なぜドイツではエネルギーシフトが進むのか

田口理穂 著

内容紹介

国民の総意により脱原発を宣言したドイツ。再生可能エネルギーが電力消費量の約3割を占めるまでに普及しているのはなぜか。それは人々の環境意識が高いだけでなく、投資が報われる仕組みや法制度が支えている。市民、企業、行政がどんな取り組みをしているのか、ドイツ・ハノーファー在住の著者が、市民目線で最前線を紹介する。

体 裁 四六・208頁・定価 本体2000円+税
ISBN 978-4-7615-2603-0
発行日 2015/08/20
装 丁 上野 かおる


目次著者紹介まえがきあとがき書評

1章 ドイツ再生可能エネルギーの今

1-1 エネルギーシフトを進めてきたドイツ

1-2 ドイツと日本、ここが違う

1-3 まずは省エネから始める

コラム1 子どものときから省エネを身近に感じる教育

2章 エコ建築で電力消費を減らす

2-1 パッシブハウスは未来建築

1 公共施設をエコ仕様に
2 廃校がエコ改修で新しい形のコミュニティに

2-2 エネルギー消費を抑えた住宅地開発

1 欧州最大のゼロエミッション住宅地──ゼロ・エ・パーク
2 欧州初。3千戸規模の低エネルギー住宅地──クロンスベルク

コラム2 時代を先取りした省エネモデルハウス

3章 再生可能エネルギーは未来産業

3-1 市民が主体的に組織をつくる

1 エネルギー協同組合大国ドイツ
2 市民が発電に参加する――レアテ・ゼーンデ・エネルギー協同組合
3 送電線も地域暖房も自分たちで──フェルトハイム
4 社員が主導。社屋のソーラー発電――フォルクスワーゲンのエムデン工場

3-2 自治体のサポートによる事業展開

1 地域交通網が率先するエネルギーシフト──ウーストラ社
2 自治体エネルギー政策の実行部隊──ハノーファー電力公社「エネシティ」
3 省エネ指導に力点を置くエネルギー基金──プロクリマ
4 エネルギーコスト削減を細やかにサポート──気候保護エージェント

3-3 収益と持続性を両立する企業の取り組み

1 220の再エネ発電所を支援する──ナチュアシュトローム
2 技術力と独自路線で勝負する風力発電メーカー──エネルコン
3 再生可能エネルギーでCSR活動──ドイツ鉄道
4 木造パッシブハウスでマイホームを──カル・クラッシック・ハウス社

3-4 市民がつくった電力会社──シェーナウ電力会社

コラム3 市民プロジェクトを支援するGLS銀行

4章 市民を行政が後押しする

4-1 行政主導によるエコなまちづくり

1 将来を見据えたハノーファー市の環境政策
2 エコモビリティを楽しむ

コラム4 自動車がなくても快適

4-2  再生可能エネルギーを推進するニーダーザクセン州

インタビュー 「州として反原発を表明」シュテファン・ヴェンツェル環境大臣

5章 ドイツのジレンマ

5-1 課題が山積する原発の終焉

5-2  これからが本番。ドイツのエネルギーシフト

インタビュー 「安全なエネルギーとは何か」ミランダ・シュラーズ教授

田口 理穂(たぐち りほ/Riho Taguchi)

ジャーナリスト、裁判所認定独日通訳。信州大学人文学部卒業後、日本で新聞記者を経て、1996年よりドイツ在住。ライプニッツ・ハノーファー大学卒業、社会学修士。ドイツの環境政策を中心に、政治経済、生活全般について幅広く執筆。著書に『市民がつくった電力会社─ドイツ・シェーナウの草の根エネルギー革命』(大月書店)、共著に『「お手本の国」のウソ』『ニッポンの評判』(共に新潮新書)。

ドイツを列車や車で走っていると、あちこちに風車が立っているのが見える。大きな羽を豪快に回す風車が、点々と地平線まで続いている様子は壮観だ。その合間にソーラーパネルを載せた住宅があり、バイオマス装置が目に入る。再生可能エネルギーはすっかり日常の風景になった。

なぜドイツではエネルギーシフトが進むのだろうか。エネルギーシフトは、国と市民が求める未来であり、環境だけでなく経済発展に見合うためである。

しかし、ドイツの脱原発や再生可能エネルギーの推進は、一朝一夕に実現したわけではない。1986年のチェルノブイリ原発事故が大きなきっかけとなった。ドイツの食べ物や環境を汚染し、人々を恐怖に陥れた。その後、全国各地で反原発デモが開かれ、政権にも影響を及ぼした。特に2000年の再生可能エネルギー法により、固定価格での買い取り制度(FIT制)が導入されたのは画期的だった。20年間全量買い取りが保証され、自家使用分が差し引かれることもない。市民や学校がソーラーパネルを屋根に設置し、農家がバイオマスを導入し、エネルギー協同組合が風力発電や地域暖房をつくった。当初、設備容量の半数は個人や農家が占めていたが、これは他国では例を見ない。

再生可能エネルギーがここまで伸びたのは、安全なエネルギーを求める人々の意識だけでなく、投資が確実に報われるように保証されているからである。法的枠組みを整え、国民を巻き込んできた結果のうえに、現在がある。エネルギーシフトは政府レベルの動きでなく、ローカルレベルでの活動なのである。

日本では「原発は経済のために必要」という声が根強いと聞く。働き盛りのビジネスマンが主張するのはある程度理解できるが、20歳前後の若者でも原発は必要と信じている人が多いことに驚いた。原発を動かせば景気がよくなり、正規雇用され、よい生活ができるという論理である。再生可能エネルギーは不安定だが、原発は安いという刷り込みも根強い。

脱原発を決め、再生可能エネルギーを推進したからといってドイツが経済的に弱くなったわけではない。まさにその反対で、地域の価値創造や雇用が生まれている。本著では、ドイツがどのように再生可能エネルギーを推進しているのか、北ドイツの具体例を通してみていきたい。なぜ市民が再生可能エネルギーを支持しているのか。エネルギー政策の課題や法的枠組み、歴史的背景も紹介する。

ドイツで実現したことが、日本では本当に不可能なのか。ドイツの挑戦が、少しでもみなさんの参考になれば幸甚である。

2015年5月 ハノーファーにて 田口理穂

日本とドイツは同じ敗戦国で、戦後大きな復興を果たし、技術力が高く、職人仕事に秀でているなど共通点がいくつもある。しかし社会全体をみるとかなり違っている。ドイツでは政府のいうことを疑ってかかり、デモがよくあり、人々は家族との時間や自分の生活を大事にする。日本は長いものにまかれ、従順で、労働時間が長い。

ドイツに1996年から住み、いろんな人と話をし、この違いはどこからくるのかと考えた。まず日本人は時間がないということがあるだろう。ドイツに受験はなく、授業は高校生でも昼過ぎに終わるのが普通である。厳しいクラブ活動もない。働き始めても年間30日の有給休暇を全日消化し、残業も少ないため、趣味やボランティアなど自分の興味を伸ばす時間がある。そしてナチス時代の教訓がある。「市民は何も知らなかった、政府のいうことに従っていただけ」という言い訳を二度としないよう、教育の中で過去の過ちについて学び、自分の頭で考える訓練をしている。

だから原発事故を見て、市民は脱原発を求め、再生可能エネルギー推進のために行動を始めた。エネルギーシフトは下からの運動であり、それが政府を動かしたのである。ドイツのエネルギー政策は政権が変わるたびに、方針が右往左往してきたが、目標を定め着実に前進している。

ドイツの試みをすべて日本にあてはめることはできない。しかし、どうしてここまでドイツで再生可能エネルギーが伸びたのかを知ることは、日本の人々にとっても大いに参考になる。特に自治体と市民が一体になった取り組みは多岐にわたり、応用できるものがありそうだ。エネルギーの供給と消費について意識的になることが、すべての始まりとなる。どういう世界に住みたいのか、その答えは私たちの手にある。

最後に、快くお話を聞かせてくださったドイツの方々、原稿の遅れに付き合ってくださった学芸出版社の中木保代さんに心から感謝したい。安心できるエネルギー供給を目指して地道な活動を続けている人たちと話をするのは学びが多く、感嘆することがいつもあった。そして拙著を読んでくださったみなさまにとって、この本が何かを考えるきっかけになれば、この上ない喜びである。

希望と感謝をこめて  田口理穂

評者: / 朝⽇新聞掲載:2015年10月04日

開発と省エネ、自治体がリード

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評:大島 堅一氏
(立命館大学国際関係学部教授)

持続可能な社会を拓くためのヒント

国連のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の最新の報告書によれば、このままのペースで温室効果ガスが増大すれば、今世紀末の気温は5度近く上昇する可能性があり、そうなれば甚大な被害がでる。他方、原子力発電には、事故にともなう放射能汚染の危険性があるばかりでなく、放射性廃棄物の処分に大きな困難がある。

つまり、エネルギー利用にあたっては、二酸化炭素を大幅に削減し、同時に、原子力発電をやめることが、環境保全上もとめられるようになっている。二酸化炭素の大幅削減と脱原発を同時に達成するためには、エネルギーの徹底した効率的利用と再生可能エネルギーの普及が不可欠であり、そのためにはエネルギーの利用のあり方を根本から変えなければならない。現代社会はエネルギーの大量生産大量消費を前提としているため、この課題の達成には大きな政策変更が必要とされる。

ドイツは、先進工業国でありながら、この課題に正面から取り組んでいる国である。エネルギー利用の構造を根本から変えることを、ドイツでは、Energiewende(エネルギー転換またはエネルギーシフト)とよんでいる。ドイツではエネルギーシフトを達成するための政策目標を定め、具体的な政策を実施している。エネルギーシフトに対する国民の支持は非常に高く、自治体や企業も、エネルギーシフトにむけた先進的取り組みを進めている。

本書は、現実に進んでいるドイツのエネルギーシフトの取り組みを、実際の取材にもとづいて活き活きと紹介している。取り上げている事例は、パッシブハウス、ゼロエミッション住宅などの省エネルギーの取り組みから、市民、自治体、企業の再生可能エネルギー事業、さらには脱原発を決めたドイツが挑む放射性廃棄物処分など、非常に幅広い。

日本と同じ先進工業国でありながら、ドイツはなぜ日本とこれほどまでにちがうのか。このことがわかれば、日本において持続可能な社会を拓くためのヒントをえることとなろう。本書は、全体を通して文体も平易で読みやすい。エネルギー・環境問題に関心のある市民から、最新事例の概要を知りたいと考える専門家まで、広く読まれることを期待したい。

担当編集者より

本書は、ドイツで暮らしている田口さんが、市民の目線も交えてドイツの取り組みをまとめた本だ。
エネルギーシフトが進むドイツでは、省エネ対策にも熱心で、住宅や教育面でも手厚くフォローされている。
電力を選ぶことに加えて、使う量を減らす。そんな当たり前のことを無理なくできることが強みだと思う。
日本でもできることから始めたい。

(中木)

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