ドイツの地域再生戦略 コミュニティ・マネージメント

室田昌子 著

内容紹介

日本にさきがけて都市の縮小、地域の衰退に見舞われたドイツでは、国、州、自治体、地域住民、市民団体、地元企業をあげてパートナーシップを組み、コミュニティ・エンパワメントを軸としたコミュニティ・マネージメントで再生をめざす、ソフト・ハードの取り組みを進めている。その事業体制と手法を初めて紹介する待望の書。

体 裁 A5・256頁・定価 本体2800円+税
ISBN 978-4-7615-2485-2
発行日 2010/06/10
装 丁 KOTO DESIGN Inc.


目次著者紹介はじめにおわりに書評関連情報
はじめに

第1編 コミュニティ再生と「社会都市」

第1章 コミュニティ再生とその背景

1 サステイナブル・コミュニティとコミュニティ再生

1 ドイツのコミュニティ再生とは
2 コミュニティ再生とネットワークづくり
3 サステイナブル・コミュニティを目指して
4 衰退地域のコミュニティ・エンパワメント
5 衰退地域の経済再生と社会的企業

2 コミュニティ再生の社会的背景

1 縮小都市とコミュニティ再生
2 産業構造の変換とコミュニティ再生
3 多民族社会・格差社会とコミュニティ再生
4 コミュニティの問題の特徴

第2章 コミュニティ再生政策と「社会都市」

1 コミュニティ再生政策の発展

1 コミュニティ再生政策の流れ
2 EUの都市再生政策のドイツでの適用と影響

2 コミュニティ再生プログラム「社会都市」

1 「社会都市」とは
2 「社会都市」の適用地区
3 社会都市のプログラムの戦略と特徴
4 「社会都市」の事例

3 「社会都市」の関連制度と予算

1 市街地再生のための推進制度について
2 社会都市と関連制度の予算
3 EUの都市共同体主導「URBANⅡ」
4 資金集約

第2編 「社会都市」におけるコミュニティ・マネージメント

第1章 コミュニティ・マネージメントの推進体制

1 コミュニティ・マネージメントとは

1 コミュニティ・マネージメントという言葉
2 コミュニティ・マネージメントの主な役割
3 コミュニティ・マネージメントの推進の仕組み

2 コミュニティ・マネージメントの実施体制

1 基本的な実施体制
2 コミュニティ・レベル
3 コミュニティ・レベルの代表委員会
4 自治体レベル
5 経済・市民セクター

3 推進主体

1 コミュニティ・マネージメントの推進者について
2 行政が実施するケース
3 住宅企業が実施するケース
4 民間団体が実施するケース

4 関係者の役割

1 連邦・州政府
2 自治体
3 住宅企業
4 商業者
5 学校
6 各種民間地域団体

5 コミュニティ・ビューローの設立
6 コミュニティ・マネージャーの業務内容

1 業務内容の特徴
2 コミュニティ参加の促進
3 エンパワメントの実施
4 プランづくりとその支援
5 コミュニティ・レベルの調整とネットワーク
6 行政や全市レベル関係者との調整や仲介役
7 スケジュール管理、手続き支援、評価の実施

第2章 活動の対象分野と分野別のプロジェクト内容

1 活動の対象分野

1 対象分野
2 ノルトライン・ベストファーレン州での分野別実施状況
3 重点分野の変化

2 対象分野別のプロジェクト内容と事例

1 オープンスペース
2 交通関係
3 記念物や歴史的建造物等の保全と再利用
4 その他の居住環境整備
5 住宅再生・住宅問題
6 地域経済活性化
7 商業活性化
8 雇用対策と職業訓練
9 子供や若者の教育・ケア
10 地域文化・異文化交流
11 健康支援

第3章 コミュニティ・マネージメントの推進方法

1 参加の促進方法

1 イベントによる関心の喚起と交流のきっかけや促進
2 参加しない人々の参加促進
3 多様な議論の促進
4 計画や提案の場の設定
5 情報提供・活動PR

2 資金の集約とプログラムの統合

1 資金の集約
2 統合型アプローチ

3 コミュニティ・マネージメントの段階的進め方

1 検討段階
2 準備段階
3 計画段階
4 実施段階
5 発展段階

4 コミュニティ・マネージャーの人材育成

1 コミュニティ・マネージャーに求められる資質
2 職業としてのコミュニティ・マネージャー
3 コミュニティ・マネージャーの人材育成プログラム

第4章 コミュニティ・マネージメントの評価

1 評価の前提条件と評価方法の経緯
2 ノルトライン・ベストファーレン州で実施された評価

1 評価の目的と機能
2 評価の項目
3 地区分析のための社会経済データ
4 目標設定と達成のモニタリング
5 質的なプロセス分析について
6 質的なプロセス分析―統合性に関する評価
7 質的なプロセス分析―調整や協力体制に関する評価
8 質的なプロセス分析―継続性の確保に関する評価
9 住民参加による活性化と成果

第3編 「社会都市」におけるコミュニティ・マネージメントの実際

第1章 ドルトムント市ノルトシュタット地区

1 地区の特徴と再生の経緯

1 地区の特性
2 地区の概要
3 区域別特徴
4 地区再生の経緯

2 コミュニティ・マネージメントの組織体制

1 コミュニティ・ビューローの担い手
2 コミュニティ・マネージメントを支える団体

3 ノルトシュタット地区のコミュニティ再生活動

1 住宅再生
2 オープンスペース、居住環境
3 経済活性化
4 ミュンスター通り商業地域活性化
5 職業訓練・雇用促進
6 地域コミュニティ
7 安全その他

4 ノルトシュタット地区の活動成果

1 地域社会的ネットワークの形成
2 環境の改善
3 市の役割について
4 「統合性」に関する問題と全体成果

第2章 ハンブルク市アルトナ・ルルプ地区

1 地区の特徴と問題

1 地区の特徴
2 地区の抱える問題
3 まちづくりの経緯

2 コミュニティ・マネージメントの体制づくりと活動の発展経緯

1 コミュニティ・マネージメントの体制づくり
2 コミュニティ・マネージメントにおけるネットワーク形成
3 現在の推進体制

3 事業と資金

1 事業の内容
2 資金について

4 アルトナ・ルルプ地区での活動の特徴と課題

結章 日本におけるコミュニティ・マネージメントの可能性

1 日本における衰退市街地とコミュニティの再生

1 人口減少と衰退市街地
2 衰退市街地とコミュニティ・マネージメント

2 コミュニティ・マネージメントの対象地域

1 対象地域となる衰退市街地
2 より広い対象地域での活用

3 コミュニティ・マネージメントで進める活動

1 コミュニティ・ビジネスの創出
2 商店街活性化と地域再生の連携

4 コミュニティ・マネージメントの担い手

1 地域での担い手
2 コミュニティ・マネージャー

5 コミュニティ・マネージメントの進め方
6 コミュニティ・マネージメントへの支援

1 行政支援の内容
2 支援の期間

7 コミュニティ・マネージメントの評価

8 持続的・自立的なコミュニティを目指して

補注

参考文献

索引

おわりに

室田昌子(むろた まさこ)

東京都市大学環境情報学部准教授。博士(工学)。
専門は、都市再生、市街地再生、都市計画、住民参加論。(株)三菱総合研究所、その他民間研究所、(財)運輸政策研究機構にて、都市開発、事業運営、コミュニティ、住宅問題、ドイツの都市計画制度の研究や開発プロジェクトに携わる。
2000年に東京工業大学社会理工学研究科博士課程修了。2003年から武蔵工業大学(現・東京都市大学)講師。2007年准教授。
主な著書に『自由時間社会の文化創造』(共著、ぎょうせい、1993年)、『密集市街地のまちづくり―まちの明日を編集する』(共著、学芸出版社、2002年)、『住民主体の都市計画―まちづくりへの役立て方』(共著、学芸出版社、2009年)などがある。
2001年日本不動産学会賞湯浅賞(研究奨励賞)受賞、学位論文「「公的事業」との関連づけに着目した住環境整備の方法に関する研究」。2003年都市住宅学会論文賞受賞「開発事業と周辺住宅地整備における外部効果の計測」。

2000年代に入り都市づくりの手法は大きく変容している。ドイツでは、1990年代のEUの都市政策に関する議論やEU内の他国の影響を受け、2000年代に入って様々な試みがなされてきた。それは、現代社会が抱える多くの問題を解決しつつ、持続可能型社会を目指すものである。

ドイツは環境先進国として注目され、美しい国土形成やそれを支える都市計画制度などのモデルとされてきた。しかし一方で、日本と同様の人口減少社会であり、また若年層の失業問題や広がる格差問題、グローバリズムによる経済空洞化、さらに移民社会としての多くの社会問題に悩む社会でもある。

ドイツでは、衰退の目立つ問題地域が多く存在しており、それらの地域は、市街地が構造的に疲弊し、環境が悪化している。空き家や空きビルの増加、住宅の管理の放棄、緑の不足やゴミ問題、交通安全性や利便性などの、住宅や居住環境の問題を抱えている。さらに、貧困層が集中しており、長期失業者や若年失業者、また外国からの移民が多く、子供の教育問題や福祉の問題を抱えている。しかし、多国籍の居住者間の相互理解の不足や生活の余裕のなさから、住民参加が行われにくくコミュニティも崩壊している。

ドイツでは、このような問題地域を再生するために、1999年から「社会都市」というプログラムを連邦全土で開始した。「社会都市」は、サスティナブル・コミュニティを実現することを目指しており、そのために、環境、経済、社会の総合的な側面からの地域再生を進めるというものである。これは、工業社会からポスト工業社会を経て、新たな時代に向かう価値観の転換を伴った再生であり、ある種の明解な概念的枠組みを持つ。そこでは、グローバリズムに対する「ローカリズム」の推進、上下関係のあるトップダウンからボトムアップを経て、さらにフラットな関係性である「パートナーシップ」の実現、公的セクターと企業セクターが牽引した社会に対して、新たなパワーを担う「市民セクター」の強化、要素還元型アプローチに対して、包括性と相互のシナジー効果を重視した「統合型アプローチ」の推進など、価値の転換に基づく様々な手法やアプローチがベースとなっている。

そして、それらが実社会で多くの人が関わりつつ、このような社会的な背景や価値観の転換などを意識せずに、誰もが参画し実現できるように束ねられ、1つのパッケージとして構築され進められている。この実現のためのキーとなる仕組みが、本書で紹介する「コミュニティ・マネージメント」である。

コミュニティ・マネージメントは、主として衰退市街地を対象としたコミュニティ再生の仕組みであり、地域の環境、安全や福祉、教育や文化、経済や雇用を含めた包括的な再生を行うという特徴を持っている。また、住民等の人の活性化や社会的ネットワークの形成そのものも重要な目的としている。すなわち、地域内の様々な人々や集団の意欲や郷土意識を喚起して集約し、その結果、地域の関係者らが協力して自主的に地域のための活動に取り組み、地域を総合的に改善することを目指している。このような幅広い活動を、効果的に進めるための工夫が随所になされており、全体で1つの仕組みとして確立されつつある。

日本では、人口減少社会を迎えて、今後の縮小都市や衰退市街地のあり方が議論されている。併せて、貧困の問題や格差社会の問題がクローズアップされている。経済の衰退や人口の減少により、様々な問題を抱える荒廃地域は多く、さらに、若年失業者や高齢の低所得者層により疲弊する地域が、今後さらに問題になってくると考えられる。

一方で、様々な地域におけるマネージメントが重視され、タウン・マネージメント、さらにエリア・マネージメントが着目され、各地ですでに取り組みが始まっている。本書で紹介するコミュニティ・マネージメントとこれらは共通する部分も多い。コミュニティ・マネージメントは、本質的には地域をベースとした一種の社会変革である。したがって、衰退地域に限らず、様々な地域で各地に応じたフレクシブルな取り組みが可能と考える。

本書は、様々な地域でその再生やコミュニティの問題に関わる全ての方々、研究者や学生はもとより、まちづくり専門家、行政担当者、政治家、NPO、地域ビジネスを検討している方々、商店街関係者、さらに広くまちづくりに関心のある住民の方々が、これからの社会とまちづくりを考えるうえでのヒントになるものと思っている。

ドイツの「コミュニティ・マネージメント」には、地域による差があり、行政支援が不十分な地域もあれば、マネージャーの理解や意欲の不足する地域も存在し、すべてが成功しているわけではない。しかし、500を超える多くの地域で強力に進められ、短期間で様々な成果をあげてきた実績を見ると、ドイツの政策能力や実行力の高さに脱帽する思いがある。

私は、ドイツの専門家というわけではなく、もともと日本の都市開発や密集市街地の再生、商店街活性化、その他多様なまちづくりに関わってきた。ドイツの研究を始めたのは、その政策づくりの精緻さや構想力の高さに魅力を感じたからである。実は「社会都市」については、当初は様々なことを支援する寄せ集めのような手法と捉えていた。しかし、研究を進めるなかで、その価値観の明解さとそれを実現するための工夫の宝庫であることに気づき、強い関心を持つようになったのである。

日本での「コミュニティ・マネージメント」の導入を考えると、日本では難しい点が多いと反論されるかもしれない。これは行政側や政治の問題だけではなく、地域社会側の問題もあるだろう。すでに存在する団体同士が対立し、円滑な協力関係が構築できないなどの問題を有する地域は多い。また、集団トップの考え方次第で、関係性を構築することに消極的になったり積極的になったりと方向性が大きく変わることも少なくない。他の集団と連携することを強調しすぎると、集団のなかで孤立することもある。したがって、まず地域内のソーシャル・キャピタルの形成という点でつまずくことも大いに考えられる。

しかし一方で、日本はドイツのような移民社会ではないので、例えばコミュニティのなかで言語能力の問題によってコミュニケーションが不足することはなく、また、社会参加をする風習を持たない人々に参加を進めるような状況になることは少ない。学校以外に地域団体がまったく存在しないという地域は、ドイツの衰退地域には存在するが、日本にはほとんどないであろう。したがって、日本の方がドイツよりも「コミュニティ・マネージメント」を進めることが困難とはいえないのである。

むしろ日本においては、コミュニティで様々な集団との協力関係をつくるための動機づけが各団体に適切に与えられ、従来の関係性を打ち破る外部からの働きかけがあり、それを支える仕組みが形成されれば、大いに進展していくと期待される。すなわち、協力関係を構築する動機づけがされ、しかも外部の第三者、例えばマネージャーからの働きかけがあり、さらに支援する仕組みができるという見通しが立てば、その必要性のある地域は、協力関係が形成されうる。これは、すべて本書で紹介した「コミュニティ・マネージメント」そのものである。

コミュニティ・マネージメントは、行政支援の方法や期間、実施体制、評価方法、人材育成方法と職業の確立など、まだ発展途上の部分も多く含んでいる。行政が支援する地域と地域に対応した段階別の支援方法はどうあるべきか、パートナーシップの形成をどのように推進し動機づけることが効果的か、どのように評価するか、統合型アプローチを発展させどのように評価するかなど、検討すべき課題も多い。また、このよう地域再生政策は、政治の影響を受けやすいが、地域社会やコミュニティ・マネージャーが振り回されすぎないような安定した仕組みも必要に思える。これらは、今後ドイツでもさらに発展させるべきと考えるが、日本でも適切な仕組みづくりや動機づけを行う上で検討が必要である。

なお、本研究は、報告書やウェブサイト、実地調査とインタビュー、社会都市の専門家との議論をもとにまとめたものである。また、2006~2008年度の日本学術振興会科学研究費補助金・基盤研究(C)の「ドイツの社会都市プログラムの事業運用に関する研究」の成果をもとにしている。研究を進める上で、多くのドイツの自治体の担当者、コミュニティ・マネージャーの方々、地域団体の方々に、お忙しいなか丁寧に対応していただいた。ドイツ都市問題機構(Difu)のトーマス・フランケ氏(Mr. Georg. Thomas Franke)、土地・都市再生研究機構(ILS)のラルフ・ツィンマーヘクマン氏(Mr. Ralf Zimmer-Hegmann)、ベルリン市フィリップ・ミュールベルク氏(Mr. Philipp Muhlberg)、プラナーラーデンのライナー・シュタオバハ教授(Prof. Dr. Reiner Staubach)には、「社会都市」に関する様々なご教示をいただき多くの示唆をいただいた。アンドレア・アントリーニ氏(Dr. Andrea Antolini)には、ドイツの団体や住民参加を教えていただいた。最後に、学芸出版社の前田裕資氏には様々なアドバイスをいただき、森國洋行氏には具体的な指摘をいただいた。ご協力下さり、様々なご教示や示唆、アドバイスをいただいた皆様に心より感謝を申し上げます。

2010年4月

室田昌子

衰退地区の再生を目指す、ドイツの「社会都市」のことは以前から気になっていた。だいぶ前に別件でベルリンに調査にいった折、こちらが聞いてもいないのに、省の広報部の担当者から「『社会都市』についても紹介させてください」と頼まれるほどの肝いりの政策だった。その熱の入れようは、ドイツに精通する著者をして「政策能力や実効力の高さに脱帽する」と言わしめるほど、構想力が高くかつ精緻な政策の仕組みに反映されている。

統合的アプローチによるコミュニティ・マネージメントを推進する「社会都市」政策は、ドイツ各都市で指定された衰退地区約5~600ヶ所(平均人口8000人程度)を対象に、多様な主体を巻き込みながら総合的な改善を行政が支援する、10年超の長期的な取り組みである。地区をめぐる多主体の多様な事業や取り組みを連動させ、シナジー効果によって個々の事業だけでなく地区全体の改善効果を高めていくための様々な具体的な仕掛けが施されている。そして施策の開始から約10年が経った今、多くの地区で成果を上げつつある。

「社会都市」の理念、政策の枠組み、推進体制、個々の事業、そして評価に至るまで、ロジカルで合理的な思考に基づいた政策が、いかにもドイツらしい。Bプランや中心地の設定など、ドイツの機能的なまちづくりは多く紹介されてきたが、最も捉え方の難しいコミュニティの施策でもその「らしさ」が伺える。
本書自体にも「ドイツらしさ」が感じられる。コミュニティ政策の報告・研究にありがちな経験論やべき論は抑えられ、ドイツ都市問題機構の調査や筆者自身の実証研究を基にした、客観的な説明と論理的な主張が順序よく配置されているので、読みやすい。いわゆるコミュニティ礼賛派・ソーシャルキャピタル信者だけでなく、コミュニティに対し冷めた目を持ちつつも、これから人口減少と高齢化が進む日本の衰退地区に関心を寄せる人たちにこそ、本書を是非勧めたい。日本とドイツを対比して論ずる結章まで読めば、本書の内容と主張の重要性が必ず理解されるだろう。

(大阪市立大学大学院創造都市研究科准教授/瀬田史彦)


ドイツ、特に旧東ドイツ地域は、日本と比較しても急速に人口減少・少子高齢化が進行し、さらには移民・貧困問題を抱えている地域が少なくない。本書は、そのような問題地区を中心に520箇所で適用されているコミュニティマネジメントプログラムである「社会都市」プログラムに焦点を当てて、その内容と効果・課題を明らかにしている。

本書は三編から構成されている。第一篇には、「社会都市」プログラムに関する基礎的包括的な情報が書かれている。第二編には、その「社会都市」プログラムにおけるコミュニティマネジメントの推進体制や活動内容などが豊富な事例を交えつつ各論的に書かれている。そして第三篇には、ドルトムント市とハンブルク市の事例をもとに、これらの論点の実態が横断的に記述されている。さらに結章では、日本への適用可能性について具体的に示されている。

書かれている内容は網羅的かつ体系的で、コミュニティマネジメントを進めるにあたっての教科書といえるものになっている。課題の多くはわが国と共通するものであり、結章の提案も含めて、非常に興味深い内容になっている。
本書の要点を評者なりに一言でまとめると、「『つなげるまちづくり』の重要性」といえるだろう。人と人をつなげ、組織と組織をつなげ、事業と事業をつなげる。それによってシナジー効果が生まれ、さらに新たなステージへと展開していく。したがって、評価も「つながり」の評価になる。

その中心にいるのがコミュニティマネージャーである。ドイツでは(多くはないとはいうものの)そのための補助金が出されるが、日本には(中活の枠組みでのタウンマネージャーはあるが)そのような制度はない。もちろんその背景には、地区問題が外国のような治安問題にまでは発展しておらず「切羽詰り感」がないこともあるだろうが、その機能の重要性は明らかである。本書でもこれに関する提案がなされているが、この点のわが国なりの解決が急務だと感じた。

(東北大学大学院工学研究科准教授/姥浦道生)


担当編集者より

書名にはだしていないが、ドイツの社会都市という事業を取り上げた本だ。
ドイツも日本同様に衰退が目立つ地域を多く抱えている。移民問題も大変で、コミュニティが体をなしていない地域もある。そこを、どうやって持続可能なコミュニティに再生するのか?

社会都市で真っ先に取り組むのはコミュニティ・エンパワメント。そのためにコミュニティ・ビューローを開設し、コミュニティ・マネージャーを雇うという。その際、建築・都市計画・住宅などの専門家と、教育・福祉・労働・ソーシャルサービスの専門家が、ペアとなるのが理想だそうだ。

日本では、せっかくまちづくりコーディネーターが行政から派遣されても、それは地区計画や区画整理といった事業を前提とした枠組みのなかでの支援で、地区の差し迫った問題とずれてしまうこともあると聞く。その点、コミュニティ・エンパワメントに最初に取り組むという仕組みは優れていると思う。
また、この事業に使われているお金は大きくない。全体で120億円/年程度で、1箇所当たり数千万円/年だ。

消費税だ、財政再建だ、徹底したムダ削除だと騒がしいが、出すべきところに出してもらうために税金を払っているのだ。まして地域が崩壊したら、その後始末がどれほど大変か。

日本とは社会背景も制度も異なる。だが、この例は衰退と向き合わなければならない日本にきっと大きな示唆を与えられると思う。是非、お読みください。

(Ma)