フランスの地方都市にはなぜシャッター通りがないのか
内容紹介
日本と同じくクルマ社会で、郊外には巨大なショッピングモールがあるのに、なぜフランスの地方都市の中心市街地は活気に溢れ、魅力的なのか。「駐車場と化した広場」から「歩いて楽しいまちなか」への変化の背景にある、歩行者優先の交通政策、中心市街地と郊外を共存させる商業政策、スプロールを防ぐ都市政策を読み解く。
体 裁 A5・204頁・定価 本体2300円+税
ISBN 978-4-7615-2636-8
発行日 2016/12/01
装 丁 森口 耕次
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藻谷浩介氏(『里山資本主義』『和の国富論』)推薦!
「それってフランスの話だろ?」などと言わず、この本が、綿密な分析により、圧倒的な説得力をもって示す「事実」から真摯に学ぼう。 「ここに日本の地方都市の近未来がある」と気付いたとき、心に希望の灯が点る。
はじめに
1章 日本とフランス、地方都市の今
1 日本の地方都市の現状
2 フランス地方都市の元気なまちなか
2章 「賑わう地方都市のまちなか」ができるまで
3章 「歩いて暮らせるまち」を実現する交通政策
1 歩行者優先のまちづくり
2 自転車政策
3 バスの活用
4 トラムとトラムトレインの導入
5 都市とクルマ
6 都市交通計画を支えるしくみ
7 誰のための交通か?
・元ストラスブール市長へのインタビュー
4章 中心市街地商業が郊外大型店と共存するしくみ
1 フランスの商業調整制度
2 あらゆる人にとって中心市街地を魅力的にする取り組み
・アンジェ市中心市街地活性化担当官へのインタビュー
5章 「コンパクトシティ」を後押しする都市政策
1 商業・交通政策と連携する都市計画
2 都市の拡散を防ぐ住宅政策
・アンジェ都市圏共同体副議長へのインタビュー
3 住宅開発企画の実際
・ソデメル機構担当者へのインタビュー
4 マスターアーバニストの役割
・マスターアーバニストへのインタビュー
6章 社会で合意したことを実現する政治
1 自治体の広報戦略と市民参加・合意形成
2 アンジェ都市圏共同体の商店への対策と工事中の補填
・ミッション・トラム局長へのインタビュー
3 工事中の駐車対策
・アンジェ市最大の商店街組合会長へのインタビュー
4 フランスではなぜ自治体がイニシアティブを発揮できるのか
・アンジェ都市圏共同体議長・アンジェ市長へのインタビュー
7章 フランスから何を学ぶか
1 フランスから学ぶべき戦略
2 日本が採るべき具体的な戦術
おわりに
フランスの地方都市を訪れると、中心市街地の賑わいに驚かされる。緑の芝生の道をトラムが行きかい、多くの人を運んでくる。老若男女が思い思いに街歩きを楽しみ、広場に面したカフェで憩う。旅雑誌のグラビアそのままの光景が至るところにある。
しかし、そのような都市空間がフランスでも壊されかけていたということを知る人は少ない。街中まで自家用車があふれ、教会の周りの広場は、駐車場と化した。郊外には大型商業施設が現れ、旧市街の小さな商店の営業は行き詰った。日本の地方都市が抱える問題は彼の地も同じだったのである。
けれども、フランスでは、シャッター街になる前に、まちづくりの考え方を変え、それを実践した。そして、自家用車の普及にもかかわらず、今日の賑やかな街を創り上げた。そこに豊かな生活を感じるのは筆者たちだけではないだろう。
これに対し、日本の地方都市の中心市街地は、今やシャッター街の見本市といってもいい。今日では店舗も取り壊され、駐車場と空き地の中にアーケードだけが立ちすくんでいるところもある。かつての中心市街地の賑わいを取り戻すべく、さまざまな取り組みが行われてきたが、フランスとは全く異なる光景になってしまった。
高齢化、人口減少、地域産業の衰退など、いろいろな事情は考えられるが、今の日本の状況はやむを得ない「時代の流れ」なのであろうか。本書は、現地の人のインタビューも踏まえながら、フランスの実情を整理し、日本の進むべき道を探ろうというものである。
日本の地方都市の現状がいよいよ危機的な状況になり、その再生に向けて、従来にない模索が始まっている。内容は千差万別だが、示唆に富む提案もあり、我々はすでに多くのことを学んでいる。しかし、取り組むべき課題は依然として多い。筆者らがこれまでも注目し、書物も著してきた交通の問題については、中でも遅れている分野である。交通だけで、まちづくりができるわけではないが、都市のあらゆる経済活動、社会生活は、交通なしには成り立たない。本書では、まちづくりのダイナミズムを支える軸として交通を位置付け、そこから商業政策、土地利用といった都市政策全般まで議論を進める。
なお、地方都市といっても、「地方」をどのように捉えるのかで、議論の組み立ても変わる。本書では、人口概ね十万人以上、百万人未満の地方中核都市、地方中心都市に焦点を当てていく。より小さな地方都市の問題を看過するわけではないが、日本とフランスでは、こうした中堅の都市の姿に最も大きな差があるからである。
本書の構成は次のとおりである。まず1章で日本とフランスの今を概観した後、2章でLRT導入による交通まちづくりの全体像を述べる。そのうえで、3章から6章まで、フランスの交通政策、商業政策、土地利用、合意形成のしくみなどの各論を詳しく検討し、7章では、フランスの実態を踏まえ、日本の採るべき戦略・戦術を取りまとめる。フランスと日本では、歴史や制度も異なるが、日本の地方都市再生に向けた何らかのヒントを、読者とともに見つけることができればと思っている。
宇都宮 浄人
評:水無田気流
(詩人・社会学者)
「地方の衰退を包括的に防ぐ鍵」
日本では、近年盛んに「地方創生」の必要性が叫ばれている。急速に進む少子高齢化や、空き屋の増加、さらには中心市街地の「シャッター通り」化など、かつての高度成長期的な拡張路線では立ち行かなくなった問題に対し、私たちはどのように対処して行けば良いのだろうか。同様の問題に対し、諸外国はどのような方法で対処して来たのか。
本書のタイトルは、こんな日本人の悩みに真正面から答えてくれる。一般に、日本では幹線道路沿いの大型ショッピングセンターが建ち並ぶ、モータリゼーションに沿った消費生活が、中心市街地衰退の主要因であるとされている。これに対してフランスやドイツでは、LRT(Light Rail Transit)が発達しており、街中は一般の自家用車乗り入れが禁止されているなど、脱車社会化がなされているため、中心市街地が活況を呈している……との認識があるが、著者はこれは誤解であると指摘する。
ドイツやフランスの人口当たりの乗用車保有台数は日本より多く、車産業も経済の支柱。それでも、地方都市の中心市街地が「シャッター通り化」しない理由はどこにあるのか。鍵は「交通まちづくり」の視点だ。車と公共交通機関の共存を可能とする社会的・物理的環境の整備は、その中軸を担う。とりわけフランスでは、移動制約者と社会弱者(低所得者)の移動を「交通権」として保障することを眼目に、社会政策が行われてきたという。さらに、中心市街地を「シャッター通り化」させないための公的介入としては、空き店舗への課税、自治体のタウンマネージャーによる活性化、さらにはコンパクトシティに向けた総合的な後押しなど、きめ細やかな対応がなされているというのだ。
翻って、日本の「地方創生」は、依然その本旨を定めてはいないように見える。目先の問題に汲々としているうちに、問題は深刻化の一途を辿っている。何をなし得るか、そしてそこから何をなすべきかの共通了解を得るのは誠に難しい。だが一点申し述べるとすれば、車で移動できるうちは何一つ問題が目に入らない地方都市とは、言い換えれば車で移動できなくなれば、たちどころに日常生活に窮してしまう場所ということである。誰もが、人生のどのような場面でも、幸福な日常生活を送ることが可能なまちづくり、それこそが、地方の衰退を包括的に防ぐ鍵ではないのか。本書を通読し、改めてそう確信した。