中心市街地活性化三法改正とまちづくり
内容紹介
狙いと課題を様々な立場、先行事例から提示
三法改正の狙いと課題を、国交省・経産省担当者をはじめ多様な立場から論じ、さらに「広域の都市圏構造をいかに再構築するか」「まちづくり組織はいかにあるべきか」について多数の事例により詳述する。寄稿者:石原武政、中沢孝夫、木田清和、光武顕、中出文平、北原啓司、服部年明、庄司裕、卯月盛夫、三橋重昭ほか多数。
体 裁 B5変・272頁・定価 本体3800円+税
ISBN 978-4-7615-3143-0
発行日 2006-09-10
装 丁 古都デザイン
まえがき
1部 法改正のねらいと課題
1・1 まちづくり三法改正のねらいと土地利用の課題
(大阪市立大学大学院創造都市研究科教授 矢作 弘)
1 まちづくり三法改正の背景
2 まちは急には変われない
3 大型店規制:米国発最新ニュース
4 改正都市計画法をめぐる争点
1・2 中心市街地活性化から見た三法見直しのねらい
(経済産業省商務流通G中心市街地活性化室、経済産業省中小企業庁経営支援部商業課)
1 見直しに至った背景
2 見直しの内容
3 今後の進め方
1・3 都市計画法等改正の本当の意味
( 国土交通省国土技術政策総合研究所都市計画研究室長 明石達生)
1 本当の目的は商店街の再生ではない
2 地方分権が目的だった98年の法改正
3 「都市計画法が機能していない」という批判
4 大規模店舗は市町村間の競合問題
5 少数の巨大店舗の甚大なる影響力
6 なぜヨーロッパのようにできないのか
7 都市計画のイニシアチブを取り戻す
8 広域行政庁の関与
9 公共公益施設の郊外移転問題
10 都市計画提案制度の拡充
11 都市の維持・運営コストを管理する
1・4 人口減少社会における広域都市計画の必要性と課題
(大阪市立大学大学院創造都市研究科助教授 瀬田史彦)
1 広域政府による大型商業施設の立地規制・調整
2 兵庫県:立地を誘導すべき地域を図示したガイドライン
3 山形県:市町村同士の調整を主眼とした要綱
4 法改正後の都市計画制度の課題
1・5 TMOへの期待と現実
(関西学院大学教授 石原武政)
1 TMOへの期待と意図
2 なぜうまくいかなかったのか?
3 新たな制度の下で
1・6 商店街はどのようによみがえるか
(兵庫県立大学環境人間学部教授 中沢孝夫、 兵庫県議会議員 栗原 一)
1 はじまりは地域へのご恩返し:ボランティア精神
2 山あいの肉屋さんの話:家族経営の強さと限界
3 アメリカ・バークレー市の事例:空家への強いペナルティ
4 新しい法律とまちづくり:求められる当事者の自律
2部 都市圏構造の課題
2・1 福島県商業まちづくり推進条例制定のねらいと広域調整の手法
(大阪市立大学大学院創造都市研究科教授 矢作 弘)
1 商業まちづくり推進条例の目的と背景
2 大型店広域調整の必要性と方向性
3 「中心地優先」とドイツの「中心地システム」
4 商業まちづくり推進条例の評価
2・2 尼崎市の商業立地政策
(尼崎市産業立地課参事 木田清和)
1 尼崎はものづくりのまち
2 ガイドラインはなぜ必要か
3 商業立地ガイドライン
4 実効性を確保するために
5 成果と課題
2・3 佐世保市への大型店進出問題を振り返って
(佐世保市長 光武 顕)
1 佐世保市のまちの変遷
2 大型SCの出店計画概要
3 佐世保市のまちづくりの考え方
4 佐世保市の商業の現状
5 今回の大型店出店予定地(相浦地区)
6 出店計画発表以降の市民の動きと佐世保市の対応
7 佐世保市の判断を振り返って
2・4 都市圏構造再構築をめざす長岡市
(長岡技術科学大学教授 中出文平)
1 拡大指向だったこれまでの経緯とその後に迎えた転換期
2 構造改革会議の提言とその後
3 都市圏再構築を目指して
2・5 コンパクトシティと街なか居住~青森市を事例に~
(弘前大学大学院地域社会研究科教授 北原啓司)
1 東北地方のコンパクトシティ論
2 青森市における「街なか居住」の実需
2・6 交通政策と中心市街地活性化~京都・金沢・青森を例に~
(まち創生研究所・代表取締役 酒井 弘)
1 京都市の中心部の交通政策
2 中心市街地活性化と交通
3 クルマ依存の高い地方都市はどうあるべきか
3部 まちづくり組織の課題
3・1 TMO㈱伏見夢工房~住民と地域全体をまきこんだまちづくり~
(大阪市立大学大学院創造都市研究科 山田奈津)
1 厳しい旧まちづくり三法への評価
2 伏見のTMO活動の前史
3 TMOの指定
4 TMO㈱伏見夢工房の活動
5 TMO活動の成果と課題:住んでよし、訪れてよしの伏見へ
3・2 ㈱まちづくり長野~生活空間をまちなかに集積させる~
(中心市街地商業活性化アドバイザー 服部年明)
1 中心市街地活性化へ、行政・TMOが口火を切る
2 行政、TMOが口火を切ることで民間が動く
3 一歩ずつ進めるまちづくり、継続できるか
4 まちづくりは、自らが行動せよ
3・3 ㈱金沢商業活性化センター~TMOは街を個性化できたか~
(金沢工業大学環境・建築学部講師 遠藤 新)
1 タウンマネジメントの構図:金沢TMOがつなぐ二つの協議会
2 ハード整備の成果:魅力ある商業環境の形成
3 ソフト事業の成果:人・組織・街をつなぐTMO
4 個性あるまちづくりを補完するTMO
3・4 ㈱出石まちづくり公社~地域まちづくりの担い手へ~
(㈱出石まちづくり公社 上坂卓雄)
1 城下町出石の歴史と人、文化
2 出石のまちづくりの歩み
3 まちづくり公社の設立とTMO事業
4 観光協会のNPO法人化とこれからの戦略
3・5 まちづくりAnjo~地域ぐるみの組織づくり~
(まちづくりAnjo事務局長 鶴田伸也)
1 まちづくりAnjoとは
2 商店街、地域住民、関係者への周知啓蒙
3 まちづくりAnjoの主な主体事業
4 やる気のある商業者を集める「商業塾」
5 今後の活動
3・6 七日町通りまちなみ協議会~都市型観光と商店街の活性化~
(七日町通りまちなみ協議会副会長 庄司 裕)
1 街がよみがえる
2 TMOの設立、女性・若者との連携
3 歴史観光から都市型観光へ
4 まちづくりの課題
3・7 熊本市中心商店街~マチの素材を活かす地域連携とソフト対応~
(熊本大学大学院自然科学研究科(建築系)教授 両角光男)
1 若者で賑わう中心商店街
2 熊本市中心商店街のプロフィール
3 若者で賑わう商店街の秘密
4 賑わい創出のまちづくりに向けた地域の連携体制構築
5 中心市街地活性化のまちづくりのうねりを作る
3・8 高松丸亀町商店街~商店街による自律的再開発を目指す~
(四国新聞社編集局報道部記者 山田明広)
1 持続可能な商店街を目指して
2 高松市と丸亀町商店街
3 5年で一新:丸亀町商店街再開発事業の全容
4 タウンマネジメント・プログラムの策定
5 G街区の行方と今後の課題
3・9 新開地まちづくりNPO~本当に実践されるタウンマネージメント~
(新開地まちづくりNPO事務局長 古田篤司)
1 新開地まちづくりの意義:タウンマネージメントのフレームを提示
2 神戸・新開地地区の概要
3 地区主導のまちづくり展開へ
4 新開地から見えたタウンマネージメントの実践セオリー
5 果実が得られるターニングポイントに立つ
3・10 横浜元町エスエス会~50年におよぶタウンマネージメントの実践~
(NPO法人まちづくり協会理事長 三橋重昭)
1 元町商店街の歴史
2 街づくりの取り組みの経緯
3 タウンマネージメントの実践
3・11 自由ヶ丘TMOとまち運営会議~商業者の枠を超えた自治への模索~
(早稲田大学芸術学校教授 卯月盛夫)
1 自由ヶ丘の沿革
2 商店街の発展と地域の取り組み
3 TMOとまち運営会議:住民自治への試み
4 駅前広場の改善とトランジットモール構想
3・12 旧居留地連絡協議会~街のブランド化を下支えする企業コミュニティ~
(㈱地域問題研究所 山本俊貞)
1 近代神戸発祥の地「旧居留地」
2 企業市民の集まり「旧居留地連絡協議会」
3 企業市民による「街並みづくり」
4 企業コミュニティが可能とした「安全まちづくり」の計画策定
5 企業市民のまちづくり活動が支える旧居留地の活性化
付録
資料1:社会資本整備審議会 新しい時代の都市計画はいかにあるべきか(第一次答申)概要
資料2:中心市街地活性化法の改正の概要
資料3:新中活法における基本計画について
資料4:中心市街地活性化協議会について
資料5:中心市街地再生の推進:国土交通省の振興方策
資料6:平成18年度 経済産業省 中心市街地支援措置
わが国は人口減少社会を迎えた。既に地方での高齢化は急ピッチだが、国全体の高齢化も急進展する。人口減少時代の都市形態をどのように描き、そこに暮らすひとびとの価値観とライフスタイルがどのように変化するのかを見極めなければならない。一方で環境容量が枯渇してきている。それらのことを考えれば、これまでのような拡張主義的な都市づくりから脱却しなければならないことは明らかである。既存の都市資源を有効に活用しながら、環境負荷を軽減する方向で都市構造を再編しなければならない。それが持続可能な都市づくりにつながる。また、21世紀前半に日本社会が対応を求められる急迫の課題でもある。
今度の中心市街地活性化三法(*)の改正にも、そうした時代認識がある。20世紀後半以降最近までの少なくとも4半世紀の間に、欧米諸国都市で共通して観察されるようになった都市づくりの傾向は、都市規模を限りなく拡散するような開発主義に対する反省である。具体的には車に過度に依存することなく、公共交通機関を活用し、できる限り歩いて暮らせるまちづくりであり、歴史的空間を保存し、緑地空間を再生することであった。大型店の郊外立地についても共通して規制強化に向かっている。その意味でまちづくり関連三法、特に改正都市計画法が中心市街地重視の姿勢を明確に打ち出したことは、欧米諸国と足並みを揃えるものであり、評価に値する。
編集にあたっては、当該法令を所管する関連省庁の担当者らに法改正の背景、狙い、課題などについて執筆していただいた。改正された条文の解釈、あるいは条文の行間を読み解くのに役立つものと思う。ほかに筆者は地方自治体の行政マン、まちづくりコンサルタント、まちづくりNPOの市民派活動家、ジャーナリスト、そして大学人など広範囲に及ぶ。肩肘張った学術的な論文集とするよりは、実際にまちでなにが起きているのか──まちづくりの成功譚、失敗話を現場発で報告してもらうことを重視したためである。
先端的な中心市街地活性化の取り組みや条例づくりを豊富に紹介している。当然のこととしてそれらの事例について学問的な意味解釈も記載するように努めた。事例を通して学び、読者のまちづくりに生かしていただきたいというのが編者の願いである。海外の話題も随所に散りばめることによって日本との比較考慮できるように心がけた。
したがって読者層としては研究者に止まらず、行政職員、まちづくり運動家、商業者、デベロッパー、地方都市商業の再生に関与している地銀や信金などの金融職員、商工業団体職員などを想定している。本書の出版が潤いのある、豊かな都市空間の形成に幾分かでも寄与することができれば編者の喜びとするところである。
2006年7月末
矢作 弘・瀬田史彦
*中心市街地活性化法、改正都市計画法、大規模小売店舗立地法。まちづくり三法とも呼ばれる。
『地域開発』((財)日本地域開発センター)2006.11
今年6月に都市計画法が改正になり、大型店の立地が都市計画区域の9割以上で制限されることになった。これまでは同区域の9割で自由に立地できたとされるから大きな変化である。90年代以降都市計画が規制緩和の道を歩んできたと受け止められているので、この変化は注目に値する。しかし、テーマは中心市街地活性化、中でも中心商店街の活性化である。そう簡単ではない。評者は中小企業庁がまとめたがんばる商店街77選の選定に加わったのだが、様々な試みが功を奏して商店街や中心市街地が実際に元気になったところを選ぼうとするととても大変なので、ともかく商店街や中心市街地を活性化させようと意気込みの感じられる事業を企てたところは他の参考になるとして取り上げることにした。それでも目標の100を選ぶのは大変で、次善の切りのいい数字77に落ち着いた。
本書は、そんな商店街や中心市街地の抱える問題を考え、また参考になる試みを知る上で格好の書である。「法改正のねらいと課題」という第1部では編者たちのものを含む6本の論文が商業問題(大型店に抗して在来商店街が売り上げや集客を伸ばせるのか?)と都市構造(都心の空洞化を伴う郊外化に歯止めがかかるのか?)に関わる諸論点に深みのある議論を展開する。特に、法改正の中心となった経済産業省と国土交通省の担当者による寄稿と研究者のそれとが組み合わされることによって、問題の深さが立体視できる。第2部(都市圏構造の課題)と第3部(まちづくり組織)では事例が取り上げられている。全部で18の豊富な事例紹介によって、各地で様々なアイデアが生まれ、実践に移されてきた経緯を俯瞰的に理解することができ、大いに参考になった。東京の事例の一つとして紹介されている自由ヶ丘でサンクスネイチャーバスと称して廃食用油を原料としたバスが複数の民間事業者の共同事業で来客サービスとして走っているのは知らなかった。合併により兵庫県豊岡市の一部となった出石町では、町民の手で城を復元した経験を生かし、株式会社組織の出石まちづくり公社を結成し、共同店舗事業で収益をあげ配当を行っている。ここまでのTMO成功例があるのは実に心強い。
現在、国では中心市街地活性化本部を設置し、基本方針を策定、市町村による活性化基本計画の作成を促している。計画ができれば、国による種々の支援が行われることになるが、評者はその際に中心商店街を構成する商店の淘汰が行われることは必須と思っている。商店への期待は、いいものを、豊富な品揃えで、安く提供してくれることに尽きる。このどこかが欠けている店は、結局長続きしない。その意味で、今回の中心市街地活性化三法の抜本改正は思い切った改革と思うが、商業に関してはこの根本問題を等閑視してはうまくいかない。そうならないためのヒントが本書にはいっぱい盛り込まれている。是非早めに手に取ることを薦めたい1冊である。
(東京大学・大西隆)