不動産プランナー流建築リノベーション

岸本千佳 著

内容紹介

設計デザインの前に事業計画のデザインを!空き家活用、移住促進など、地域再生の現場に必要なプロジェクトデザイン。エリア特性を読み込んだシェアアトリエ、観光客ではなく地元住民が立ち寄りたくなる小商い複合施設など、調査・企画から設計・募集・管理・運営まで一貫してマネジメントする気鋭プランナーの提案力に迫る

体 裁 四六・256頁・定価 本体2200円+税
ISBN 978-4-7615-2705-1
発行日 2019/06/01
装 丁 赤井佑輔(paragram)


目次著者紹介はじめにおわりに読者の声

はじめに

1章 人と街をプロデュースする不動産プランナーの仕事

プランナーの職能─プロジェクトの育て方

相談 「どうにかしてほしい」というオーナーに寄り添う
調査 街は歩いて情報収集する
企画 借り手が絶対に見つかる、不動産視点からの提案
設計・施工 企画に相応しいプロジェクトチームをつくる
募集 オーナー・物件と借り手の相性を重視
管理・運営 使い手の自主性を重んじ、サポートする

「不動産のプロ」がまちづくりに関わる意味

私が不動産プランナーになるまで① 建築を志す

2章 仲介のデザイン

──街と建物の価値を上げる

CASE 1 駐車場をバーに──エリアに望まれた夜の居場所

相談 仲介から始まる企画
活用 エリアはアンダーグラウンドなバーを求めていた
仲介 100人のまぁまぁいいねより、8人の超いいねを目指す
管理 トラブルを事前に回避する細やかな対応

CASE 2 京都×ITベンチャーの“らしさ”を両立するオフィス

──歴史あるエリアにオープンで新しい文化を
相談① 〈町家IT事務所編〉京都らしいオフィスが欲しい
物件探し 京都らしい=町家なのか
仲介 DIY物件を優先して探す
DIY 専門家に一部を依頼
相談② 〈4年後の呉服店ビル編〉早くも町家オフィスが手狭に
仲介 元遊郭エリア・元呉服店とIT企業の相性
DIY 再びメンバーでDIY
街の反応 意外とエリアに歓迎された

インタビュー〈元呉服店ビルオーナー×ヌーラボ京都メンバーリーダー〉
妄想活用コラム① ITベンチャー×老舗織物業

CASE 3 倉庫をクリエーターの実験可能なオフィス空間に

──一般的なイメージにこだわらない企画と賃料設計
相談 倉庫活用と仲介の依頼
企画 一般的なイメージにとらわれない
内装 生活感を見せない空間
施工 クリエーターの作品をオーダーできるオフィス
転貸 自分よりうまく活用してくれる人に貸す

妄想活用コラム② 泊まれるショールーム
私が不動産プランナーになるまで② 不動産への気づき

3章 企画・運営のデザイン──街に場をつくる

CASE 1 小規模不動産投資のデザイン

──マンションを購入してシェアハウスに
相談 シェアハウスありきの依頼
物件探し 神戸らしい立地にこだわる
企画 欠点にとらわれすぎず長所を伸ばす
収支計画 地方のシェアハウス事情を見込んだ収支計画
チーム編成 少数精鋭のチーム
設計・施工 施工費に緩急をつける
内装 見せ場のつくり方
募集 見知らぬ地ではあらゆる手段を駆使
管理 皆が気持ち良く暮らせる管理

インタビュー〈Lis Colline神戸岡本オーナー〉

CASE 2 デメリットをメリットに

──線路沿いのアパートをシェアアトリエに
相談 同業者からのおこぼれ案件
調査 京都駅周辺は京都の最後にして最大の未開拓地
企画 街・場・人の特徴を整理する
ターゲット クリエーターとは誰のことなのか
建築計画 シェアすることのメリット
収支計画 オーナーとともに責任を負う仕組み
チーム編成 建物の魅力を分かってくれる施工者
募集 見学会の代わりにマーケットを開催
運営 エリアを読めれば必ず場が回る

妄想活用コラム③ シェア別荘
私が不動産プランナーになるまで③ 東京での会社員時代

4章 不動産プロジェクトのデザイン

──街に暮らしと商いを生む

CASE 1 小商いを生む街づくりの始まり

相談 空き家を買ったオーナーからのメール
調査 住む人の行き場が無い観光地
企画 エリアの5ヶ年計画を立てる
収支計画 若手が出店しやすい条件設定
建築計画 設計者の選定
デザイン コミュニケーションに必要な3つのデザイン
募集 現場見学会と審査戦略
運営 順調な3つの小商い
街への伝播 3年足らずで界隈に店舗増

CASE 2 和歌山市内の街なかに、魅力的な賃貸住宅をつくる

きっかけ 無いものは自らつくる
調査 楽しく便利、歴史もある街なかを実感
チーム編成 地元と若手の工務店が協業する
建築計画 オフィスビルのメリットを活かす
ヴィジュアルデザイン 質感のある暮らしを表現
募集 街なかに住み、働く良さの伝え方

私が不動産プランナーになるまで④ 京都での現実

5章 街を変える仕組みの提案

──高齢者の自宅の一室に学生が暮らす

CASE 1 高齢者と大学生の同居促進事業

──京都ソリデール
きっかけ 京都府が事業者を募集
調査 京都の3つの資源─大学生・クリエイティブ層・高齢者
企画 暮らし方の文化をつくる
募集 名乗り出てくれる高齢者探しが難航
管理 干渉し合わない2人の関係

妄想活用コラム④ 緩やかな介護型ソリデール

おわりに
本書に登場した店舗・プロジェクト情報一覧

岸本千佳(きしもと・ちか)

㈱アッドスパイス代表取締役。
不動産プランナー。
1985年京都生まれ。
滋賀県立大学環境建築デザイン学科卒業後、東京の不動産ベンチャーを経て、2014年に京都でアッドスパイスを設立。
不動産の企画・仲介・管理を一括で受け、建物と街のプロデュースを業とする。
暮らしや街に関する執筆も多数。著書に『もし京都が東京だったらマップ』(イースト新書Q)。
共著に、『まちづくりの仕事ガイドブック』(学芸出版社)。
NHK・Eテレ「人生デザインU29」(2015)、フジテレビ系列「セブンルール」(2017)に出演。

「不動産プランナー」という言葉、聞き慣れない方も多いと思う。それもそのはず、私が勝手に名乗っている肩書きだからだ。具体的には、建物の活用を企画段階から管理・運営まで一貫してプロデュースしている。プロデューサーというと偉そうな人が出てきそうなので、オーナーや使い手が同じ目線で語れそうな「プランナー」とした。

他方、「不動産」とは、世の中(特に日本社会)においてとことんイメージが悪い業界だ。不動産屋の対応で嫌な思いをしてトラウマになる人も多い。ニュースで見る悪質な不動産業者の話に落胆する人もいるだろう。オーナーにとっては、空き家に大量にチラシを入れてくる煙たい存在かもしれない。建築教育の中でも、よく思われていない節がある。

でも、それがチャンスかもしれないと、建築学生だった私は思ったのだった。

一般的な不動産のイメージは悪いが、建物が役目を失った状態からリノベーションされ、入居後までずっと携われることは不動産の特権。新しく区画を開発したり、潰したり、街を変化させるために一番影響力があるのも不動産。不動産の領域って可能性があるんじゃないか。その仮説が、建築学科に進学したものの設計に興味を持てなかった私を、不動産の道へと導いた。私が就職した2009年は、奇しくもリーマンショックの翌年。不動産デベロッパーが一気に傾いた時期だったが、それすらも、小さなデベロッパーに門戸が開かれるチャンスとさえ思えた。

当時想い描いていた小さなデベロッパーともいえる、不動産プランナーとして独立して5年が経った。ようやく、安定的に望んだ仕事が舞い込み、それに応えられる体力もつき、構想を具体化できてきたように思う。このタイミングで、本書を出版できたことを嬉しく思う。

本書は、これまでの不動産プランナーとしての仕事を事例ごとにまとめている。全て自ら実践したことなので、教科書のように体系的に学べるものではないが、リアリティはあると思う。

構成としては、1章は不動産プランナーとは何かを概説する。2章は不動産業の基本である仲介で街と建物の価値を上げられる事例。3章では不動産プランナーの特徴、企画・仲介・運営を一括したプロジェクト。4章では、3章をさらに街に展開していくプロジェクト。5章は街を変える仕組み自体をつくろうとしている話だ。章を重ねるごとに、仕事の領域が建物単体から街へと広がっていく。実際、独立してから、私の仕事もこの順にほぼ時系列で進んできた。

手前味噌だが、はじめてオーナーさんに会ってひとしきりお話しすると、最後によく、「岸本さんに頼むと、きっと良い場にしてくれそうな気がする」と言われる。空き家活用、相続問題、銀行にお金を借りてまでの事業…気が重いことばかりだからこそ、楽しくイメージを描ける心強いパートナーが必要だ。ストーリー仕立てで書いているので、物語を読むように楽しんで、読み進めていただければと思う。

「アッドスパイス」という会社名は、「世の中に面白みを添える」を意味している。停滞した世の中や建物にスパイスを加え、少しでも面白く前に進めることができれば。その想いを会社名に託した。

不動産や建築関係者に関わらず、今を生きる私たちの暮らしをちょっとでも豊かなものにしたい。そう考える同志に、本書が何か刺さるものを供していれば幸いです。

2019年4月

岸本千佳

不動産は不動と言うわりに、数十年経てばあっさり使い途が変わってしまう。自分の仕事は、建物の一定期間のための延命措置に過ぎないと思うと虚しく、自身の存在意義を見失いかけたこともあった。

一方、見方を変えれば、短命だから良いとも言える。時代は目まぐるしく変化し、それに伴い、社会が必要とするものや人の価値観も移り変わる。不動産を使って時代に即した解、つまり商品をつくっていく仕事は、非常に面白く誇らしい。作品として世に残らなくとも、その時代に生きる人たちに必要とされること。それが、建築を学んだ者として、不動産プランナー流の建築への答えなのかもしれない。そう考えながら本書の執筆に励んだ。

学芸出版社の井口夏実さんには、私の心を先読みされていたのか、この本の企画を持ちかけてもらった。学芸出版社ビルの一部を事務所として借りていた時期があるのだが、そのアイディアも井口さん。本書も、井口さんのハッとする構想のおかげで出版に至りました。また、本書に登場するオーナーさんや入居者さん、インタビューや原稿の確認にご協力いただきありがとうございました。文中のプロジェクトは、多くの方々の協力のおかげで成り立っています。オーナーさんや入居者さんをはじめ、工務店さん、設計士さん、デザイナーさん、この場をお借りして、いつもありがとうございます。道半ばで本を出すことに躊躇もありましたが、今だからこそ書くべきだと後押ししてくれた家族にも、感謝しています。

前向きで真摯で、心から尊敬する皆さんと一緒にものをつくれることが、私の何よりの財産です。まだ見ぬ読者の皆さんとも、どこかでご一緒できれば嬉しく思います。

岸本千佳

私は岸本千佳さんの講演会に参加させて頂き、直接、空き家の対策について相談に乗って頂きました。その時に不動産プランナー流建築リノベーションの本も購入しましたが、実にわかりやすく素晴らしい本だと思いました。ほんとにありがとうございました。

(水口栄一)