持続可能なまちは小さく、美しい


笠松和市・佐藤由美 著

内容紹介

衰退から再生へ、地方の現状を打破する挑戦

人口2000人、高齢化率48%。グローバリゼーションに晒され、高齢化・過疎化の只中にある徳島県上勝町。その町がゴミの34分別で8割を再資源化、お年寄りが木の葉を売るいろどりビジネスなど、時代を先取りするユニークな取り組みで注目を集める。地方の現状を打破し、衰退から再生への、揺るぎないまちづくりの挑戦。

体 裁 四六・208頁・定価 本体1500円+税
ISBN 978-4-7615-1245-3
発行日 2008-06-10
装 丁 上野 かおる


目次著者紹介まえがきあとがき読者レビュー

はじめに

1章 構想力──夢は大きな方がいい

1 小さな町の大きな目標
2 失われた持続可能性を取り戻す
3 世界に希望を示したい

2章 人間力──まちづくりは人づくり

1 米づくりが農村景観をつくった
2 食料貿易より食料自給を
3 バナナがみかんを駆逐した
4 木の葉っぱを売ろう!
5 二億六〇〇〇万円産業に成長
6 産業福祉が高齢化社会を救う
7 起死回生のまちづくり計画
8 地域の夢をみんなで描こう
9 「真善美」と出会う
10 仕事がないなら自分でつくろう
11 持続可能な地域社会の基盤は持続可能な農業

3章 環境力──すべてのごみは資源である

1 「ごみ処理に税金は使わない」
2 生ごみの全量を堆肥に
3 資源持ち込み方式の誕生
4 ごみを介した助け合いが生まれる
5 三四分別でごみの八〇%を資源化
6 処理対策ではなく発生抑制政策を
7 エネルギーの回収よりリユース・リサイクル
8 日本初のゼロ・ウェイスト宣言
9 ゼロ・ウェイストアカデミーの設立
10 資源回収法で環境産業革命を起こそう
11 ゼロ・ウェイストはどこでもできる
12 資源が世界から押し寄せる
13 すべての環境問題はごみ問題である

4章 自然力──森の力を生かす

1 莚旗を掲げろ!
2 木材は輸入できても、環境は輸入できない
3 木材も地産地消
4 第二の燃料革命を起こす
5 森林と農地の荒廃を食い止める
6 みんなの森をみんなで守ろう

5章 再生力──世界初!持続可能な地域をつくる

1 住宅政策で人口が増加
2 交流から定住へ
3 集落再生!
4 グローバルからローカルへ
5 持続可能な地域は小さく、美しい

おわりに

笠松和市〔かさまつ かずいち〕

徳島県上勝町長。1946年徳島県上勝町生まれ。1964年徳島県立農業高等学校園芸科卒業、同年上勝町役場就職、2001年上勝町長に就任、現在2期目。第三セクター㈱いろどりほか3社の代表取締役、1社の取締役を務める。2005年日本で初めて「2020年ごみゼロ(ゼロ・ウェイスト)宣言」をし、現在上勝町では約80%のごみを再資源化している。ゴミ問題、環境問題に関する講演多数。著書に『山村の未来に挑む』(共著、自治体研究社)などがある。

佐藤由美〔さとう ゆみ〕

環境ジャーナリスト。1961年山形県酒田市生まれ。エネルギー問題をはじめ環境問題を取材している。1999年「いろどり」の取材で初めて上勝町を訪れ、その後もゼロ・ウェイストや小水力発電などの取材を行う。著書に『自然エネルギーが地域を変える』(学芸出版社)などがある。

満開の桜の祝福を受けて、この春、徳島県上勝町の子どもたちが入学式を迎えました。今年の新入生は中学校で10人、小学校で13人でした。しかし、就学前の子どもになると、5歳児は9人、4歳児が17人、3歳児は10人、2歳児は6人、1歳児は9人、0歳児は7人しかいません。いずれ2学年を1学級に編制する複式学級になり、やがて閉校にでもなれば、子どもを持つ家庭はこの町に住みにくくなり、過疎化と少子化にいっそう拍車がかかります。

上勝町の人々は、山に木を植え、棚田を耕し、みかん畑を造成して懸命に働き、子どもを育ててきました。しかし、成長した子どもたちは高校、あるいは中学卒業と同時に町外に出て行かざるをえません。1965(昭和40)年ごろからこのような状態が続き、6000人を超えていた町の人口は3分の1以下の2000人にまで減少しました。高齢化率は50%に迫り、55ある集落の30までが限界集落になっています。このまま推移すれば町そのものが限界自治体になり、いずれ消滅してしまいます。

しかし、そんな小さな町にも、「持続可能な地域社会」をつくるという大きな目標があります。この目標を実現するには、より多くの人に農山村の実情を知っていただき、力を合わせて環境と経済が調和した持続可能な社会の実現を図らなければならないという思いから、本書の上梓を考えるようになりました。この本は、木材とエネルギーの生産地だった山村が経済のグローバル化によって外国産材と化石燃料の消費地になったことを明らかにし、その結果もたらされたさまざまな問題を解決するために上勝町がどんな努力を続けてきたのかをまとめてあります。さらに、各地に持続可能性を取り戻す方策として「資源回収法」(仮称)と「過疎過密国土荒廃防止法」(仮称)を提案しています。

幸いなことに、希望の端緒はたくさんあります。木の葉を商品にする「いろどり農業」や、34分別によるごみの減量などが注目を浴び、毎年人口の2倍以上の視察者がこの町を訪れています。ワーキングホリデーや棚田オーナー制度をはじめとする交流を通して定住者も増え、町に活気が出てきました。2006(平成18)年には全町に光ファイバー網を敷設し、この町にいながら世界の情報を受発信し、ビジネスができる環境を整えました。昨年はマイクロソフト株式会社と「ICT(情報通信技術)を利活用した地域振興に関する覚え書き」を締結し、ICTによる活性化を検討しています。

農山村を取り巻く構造的な問題は日本だけでなく、世界でも変わりがありません。上勝町の事例を通して、なぜ世界は持続不可能になったのか、どうすれば持続可能な社会を再構築できるのかを考える契機にしていただければ幸いです。この町の目標である持続可能な地域社会が実現すれば、町民はもとより、世界中の人々が夢と希望を持つことができると信じています。

笠松和市

初めて上勝町を訪れてから、9年がたちました。その間、いろどり農業やゼロ・ウェイスト政策などの取材をするうちに、町職員の東ひとみさんが町の人たちの中に分け入る扉を開いてくれ、たくさんの人たちと知遇を得ることができました。町長の笠松和市さんもその1人です。こうして、この本をまとめる素地が生まれました。

本の内容についての笠松さんとの話し合いは、楽しいものでした。たとえば、笠松さんがすべてのごみを有価で回収する「資源回収法」(仮称)について説明をします。これに対して私が、ごみには排水のような液体や、排ガスのような気体もあると応じます。すると、次に会うときには、笠松さんは資源回収法では固体のごみだけでなく、液体のごみや気体のごみも有価での回収を義務づけようというように、内容が進化していきました。

この本は当初、上勝町のまちづくりについてまとめる予定でした。しかし、笠松さんをはじめ、多くの方々から木材とみかん景気に沸く半世紀前の町の様子を聞くにつれ、豊かだったこの山村が衰退した原因を考えるようになり、グローバリゼーションの影響に言及することにしました。そのため、原稿の完成には予定より時間がかかってしまいましたが、つたないながらも、現在の段階で私なりに考えたことをまとめることができたと思います。

原稿をまとめているうちに、わかったことがあります。それは、農業を衰退へと導いた農業基本法は私が生まれた1961(昭和36)年に制定され、農産物や林産物の輸入自由化も同じ時期に始まっていることでした。上勝町に起きたことは、東北の農村で生まれ育った私にとっても、いつか考えなければならない自分自身の問題だったのです。そして、そのテーマを考える舞台が、自分の故郷ではなく、上勝町になったのは、私にとって幸運だったと思います。知名度の高い自治体の事例を通して、農山村が抱える問題をより多くの人に知ってもらう機会に恵まれたからです。この本は、上勝町を襲ったグローバリゼーションの影響を、この町がどう乗り越えようとしたのかを記録していますが、農山村に押し寄せる大きな力はどの地域にも共通したものであり、持続可能性を再構築するために何が必要なのかを多くの人に考えていただくきっかけになることを祈っています。

上勝町の取材では、多くの方々にご協力いただきました。特に渡辺愚風・厚子さん夫妻、高橋信幸・小枝子さん夫妻、笠松和市・広美さん夫妻にはいつも、快適な宿と心まで癒される食事をご用意いただきました。赤澤唯夫さん、城田清志さんには、上勝町の様子を伝える貴重な写真を提供していただきました。また、前作に続き、学芸出版社の宮本裕美さんには編集全般にわたって、たいへんお世話になりました。どの人の協力がなくとも、この本が完成することはありませんでした。ご協力くださいましたすべての方々に、心よりお礼申し上げます。

佐藤由美

ビールの空き缶はポイ捨てされるが、ビールの瓶はごみにならない。瓶は酒屋に持っていくと5円で引き取ってくれるからだ。そして商品の流通と逆ルートをたどってビール会社に回収され、再利用される。この仕組みをすべての製品に適用する法律、「資源回収法」の制定でごみのない社会を作ろう。これは本書の提言の一つである。

提言は思いつきで出てきたものではない。著者が町長をつとめる徳島県上勝町の実践にもとづいている。人口2千人と徳島県で最小の町は、2020年までにごみを出さなくする「ゼロ・ウェイスト」を宣言した。そしてごみを34種類にも分別し80%のリサイクルに成功した。でも一つの町だけではごみをゼロにできない。県や国そして世界のシステムを変えなくてはならない。そこで出てきた一つの提言が「資源回収法」制定である。

いまこの小さな町は、今世紀末までに「持続可能な地域社会」を実現するという大きな目標を掲げている。外国からの安い作物や木材の流入で、農業、林業が衰退し、若者は都会へと去った。この半世紀に人口が3分の1以下になり、町は高齢化と過疎化にあえぐ。本書は、町財政の悪化、大気や水質の汚染、森林の荒廃、災害の多発などを起こし共同体を持続不可能にしたのは、グローバリゼーションだと喝破する。これに対抗して「持続可能な地域社会」を実現するには、産業、環境、福祉など多分野での解決を一体として進めなければならないと言う。私は、これこそ環境危機への唯一の処方箋だと思う。

ここ数年、上勝町の町づくりは注目を浴びている。昨年度は、海外21カ国を含め国内外から町の人口の倍以上、4500人もの視察者が訪れたほどだ。この町は日本と世界の未来を切り開く可能性を秘めている。本書が単なる教養の書としてではなく、日本発の「世直し」の手引きとして実践的に読まれることを期待したい。
(テレビ制作会社ジン・ネット代表/高世仁)

担当編集者より

数年前、本書の著者の一人、環境ジャーナリストの佐藤由美さんから教えてもらった徳島県上勝町という町。その後、どんどんメディアで報道されるようになり、いまや日本で最も注目を集める町の一つとなった。その取り組みは広く知られるようになったが、本書ではさらに踏み込んで、なぜそのような取り組みをしなくてはならなかったのか、どのようにそれを実現していったか、という上勝町の原動力を丁寧に追っている。町長が気骨に溢れ、人々が輝きを放つ町が教えてくれる、未来の社会のために自ら行動を起こす勇気を是非多くの方々に共有してもらいたい。

(MY)