まちをひらく技術

オープンシティ研究会・岡村 祐・野原 卓・田中暁子著

内容紹介

建築、庭、工場、スタジオ、文化遺産等、地域資源を一斉公開する試みが広がっている。オーナー・ボランティア・参加者・行政など多様な主体が関わることで、情報発信や集客など観光効果をはじめ、仲間作りやコミュニティ形成につながる地域づくりの手法だ。国内外22事例をもとに取組の背景、ハウツー、創意工夫の内情に迫る

体 裁 A5・224頁・定価 本体2500円+税
ISBN 978-4-7615-2656-6
発行日 2017/09/20
装 丁 藤田康平


目次著者紹介はじめにあとがき訂正情報

1部 理論編:なぜ、まちをひらくのか

1章 まちをひらく取組み
2章 オープンシティ・プログラムとは何か?
3章 まちづくりの技術としてのオープンシティ・プログラム
4章 オープンシティ・プログラムの構想・企画・運営

2部 事例編:各地のオープンシティ・プログラム

1章 「建築」をひらく

1.オープンハウス・ロンドン(ロンドン)
2.オープンハウス・ワールドワイド
3.生きた建築ミュージアムフェスティバル大阪(大阪市)

2章 「暮らし」をひらく

4.オープンナガヤ大阪(大阪市)
5.金澤町家巡遊(石川県金沢市)
6.五月が丘まるごと展示会(広島市)
7.オープン台地 in OSAKA
8.城下町村上 町屋の人形さま巡り/屏風まつり(新潟県村上市)

3章 「庭」をひらく

9.おぶせオープンガーデン(長野県小布施町)
10.カシニワ(千葉県柏市)
11.オープンフォレストin 松戸(千葉県松戸市)

4章 「なりわい」をひらく

12.おおたオープンファクトリー(東京都大田区)
13.モノマチ(東京都台東区)
14.燕三条 工場の祭典(新潟県燕市・三条市)
15.ワールドポートデイズ(ロッテルダム)
16.花の超祭典(愛知県田原市)

5章 「クリエイティビティ」をひらく

17.関内外OPEN! (横浜市)
18.芸工展と谷根千(東京都台東区・文京区)
19.金沢クリエイティブツーリズム(石川県金沢市)

6章 「レガシー」をひらく

20.欧州遺産の日(パリ・ブリュッセル)
21.足利の文化財一斉公開(栃木県足利市)
22.ぎょうだ蔵めぐりまちあるき(埼玉県行田市)

オープンシティ研究会

岡村祐、野原卓、田中暁子により2011年秋から活動開始。まちを「ひらく」ための技術として、建築、庭、工場等の地域資源を一斉公開するプログラム「オープンシティ・プログラム」に着目し、開催地域・主催者・資源所有者のモチベーションや開催意義、あるいは歴史的展開等について理論研究を進めてきた。2012年「オープンハウス・ロンドン」の主宰ヴィクトリア・ソーントン女史へのインタビュー調査を皮切りに、ロンドン、パリ、ブリュッセル、ニューヨーク、ロッテルダムなどの海外事例調査や、国内各地の事例調査を実施してきた。

岡村祐(おかむら ゆう)

〈理論編:2章、3章3・4節、4章 事例編:事例1、2、3、4、11、15、19〉

首都大学東京大学院都市環境科学研究科観光科学域准教授。1978年生まれ。東京大学工学部都市工学科卒業、同大学院修士課程修了。2008年同大学院博士課程修了。首都大学東京特任助教・助教を経て、2016年4月より現職。この間、2013年にウェストミンスター大学(英国ロンドン)に客員研究員として在籍。(一社)おおたクリエイティブタウンセンター副センター長、NPO法人アーバンデザインセンター・茅ヶ崎副センター長。共著に『観光まちづくり』『文化ツーリズム学』『都市経営時代のアーバンデザイン』など。

野原卓(のはら たく)

〈理論編:1章、3章1節 事例編:事例6、10、12、13、14、16、17、18〉

横浜国立大学大学院都市イノベーション研究院准教授。1975年生まれ。2000年東京大学大学院工学系研究科(都市工学専攻)修了、設計事務所勤務の後、東京大学助手(助教)等を経て、2010年より横浜国立大学大学院工学研究院准教授、2011年より現職。2017年より(一社)おおたクリエイティブタウンセンター、センター長。岩手県洋野町、福島県喜多方市、東京都大田区、神奈川県横浜市等の幅広い対象をフィールドに、地域資源を生かしたまちづくりや都市デザインマネジメントについての実践活動・研究を展開している。共著に『図説 都市空間の構想力』『都市経営時代のアーバンデザイン』『アーバンデザインセンター』など。

田中暁子(たなか あきこ)

〈理論編:3章2節 事例編:事例5、7、8、9、20、21、22〉

公益財団法人 後藤・安田記念東京都市研究所主任研究員。1978年生まれ。2001年東京大学工学部都市工学科卒業。2008年同大学院博士課程修了。2003年~2005年ブリュッセル自由大学に留学(ベルギー国フランス語圏共同体奨学金留学生)。2017年4月より現職。共著に『都市美』『雑誌『都市問題』にみる都市問題』など。

近年、都市の公共性や社会性に対する関心が高まり、様々な人を受け止める寛容さ、活発な交易や交流を可能とする自由さ、時代のニーズに合わせて変容していく柔軟さ等、本来都市に備わっていた場所や機能を取り戻そうと、改めて都市を「ひらく」ための取組みが各地で試行されている。道路や広場等の公共空間を有効活用するための社会実験、私的空間を宿泊施設やオフィスとしてシェア(共有)する取組み、建築や土木インフラ等の建設プロセスやその価値に関する情報発信等、物的空間、人々の意識・ふるまい、情報等「ひらく」対象は多様である。

本書では、この都市・まちを「ひらく」取組みの中で実験的、仮設的、広告宣伝的な役割を果たす「オープンシティ・プログラム」に着目する。これは、建築、暮らし、なりわい等の地域を特徴づける資源を対象に地域ぐるみで時間・期間を限り、一斉公開するというものである。対象が建築であれば「オープンハウス」、庭であれば「オープンガーデン」、工場であれば「オープンファクトリー」として実施される。「オープンハウス」は、建築の持つ創造性や文化性を重視した取組みとして、欧州を中心に20数年の歴史がある。一方、我が国では町家や長屋などの地域資産の保全活用、いわゆる「まちづくり」の文脈で建築の一般公開が試みられてきたが、近年欧州型の「オープンハウス」に着想を得た取組みも行われるようになっている。

個人所有の庭の一般公開は、イギリスにおける全国的取組みであるナショナルガーデンスキーム(1927年開始)が有名だが、我が国では90年代後半からのガーデニングブームに乗って2000年前後から全国各地で地域ぐるみで取組む「オープンガーデン」が盛り上がってきた。

「オープンファクトリー」は産業振興、地域ブランディング、住工混在地域におけるまちづくりなど背景は地域ごとに様々であるが、従来の行政施策では解決が難しい問題に直面する地域(特に、首都圏、地方都市に限らず中小の工場が集積する地域)において、2010年以降、同時多発的に実施されている。

また、ここで選ばれる資源の特徴としては、日常的には限られた人々のみが利用できるプライベート性の高い資源を扱っていることである。これまで個別にアクセスすることが難しかった、あるいは一般的に認知されることが少なかったものをまちや地域全体で考えることにより価値づけし、人々が訪れる対象に昇華させるのである。人々は、訪れた資源において日常の域を飛び越えた貴重な経験をし、所有者や関係者と対話をする。そして、その経験や対話が、運営を支えるボランティアとして、日常的な保全活動の担い手、主体的な関与へと人々を駆り立てるのである。一方、資源所有者も、来訪者との交流により、よりいっそう資源に対する愛着や誇りを醸成するだけではなく、イベントを契機に他の所有者とつながったり、あらたに地域を盛り上げる活動に参画することが期待される。

オープンシティ・プログラムは、地域資源を一斉公開するという単純明快なフォーマットではあるが、都市・まちを「ひらく」ための様々な局面での活用が可能である。その発信力を生かして資源の価値や魅力を広く普及させたい、その集客力を生かして地域や地域資源のファンや一緒に活動する仲間を増やしたい、その演出力を生かして資源活用の実験をしてみたい、そんな地域の様々なモチベーションに応えることができる。そのため、本書はまず、オープンシティ・プログラムに取組んでみたいと思っている地域の企画者、運営者に対して、プログラム実施のハウツーを伝えることを重視している。各地でどのように企画を立て、運営しているのか、そのプロセスや創意工夫に共鳴して頂けるものと確信している。次に、現場での実践的アクションを含めたマネジメントが大事にされる昨今、オープンシティ・プログラムは、まちを動かしてゆく一つの選択肢となると考える。各地でビジョンをもって地域づくり、まちづくりの実践に心を砕いている方々に対しても、オープンシティ・プログラムの基本的な組み立てやその背景にある思想・哲学は、示唆に富むものとなるであろう。

本書は、Ⅰ部の理論編とⅡ部の事例編に分かれている。1章で現代社会において、なぜ都市・まちを「ひらく」ことが求められているのか、歴史的な文脈も含めて論述する。2章では、オープンシティ・プログラムの基本的な情報を整理し、我が国における広がりを確認する。3章では、オープンシティ・プログラムの理念や企画運営の方法が、いかに都市・まちを「ひらく」取組みへとつながっていくのか、そのエッセンスを取り出していく。そして、4章では、各地のオープンシティ・プログラムの取組みからみえてくる企画運営のハウツーをまとめる。

また、Ⅱ部の事例編では、私たちがこの5年の間に調査を重ねた国内外の22事例を、六つのカテゴリーに分けイベントの内容や企画運営の内情に迫る。このカテゴリーは、まず都市やまちの主要素としての「建築」を取り上げ、さらに、その建築のフィジカルな部分とそこで営まれる「暮らし」や「なりわい」に注目する。また、「暮らし」のなかで「建築」と都市・まちを媒介する存在である「庭」に、そして「なりわい」をより豊かにしていく要素として「クリエイティビティ(創造性)」に焦点を当てる。最後に、これらが年を重ね次世代へ継承すべきものと価値が共有された「レガシー」としてまとめることとした。

なお、事例編では、2016年11月に〈オープンハウス・ロンドン〉の考案者であるヴィクトリア・ソーントン氏を英国より招いて主催した「オープンシティ・シンポジウム」の講演会の様子を掲載している。彼女の20数年間の奮闘と、現在の魅力ある都市ロンドンの姿に裏打ちされた真実味のある言葉に耳を傾けて頂ければ幸いである。

2017年8月 著者一同

2012年2月、町工場が集積する東京都大田区で工場を一斉公開する〈おおたオープンファクトリー〉の第1回が開催されました。筆者の野原と岡村はこれを提唱し、地元観光協会や工業会とともにこれまで企画運営に携わってきました。目指したのは、多くの人が町工場やモノづくりのまちに近づく機会を提供することであり、それにより地域価値としてのモノづくりを基盤としたまちづくりを進めるための情報を集め、関わる人の裾野を広げることでありました。7年間の取組みで、拠点施設の整備、区内のクリエイティブ人材との新たなネットワークの構築、あるいはこのような取組みを主体的に進める組織の設立という果実を得て、プロジェクトは大きく展開しています。また、この大田での試行錯誤と時を同じくして、日本各地で同時多発的にオープンファクトリーが地域振興、産業振興、地域ブランディング等を目的に開催され、これがモノづくりのまちを動かす大きな力になっていることを実感してきました。

一方、欧州での建築一斉公開プログラムも、本書執筆の大きな動機の一つです。田中は学生時代留学先のベルギー・ブリュッセルで〈欧州遺産の日〉、野原は出張先の英国・ロンドンで〈オープンハウス・ロンドン〉に出くわしました。多くの市民や来訪者が、建築や都市に引き寄せられ、そのデザインや歴史・文化を学び、まちの将来を語る機会として人気を博し、毎年のイベントとして定着していることに深く感銘を受けたのです。もちろん、これらのイベントの理念や方法、その展開についてはつゆ知らず、ただ、まちを魅力的にみせる方法、あるいは多くの人をまちに引き付ける方法として、関心を持ったのです。

その後、2012年3月には、英国ロンドンにて、〈オープンハウス・ロンドン〉の発案者ヴィクトリア・ソーントン氏との面会が実現した後、「オープンシティ研究会」として本格的にスタートさせ、世界各地、全国津々浦々イベントプログラムを歩き見て、企画者の話に耳を傾けてきました。

この5年間で私たちは、時間・期間限定で地域資源を一斉公開するという明快なフォーマットをもつオープンシティ・プログラムが、人々とまちとの関係を再構築することに対して、どれだけの可能性があるのか思考をめぐらしてきました。資源発掘の段階から実際の資源の保全や活用に至る段階まで、まちづくりの様々な局面で実施されていることが分かってきたのです。オープンシティ・プログラムには、資源所有者をはじめ地域の多様な主体を結びつける「団結力」、資源が分布する地域の魅力や価値を分かりやすく伝える「編集力」、イベントという機会を利用し実験的に取組む「挑戦力」、地域内外から多くの人々を資源やまちへ呼び込む「誘引力」が備わっており、多くの地域が期待していることも窺えました。

そして、2016年11月には、ソーントン氏と、〈オープンハウス・ロンドン〉の立ち上げからともに道を切り開いてきた旦那様を日本にお招きしてシンポジウムを開催し、25年にわたるロンドンでの取り組みと世界30数都市の実践から構築された説得力あるメッセージから、オープンシティ・プログラムが新たなまちづくりの方法になり得ることを再確認しました。

最後に、本書の出版にあたり、これまでお世話になった方々にお礼を申し上げたいと思います。筆者ら(野原、田中、岡村)の出身研究室である東京大学都市デザイン研究室の皆様と過ごしてきた時間が本書の土台となっていることは言うまでもありません。そして、なによりも、今日までご指導いただいた恩師、西村幸夫先生への恩返しになればと思います。

さらに、本書の着想の原点とも言える〈おおたオープンファクトリー〉をともに築き上げてきた栗原洋三氏(大田観光協会前事務局長)や川原晋先生(首都大学東京)をはじめ、大田プロジェクトの関係者の皆様、そして全国のオープンシティ・プログラムの企画者の皆様の思いと行動が、私たちを本書の執筆に駆り立てました。

そして、編集者である井口夏実さんには、早くから本テーマに興味を持って頂き、ご支援いただきました。改めて感謝申し上げます。

なお、本書を執筆するにあたり、科学研究費補助金「地域資源マネジメント手法としての「資源一斉公開プログラム」の有用性及び可能性」(15K01953)(H27-29)、同「市民参画型シティプロモーションとしての建築公開行事「オープンハウス」に関する研究」(24611012)(H24-26)の助成を受けて調査研究を進めることができました。ここに感謝の意を表します。

2017年8月 筆者一同

お詫びと訂正

p.218、221において「ものつくり大学」を「ものづくり大学」と 誤って記しておりました。読者の皆様、ものつくり大学関係者の皆様には お詫びさせていただくとともに、訂正させていただきます。 何卒、よろしくお願い申し上げます。

2017.10.23 学芸出版社