リアル・アノニマスデザイン

藤村龍至・岡田栄造・山崎泰寛 編著

内容紹介

物と情報は溢れ、誰もがネットで自由に表現できる現在、建築家やデザイナーが「つくるべき」物とは何か。個性際立つ芸術作品?日常に馴染んだ実用品?その両方を同時に成し遂げたとされる20世紀の作家・柳宗理の言葉“アノニマスデザイン”を出発点に、32人のクリエイターが解釈を重ね、デザインの今日的役割を炙り出す。

体 裁 四六・256頁・定価 本体2200円+税
ISBN 978-4-7615-2554-5
発行日 2013/06/01
デザイン 刈谷悠三+角田奈央|neucitora
装画 梅沢和木


目次著者紹介まえがきあとがき読者レビュー装丁原画〈リアル・アノニマスデザイン〉

0-1 藤村龍至/建築家 ───まえがき:リアル・アノニマスの時代
0-2 岡田栄造/デザインディレクター ───プロローグ:アノニマスデザインという問い

デザイン

1-1 川崎和男/デザインディレクター ───アノニマスデザインと闘う
1-2 阿部雅世/デザイナー ───感覚を鍛えるデザイン体操.子どもの想像力と創造力をつなぐ
1-3 清水久和/インダストリアルデザイナー ─── 愛のバッドデザイン.感覚の原型をつくり出す
1-4 織咲誠/インターデザインアーティスト ─── 関係性をつなぎ直す、統合の仕事
1-5 石井すみ子/工芸デザイナー ─── 生まれて育つもの.素材と道具、料理と器
1-6 柳原照弘/デザイナー ─── 受け継ぐこと、紡ぐこと.ファンクションとパッション、または機能と昨日。
1-7 西澤明洋/ブランディングデザイナー ───デザインと経営のハイブリッド.ブランディングデザインの手法
1-8 水野大二郎/デザイン研究者 ─── 問いとしてのデザイン.柔軟な未来の設計
1-9 久下玄/ストラテジスト/デザイナー/エンジニア ─── イノベーションとは何か.領域横断の戦略
1-10 太刀川英輔/デザインアーキテクト ─── 誰のものでもない、コレクティブデザイン

建築・都市

2-1 蓑原敬/ 都市プランナー ─── 都市の自生的秩序という幻想
2-2 難波和彦/ 建築家 ─── 前景から背景へのデザイン箱の家の試み
2-3 みかんぐみ/ 建築設計事務所 ─── 非作家性の時代に(再録)
2-4 西村浩/ 建築家 ─── 土木と建築のあいだ
2-5 貝島桃代/ 建築家 ─── まちづくりを動かす言葉
2-6 乾久美子/ 建築家 ─── 新しい公共のための器─JR延岡駅舎の整備プロジェクト
2-7 満田衛資/ 構造家 ─── 構造設計と作家性
2-8 羽鳥達也/ 建築家 ─── オープンソースとオープンプロセス〈逃げ地図〉開発プロジェクト
2-9 家成俊勝/ 建築家 ─── インクルーシブ・アーキテクチャー
2-10 メジロスタジオ/ 建築設計事務所─── カムフラージュ・アイデンティティ

メディア

3-1 大山顕/ フォトグラファー/ライター ─── 私が土木構造物に惹かれる理由
3-2 渋谷慶一郎/音楽家 ─── CDというメディアの葬送─音楽・マーケット・メディアをめぐる実験
3-3 松川昌平/建築家 ─── ポリオニマス・デザイン─匿名性と顕名性の間としての多名性
3-4 猪子寿之/チームラボ代表 ─── チームとストリート─新しいものは都市と集団から生まれる
3-5 徳山知永/プログラマー ─── デザイン環境をプログラムする
3-6 スプツニ子!/ アーティスト、濱野智史 情報環境研究者 ───ゴーストからヴィジョンを立ち上げる
3-7 梅沢和木 美術家 ─── インターネットの風景を描く
0-3 東浩紀/思想家・作家───ソーシャルなアノニマスデザインの時代:作家という20世紀の錯覚
0-4 山崎泰寛/編集者───今、デザイナーはどこにいる?

編著者

岡田栄造|おかだ えいぞう

1970年福岡県生まれ。京都工芸繊維大学大学院工芸科学研究科准教授。デザインディレクター。博士(学術)。毎日更新のデザインニュースサイト dezain.net[ http://www.dezain.net/ ]主宰。様々な企業のためにリサーチや製品開発を行うほか、国内外でデザインの企画展を手がけている

山崎泰寛|やまさき やすひろ

1975年島根県生まれ。編集者。横浜国立大学大学院教育学研究科、京都大学大学院教育学研究科修了(教育学修士)。書店・ギャラリーの企画運営に携わり、2007─2012年『建築ジャーナル』編集部勤務。現在、京都工芸繊維大学大学院博士後期課程在籍、建築展の歴史を研究中。2002年より、藤村龍至らとメディアプロジェクト「ROUNDABOUT JOURNAL」を展開中。共著書に『建築学生のハローワーク』『建築・都市ガイドブック21世紀』他

藤村龍至|ふじむら りゅうじ

1976年東京都生まれ。建築家。ソーシャル・アーキテクト。藤村龍至建築設計事務所主宰。東洋大学工学部建築学科専任講師。フリーペーパー『ROUNDABOUT JOURNAL』、ウェブマガジン『ART and ARCHITECTURE REVIEW』企画・制作。主な建築作品に〈BUILDING K〉〈東京郊外の家〉〈倉庫の家〉〈小屋の家〉、主な編著書に『1995年以後』『アーキテクト2.0』『3・11後の建築と社会デザイン』『コミュニケーションのアーキテクチャを設計する』他

執筆・インタビュー

〔デザイン/DESIGN〕

1-1|川崎和男[ かわさき かずお]

1949年福井県生まれ。デザインディレクター。大阪大学大学院工学研究科特任教授。博士(医学)。大阪大学名誉教授、名古屋市立大学名誉教授、多摩美術大学客員教授、金沢工業大学客員教授、一般公共ネットワーク機構理事。「危機管理デザイン賞」総合審査委員長。伝統工芸品からメガネ、コンピュータ、ロボット、原子力エネルギー、人工臓器、先端医療、海事戦略、軍備警備デザインまで幅広くデザイン活動を行う

1-2|阿部雅世[ あべ まさよ]

1962年東京都生まれ。デザイナー。法政大学工学部建築学科卒業。ICFF Editor’s ward 2000、A&W Mentor Award 2006等の国際デザイン賞受賞。デザイン研究所MasayoAve reationを主宰するかたわら、欧州各国の芸術大学で客員教授を歴任。世界各地で子どもやプロを対象としたデザインワークショップを開催し、子どものためのデザイン教育プログラムづくりに携わっている。著書に原研哉との対談集『なぜデザインなのか。』、訳書に『ブルーノ・ムナーリ かたちの不思議』シリーズ「正方形」「三角形」「円形」等。ベルリン在住

1-3|清水久和[しみず ひさかず]

1964年長崎県生まれ。インダストリアルデザイナー。桑沢デザイン研究所を卒業後、キヤノン(株)を経て2012年S&O DESIGN(株)設立。桑沢デザイン研究所非常勤講師。作品にキヤノン〈IXY Digital〉シリーズ、〈鏡の髪型〉〈FRUITS〉他。ドイツiF賞やグッドデザイン賞を多数受賞している

1-4|織咲誠[おりさき まこと]

1965年埼玉県生まれ。インターデザインアーティスト。マコト・オリサキ インターワークス研究所代表。「モノを減らす方法」「自然力を取り込む知恵」「物質量やコストによらない利」を得るクリエイティブの提唱と実践をしている。思索からうまれる形は世界
で特許登録され、数々の製品として世に出つつある

1-5|石井すみ子[ いしい すみこ]

1975年福岡県生まれ。工芸デザイナー。立命館大学文学部日本文学専攻卒業。インテリアデザイン事務所を経て安田勝美建築研究所に在籍。2002年結婚を機に京都府京丹波町に暮らし始める。2009年ギャラリー白田、石井すみ子暮らしのデザイン室開設。日本各地のギャラリー、百貨店にて展示会を開催。2012年韓国 yido galleryにて展示会

1-6|柳原照弘[ やなぎはら てるひろ]

1976年香川県生まれ。デザイナー。「デザインする状況をデザインする」という考えのもと、国やジャンルの境界を越えたプロジェクトを多数手がける。2011年より、京都北山を拠点に、「新たな創出の場」として[bespoke]をオープン、世界との接点を生み出すべく企画を展開している。DESIGNEASTディレクター

1-7|西澤明洋[ にしざわ あきひろ]

1976年滋賀県生まれ。ブランディングデザイナー。(株)エイトブランディングデザイン代表。企業のブランド開発、商品開発、店舗開発などを手掛け、幅広いジャンルでのデザイン活動を行っている。著書に『ブランドをデザインする!』(単著)、『ブランドのはじめかた』『ブランドのそだてかた』(共著)。
http://www.8brandingdesign.com/

1-8|水野大二郎[ みずの だいじろう]

1979年東京都生まれ。デザイン研究者。高校卒業と同時に渡英。2008年英国王立芸術学院(RoyalCollege of Art)ファッションデザイン博士課程後期修了、芸術博士(ファッョンデザイン)。2012年より慶応義塾大学環境情報学部専任講師。現在、社会とデザインを架橋する多様な実践的研究に従事している
http://www.daijirom.com

1-9|久下玄[ くげ はじめ]

1981年神奈川県生まれ。ストラテジスト/デザイナー/エンジニア。家電メーカーのプロダクトデザイナーを経て、統合型デザイン会社のtsug(ツグ)創業。国内外様々な分野の企業をクライアントとして製品開発や事業開発、戦略立案に携わる。デザインとエンジ
ニアリングを統合したアプローチで、ハードウェアからアプリケーションまで手がける。近作にneurowearの脳波ヘッドフォン〈mico(ミコ)〉等。加えて、2012年よりスマートフォン決済サービス〈Coiney〉の創業に参画。プロダクトストラテジストとしてハードェア開発を中心にサービスデザイン全般を担当
tsug.co.jp

1-10|太刀川英輔[ たちかわ えいすけ]

1981年神奈川県生まれ。デザインアーキテクト。慶應義塾大学大学院在学中の2006年にNOSIGNERを創業。社会に機能するデザインの創出(デザインの機能化)と、デザイン発想を体系化し普及させること(デザインの構造化)を目標として活動し、多くの国際賞を受賞。災害時に役立つデザインを共有する「OLIVE PROJECT」代表

〔建築・都市/ARCHITECTURE, CITY〕

2-1|蓑原敬[ みのはら けい]

1933年東京都生まれ福岡県育ち。都市プランナー。東京大学教養学部で地域研究(アメリカ)、日本大学で建築を学ぶ。ペンシルバニア大学大学院に留学、アメリカの都市計画に触れる。建設省、茨城県で都市計画と住宅行政の政策立案と実施の現場を経験。蓑原計画事務所所長。主な著書に『成熟のための都市再生』『地域主権で始まる本当の都市計画』
など多数

2-2|難波和彦[ なんば かずひこ]

1947年大阪府生まれ。建築家。(株)難波和彦・界工作舍代表。東京大学名誉教授。1974年東京大学大学院建築学専攻博士課程修了。主な作品に〈なおび幼稚園〉〈箱の家〉シリーズ。著書に『箱の家-エコハウスをめざして』『建築の4層構造─サステイナブル・デザインをめぐる思考』

2-3|みかんぐみ

加茂紀和子・曽我部昌史・竹内昌義・マニュエル=タルディッツの4人の建築家からなる建築設計事務所。1995年に共同設立された。主な作品に〈NHK長野放送会館〉〈八代の保育園〉〈マルヤガーデンズ改修〉他

2-4|西村浩[ にしむら ひろし]

1967年佐賀県生まれ。建築家。(株)ワークヴィジョンズ代表。東京大学工学部土木工学科卒業、東京大学大学院工学系研究科修士課程修了。1999年ワークヴィジョンズ設立。主な計画・作品に〈岩見沢複合駅舎〉〈大分都心南北軸構想〉〈佐賀市街なか再生計画〉〈函館市中心市街地トータルデザイン〉〈鳥羽海辺のプロムナード〉〈長崎水辺の森公園橋梁群〉等

2-5|貝島桃代[ かいじま ももよ]

1969年東京都生まれ。建築家。筑波大学准教授。2000年東京工業大学大学院博士課程修了。1992年より塚本由晴とアトリエ・ワン共同主宰

2-6|乾久美子[ いぬい くみこ]

1969年大阪府生まれ。建築家。1992年東京藝術大学美術学部建築科卒業。1996年イエール大学大学院建築学部修了。1996 -2000年青木淳建築計画事務所勤務。2000年乾久美子建築設計事務所設立。2011年より東京藝術大学美術学部建築科准教授、延岡駅周辺整備デザイン監修者。主な作品に〈アパートメントI〉〈フラワーショップH〉〈KYOAICOMMONS〉他。著書に『そっと建築をおいてみると』『浅草のうち』『まちへのラブレター』等

2-7|満田衛資[ みつだ えいすけ]

1972年京都府生まれ。構造家。1999年京都大学大学院工学研究科建築学専攻修了、1999 -06年(株)佐々木睦朗構造計画研究所勤務を経て、2006年満田衛資構造計画研究所設立。京都精華大学大学院、京都美術工芸大学非常勤講師。主な作品に〈中川政七商店
新社屋〉(2011年JSCA賞新人賞受賞)、〈カタガラスの家〉〈春日丘高等学校創立100周年記念会館〉他

2-8|羽鳥達也[ はとり たつや]

1973年群馬県生まれ。建築家。日建設計勤務。1998年武蔵工業大学(現東京都市大学)大学院修了。東京大学建築学科非常勤講師。東京都市大学建築学科非常勤講師。主な作品に〈神保町シアタービル〉〈ソニーシティ大崎〉。日本建築家協会新人賞、アルカシア建築賞ゴールドメダル受賞他

2-9|家成俊勝[ いえなり としかつ]

1974年兵庫県生まれ。建築家。ドットアーキテクツを赤代武志と共同で主宰。京都造形芸術大学空間演出デザイン学科准教授、大阪工業技術専門学校夜間部非常勤講師。建築設計、内装デザイン、アートプロジェクトの施工をはじめ、他分野の人々との協働プロジェクトにも多く関わる

2-10|メジロスタジオ

2002年に古澤大輔、馬場兼伸、黒川泰孝により共同設立された建築設計事務所。日本建築学会作品選奨(2007及び2012)、SDレビュー朝倉賞(2011)等。
古澤大輔[ふるさわだいすけ]
1976年東京都生まれ。2002年東京都立大学大学院修士課程修了。明治大学大学院、首都大学東京大学院、日本大学、東京理科大学大学院にて非常勤講師を歴任。現在、リライトデベロップメント役員、日本大学専任助教
馬場兼伸[ばばかねのぶ]
1976年東京都生まれ。2002年日本大学大学院修士課程修了。現在、明治大学兼任講師
黒川泰孝[くろかわやすたか]
1977年東京都生まれ。日本大学大学院修士課程修了

〔メディア/MEDIA〕

3-1|大山顕[ おおやま けん]

1972年埼玉県生まれ。フォトグラファー/ライター。1998年千葉大学工学部修了。Panasonic勤務を経てフリーに。著書に『工場萌え』『ジャンクション』ほか
http://www.ohyamaken.com/

3-2|渋谷慶一郎[ しぶや けいいちろう]

1973年東京都生まれ。音楽家。東京芸術大学作曲科卒業。2002年ATAK設立、国内外の先鋭的な電子音響作品をCDリリース。主な作品に『ATAK000+』『ATAK010 filmachine phonics』『ATAK015for maria』など。映像とコンピュータ音響による人間不在のボーカロイド・オペラ『THE END』を2012年に発表するなど、国内外で多彩な活動を展開している
http://atak.jp

3-3|松川昌平[ まつかわ しょうへい]

1974年石川県生まれ。建築家。1998年東京理科大学工学部建築学科卒業。1999年000 studio設立。2009 -11年文化庁派遣芸術家在外研修員および客員研究員としてハーバード大学GSD在籍。2012年より慶應義塾大学SFC環境情報学部専任講師。建築の計算(不)可能性を探究。アルゴリズミック・デザインの研究、実践を行なう。共著に『設計の設計』、訳書に『アルゴリズミック・アーキテクチュア』

3-4|猪子寿之[ いのこ としゆき]

1977年徳島県生まれ。ウルトラテクノロジスト集団チームラボ代表。東京大学工学部計数工学科を卒業と同時にチームラボを設立。チームラボは、プログラマー、ロボットエンジニア、数学者、建築家、Webデザイナー、グラフィックデザイナー、CGアニメーター、絵師、編集者等、情報化社会のものづくりのスペシャリストから構成される。主な実績に〈百年海図巻〉〈チームラボハンガー〉が文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品(2011)に選出。国立台湾美術館にてチームラボ「We are the Future」展を開催(2012)。シンガポールの国際アートフェア「ArtStage Singapore 2013」にて、新作〈Nirvana〉を発表(2013)
http://www.team-lab.net/

3-5|徳山知永[ とくやま ともなが]

1984年東京都生まれ。プログラマー。FABRICA(伊)インタラクティブ部門を経て、パリ在住。池田亮司〈test pattern〉〈the radar〉等インスタレーション作品や磯崎新のヴェネツィアでの展示の映像、隈研吾〈Tiffany Ginza〉や石上純也〈KAIT工房〉へのCADソフト提供、高橋慶太との〈Web Web Boy〉作成等

3-6|スプツニ子!

1985年東京都生まれ。アーティスト。東京・ロンドン在住。ロンドン大学インペリアルカレッジ卒業後、英国 Royal College of Art 大学院修了。主な展覧会に「東京アートミーティング トランスフォーメーション」(東京都現代美術館、2010)「Talk to Me」ニューヨーク近代美術館/MoMA、2011)等

3-6|濱野智史[ はまの さとし]

1980年千葉県生まれ。情報環境研究者。慶応義塾大学大学院、国際大学 GLOCOM 研究員を経て、日本技芸リサーチャー

3-7|梅沢和木[ うめざわ かずき]

1985年埼玉県生まれ。美術家。武蔵野美術大学映像学科卒業。2010年に「カオス*ラウンジ2010 in高橋コレクション日比谷」や「破滅*ラウンジ」などの展示に参加。2012年に個展「大地と水と無主物コア」を開催。CASHIおよびカオス*ラウンジに 所属

〔エピローグ〕

東浩紀〔あずま ひろき〕

1971年東京生まれ。思想家・作家。(株)ゲンロン代表取締役。専門は現代思想、表象文化論、情報社会論。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。東京大学客員助教授、東京工業大学特任教授、早稲田大学教授など歴任。『存在論的、郵便的』で第21回サントリー学芸賞受賞、『クォンタム・ファミリーズ』で第23回三島由紀夫賞受賞。

リアル・アノニマスの時代

藤村龍至

本書はプロダクトデザイン、建築都市、メディア、3分野のデザイナー、クリエーター、批評家らに呼びかけ、柳宗理の提唱した「アノニマスデザイン」という思想を起点にそれぞれの活動を論じてもらい、その現代的な可能性を問う、という試みである。

私がアノニマスデザインの思想に触れたのは1997年の秋頃、セゾン美術館の学芸員であった新見隆氏の紹介で柳工業デザイン研究会へアルバイトに通ったことがきっかけであった。柳先生がセゾン美術館で大規模な展覧会を行うので模型を制作してきて欲しい、ということだった。

不勉強な私は柳先生の業績も思想もほとんど知らないままにアルバイトに通い始め、会場や展示品の一部の模型制作をお手伝いした。翌年、その展覧会「柳宗理〜戦後デザインのパイオニア〜」が始まり(岡田さんはその展評を書くために来場したという)、会場で何度か行われた柳先生の講演や対談を通して聴いているうちに業績の全体像が見えてきて、背後に「アノニマスデザイン」という思想があることを知った。

あれから10年以上たち、アノニマスデザインは私にとっても重要な思想となったが、その意味をもう少し大きく捉えたいと考えるようになっていた。なぜかといえば、建築家やデザイナーの間でアノニマスデザインの思想が商業主義との対比という、狭い範囲で捉えられているような気がしていたからである。山崎泰寛さんから京都工芸繊維大学での岡田栄造さんとの対談「アノニマスデザイン2.0 柳宗理から考える建築とデザインの現在」に誘っていただいたのはそんな矢先であった。

バブル時代、建築家やデザイナーたちは広告企画のプレイヤーとして盛んに持ち上げられたが、それが弾けたあとでは、演出された作家像が独り歩きし、「難しいことをいう割には資本に迎合して好き勝手なことをする迷惑な人種」というレッテルを貼られてしまった。そのことの反省としてデザイナーや建築家の間に作家主義批判が生まれ、アノニマスデザインはその議論の延長で再評価されている。

だが柳宗理の問いはそもそも、単なる商業主義への対抗に留まるものではなかった。むしろ工業化という技術革新と、それによって生まれてきた近代社会の新しい原理に対するデザイナーの態度決定を迫るものであり、近代社会に適応した新しいデザイナー像の確立こそを目標としていた。工業と工芸を対比させた父宗悦に対し、バウハウスやコルビュジエに刺激された柳は、工業生産のなかに工芸的なものを発見することにより、それらを両立させようとしたのであった。

社会構造の転換期には作品のあり方や作家のあり方が変わる。工業化に反応した1920年代のコルビュジエにせよ、郊外化に反応した1960年代のヴェンチューリにせよ、グローバリゼーションに反応した2000年代のコールハースにせよ、いずれも社会の新しい原理に肯定的でありながら、作品そのものというよりはデザイナー像を提示した点に共通点がある。柳宗理がコルビュジエに共感したように、こうした思想は同時代的なものなので、世代的な共感を生んで分野や国境を越えていく。

言うまでもなく現代は、情報化、グローバル化によるグローバル・ネットワーク社会の到来により社会構造が大きく転換し、新しい作品のあり方や新しい作家のあり方を求めつつある時代である。柳の問いをパラフレーズするならば、情報化という技術革新と、それによって生まれてきたポスト近代社会の新しい原理に対する態度決定こそがデザイナーに求められている。情報と空間を対立するものとして扱った1990年代後半の態度に対して、今日的なデザイン行為の意味は情報ネットワークに空間的なものを発見し、それらを両立させることにある。

そこで本書ではデザイナーや建築家に留まらず、メディアやアートの分野で活動する作家やクリエーターたちにも参加してもらい、東浩紀氏へのインタビューを通して一連の議論の総括を試みた。原稿が揃い、目次を検討した結果、アノニマス観の変化に時代背景が大きく関わっていることに気づいた私たちは、各著者の年齢順に原稿を並べることとした。これらの作業によって、近代の終わりという、より大きな枠組みでアノニマスデザインを捉え直すことができたと思う。

私たちは東氏の指摘するような、ソーシャルなアノニマスの時代、すなわち誰でも情報発信が可能になり、人々のニーズが情報技術によってかなりの精度で予想される時代に突入している。そこでは、社会を相手に名前を出しながら仕事をする「デザイナー」という存在はどこにいるのだろうか。言い換えれば、そのようなリアル・アノニマスの時代に「アノニマスデザイン」は成立するのだろうか。編集作業を終えた今、その問いが大きく浮かび上がっている。

今回、そのことを論じてくださった方も多い。私はおそらく、ソーシャルな人々のネットワークのなかからニーズを抽出する仕組みを設計する立場が、今日的なアノニマスデザインの姿なのではないかと考えている。そこから生まれてくる成果物は人々のニーズをかたちにしたものである限り「誰がやっても同じ」アノニマスなものになるかも知れない。しかしその下部構造のデザインには創意工夫が求められ、それらの思想や方法論、作品などを提示したパイオニアたちには署名権が与えられるだろう。彼らこそは「今日のアノニマスデザイン」のありようを提示する人たちであり、そのような人たちは1920年代に集中的に数多く現れたように、2010年代からしばらくの間に集中して現れるのではないかと思う。

そのように考えると、作家主義か非作家主義かという議論をここで蒸し返すことに時代的な意味はない。それよりも、社会の新しい原理に対して新しい作家像を確立することにこそ意味があるのであり、それが柳宗理の遺した思想から私たちが最も学ぶべきことなのではないだろうか。

最後になるが、ろくにスキルもない学生を(当時は身長の割に痩せていたため)「マッチ棒君」と呼んで受け入れて下さり、短い期間に多くのことを教えて下さった天国の柳宗理先生に本書を捧げたい。

今、デザイナーはどこにいる?

山崎泰寛

岡田栄造さんと藤村龍至さんの対談「アノニマスデザイン2.0」を機に、本書の企画を立ち上げてから半年ばかり経った秋のことだ。建築家の槇文彦さん﹇1928│﹈が発表した文章「漂うモダニズム」﹇『新建築』2012年9月﹈を読んで、私は勝手に、勇気づけられた気がした。槇さんは、モダニズムはもはや共通言語と化し、現在問われているのは個別の建築家の振る舞いそのものだと指摘した上で、だからこそ現代はエキサイティングなのだと告げた。それはプロローグで岡田さんが述べる「アノニマス化したデザイン」を踏まえよという呼びかけに近似した歴史観である。

本書は、そのような意味においてとてもエキサイティングなものになったと思う。ここに含まれているのは、かつての柳宗理のような造形活動を行う作家だけではない。音楽家やプログラマー、小説家、思想家といったクリエイターは皆、顔が見えるという点で、アノニマスの対極に位置する人物である。

本書を通じて繰り返し明らかになるのは、作家が、作品によって名を残すというよりも、名を伴って作品を残そうとする姿である。なるほど、残された作品の振れ幅は、エピローグで東浩紀さんが指摘するような凡庸さとニッチの間を揺れ動く。しかし、誰か(人)の、または何か(ブランド)の署名が消えてしまうわけではない。ネットワーク社会における作家の名前は、それが不明になる(匿名としてのアノニマス)ことはなく、むしろ作品の性格とは無関係な属性として、ログとして残り続けるのではないか。槇さんが「漂う」と述べた海原で。

では、作家の活動を支えるモチベーションは何だろうか。社会の役に立つこと? 利益を最大化すること? それはそうかもしれない。しかし私は、本書のなかに、もう少しシンプルな態度を何度も見たと断言できる。それは、誰もが面白さを見つけ、あるいは面白さを燃料にして、創作活動を展開しているということだ。だから、ニッチを狙うにせよアノニマスに訴えるにせよ、面白さを動物的に嗅ぎとる理性をもつことから、「作家であること」が始まると私は思う。

本書が、松川昌平さんが言うポリオニマスなデザインの姿を示せていたらとても嬉しいし、だとすれば著者の皆さんの力にほかならない。だから、私たちの問いかけに、浪花節から論文まで、様々なスタイルの文章や発言で応じてくださったお一人おひとりに、まずはお礼を申し上げたいと思う。梅沢和木さんには素晴らしい装画も寄せていただいた。柳さんのように、本書を軸に現代のアノニマスデザイン展を開きたいとさえ思う。本書を刊行に導いていただいた学芸出版社の井口夏実さんと、複雑な装丁を見事にまとめてくださった刈谷悠三さんにも、最後まで本当にお世話になった。実は編集という仕事にも、アノニマス×デザインの面白さが詰まっている。誤字脱字を消し込むような実務的な作業も、作家の主張をよりクリアに伝えるためのデザインの追求だからである。私自身、そのことをあらためて教えられた機会になった。そして最後に、柳宗理さんに特別な感謝を捧げたい。私たちは、柳さんたちが残された形や思想のなかで、生き、新しく面白い表現を生み出そうとしている。本書も、柳さんが生きた時代に連なる作品のひとつかもしれない。そして願わくば、明日生まれる作品を勇気づける書物でありますように。

2013年5月

建築史家・大阪市立大学大学院工学研究科准教授/倉方俊輔

「これが、アノニマスデザイン!?」と、表紙からして虚を突かれる。

「アノニマスデザイン」は、デザイナーの柳宗理によって普及した言葉だ。彼はデザイナーの名は出ないが、生活に溶け込んだ工業製品をそう呼び、人々の目を日用の中にある美に向けさせた。美しいものが時代を超えて用いられるというのだから、その概念には不変の安定感がある。移り続ける工業化社会・商業化社会にも、そのような存在がありえるのだという言葉は、ユーザーもクリエイターも安心させてくれる。

本書の表紙は、それとは逆である。一般的な意味での安定も、安心も、美も、見当たらない。構図は流動的であり、一つ一つの要素に眼をこらしても「美しい」ものばかりではない。パンドラの箱を空けたような、とっちらかりぶりである。これが「リアル」だと突きつける。最後に果たして「希望」はあるのか?

まえがきで編者の一人である岡田栄造は、2012年のシンポジウムにおける藤村龍至の「アノニマスデザインとは、アノニマスとデザインのハイブリッドである」という言葉で「目から鱗が落ち」、「本書では『アノニマス』と『デザイン』を掛け合わせている(と我々が考えている)現役の作家たちに、執筆を依頼した」と企画の意図を解説している。

本書は何よりも「問い」の一冊だ。いわば「アノニマス」と「デザイン」に引き裂かれた問いに答えるのは、28人の寄稿者。プロダクトデザインから建築・都市、メディアやアートの世界で活躍するクリエイターまで、目配りは幅広い。文章はすべてコンパクトで分かりやすく、それぞれの個性のエッセンスに触れることができる。広角レンズで切り取った流動的な現在を、小気味よく編集し、ザッピング感覚で届けるような良書である。

担当編集者より

「アノニマスデザイン」という一語を頼りに執筆された28本のエッセイは”バラバラ”で、編集していても「これでいいのかな?」と正直、ずっと胸騒ぎがしていた。一方で皆さんがこの一語からこんなに多くを書いたり語ったりできてしまうことに驚きながら。

そのくらいデザインの前提にあって、間口が広く、デザイナーを本気にさせるキーワードなのだなと、今、ネット上に見つけた多くの感想をみながら実感している。

語れば語るほど何かが見えてきそうな本だと思う。

(井口)

〈リアル・アノニマスデザイン〉

執筆者提供の作品画像で作成したコラージュ。
制作/梅沢和木(courtersy CASHI)

【作品画像一覧/・画像内容────提供者】

  • 真鍮スプーン、真鍮ボウル〔大・中・小〕、墨染め座布団〔麻〕、丹波布スカート〔手紡ぎ・草木染め・手織り〕、六角まな板〔ひのき〕────石井すみ子
  • 愛のバッドデザイン────清水久和
  • EIGHT BRANDING DESIGN/西澤明洋
  • Coiney (sketch&photo), MICO (sketch&photo), pomat, Interactive Digital Signage, NS_Cane, Interactive Share Table, HIKARI Tree────久下玄
  • Arborism, HK gravity pearl, The moon, Waterful────NOSIGNER
  • boxhouse141, kamaishibox2, kooriyamabox────難波和彦
  • 佐賀「わいわい!!コンテナ」プロジェクト────西村浩
  • ハウスT模型、みずのき美術館、和水町立三加和小・中学校設計業務公募型プロポーザル模型、中之島新線地下鉄駅コンペティションイメージ、代官山T-Gardenコンペティション模型、ハウスK模型、ハウスO模型、市原市水と彫刻の丘プロポーザル模型、浅草文化観光センターコンペティション模型、JIN眼鏡、工学院八王子キャンパス総合教育棟プロポーザル模型、前橋美術館コンペティション模型、仙台ショールーム、(仮)七ヶ浜中学校(小中一貫校構想)模型、十和田市野外芸術文化ゾーンアートセンタープロポーザル模型────乾久美子
  • o邸、須波の家(撮影:藤本寿徳)、ライナスの散歩────満田衛資
  • Inclusive Architecture(撮影:水野大二郎)────家成俊勝
  • 東府中の集合住宅、立野の住宅(photo&plan)、熊川の集合住宅2、熊川の集合住宅1(上記4点の撮影:鳥村鋼一)────メジロスタジオ
  • 土木構造物・工場・団地風景────大山顕
  • ATAK000+ Keiichiro Shibuya────渋谷慶一郎
  • Graffiti@Google────チームラボ
  • Profile photo of Sputniko!, Nanohana Heels(上記2点の撮影:Takuya Shima), Sushiborg Yukari, Crowbot Jenny(上記2点の撮影:Rai Royal), Crowbot Jenny 2011────Sputniko!
  • BUILDING K (撮影:鳥村鋼一)、東京郊外の家、BUILDING T(上記2点の撮影:樋口兼一)、家の家、倉庫の家, 小屋の家、APARTMENT S(上記4点の撮影:太田拓実)────藤村龍至