東日本大震災 復興まちづくり最前線

大西 隆・城所哲夫・瀬田史彦 編著

内容紹介

東日本大震災から2年。種々の問題を抱えながら復興まちづくりがようやく動き出す。果たしてグランド・デザインは定まったのか。制度は十分に機能しているのか。また現場での実践のなかで、どのような成果、問題が出ているのか。最前線で奮闘する行動的研究者と被災都市の市長の寄稿により、全体像と展望を明らかにする。

体 裁 A5・384頁・定価 本体3800円+税
ISBN 978-4-7615-3202-4
発行日 2013/03/01
装 丁 前田 俊平


試し読み目次著者紹介はじめにおわりに

令和6年能登半島地震を受け、下記のページにて、内容の一部を著者のご協力のもと公開しております。

※内容の無断転載等は禁じます。

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はじめに

Ⅰ編 復興のグランド・デザイン

1章 復興を構想する/大西 隆

1-1 減災論に基づく復興
1-2 人口減少時代の復興
1-3 これまで災害体験と復興事業の成果
1-4 東日本大震災からの復興における減災対策の推進
1-5 減災の国土づくり

2章 復興ガバナンスの課題/増田寛也

2-1 3.11の衝撃
2-2 三陸地域の防災対策
2-3 震災対応の問題点
2-4 復興に向けての視点
2-5 解決すべき課題
2-6 明日への希望

3章 震災復興と地域産業の再生/関 満博

3-1 広大な地域の被災と復旧・復興の落差
3-2 水産関連産業の現状と課題
3-3 モノづくり系中小企業の復旧・復興
3-4 被災地の生活関連中小企業の課題
3-5 中小企業は地域の担い手

4章 福島復興の課題と展望/鈴木 浩

4-1 東日本大震災と原発災害
4-2 原発事故収束に向けた政府の対応
4-3 復興への足がかり―初動期の課題
4-4 放射線汚染からの克服に向けて
4-5 復興のためのガバナンス

5章 震災復興と循環型社会の形成/森口祐一

5-1 循環型社会の概念と取り組み
5-2 東日本大震災と災害廃棄物処理
5-3 放射性物質で汚染された廃棄物
5-4 災害廃棄物処理と循環型社会に向けた震災からの復興
5-5 循環型社会に向けた地域づくりへの期待

6章 復興と都市計画制度のあり方/安藤尚一

6-1 阪神・淡路大震災からの復興
6-2 東日本大震災の特徴と津波対策の課題
6-3 近年の世界の大災害
6-4 今後のまちづくりに向けて

7章 これからの防災まちづくり/加藤孝明

7-1 3.11前の防災まちづくりの潮流
7-2 東日本大震災の震災復興の特異性
7-3 災害復興の6つの法則
7-4 現時点での東日本大震災の教訓
7-5 防災まちづくりの文脈から見た3.11前後の不連続性
7-6 次の巨大災害に向けて―これからの防災まちづくり

8章 持続可能な地域と国土・広域の復興ビジョン/城所哲夫・瀬田史彦・片山健介

8-1 一極集中構造のリスク低減と国土の持続可能性
8-2 自立的で多層的なネットワークの構築
8-3 広域復興ビジョンの提案
8-4 持続可能な地域の形成に向けて

Ⅱ編 復興まちづくりの実践

9章 被災後1年半の復興計画の実態と課題/姥浦道生

9-1 復興土地利用計画の基本的内容
9-2 都市計画と安全性―計画要素の相互的総合的衡量の必要性
9-3 人口減少・少子高齢社会を前提とした計画の必要性
9-4 計画策定手続上の課題

10章 創造的・立体的復興に向けて─仮設まちづくりを通じた担い手ベースの復興の試み─/小泉秀樹

10-1 東日本大震災のコンテクスト
10-2 復興の特質
10-3 近代的基盤整備型復興の問題
10-4 復興プランニングのデザイン
10-5 コミュニティ再生に向けた仮設まちづくり・担い手支援の試み
10-6 復興プランニングからはじめる現代的プランニングへの展開

11章 記憶を活かした風景の再生─大槌町の実践より─/窪田亜矢

11-1 復興まちづくり計画における記憶の意義
11-2 大槌町の状況と震災被害
11-3 記憶を再生するプロセス
11-4 記憶を活かした復興まちづくり計画の展開に向けて

12章 復興のモビリティデザイン/羽藤英二

12-1 復興デザインは可能か?
12-2 現場で何を考えたか?―Choice Architectureの思想
12-3 社会基盤と科学者の責任
12-4 復興デザインへの道筋
12-5 地域間調整と地域-事業者間調整―モビリティデザインを例に
12-6 デザインの連鎖

13章 コミュニティ主導による復興まちづくりの可能性─釜石市鵜住居─/保井美樹

13-1 被災地のコミュニティマネジメント
13-2 鵜住居地区について
13-3 鵜住居地区の地域コミュニティ
13-4 震災後の地域コミュニティ
13-5 鵜住居地区のコミュニティ再生

14章 まちづくり会社による復興/西郷真理子

14-1 地域の文化に根ざしたまちづくり
14-2 実現のプロセス
14-3 まちづくり会社の意味
14-4 コンパクトシティの実現
14-5 3ポイント・アプローチ
14-6 石巻まちなか移転プロジェクト
14-7 プロジェクト推進ファンドの創設

15章 創造的復興まちづくりを加速させる仕組み─国の基幹事業から地域カスタマイズ型復興事業へ─/松本 昭

15-1 「防潮堤」と「まちなか復興」の関係
15-2 復興まちづくり協議会
15-3 復興交付金事業調整委員会の提案
15-4 地域カスタマイズ型復興事業
15-5 被災住民や被災事業者が自ら申請できる復興交付金制度へ

Ⅲ編 復興まちづくりの現場から

16章 岩沼市の復興まちづくり/井口経明

16-1 「健幸」先進都市、岩沼市
16-2 東日本大震災発生直後の様子
16-3 復旧・復興へのステップ、見えた課題
16-4 想像力と創造力を駆使して復興へ

17章 石巻市の復興計画と課題/亀山 紘

17-1 被災とその影響
17-2 東日本大震災の教訓
17-3 被災地が抱える課題
17-4 エコ・セーフティタウン構想
17-5 マリンバイオマスタウン構想

18章 わが気仙沼の復興まちづくり─海と生きる─/菅原 茂

18-1 わがまちの被災の実態
18-2 復興計画作成
18-3 復興事業の基本的課題
18-4 復興事業の個別課題
18-5 新しい日本を切り開く創造的復興

19章 陸前高田市における復興まちづくり─世界に誇れる美しいまちに─/戸羽 太

19-1 被災状況
19-2 復興現場から見た政府
19-3 復興最前線

20章 釜石市の復興まちづくり─撓まず屈せず─/野田武則

20-1 被災から仮設、がれき処理へ
20-2 アンケートから見る防災体制の反省・教訓
20-3 復興まちづくり基本計画
20-4 地区別復興土地利用計画と今後のまちづくり
20-5 釜石市環境未来都市構想
おわりに
索引
シリーズ刊行にあたって

編著者

大西 隆/東京大学教授(大学院工学系研究科都市工学専攻)
城所哲夫/東京大学大学院准教授
瀬田史彦/東京大学大学院准教授

執筆者

増田寬也/株式会社野村総合研究所顧問、東京大学公共政策大学院客員教授
関 満博/明星大学経済学部教授、一橋大学名誉教授
鈴木 浩/福島大学名誉教授、和洋女子大学客員教授、明治大学客員教授、日本女子大学客員教授
森口祐一/東京大学大学院教授
安藤尚一/独立行政法人建築研究所国際地震工学センター長、東京大学大学院工学系研究科教授(まちづくり大学院)、政策研究大学院大学連携教授(兼任)
加藤孝明/東京大学生産技術研究所都市基盤安全工学国際研究センター准教授
片山健介/東京大学大学院特任講師
姥浦道生/東北大学大学院准教授
小泉秀樹/東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻准教授
窪田亜矢/東京大学大学院准教授
羽藤英二/東京大学教授
保井美樹/法政大学准教授
西郷真理子/株式会社まちづくりカンパニーシープネットワーク代表、東大まちづくり大学院非常勤講師
松本 昭/株式会社市民未来まちづくりテラス代表取締役
井口経明/岩沼市長
亀山 紘/石巻市長
菅原 茂/気仙沼市長
戸羽 太/陸前高田市長
野田武則/釜石市長

東日本大震災から2周年になるのを前に、復興の現状と課題を示し、さらに震災の教訓を今後の国土や都市のあり方に活かそうという趣旨でつくられた本書が上梓されるのを、編者の一人として嬉しく思う。本書は、復興の最前線に立つ被災自治体の首長、復興推進に現場で関わってきた行動的研究者や専門家に書いていただいた。そして、復興が遅れているという焦燥感を共有しつつも、二度と同じような災害に遭わないための復興の計画と事業には時間が必要なことも実感し、そのうえで、いかにして復興を加速化してくのか、並行して進む人口減少社会にも対応した復興としていくのかを何よりも重視することを共通の基礎としている。もとより、震災のダメージは簡単に癒えるものではないが、時間をかけて癒していくことのできる基盤をできるだけ早く構築しなければ希望が失われる。本書が世に出る震災から2年後というのは、災害復興行政では災害復興の都市計画を策定する期限とされている。だからこそ、合意形成に基づく事業計画づくりが急がれるのである。

本書は、また、東大まちづくり大学院シリーズの4冊目に当たる。東大まちづくり大学院(社会人修士課程)でも、講義や演習を通じて震災復興を取り上げてきた。本書が加わったことで、より確実に震災復興の活動と研究が継承されていくことを期待したい。

さて、少し私的な話題に及ぶことを許していただき、東大での教員生活を終える直前に本書の作成に参加することができた筆者の東日本大震災との関わりについて触れたい。

東日本大震災が起きた時、筆者は所属する専攻・学科の責任者を務めており、構成員の安否確認、原発事故の注意喚起に当たった。これらに目途がつき、被災地に初めて入れたのは、4月2日(土)であった。花巻空港から釜石に向かい、本書にも寄稿いただいた野田武則市長にお目にかかった。以降、毎週のように被災各地を訪れることになった。一方で、新聞や雑誌に震災復興の提言を書くように依頼されたり、政府の東日本大震災復興構想会議委員に委嘱されたりし、震災復興に深く関わることになった。また、被災地では、釜石市と気仙沼市で、復興計画の策定を手伝うことになり、復興構想会議における提言策定に被災地の声を反映させる役割を果たそうと考えた。

こうした提言や復興計画はおおむね2011年9月までに取りまとめられ、一区切りと思っていたところ、10月に行われた日本学術会議の総会で思いがけずに会長に選出され、学術会議の立場で復興支援に関わることになった。学術会議では、震災以降の活発な活動を発展させ、震災1周年に合わせて、まちづくり、産業・雇用、放射能対策、さらに放射性物質を含む恐れのある災害廃棄物の処分に関する提言をまとめることができた。現在は、さらに原発事故に関連した再生可能エネルギーの供給促進、福島の復興、原子力利用の将来像、さらに災害体験の教訓化へとテーマを広げて活動している。一方で、昨年は、南海トラフでの巨大地震が起こす津波から広範囲に及ぶ沿岸地域をいかに守るのかをテーマとした提言を仲間とともにまとめ、防災担当大臣に届けた。

これらの活動を通じて、当然かもしれないが、被災地はもちろん、大学や学術会議、そして政府の会議で知り合いになった政治家や公務員を含む方々が、みな大震災に大きな衝撃を受け、復興や大災害来襲への対処に真剣に取り組んでいることを感じ、心強かった。自然災害と縁を切れない国土に生きる人間として、災害への備えを怠らないことを肝に銘じなければならない。また昨年末から、国連の国際防災戦略(UNISDR:International Strategy for Disaster Reduction)の顧問を務めることになった。東日本大震災をはじめとする日本の経験を世界の減災に活かすことが役割と考えている。

執筆者を代表して緒言を記すところが、個人的な記述が長くなり過ぎた。筆者は、この災害の教訓は減災という概念を定着させることだと考えている。災害につながる自然現象にあらかじめ枠をはめることはできないから、どんな規模の災害が来ても人命が失われないことを第一に考えることが重要である。しかし、被災地には、波打ち際ともいえる場所に学校や病院が建っていて被害を免れなかったり、危険に曝されたりしたケースが少なくなかった。筆者が関わってきたまちづくりは、一度つくればそう簡単には動かせないまちそのものを対象とする。だからこそ、計画段階で、いかに減災性、安全性を織り込むかに計画者の知恵とこだわりが問われていると思う。本書がそのために役立つことを著者一同願っている。

2013年1月

大西隆

本書は、東大まちづくり大学院連続セミナー「復興まちづくり」における議論をもとに、被災自治体の首長の方々をはじめとして、さまざまな立場で東日本大震災からの復興まちづくりの第一線で奮闘する方々に執筆者として加わっていただき、復興まちづくりの現在と、これからの展望、課題をさまざまな視点から掘り下げようとしたものである。現在の復興まちづくりは、各自治体の復興計画が出揃い、そのもとで個別地区の復興事業の合意形成が積み重ねられている段階である。このタイミングで本書を企画した理由は、現実の復興の絵姿が見え始めた段階で、『スピードある復興』という呪縛から一旦離れて、復興まちづくりのビジョンを、もう一度、問い直すことが求められているのではないかとの思いからであった。

本書は、このような問題意識のもとで、東日本大震災復興構想委員会委員として、また日本学術会議会長として、東日本大震災からの復興まちづくりに力を尽くし、本書の企画においても中心となった大西隆・東京大学教授の退職に時機を合わせて、学芸出版社『東大まちづくり大学院シリーズ』の一巻として刊行することとなったものである。

城所、瀬田は、企画・編集の進行・調整役をつとめさせていただいた。執筆者の方々には、このような経緯から、たいへん厳しい時間的制約の中でご執筆いただいたにも関わらず、いずれも本格的な論考をお寄せいただいた。この場を借りて感謝の意を表させていただきたい。各章の論点は多様であり、一言でまとめることはもちろんできないが、各章を読んで改めて感じることは、各執筆者の方々の、東日本大震災からの復興を通じて新しい社会像をつくりあげるとの強い決意である。翻って考えるに、この決意は、すべての被災者の方々、復興に携わるすべての方々の共通した思いではなかろうか。本書が、このような思いと行動に些かなりとも貢献できることを期待したい。

最後になったが、学芸出版社の前田裕資氏のご尽力がなければ、このような短期間で本書を刊行することは不可能であった。編者・著者を代表して感謝の意を表させていただく次第である。

2013年1月

城所哲夫・瀬田史彦

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