ドイツの市民エネルギー企業

村上 敦・池田憲昭・滝川 薫 著

内容紹介

ドイツの再生可能エネルギー増産を牽引するのは、地域に密着した企業活動。市民が起こしたエネルギー株式会社、エネルギー組合、自治体のエネルギー公社等、代表的なビジネスモデルを現地のジャーナリストが紹介。エネルギーのしくみを変える社会とは?その実現に必要なことは?エネルギーヴェンデ(大転換)の最前線に探る。

体 裁 A5・204頁・定価 本体2200円+税
ISBN 978-4-7615-2573-6
発行日 2014/06/10
装 丁 吉村 雄大


目次著者紹介はじめにおわりに
はじめに(村上敦)

第1章 エネルギーヴェンデを地域と市民の手で(村上敦)

1 エネルギーヴェンデの経済的な果実
2 エネルギー・イズ・マネー(1)~八戸市の場合
3 ドイツの再生可能エネルギーは、地域と市民の手中にある
4 エネルギー・イズ・マネー(2)~地域や市民の出資が鍵
5 エネルギー・イズ・マネー(3)~省エネでも市民出資を!
6 省エネリフォーム政策の成功
7 「100%再生可能エネルギー地域」プログラムの新展開
~deENet代表ペーター・モーザー博士に聞く
コラム01 ドイツのエネルギーヴェンデとは(村上敦)
コラム02 ドイツの再生可能エネルギーの現状と促進制度、法律(村上敦)

第2章 地域の未来を決める未来会議(池田憲昭)

1 社会の変革に必要な演繹的思考と行動
2 盛んな市民出資の背景にある民主主義の成熟プロセス
3 未来会議とは
4 未来会議の現場~ドナウ川上流域未来会議
5 エネルギーヴェンデは「新しい社会」をつくること
コラム03 ドイツの手工業と中小企業(村上敦)

第3章 市民エネルギー会社ソーラーコンプレックス(滝川薫)

1 ディスカッションから芽生えた市民エネルギー企業
2 130億円分の設備を市民出資で実現するまで
3 民主性と公共性の強い株式会社へ
4 時代とともに移るビジネスの重点
5 地域のエネルギーヴェンデのリーダーとして
コラム04 シェーナウ電力会社~市民エネルギー会社のパイオニア(村上敦)

第4章 市民エネルギー組合(池田憲昭)

1 ドイツにおける組合の歴史
2 ドイツの組合の現状
3 ビーダーバッハ・エルツタール市民エネルギー組合
4 地域の市民エネルギー組合をサポートする組織
コラム05 ドイツの組合の生みの親(池田憲昭)

第5章 都市エネルギー公社(池田憲昭)

1 ドイツの都市エネルギー公社の歴史
2 電力市場自由化以降の転機
3 ヴォルフハーゲン都市公社
4 ヴァルトキルヒ都市公社
5 都市エネルギー公社のルネッサンス
コラム06 スイス・バーゼルの都市公社IWB(滝川薫)

第6章 エネルギー自立地域ライン・フンスリュック郡(滝川薫)

1 100%+の再生可能エネルギー地域は省エネから
2 住民参加のエネルギーコンセプトづくり
3 地域の手で進める再生可能エネルギー利用
4 住民、自治体、地域企業をサポートする
コラム07 ドイツの職人と教育制度(村上敦)

第7章 市民によるエネルギーヴェンデの行方(池田憲昭)

1 市民はエネルギーヴェンデを望んでいる
2 電力系統は共有地
3 利益分散で、地域が豊かになる
4 エネルギーヴェンデは「転換」ではなく「進化」

おわりに(滝川薫)

村上敦 Atsushi Murakami

[はじめに、第1章、コラム01、02、03、04、07]
ジャーナリスト、環境コンサルタント、ドイツ在住。1971年生まれ。執筆、講演等でドイツの環境政策、エネルギー政策、都市計画制度を日本に紹介する。一般社団法人クラブヴォーバン代表。日本エネルギーパス協会、日本エネルギー機構の顧問。著書に●『100%再生可能へ!欧州のエネルギー自立地域』●『フライブルクのまちづくり』(以上、学芸出版社)、『キロワットアワー・イズ・マネー』(いしずえ)、訳書に『メルケル首相への手紙』(いしずえ)。
ウェブサイト
http://www.murakamiatsushi.net/

池田憲昭 Noriaki Ikeda

[第2章、第4章、第5章、第7章、コラム05]
日独森林環境コーディネーター、ジャーナリスト、ドイツ在住。1972年生まれ。岩手大学人文社会科学部卒業。2002年フライブルク大学森林環境学部ディプローム課程修了。2003年より、環境、林業等をテーマに、企業や自治体等の事業サポート、視察コーディネート、通訳、講演等を行う。2010年、日本の林野庁の林業再生プラン実践事業をドイツの森林官らと共に支援。著書に●『100%再生可能へ!欧州のエネルギー自立地域』(学芸出版社)。
ウェブサイト
http://www.arch-joint-vision.com/

滝川薫 Kaori Takigawa

[第3章、第6章、コラム06、おわりに]
環境ジャーナリスト、植栽設計士、スイス在住。1975年生まれ。東京外国語大学イタリア語学科卒業。1999年よりスイスを拠点に環境・エネルギー・建築をテーマとして執筆、視察案内、通訳、講演等を行う。2003~2006年オーシュベルグ造園学校植栽デザインコース修了。著書に●『100%再生可能へ!欧州のエネルギー自立地域』●『サステイナブル・スイス』(以上、学芸出版社)、訳書に『メルケル首相への手紙』(いしずえ)。
ウェブサイト
http://blog.goo.ne.jp/swisseco

2012年7月1日、日本でも再生可能エネルギー電力の固定価格買取制度(FIT)が始まった。それ以来、各地で大型のメガソーラーなどが建設されるニュースが飛び交い、3・11を契機にした脱原発の議論と合わせて、再生可能エネルギー推進の是非について国民的な議論が進められるようになった。2000年にドイツでFITが施行され、それ以降、一貫してこの制度を日本に紹介してきた筆者としては、一部の方にしか関心を持ってもらえなかった10年前の社会状況と現在では、時代が確実に移り変わっていることを感じ、嬉しく思っている。

しかし、再生可能エネルギーについて国民に広く知られるようにはなったものの、日本ではそれを巡る議論の中身はまだ深くはない。偏った見方、一面だけを取り上げる議論、表面的な考察、事実誤認の見解などがある。たとえば、再生可能エネルギーは高価だ、電気料金が高くなる、安定供給できない、貿易赤字が拡大している状況は再生可能エネルギーなどでは改善しないから原発をいち早く再稼働させるべきだ、ドイツのFITは失敗した、ドイツは脱原発してもフランスの原発から電気を買っているなどなど。本書の目的は、それらの意見に直接回答することではない。

ドイツでも、FIT開始当初から現在に至るまで、そうした偏った表面的で事実誤認の意見や議論は存在し続けている。2013年9月のドイツ連邦議会総選挙の際、こうした意見を代表し、選挙戦を戦った政党も存在した。それは自由民主党(FDP)で、票を大きく失い得票率が5%に満たなかったため、連立政権の座から野党転落の事態すら飛び越して、連邦議会での議席確保もできない、という状態まで失墜してしまった。経済系の新聞などの論調とは裏腹に、どうやらドイツの大多数の国民は、そうした偏った表面的な意見に耳を貸さなくなったようである。

本書では、日本と比較して10年、いや15~20年近く、再生可能エネルギーに関するアドヴァンテージを持つドイツで、再生可能エネルギーの議論と実践が、地域や国の未来を考える上で一段と深まり広がっている状況と、その議論と実践の本質について紹介したい。そのポイントは、地域が「エネルギーヴェンデ」(ヴェンデは大転換を意味する)からの果実を得るには、地域のお金と市民が主体となり、経済的事業として実践していく必要があるという点だ。2010年に第二次メルケル政権は、2050年までの脱原子力・脱化石のロードマップを採択したが、本書を読まれた読者には、そうした国策が生まれた背景も伝わるだろう。

筆者らの前著にあたる『100%再生可能へ!欧州のエネルギー自立地域』(学芸出版社、2012)では、パイオニアである地域のエネルギー自立への取り組みの姿を描いた。今回はドイツで、そうした地域での取り組みを経済活動として具体的に担っている事業体に焦点を当てた。それは、市民株式会社、市民エネルギー組合、自治体エネルギー公社などであるが、それぞれの法人形態とその特徴や意味、背景を、代表的な事例を通して解説している。また、各事業体が現在の市場や政策という枠組みの中で、どのようなビジネスモデルを展開しているのかについても言及する。これらを読者が読み解かれ、抽象化されれば、日本での再生可能エネルギー事業の在り方やエネルギーヴェンデの社会的・経済的な意味について、より広く、より深い考察につながるはずである。

日本でもFITが始まり、まずは一部の経済界や投資家が動いている。ドイツでも過去に同じようなプロセスがあった。その後、ドイツではじわじわと市民が動き始め、その運動は加速・拡大し、 再生可能エネルギーの急速な発展の原動力となった。日本でも迅速にこのプロセスが始まることを期待し、その取り組みの一考に本書が役立つなら幸いである。

2014年2月 ドイツ・フライブルクにて

著者を代表して 村上敦

エネルギーヴェンデという世紀の一大事業は現在進行形の物語である。それを取り巻く状況は、政治的にも、社会や市場、技術の面においても、日々刻々と発展、変化している。そのようななか、この本では2013年後半~2014年初頭におけるドイツの分散型エネルギーヴェンデの様子を紹介した。

取材においては、各地の第一線で再生可能エネルギー事業に取り組むパイオニアの方々に多大なご協力をいただいた。日本の読者と分散型エネルギーヴェンデのために、自らの経験を惜しみなく語って下さった皆様に、著者一同より心からお礼申し上げたい。なかでも、経営コンサルタントのトアステン・シュヴァルツさんには、組合と自治体公社のエキスパートとして貴重なアドバイスをいただいた。

また前著に続き、3人の原稿を巧みに整理し、本の実現に尽力下さった学芸出版社の宮本裕美さん、そして魅力的な表紙をデザインして下さった吉村雄大さん、どうもありがとうございました。

ドイツでは、分散型エネルギーヴェンデを阻止しようとするエネルギー大手や非再生可能エネルギーのロビー団体による政治的巻き返しが激しくなってきている。自治体や市民たちが築き始めた、エネルギーとお金が循環する社会ヴィジョンへの道は、広域で見れば、まだ長く、険しい。ドイツの市民社会が数々の課題をどのように乗り越えて、エネルギーヴェンデを前進させていくのか、今後も私たちは現地にて見届けたいと思っている。

最後に、日本政府が原発再稼働に邁進するなか、本書が日本の市民や企業家の方々が地域のエネルギー事業者としての一歩を踏み出すための勇気を与える書となることを願っている。

2014年4月 スイス・ベルンにて

著者を代表して 滝川薫