都市のデザイン

都市美研究会 編

内容紹介

美しい都市を再生するためのデザインの作法

これほどまでに多くの建設が積み重ねられ、個別には優れたデザインも生まれているにもかかわらず、何故、日本の都市は美しくならないのか。日本の都市の美しさとは何か、いかにしてそれをつくるのか。デザイナーはどこに目を配り、何をなすべきか。日本の都市でなおざりにされてきた「美しさ」を再生する為のデザインの作法。

体 裁 A5変・240頁・定価 本体2800円+税
ISBN 978-4-7615-2292-6
発行日 2002/08/30
装 丁 尾崎 閑也


目次著者紹介はじめに書評

序章:〈きわだつ〉デザインから〈おさまる〉デザインへ

井口勝文

日本における都市美の不在
連続する街並みの美しさ
空間の連続性が「都市の趣き」をつくる
空間の連続性とデザインの創造性
空間の連続性をつくる三つの課題
都市美の再生に向けて

1章:住処のけしき

樋口忠彦

都市景観の発見
心地よい生息適地の風景
日本のけしき

2章:自己実現の環境デザイン

丸茂弘幸

和を尊ぶ日本の乱雑な街
「よりどころ」から見た環境デザインの四段階
父性都市と母性都市
〈自己〉実現と環境デザイン
日本的〈自我〉と母性都市のデザイン

3章:都市デザインの思想と現在

土田旭

都市居住の場のデザイン
都市を設計しようとする試み
スーパーブロック開発から始まったアメリカ型アーバンデザイン
都市を崩す近代建築の思想と技術
都市景観向上の運動と都市環境デザイン
これからの都市の向かう方向

4章:町並みをまもり、育て、つくる

山崎正史

町並み保存のはじまり
町並み保存の特徴と手法
まちづくりとしての町並み整備
町並み景観の美を形づくるもの
各地の町並みの美の生かし方
町並み景観をまもり、育て、つくる手法

5章:都市と色彩

吉田慎悟

環境色彩計画とは
まちの色(環境色彩)を調査する[広島県西条]
まちの基調色をアーバンデザインに取り入れる[川崎市]
景観形成地区の色彩基準づくり[兵庫県出石町]
デザイン・コラボレーションによるまちづくり[幕張ベイタウン]

6章:都市の環境照明

面出薫

照明の役割の変遷-エジソン電球から発光ダイオードまで
照明の新たな役割-二〇世紀から学ぶ七つの反省点
二一世紀に期待される都市照明-安全な照明から快適な照明へ
東京臨海副都心で実現された新しい光環境

7章:都市のオープンスペース

宮前保子、井口勝文

オープンスペースの三つのモデル
人はオープンスペースに何を求めるのか
日本のオープンスペースをめぐる問題の所在
オープンスペースの構成とデザイン
オープンスペースの美を形成する作法

井口勝文

1941年福岡県生まれ。九州大学工学部建築学科卒業、同大学院博士課程修了。フィレンツェ大学留学(イタリア政府給費留学)。G・C・デカルロ都市・建築設計事務所、㈱竹中工務店を経て、現在、京都造形芸術大学環境デザイン学科教授、INOPLΛS都市建築デザイン研究所所長。著書に『都市環境デザイン』『フィレンツェの秋』など。

樋口忠彦

1944年埼玉県生まれ。東京大学工学部土木工学科卒業、同大学院工学系研究科博士課程修了。現在、新潟大学工学部建設学科教授。日本都市計画学会石川賞、サントリー学芸賞、土木学会著作賞、建築学会賞(業績)などを受賞。著書に『景観の構造』『日本の景観』『都市空間論』『郊外の風景』など。

丸茂弘幸

1943年神奈川県生まれ。東京大学工学部都市工学科卒業。同大学院修士課程修了。インドの都市計画・建築大学研究員。フィンランドのP・アホラ建築事務所、イギリスのミルトン・ケインズ開発公社勤務、広島大学講師を経て、現在、関西大学工学部建築学科教授。著書に『都市環境デザイン』『都市空間の回復』など。

土田旭

1937年兵庫県生まれ。東京大学工学部建築学科卒業、同大学院博士課程満期退学。同都市工学科助手を経て、㈱都市環境研究所設立、現在に至る。京都造形芸術大学客員教授。著書に『日本の都市空間』『アーバンデザイン 軌跡と実践手法』など。

山崎正史

1947年京都市生まれ。京都大学工学部建築学科卒業。㈱浦辺設計、京都大学工学部建築学科助手、立命館大学理工学部助教授を経て、現在、同大学教授。98年フランス国立科学研究所客員研究員としてパリに滞在。著書に『京の都市意匠-景観形成の伝統』など。

吉田慎悟

1949年生まれ。武蔵野美術大学基礎デザイン学科卒業後渡仏、J・Ph・ランクロ教授のアトリエで環境色彩計画を学ぶ。現在、カラープランニングセンター・カラリスト、武蔵野美術大学、九州芸術工科大学、京都造形芸術大学等の非常勤講師。著書に『都市と色彩』『まちの色をつくる』など。

面出薫

1950年東京生まれ。東京芸術大学美術研究科修士課程修了。90年㈱ライティング プランナーズ アソシエーツを設立。東京国際フォーラム、JR京都駅、仙台メディアテーク等の照明計画を担当。現在、武蔵野美術大学教授、市民参加の照明文化研究会「照明探偵団」団長としても活躍中。国際照明デザイン賞ほか受賞歴多数。著書に『あなたも照明探偵団』『建築照明の作法』など。

宮前保子

1951年大阪府生まれ。京都大学大学院農学研究科博士課程修了。㈱都市科学研究所、㈱荒木造園設計事務所を経て、90年㈱スペースビジョン研究所を設立。98~02年まで京都造形芸術大学助教授。現在、㈱スペースビジョン研究所所長。著書に『グリーンネットワークシティ』『〝イングリッシュガーデン〟の源流』など。

都市美の再生に向けて

日本の都市の美しさとは何か、いかにしてそれをつくるのか。デザイナーはどこに目を配り、何をなすべきかという認識から、2000年9月、京都北白川で都市美を考える研究会を催した。本書は、そのときの参加者の発言内容をもとに書き下ろした文章を編纂したものである。

8人の著者が一様に注目しているところがある。自分が今見ている風景、その場所における自分の感受性をデザインの基点に置くということである。それは場所から離れた処で考える、単純で観念的なデザインを避けるということである。

つまり、それは自分の目を信じるということだ。その場所が語りかけてくるものに反応する豊かな感受性と教養が試される。歴史の継承、変遷、そして現にそこで営まれている生活と空間。肌で感じとるそのような空間、場所から我々のデザインは発想される。その視点と手法が第1章から第7章に述べられる。

第1章「住処のけしき」(樋口忠彦)では、都市風景の発見の経緯をルネッサンスのイタリア以来のヨーロッパ、アメリカに探る。そのことによって同じく都市の文明を持ちながらも西洋とは異なる風景観を持つ中国、その影響を受けながら都市の文明を持たなかった日本の風景観の特異性を明らかにする。そこから我々が目指すべき日本の「都市の美しい風景」への道が提示される。

第2章「自己実現の環境デザイン」(丸茂弘幸)では、西洋の父性社会の都市と日本を含むアジアの母性社会の都市とを対置して、近代以降、圧倒的な情報やモノが海外から流れてくるなかで日本の母性都市が解体してしまい、危機に瀕している現状を指摘する。そして日本の母性都市を保つために今何をなすべきかを提示する。

第3章「都市デザインの思想と現在」(土田旭)では、第二次大戦以降に試みられたわが国の都市デザインの多様な経験を振り返り、そこで培われたデザインの手法と現代的課題を提示する。そしてますます重要となる都市デザインの社会的、文化的役割が明らかにされる。

第4章「町並みをまもり、育て、つくる」(山崎正史)では、伝統的町並みなど市民に愛され誇りとされる都市の景観には、いずれも「統一的多様性」というべきものが見られることに注目する。それが地域の都市空間文化であり、そのような都市の景観をつくるためのデザインの姿勢と手法、規制やコントロールのあり様について提言する。

第5章「都市と色彩」(吉田慎悟)では、環境色彩計画によって地域の景観に統一性と変化をつくり出す手法を紹介している。カラリストという新しい都市デザインの職能がつくる、より豊かで厚みのある風景の可能性が提案される。

第6章「都市の環境照明」(面出薫)では、安全と効率優先の過剰照明の現状を省みて、快適で美しい夜の景色をつくるには、まず光のダイエットが必要であることを説く。そのうえで光の絵筆を持って夜の闇に個性的な景観を描いていくという、都市における光のデザインを紹介する。

第7章「都市のオープンスペース」(宮前保子、井口勝文)では、都市の外部空間が建築物の外構やファサード等も含めて一体的に構想されるべきであること、そしてオープンスペースこそが都市の風景の主役であるべきことを、課題と手法を導きながら解き明かす。

8人に共通するデザインの視点は、場所の持つ個性をいかにつかみ、それをどう表現するかということである。

場所から発想し、空間の連続性をつくるデザインが重要であることを本書は説いている。

都市が空間の連続性を回復し、街並みの連続性をつくる方向に進み始めるには、我々デザイナーが身の回りの日常的な生活環境を尊重することが何よりも大切だ。路面に映る日差しや風の音、年を経た壁面の肌合い、季節によって趣きが変わる街の明かり、そのような身近な生活環境の価値を発見し、重視すること。そのような生活のクオリティ(豊かさ)を確かめるデザインの視点を持とう。そのことが、場所の持つ力を発見し、引き出し、活かし、強めるデザインにつながる。

一つの建築、一つの公園がいかに美しく個性的な空間を実現しているかということだけでなく、それらが連続することで生まれる空間の美しさを優先して評価するべきである。1個の建築物、1個の照明器具であっても、そのような視点でデザインするとき、それは「都市の」デザインである。そこでは一つの建築、一つの公園が必ずしも際立って目に映るものではないだろう。むしろその場所に静かに納まって目立たない存在であるかもしれない。しかし、そこにはある種の確かな趣きが感じられて、我々に感動を与えてくれる。そのような誇るべき都市美が我々の都市にも再生することを期待したい。

『地域開発』((財)日本地域開発センター) 2004. 1

日本の都市の美しさとは何か、いかにしてそれを作るのか。
本書は、2000年9月、京都で開催された「都市美を考える研究会」に参加した8人の都市デザイナー、研究者によって書かれたものであり、町並み保存、色彩、照明、オープンスペース等内容は多岐に渡るが、そこには「場所の持つ個性をいかにつかみ、それをどう表現するか」という共通した視点が存在する。

継承されてきた歴史や、現にそこで営まれている生活と空間。著者らは、場所から発想し、空間の連続性をつくるデザインの重要性を訴えている。肌で感じ取るそのような空間、場所から彼らのデザインは発想されており、その視点と手法が本書において述べられている。一個の建築物、一個の照明器具であっても、そのような視点でデザインされるとき、それは「都市の」デザインであり、そこにはある種の確かな趣が感じられて、人々に感動を与える。そのような誇るべき都市美が日本の都市にも再生することを期待せずにはいられなくなる一冊である。

『學鐙』(㈱丸善) 2002.11

一昨年開催された都市美を考える研究会に参加した8名の都市デザイナー・研究者の発言をもとに編集。日本における都市美の不在を指摘する樋口忠彦、環境色彩計画によって地域の景観と変化をつくりだす手法を紹介する吉田慎悟。面出薫は快適で美しい夜の景色をつくるにはまず光のダイエットが必要と説く。ほかに宮前保子・井口勝文による都市のオープンスペースの問題点とその解決法についてなど。