イギリスのガバナンス型まちづくり


西山康雄・西山八重子 著

内容紹介

都市計画を変革したまちづくり事業体を紹介

土地利用規制や物的環境整備に終始した英国の都市計画は、都市内部の衰退を招いた。その打開策として、地域の住民や専門家がまちづくり事業体(社会的企業)をつくり、企業・自治体と協力して収益事業と社会サービスの提供を行う「ガバナンス型まちづくり」が注目されている。六つの事例から、その思想と運営法を紹介する。

2008年度地域社会学会賞(共同研究部門)受賞

体 裁 A5・272頁・定価 本体3000円+税
ISBN 978-4-7615-3164-5
発行日 2008-04-10
装 丁 KOTO DESIGN Inc.


目次著者紹介あとがき

はじめに イギリス都市計画の転換とガバナンス型まちづくりの定着

第Ⅰ部 ガバメント型都市計画からガバナンス型まちづくりへ

第1章 ガバメント型都市計画100年の歴史

1 ガバメント型都市計画の誕生
2 ガバメント型都市計画の確立と特徴
3 サッチャリズムの都市計画
4 ブレア政権下の都市計画

第2章 ガバナンス型まちづくりの展開

1 ガバナンス型まちづくりとは何か
2 インナー・シティ問題とボランタリー・セクターの誕生
3 都市再生政策の転換とボランタリー・セクターの成長
4 社会的企業とガバナンス型まちづくり

第Ⅱ部 コミュニティを企業化する―社会的企業の事業化のプロセスと特徴

第3章 まちづくり事業体の歴史的展開と事例の位置づけ

1 まちづくり事業体とは何か
2 まちづくり事業体の歴史的展開:全国組織化と社会的企業への道筋
3 本書における事例研究の位置づけ

第4章 市民福祉コミュニティの自立的経営―ウェストウェイまちづくり事業体

1 まちづくり事業体による市民福祉コミュニティの経営
2 ボランタリー組織の形成過程
3 市民福祉サービスの提供と市民福祉コミュニティの形成
4 まちづくり事業体にみる財政的自立性の確保
5 イギリス都市計画史におけるウェストウェイまちづくり事業体

第5章 グローバル都市ロンドンとガバナンス型都市再生―コイン・ストリートまちづくり事業体

1 まちづくり事業体による都心居住の実現
2 土地の共有と土地経営による非営利のまちづくり事業体
3 コミュニティを企業化するまちづくり事業体
4 コミュニティ企業の自立と社会的展開
5 ガバナンス型まちづくりとしての意義

第6章 都市最貧困地区における環境共生型コミュニティの形成―ロンドン、イースト・エンドの環境トラスト

1 最貧困地区でのアセット・マネジメントの展開
2 タワー・ハムレッツ地区の社会構造と貧困の歴史的蓄積
3 都市環境の改善に取り組む事業体の設立(第Ⅰ型:委託事業モデル)
4 政治状況の変化と深刻な財政的危機
(第Ⅱ型:外付け営利事業部門による事業内費用移転モデル)
5 アセット・マネジメント方式の導入と社会的企業への展開
(第Ⅲ型:アセット・マネジメントによる事業内費用移転モデル)
6 政府のパートナーシップ事業にささえられた事業展開
(第Ⅳ型:アセット・ネットワーク・モデル)
7 ガバナンス型まちづくりとしての意義

第7章 コミュニティ・エンパワメントによる社会的排除の解決―バングラタウンのチックサンド・シティズンズ・フォラム

1 バングラ・コミュニティをエンパワーするまちづくり事業体
2 グローバリゼーションによる地域分断と社会的排除
3 教育支援活動の開始とアセット経営への注目:第1段階の助走期(1994~1998年)
4 建物建設とマイクロ・ビジネス・パークの運営:第2段階の経営展開期(1999年~)
5 専門的コンサルタントによる地域ネットワークの活用
6 コミュニティ・エンパワメントの手法
7 グローバリゼーションのなかでのガバナンス型まちづくり

第8章 社会的起業家による個人の自立とコミュニティの企業化―ブロムレイ・バイ・ボウ・センターとキャン

1 コミュニティと個人をエンパワーするブロムレイ・バイ・ボウ地区
2 複合的貧困地域とキリスト教
3 医療を中心にした社会的企業
4 社会的起業家の育成
5 ガバナンス型まちづくりとしての意義

第9章 居住コミュニティの自主管理―リバプールのエルドニアンまちづくり事業体

1 居住コミュニティの自主管理
2 転換するリバプールの都市再生
3 社会的企業としてのエルドニアンまちづくり事業体の全市的展開
4 エルドニアンまちづくり事業体が管理運営するエルドニアン地区の特徴
5 エルドニアンまちづくり事業体の活動の歴史
6 エルドニアンまちづくり事業体のガバナンス型まちづくりとしての特徴

第Ⅲ部 まちづくり事業体の自立の要件
―「アセット・マネジメントによる財政的自立」と「組織間の連携」

第10章 アセット・マネジメントによるまちづくり事業体の財政的自立

1 アセット・マネジメントによるコミュニティの企業化
2 六つの事例にみるアセット・マネジメント
3 地方自治体からのアセット取得とその可能性
4 アセット・マネジメントの特徴と空間構造的特徴

第11章 まちづくり事業体の組織間の連携

1 まちづくり事業体の自立と個人の自立
2 組織間の連携のあり方
3 多次元ネットワークの形成:社会的自立
4 組織間連携とガバナンス型まちづくり

おわりに

索引

西山康雄〔にしやま やすお〕

東京大学大学院都市工学専攻修士課程修了、工学博士。
現在、東京電機大学建築学科教授。
著書:『アンウィンの住宅地計画を読む』(彰国社、1992年)、『危機管理の都市計画』(彰国社、2000年)、『日本型都市計画とはなにか』(学芸出版社、2002年)

西山八重子〔にしやま やえこ〕

名古屋大学大学院文学研究科社会学専攻博士課程満期退学、博士(社会学)。
現在、金城学院大学現代文化学部教授。
著書:『イギリス田園都市の社会学』(ミネルヴァ書房、2002年)

西山志保〔にしやま しほ〕

慶応義塾大学大学院文学研究科社会学専攻博士課程単位取得退学、博士(社会学)。現在、山梨大学大学院医学工学総合研究部准教授。
著書:『ボランティア活動の論理』(東信堂、2005年)

我々がまちづくり事業体に興味をもち現地調査を十数年続けてきたのは、イギリス田園都市の地域自主管理の思想に感銘を受け、その思想がまちづくり事業体に受け継がれ、現代社会で有効に活かされていることを確信したからである。

レッチワース田園都市調査で訪英するたびに立ち寄るロンドンで、地域住民による都市再生事業が細々と始められていることを聞きつけ、訪れてみるようになった。ウェストウェイまちづくり事業体の現場を初めて訪れたのは1978年、コイン・ストリートまちづくり事業体の最初の調査は1989年であった。これらのまちづくり事業体を訪問した時は、創業期の苦しい時期であり、リーダー達は若く、彼らは社会的使命と事業の可能性を熱く語ってくれた。さらに1993年には、ロンドンの下町、タワー・ハムレッツ区のカレー・レストラン街として名高いブリック・レーンの、おそらくビール廃工場であろうか、その黒いドアに「環境トラスト」(The Environment Trust)という小さな名札を偶然見つけた。スラム地区に「環境」を標榜する事務所がなぜあるのかと興味を抱き、アポイントもなくドアをノックしたところ、快く応じてくれたのがハーツ氏であった。

以来、ウェストウェイまちづくり事業体のマットランド氏、コイン・ストリートまちづくり事業体のタケット氏、ニコルソン氏、環境トラストのハーツ氏と代表のオールドントン氏とは長い付き合いとなった。まちづくり事業体を演出してきた彼らは、日本で言えば全共闘世代に近い。「平等、公平を求め、具体的にまちづくり事業を展開し、社会改革を実践してきた」のである。事業体立ち上げの初期から見守ってきた我々に、彼らはどんなに忙しくてもヒアリングに応じてくれ、イギリス人の義理堅さに感激したものである。

こうしてまちづくり事業体の調査を進めていくうち、彼らのまちづくりの思想が田園都市の地域自主管理の思想と変わらないことに気づいた。つまり、歴史的につながった市民のまちづくりの思想であった。これをなんとか理論的に実証できないものかと悪戦苦闘した結果生まれたのが本書である。田園都市については本書では直接記述していないが、筆者らのこれまでの論文・著作で折にふれてテーマにしてきた。

むしろ本書は、まちづくり事業体のもつ現代的な新しさを明らかにしたいという思いであった。「アセット・マネジメントを行う社会的企業」や「ガバナンス型まちづくり」といった概念を使うことで、これまでのイギリス都市計画を特徴づけてきたガバメント型都市計画とは異なる、都市再生の市民事業をなんとか説明できるようになったといえよう。しかし、我々が事例を調査しどのように説明、解釈すべきか考えているうちに、彼らの事業はさらに一歩前進し、理論化や説明が後を追っかけるという関係であった。

そしてその間、疑問に思ったのが、「なぜイギリスの都市研究者は、まちづくり事業体の実績に関心をもたないのか」という点である。都市計画の関係者に問いただすとさまざまな答えが返ってきた。分野を限定し専門性を守る研究者と、幅広い生活要求にもとづきまちづくり事業を展開する実務家の体質のちがいのためであろう、自主的テーマには研究費がつかない、そもそも大学院での都市計画教育は王立都市計画家協会の資格取得を目的とし、反ガバメント型都市計画の議論は想定外などである。そして今にいたるも、代表的な都市計画教科書にまちづくり事業体の記述はなく、また、まちづくり事業体全体を考察した著作もない。

そうしたなかで調査研究を進めるには、現場に足しげく通い、事実の把握に努めることしかなかった。当事者も日常業務に追われ、事業の経緯、成果をまとめた報告書は数少ない。限られたインタヴューの時間を粘って延ばしてもらうなど、本当に「よくぞ付きあってくれたものだ」と心から感謝したい。

2004年夏にはまちづくり事業体協会のワイラー事務局長から、類似組織との連携の可能性、つまり「コミュニティ同盟」に関する報告書が出ると聞いた。全国的な関連団体の組織化が進み、まちづくり関連のボランタリー・セクターは、より強力な影響力ある地域ネットワークに育ったと判断した(第11章)。ガバナンス型まちづくりの定着である。

この過程で2003年から2005年にかけ、分析したまちづくり事業体の事務局長、5名を日本に招き、各地で講演会を開き、さらにソウル市立開発研究院、ソウル大学環境大学院でも議論の輪を広げた。

高齢化が進み、社会的格差や地域格差の広がる日本で、社会問題を地域再生とかかわらせて解決する社会的仕組み、ボランタリー・セクターの成長やそれを支援する政府、市場の役割など議論すべき課題は多い。我々に残された課題の多さを受け止め、それらの解決の糸口がかすかにみえ始めたことに希望を抱きつつ、本書を終えることにしたい。

多忙ななかで快くインタヴューに応じ、現地調査につきあってくれたまちづくり事業体関係者の方々、プロジェクト地区の住民、レッチワース田園都市のスタッフに心より感謝の意を捧げたい。

学芸出版社の前田裕資氏からは多くの助言と励ましを受け、積年の思いを出版にまでこぎつけてくださり、心から感謝いたします。編集に際し、岩崎健一郎氏に大変お世話になりました。

また、本書は次のような研究助成の上に始めて可能であった。厚くお礼申しあげます。
日本学術振興会科学研究費(基盤研究C、特別研究員奨励費)、グレイトブリテン・ササカワ財団、第一住宅建設協会、大林都市研究振興財団、ブリティッシュ・カウンシル、生協総合研究所。
また東京電機大学からは学術研究出版助成を受けた。

各章の執筆者は次のとおりである。
西山康雄 :はじめに、第1章、第4章、第9章、第10章
西山八重子:第2章、第5章、第8章、第11章、おわりに
西山志保 :第2章、第3章、第6章、第7章

建築・都市・まちづくりの今がわかる
ウェブメディア「まち座」
建築・都市・まちづくりの今がわかるウェブメディア「まち座」
学芸出版社では正社員を募集しています
学芸出版社 正社員募集のお知らせ

関連記事

メディア掲載情報

公開され次第、お伝えします。

その他のお知らせ

公開され次第、お伝えします。

関連イベント

開催が決まり次第、お知らせします。