経済 地域の営みから考えるまち歩き入門
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内容紹介

歩きながら考える「わたしたちの経済圏」

農山漁村や港、町工場、百貨店や商店街、観光地に埋立地…普段のまちを地域経済の視点で歩くと、その成り立ちをめぐる人々の営みのドラマが見えてくる。企業活動のスケール化で風景が画一化するなか、地域内の経済循環を生み出すコモンズの可能性にも注目。まち歩きの達人が贈る、「わたしたちの経済圏」を考えるためのヒント。


山納 洋 著   
著者紹介

旅行や散歩でまちを歩いている時、「なぜここにこれがあるのか」「なぜここはこうなっているのか」がわかると嬉しくなりませんか? その答えはそのまちの「産業」や「経済」であることがとても多いです。 本書は(私のような)文化系アウトドアな人向けのまち歩き本です。
編集担当I
編集担当I
体裁A5判・188頁
定価本体2000円+税
発行日2025-03-15
装丁金子英夫
ISBN9784761529215
GCODE5704
販売状況 在庫◎
ジャンル 都市論・都市案内
目次著者紹介はじめにおわりにレクチャー動画関連イベント関連ニュース

目次

はじめに

第1章 生活史のリテラシー

1 まち観察企画「Walkin’About」
2 まち読みの視点
3 まち読みのために その1 出会った「謎」を大事にする
4 まち読みのために その2 昔からあるものに注目する
5 まち読みのために その3 生活者の視点でまちを観る
6 まち読みのために その4 誰かの意図に気づく
7 まち読みのために その5 ドラマを読み解く

第2章 農林水産業にまつわる経済

1 田畑輪換 水田ではコメ以外も作られている
2 二毛作地域の産物 裏作がもたらした豊かな経済
3 近郊農業のいま キーワードは「ブランド化」
4 果樹の産地 6次産業化が地域を支える
5 農産物直売所 生産地にマーケットを作り、消費者に来てもらう
6 林業地域 木材の周辺にはさまざまな産業がある
7 沿岸漁業の港 多様な魚種をあつかう市場ができる
8 遠洋漁業の港 さまざまな港から船が集まるマザーポート
コラム でこまわし 農地に恵まれなかった地の名物

第3章 製造業にまつわる経済

1 都市に集められた商工業 職人はまちで働き、暮らしていた
2 徳島の藍 米作が困難だからこそ栄えた産業
3 豊岡のカバン イノベーションで生き残った地域産業
4 木綿産地のその後 綿花栽培が廃れた後にさまざまな工業が興った
5 諏訪の精密機械 疎開工場がもたらした産業
6 石炭の町 エネルギー革命で産業が失われている
コラム かつての工場出勤風景

第4章 流通業にまつわる経済

1 百貨店 呉服店と鉄道会社がはじめた業態
2 公設市場 庶民が食材を安く買える場所だった
3 商店街 「横の百貨店」として広がっている
4 代理店 メーカーは小売店を系列化していた
5 スーパーマーケットのいま 都心部では過当競争に
6 コンビニエンスストア 大型店規制の抜け穴として始まった業界
7 SPAとPB いまの時代には最強の業態
コラム 外食チェーンの登場

第5章 サービス業と地域経済

1 塩の道 海と内陸部を結ぶ交易路があった
2 在郷町 山村と都市の間にあった商工業の拠点
3 産地問屋街 流通業者がいることで、商品が生まれる
4 観光地の土産 人が訪れる場所で、ものづくりが生まれ
5 食材供給源 生産者は都市の市場を必要としている
6 団体旅行から個人旅行へ 温泉地がたどった変遷
コラム 笑ふ現金

第6章 開発にまつわる経済

1 開発と水利 水の分配はムラの死活問題だった
2 工業用地となった新田開発地 造船所からクリエイターの拠点へ
3 住宅地の開発 住宅を建てて売る仕事が生まれた
4 工場跡地の開発 いつ、どこに土地が空いたかで、建つものは変わる
5 インナーベイと埋立地 役割を終えた港、新たに生まれた土地
6 公有地の再開発と民営化 河川・公園・学校跡の開発が進んでいる
コラム 工場に隣接していた弁当屋

第7章 コモンズ.わたしたちの経済圏

1 地域に寄付する人たち 篤志家が出身地を支えた
2 金融機関 相互扶助から始まったシクミ
3 財産区 共有地を引き継ぐための方法
4 沖縄の共同売店 地域の人たちによる、地域のためのお店
5 エンクレーブ 同郷の人たちによる互助経済圏
6 ローカルと移住 移住者が地域の可能性を拡げる
7 制度というコモンズ 地域を持続的に変えていく力
コラム 150人の島に必要な仕事と役割

おわりに

山納 洋(やまのう・ひろし)

大阪ガスネットワーク(株)エネルギー・文化研究所所属。1993年大阪ガス(株)入社。複合文化施設、ビジネスインキュベーションでの企画・プロデュース業務を歴任。トークサロン企画「Talkin’About」、まち観察企画「Walkin’About」、扇町ミュージアムキューブ内の「談話室マチソワ」などをプロデュースしてきた。主な著書に『common cafe』(西日本出版社)、『カフェという場のつくり方』『つながるカフェ』『歩いて読みとく地域デザイン』など、翻訳書に『分断された都市』(学芸出版社)がある。

この本を手に取っていただいたみなさま、ありがとうございます。
僕は2014年に「Walkin’About」というまちあるき企画を始めました。これは、参加者の方々に90分間まちを自由に歩いていただき、その後に集合してそれぞれが見聞きしたことをシェアするというものです。
Walkin’Aboutでは、これまでに近畿2府4県を中心に110ヶ所のまちを巡ってきました(2025年2月末現在)。2019年には、まちあるきを通して見えてきた「まちのここがこうなっているのにはこんな理由がある」「ここを見ればまちの歴史や現状がわかる」といった❝まちを読み解くための視点❞を『歩いて読みとく地域デザイン』という本にまとめています。
今回の『歩いて読みとく地域経済』は、その第2弾です。今回は文字通り❝地域の経済❞にフォーカスしています。
まちを歩いていると、僕らは地域の経済活動について、さまざまな発見をします。そこで出会うのは、昔から変わらず営まれている活動であることも、今では失われているけれど、かつてはこういう営みがあったと分かる痕跡であることもあります。そうした発見があると、僕らは地域の人に話を聞いたり、地域史を調べたり、推理を巡らせたりします。
特に過去の経済活動について考える時には、「鉄道や自動車の登場以前にはどうやってものを運んでいたのか」「スーパーやコンビニがなかった時代にはどこで買い物をしていたのか」というように、今では当たり前のものがなかった時代を想像する❝引き算力❞が必要です。そこから僕らは時代がどう移り変わってきたのかを知り、その変化を前にして人々がどんな❝葛藤❞を抱いたのかを想像することになりますが、それは時に、一本の良質な芝居を観たかのような体験をもたらしてくれます。その味わいについてお伝えしてみたいと思います。
同時に、現在の経済活動の多くは、地域に根差し、地域内で完結するものではなくなっている、という点にも気づきます。企業活動がスケール化し、全国や世界で生産や販売を行うようになると、地域の風景が画一化し、独自性が失われていきます。そしてまた、目の前にある経済活動が私たちの暮らしとどうつながっているのかを理解することが困難になります。❝地域による、地域のための経済❞からは少し離れますが、私たちの社会はどう成り立っているのかという観点から、このブラックボックスにも取り組んでみたいと思います。
一方で、自分たちの地域を支え、豊かにしていくための取り組みや、地域のアイデンティティを守り、地域内での経済循環を生み出そうとしている営みは、多くの地域に残されており、また新たな取り組みもあちこちで見られます。今回の本ではそのような❝コモンズ❞を志向する経済活動についても考えを深めていきます。
それでは、最後までどうぞお楽しみください。

みなさま、最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
この本で僕が意識したのは、現代の日本地理の副読本のような「まち歩き本」を作るということでした。中学や高校の地理の副読本には、写真や地図、図、グラフなどがふんだんに紹介されています。それらのビジュアルを入口にして、世界のさまざまな国や地域にどんな暮らしや経済活動があるのか、そして私たちの地球はどんな問題を抱えているのかを伝えてくれます。
この本の各トピックスは、1枚の写真から始まります。そこに写り込んでいるまちの風景から、僕らは何を読み取ることができるのか、そういうナビゲートをしてみたいと思ったのです。
かつての人々の暮らしは、生産活動とともにありました。人々の多くは生業としての農業・漁業・林業に従事しており、穀物や野菜、換金作物を栽培したり、収穫物を食品や嗜好品、生活用品に加工したり、それらを売り歩いたりしていました。生産や運搬は人力や畜力、水力、薪炭などのエネルギーで賄われ、それらを含めた生業の総体が地域経済を作り上げていました。
産業革命を経て生産活動が大規模化し、化石燃料や電力などのエネルギーが用いられ、鉄道・自動車・船舶などの移動・運搬手段が登場するようになると、地域における経済活動は人々の暮らしから徐々に乖離していきました。住宅地で暮らし、工場から離れたオフィスで働くようになると、自身が生産活動に関わっているという実感を得ることが難しくなっています。
消費という点から経済活動を見てみても、世の中は目まぐるしく変化しています。かつての店は都や城下町、門前町、街道筋などに存在しましたが、近代になると百貨店、商店街、スーパーマーケットなどが登場し、クルマ社会化や経営の大資本化にともないチェーン店、コンビニエンスストア、ロードサイドショップ、ショッピングモールといった業態が発展し、消費活動の中心を占めるようになりました。現在では店舗の大資本化・チェーン化が進み、全国どこに行っても同じような風景が展開するようになりました。
現在、まちから地域の経済活動を読み解くのは、なかなかに困難です。それだけでなく、若い世代の人たちが、地域の経済が自分たちの暮らしと地続きであると実感すること、そこに積極的に関わる意味を見出すことも難しくなってきています。そんな時代の中で、地域の未来にどんな可能性を見出すことができるのだろう? この問いを前に悩み、まちを歩き続け、たどり着いたキーワードが「コモンズ」でした。
資本の論理が透徹しているように見えている現代社会においても、共有財産を地域のために活かす仕組みが残っていたり、コミュニティが支えるお店があったり、移住者を含めて共同体を再編成し、持続させていく取り組みがあります。そこには、小さいながらも❝わたしたちの経済圏❞を生み出し、守っていこうという強い意志を感じます。
日本では現在、人口減少と少子高齢化が急速に進行しています。このことは必然的に、税収の減少と医療や福祉にかかる社会保障費の増加を地域にもたらします。行政が担ってきた❝公助❞は、今後おそらく縮小を余儀なくされるでしょう。では、私たちが暮らす地域社会は、誰がどのように守り支えていくのか。一人ひとりがこの問いを自分ごととして考えることが、今後さらに必要になるはずです。
地域経済という視点からまちを観る、というこの本の試みが、多くの人が暮らしと地域とのつながりを意識し直すこと、❝コモンズ=わたしたちの経済圏❞をより豊かなものにしていくことにつながれば幸いです。

2025年2月

山納 洋

開催が決まり次第、お知らせします。

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