プロが教えるキッチン設計のコツ


井上まるみ 著

内容紹介

栄養士でもある女性建築家が実例から提案

栄養士でもある女性建築家が提案する、暮らしを見つめた、なるほど納得!のキッチン論。食事づくりを重視し、動線・収納・デザイン・価格・設計思想に至るまで、数多くの実例をもとに考え抜かれた目からウロコの知識満載。施主の「憧れ」だけに流されず、生活に根ざした設計で、住まいの心臓部「キッチン」をもっと豊かに!

体 裁 A5・224頁・定価 本体2300円+税
ISBN 978-4-7615-2334-3
発行日 2004-02-20
装 丁 前田 俊平


目次著者紹介あとがき読者レビュー

第1章 これでいいのか,日本のキッチン

Ⅰ キッチンの原点を考えていますか

キッチンを取り巻く困った現状

欧米のキッチンをそのまま真似ても

夢の中に100%入ってしまわないで

キッチンは生活すべての心臓のような場

Ⅱ システムキッチンの功罪を考える

システムキッチンってどんなもの?

疑問を感じる商品提案.メーカーの意識にも消費者の意識にも問題が……

キッチン改造の写真にはマジックがある

Ⅲ 住宅設計にも問題が山積み

ワンルームマンションのキッチンで料理できるか?

家族が住むことが前提の住宅なのに……

第2章 キッチンの意味はこんなに大きい

Ⅰ キッチンは食事づくりの場・健康づくりの場

身体は食べ物に支配されている

日本的食事のすばらしさを知ろう

変わってしまった日本の食事

個人の健康は国の健康にもつながる

Ⅱ キッチンは人生を豊かにする場

料理はとても楽しいレジャー

「男子厨房に入りたくなる」ためには……

Ⅲ キッチンは女性を応援する場

家事労働時間をスリムに

家族の誰もが食事づくりをすると……

料理づくりの嫌いな女性(主婦)もいます.しかし……

第3章 キッチンの設計はいつがスタート?

Ⅰ キッチンと住まいの設計は同時進行が理想

キッチン設計は遅すぎても早すぎても問題あり

キッチン設計,私の場合

Ⅱ 住宅図面がほぼ決まってからキッチン設計に取りかかると

早い段階であればキッチンとその周辺も含め考えることができる

「図面を一度決めたのだから変更されては困る」と言われる時も……

Ⅲ 工事が進行している中でキッチンの設計をすると

できるだけ早い段階の方がキズは少なくてすむ

取付けを前に「やっぱり納得がいかないキッチンはイヤ!!」と工事変更

第4章 キッチンのプランが暮らし方を決める

Ⅰ プランを考える前に知っておきたいこと

家族のこと,特に将来的な変化も考慮して

使い手の性格や家族のことを知る

住まいの諸条件を知る

雑談も大切な情報源

Ⅱ キッチンのスタイル別・押さえておくべきポイント

独立型キッチン

オープン型キッチン

アイランド型キッチン

セミオープン型キッチン

第5章 作業しやすいキッチンづくりの基本

Ⅰ キッチンの動線

スペース割りが大前提

キッチンのタイプ(I型・Ⅱ型・L型・U型)別のスペース割りと注意点

右利きのキッチン,左利きのキッチン

キッチン作業台の高さ

キッチンワークトップの奥行き

ワークトライアングルは意味があるか

実際のキッチン作業と人間工学という学問のズレ

Ⅱ キッチンの収納

使うものと使わないものの区別から

キッチンに必要な道具や材料

使う場所に見やすく,取り出しやすく収めやすくが基本

見える収納・見せない収納

空気を入れずにモノを入れよう

引き出しにすれば便利なのか?

第6章 キッチンの機器の選択

Ⅰ 機器を読み取る

キッチンの意味に大きく関係する機器

カタログ等の情報から読みとるもの

ビルトインするかしないか

Ⅱ キッチンの新・三種の神器

IH(電磁誘導加熱―Induction Heating)クッキングヒーター

下引き式の換気装置

食器洗い機(食器洗い乾燥機)

Ⅲ その他の機器

冷蔵庫

オーブンと電子レンジ

食器乾燥機

炊飯器・トースター・フードカッター・ジューサーミキサー・ポット・ホットプレート・コーヒーメーカーなどなど……

第7章 キッチンのデザインと素材

Ⅰ 建築のデザインとキッチンのデザイン

「トータルインテリア」という言葉が語られて久しくはなるが……

システムキッチンのデザインには落とし穴が……

Ⅱ 生活する前のデザイン,生活してからのデザイン

キッチンはモニュメントではない

図面がいくらきれいでも……

きれいなキッチンデザインにするポイント①

きれいなキッチンデザインにするポイント②

Ⅲ 扉材,ワークトップ材の選択

扉は主張しない色がいい

掃除のしやすい素材・デザインに

ワークトップの素材はいろいろあるが……

ステンレスはおしゃれじゃないか?

第8章 明るいキッチン

Ⅰ 光の取り入れ方

朝日の入るキッチンは気持ちいい

縦長の窓が効果的

Ⅱ 素材や照明で明るく

反射する色,吸収する色

照明の工夫で明るく

Ⅲ 心が明るくなるキッチン

第9章 決め手はキッチン設計者の腕にある

メーカーを選ぶのではなく,設計者を選ぶ時代

使いやすさは設計者の腕である

予算を有効に使うのも設計者の腕である(空間のつくり方編)

予算を有効に使うのも設計者の腕である(キッチンの組み合わせ方編)

建築設計者がすすめるキッチンの種類と予算組み

第10章 設計事例から考える

Ⅰ キッチンは食事づくりの場,健康づくりの場

食べることってなんとすばらしい! Nさん

どんどん料理をつくってしまうのよ Fさん

キッチン改造で,体脂肪率が減った!? Kさん

モニュメントキッチンから食事づくりキッチンへ Iさん

もう食事づくりを他人まかせにしない Sさん

Ⅱ キッチンは人生を楽しくする場,自立訓練の場

子供が手伝う「自立訓練」キッチン Tさん

定年退職後の楽しみに料理づくりが加わった Iさん

料理の楽しさに開眼した建築家 Kさん

学校帰りに立ち寄って「体験学習」 Hさん

老後も人を招いて楽しく過ごしたい Oさん

Ⅲ キッチンからこんな声が,こんな生活が

「僕が片付けておくよ」と変身した夫 Sさん

娘の社交場が自室からダイニングキッチンへ Uさん

仲良し家族をつくる二世帯住宅のキッチン Mさん

結婚15年目にして知った料理の趣味 Yさん

私って料理つくるの,好きだったみたい Mさん

ダイニングキッチンの改造が私を建築の道へ導いた Sさん

Ⅳ 狭くてもあきらめないで

25㎡に生活スペースを凝縮 Nさん

収納と作業スペースはしっかり確保して Hさん

「広い不幸」から「狭い幸せ」へ Aさん

第11章 キッチンをめぐるいろいろなドラマ

井上モジュールにびっくり,「こんなことをしたら大変だ」

思い込みの常識はキケン,実際を知ってほしい

常識をたくさん教えてくれる方々,しかしその常識ってほんと?

ヘソクリで思い通りのキッチンを手に入れた主婦たち

理解してもらえない嫁の立場

夫が熱心にキッチンづくりに参加して

家族の無理解に阻まれつつも,夢を捨てずに

第12章 設計者へ,そして施主へのメッセージ

キッチンに「正解」はないけれど……

やりかえは大変,後悔のないプランを

図面のきれいさ,実際のきれいさ

完成時のきれいさ,生活してのきれいさ

■やはり食事づくりは大切

井上まるみ

1972年 相模女子大学学芸学部食物学科卒業
同年 三重県立の高等学校教諭として,食物・被服・保育・家庭経営・住居を教える.
退職後,公立学校の講師・養護教諭・栄養士を経て建築・インテリアを学び,建築関連企業に籍を置く.
1980年 キッチンのコンサルタント事務所開設
1987年 住まいの研究室主宰

住宅設計・キッチン設計・キッチンスペシャリスト養成セミナー・リビングセミナー開講・インテリア専門学校講師・NHK文化センター講師・大阪府衛生対策審議会専門員等も務める.
現在 大阪府建築士会理事(建築相談委員・総務広報委員・住生活研究会・シックハウス研究会・女性委員会),東京建築士会会員,インテリアプランナー協会評議員・事業委員,日本建築協会出版委員,家庭電気文化会幹事,日本住宅会議会員
著書 『シニアライフ―魅力的な住まい方』(共著/創元社)
『建築を志す人びとへ』(共著/学芸出版社)

1988年に書いたエッセーを読むと…

これは私が1988年に書いた,「こんなキッチンがあればいいな」と題したエッセーです.少し長いですが引用しますので,読んでみてください.

「こんなキッチンがあればいいな」

お勝手,お台所,キッチン…….時代と共に呼び方も変わってきましたが,「お勝手」と呼ばれていた頃をしっていますか? 「勝手にしなさい!!」なんて言うものの,キッチンのことをお勝手とは言わなくなりましたね.お勝手とは,すべてのものに手が勝る空間,それがキッチンといわれています.そのお勝手で勝手に料理をしてみませんか?

さて皆さんは料理づくりは好きですか? 片付けは好きですか? 料理づくりも片付けも大好き,そして健康のことを考えてしっかりと料理をつくります,という方がいますね.この方々はキッチンも「弘法筆を選ばず」でしょうが,使いやすくて,明るくて,掃除しやすいキッチンならば一段と料理の腕に磨きがかかることでしょう.

料理は好きだけど片付けは大嫌い,という方が結構いらっしゃいますね.そんな方には後片付けの楽なキッチンがあればうれしいものです.食器も調理器具も機械におまかせ,散らかったキッチンの上は片付けロボットが元のところに収めたり掃除をしてくれる.人が後片付けをしなくてもピカピカのキッチンであれば,こんなうれしいことはないですね.しかし,片付けロボットがいないとなれば……さーてと…….

そうそう,「片付けは皆でやりましょう」と声をかけたり,作る人,片付ける人と分担するのはいかがでしょうか.散らかっていても気にならないキッチン,そんなキッチンはいかがですか.片付け大嫌いでもいいではないですか.ピカピカキッチンが一番ではなく,料理づくりが一番なのですから…….

では料理づくり嫌い!! 後片付けも嫌い!! という方のキッチンは……….キッチンなんてなければいいかも知れませんね.「わが家にはキッチンがないのですよ.だから料理したくてもできないの」なんて,すまし顔で言えそうですね.それとも,おしゃれなキッチンで飾っておきましょうか.料理は買ってきてパックを開けるだけ,さあご馳走のできあがり!! 後片付けも楽々楽々,これもいいかもしれません.

でも,ちょっと待って!! やはり健康を考えた食事づくりをしてほしいものです.そうそう,料理をレジャー気分で楽しく作れるキッチンがあればどうでしょうか.そして栄養や献立に頭を悩ませなくても健康管理をしてくれるキッチン.食品&健康管理メカステーション付きの,作業性がよく,明るく,きれいなキッチンです.
買い物をした食品は栄養チェック機能つき食品管理庫にストックされます.献立づくりは,体調や嗜好などをインプットすると,食品管理庫と連結されており,栄養をふまえたレシピを教えてくれ,作り方も必要に応じ映像で教えてくれるのです.調理機器はセルフクリーニング付き…….料理が苦手な人も遊び感覚で料理づくりや健康管理ができるのです.こんなメカステーションも夢ではないと思うのです.
「私,あまり料理しないのです」という奥様のキッチンを設計することになった時のことです.「料理づくりは楽しいわね」と変身されたのです.

変身!! そう!! 家族の皆さんも変身してみませんか? ご主人も子供達も料理づくり好き人間に変身してみませんか.きっと豊かな人生になることでしょう.そのためには,手伝いやすいキッチン,一緒に作業しやすいキッチン,そして,どこに何があるかがよくわかるキッチンはいかがでしょうか.

キッチンはお勝手です.主婦のみが料理をするのではなく,家族皆が,そして時には友達も「勝手に料理してね」そんなキッチンっていかがでしょうか.

これを書いてから16年もの歳月が流れた2004年ですが,この間にキッチンを取り巻く環境で変わったことといえば,「夢ではないと思うのです」と記したメカステーションが開発されだしたことくらいです.悲しいことにキッチンの本質(第1章・第2章)は忘れられたままであり,「こんなキッチンがあればいいな」には変わりがないのです.

キッチンの本質を忘れたキッチンでは困るといったものの……

これまで「モニュメントキッチンでは困る」と書いてきました.しかし「これもまたよし」の場合もあるのです.例えば仲間が集まるサロンスペースや音楽を楽しむスペース.そんな空間にモニュメントキッチンがあり,お酒とおつまみなどの用意がその空間でできればうれしいものです.

「ミニキッチンでは困る」とも書きました.しかしプレイルームに,水が出て飲み物のストックがあればうれしいものです.また,ベランダや庭でバーベキューを楽しもう! となれば,屋外OKのベランダキッチンはいかがでしょう.

庭があれば,薪や炭で料理ができるガーデンキッチンもいいですね.家庭菜園をしている家庭や農業をしている家庭,漬物や味噌など加工食品をたっぷり作る家庭などは,土間キッチンがあるといいでしょう.

まずは食事づくりがしっかりとでき,皆が楽しめる基本のキッチンがあることですが,その上でモニュメントキッチンやミニキッチン,土間キッチン,ベランダキッチン,ガーデンキッチンなど,もうひとつもうひとつ……とキッチンがある生活はいかがですか.

「はじめに」に記した「たかがキッチン」ですが,読み終えていただいた今,「されどキッチン」の意識をもっていただければ幸いです.
キッチンは「されどキッチン」なのです.

私はワンルームマンションに住んでいる。台所はいわゆるミニキッチンだ。1.5mの幅に電熱器が一つと、フライパンを入れればいっぱいになってしまうシンク、小さな吊り戸棚が付いている。

元々もの作りが好きで建築関係の仕事に就いた私は、料理も嫌いではない。後片付けをしないでいいなら、どちらかというと好きな部類だと思う。学生時代はほぼ毎日夕食を作っていた。

ところが、今の家に住み始めてから数年、ほとんど料理をしなくなっていることに気が付いた。理由を考えてみたら何のことはない、台所が非効率なのだ。水切りカゴを置く場所がない。調理台におけばまな板がはみ出る。まな板を置けば切った食材を置く場所がない。シンクに洗い物を溜めておけないので、一つ作業をするごとに調理器具を洗わなくてはならない。自然と作業が増え、それに従って料理がおっくうになる。仕事で疲れているのに、家に帰ってわざわざ料理などしたくなくなるのだ。

この本は食生活の大切さ、それを生み出すキッチンの重要性、そしてその計画手法について書かれたものである。自分で家事をする生活者として読めば、もっともかつ当たり前なことが書いてあるのだが、一人暮らしの友人宅や仕事で目にする住宅の図面では、全くと言っていいほど考えられていないであろう内容である。

これから家を建てようとする人の勉強にもいいと思う。しかしとにかく住宅の設計者やキッチンメーカーの人には是非一度読んでいただきたい。そして一月でもいい、毎日料理をする生活を体験してみてほしい。

そうすれば、今ちまたに出回っているキッチンが、いかに使いにくいものか理解できると思う。そして、そんな使いにくいキッチンが世の中から(たとえワンルームマンションでも)消えてなくなることを願う。

(地方公務員/荒木令子)

担当編集者から

単に「使いやすくておしゃれなキッチン」を作るための本ではありません。毎日の暮らしのなかで、「食べること」がいかに大切か、そのためにどんなキッチンを作ればいいのかということを長年追求してきた、著者の熱い思いを感じてください。

(G)