マンション 企画・設計・管理
内容紹介
マンションの企画・設計・管理を一冊に凝縮
集合住宅に関する広範、かつ総合的な知識がマンション関係実務者には求められるが、実際は個々の専門分野や技術に偏りがちだ。そこで、戦後のマンション供給を担ってきた公団職員らが、その経験・専門知識を反映、総括した。住棟デザイン、構工法、緑環境、SIシステムまで、最重要事項を網羅した事典的解説書。
体 裁 A5・288頁・定価 本体2800円+税
ISBN 978-4-7615-2269-8
発行日 2001-09-20
装 丁 尾崎 閑也
企画
1 マンションとは
定義
供給の変遷
マンションの位置
2 企画
企画とはなにか
企画に期待されるもの
企画の具体化
3 住棟デザイン
マンションのデザインはコンセプトワーキングから
ヨーロッパの先進事例に学ぶ
ピクチャレスクな街並形成に貢献するマンションが美しい
4 性能保証
マンションの性能
瑕疵担保責任
工事の確認・監理・検査体制
住宅性能表示
設計
5 様々な住棟
住棟形式
共用空間
利便施設
環境対応
6 住戸平面
専用面積、プランフレームの変遷と特徴
住戸計画のパーツ
すまい手参加型のプラン形成
ポジションを活かしたプラン
7 構工法
マンションの構造種別と特色
マンションの架構形態
その他の変形架構
工業化工法
その他の部分工業化工法
今後の方向
8 耐震設計
耐震設計の変遷
地震の基礎知識
地震の記録
耐震改修技術
構造計画
9 主要材料の特性
マンションに使われる材料
金属材料と腐食
建築材料とシックハウス症候群
コンクリートとひび割れ
木質材料の利用と地球環境の保全
シーリング材料の適切な選定と施工
10 内装構成材
床
壁
天井
建具
11 ディテール
マンションディテールの変遷
外部廻りの標準的ディテール
内部廻りの標準的ディテール
高齢化社会におけるディテール
マンションディテールの展開
12 ガス・衛生設備システム
ガス・衛生設備の変遷
ガス・衛生設備とシステム
これからの住宅設備
13 電気・情報設備システム
電気・情報設備の変遷
電気・情報設備の現状
電気・情報設備の保守
これからの電気・情報設備
環境
14 室内環境
室内環境とは
日照
光環境
熱環境
換気・通風
15 断熱・防水
工法の変遷
設計上のポイント
より快適な室内熱環境のために
16 音環境
環境基準
床の性能
壁の遮音性能
外部建具の遮音性能
17 緑環境
マンションの緑について
緑と日常生活
屋上緑化
壁面緑化
ビオトープ
まとめ
ストック活用とマンションの今後
18 保全
保全とは
保全の実際
長期修繕計画
保全の変容
分譲マンション管理の支援
これからの保全
19 ストック活用
事業内容
ヨーロッパでのストック活用事例
今後のストック有効活用
20 SIシステム
SI住宅とは
SIへの系譜
SIの意義
SIの技術的要素と課題
まとめ
21 これからのマンション
はじめに
都市居住者の生活
供給サイド
索引
マンションの実務に携わっておられる方々にとって、企画・設計から管理にいたる現場での業務推進上、幅広くかつまとまった知識を提供してくれる有用な本がない。確かに書店には、「マンションの賢い買い方」「地震に強いマンションを選ぶ」「マンションの快適インテリア」「マンションの保全と管理」「マンションの法律相談」等の“ハウツーモノ”や、マンションの計画・設備・構造・材料に関する専門書、あるいは、作家建築家によって設計されたマンションの図集等、実に多様な本が並べられ盛況である。
ところが意外なことに、これらのおびただしい本のなかで、肝心の「マンションとは何か?マンション本体の構造や壁の内側のしくみあるいは設備システムはどうなっているのか?あるいは、これらに関連する企画・設計そして管理等の全体的概要を知りたい!」といったマンション実務者からの疑問・質問に応えてくれる、手軽な事典的解説書がない。そこで、そのニーズに応えるべく、マンションに関して基礎的かつ広範な知識を網羅した本書を上梓することにした。
著者は、私と都市基盤整備公団(旧住宅・都市整備公団)関西支社の技術職員とそのOBである。周知のように、公団は戦後の高度経済成長期以降、大都市を中心に膨大な量のマンションを供給し、企画・調査から計画・設計・施工及び管理や建替に至るまで、実務面での多様な技術的蓄積を有している。このことからマンションに関して、上記のような本を書くとするならば、執筆者については公団職員の面々において他にいないと思い、16人の方々に引き受けてもらった。
本書の内容は以下のように四つに分かれている。
(1)企画―マンションの歴史に触れたあと、よりよいマンションをつくる前提として不可欠な、企画あるいはマンションの性能保証について概説する。
(2)設計―マンションを構成している主要部分についてとりあげ、構工法を始め住棟・住戸の物的あるいは空間的なしくみ・特性あるいは関連技術の史的変遷、今後のあり方等に関して主に設計的視点からわかりやすく説明する。
(3)環境―住戸内外における様々な環境も重要である。マンションで暮すなかで基本的でかつ重要な日照・採光、通風・換気、温熱、断熱・防水そして音等をどう捉え、技術や設計面ではどのように対処され発展してきたかに関して、基礎からわかりやすく解説する。さらに、快適なマンションであるためには住戸内外の“緑”も不可欠であり、その効用についても述べる。
(4)ストック活用とマンションの今後―供給された後、管理していくうえでのマンション保全の方策、建替え等のストック活用、今後、発展・展開するであろうSIシステムについて述べたうえで、マンションのあり方に関しても言及する。
以上のように、マンション本体の物的・空間的しくみだけではなく、どのようにしてマンションが企画・設計され、そして、今後のマンションがどうなるか等、21項目にわたって述べている。
本書は、マンションの企画・設計や管理の実務に携わる方々を対象にした入門書である。使い方としては、全体を通読して幅広の基礎的知識を習得するもよし、また、自分の専門以外のところを必要に応じて事典的にみていくのもよしといった二つの方法があろう。
また、実務者だけでなく建築学や住居学を専攻している学生の方々のマンションに関する一般的な教科書として、さらには、マンションに住もうと考えあるいは現在すでに住んでいる方々の手元に置いておくと便利なマニュアル書としても、活用していただければ幸いである。
2001年9月
都市公団関西集合住宅研究会
代表 増永理彦
大都市では、今後、マンションが更に数多く供給されていくものと思われる。それだけに、マンションの供給あるいは管理の関連実務者はもちろん、住まい手側である多くの都市居住者もマンションに関しての基礎的知識を身につけ、そのあり方を考え、そして、よりよいマンションを創造していく必要があろう。本書は、僅ではあるが、そのための全般的知識を提供する役割を果たせる内容になっているのではなかろうか。
本書の出版に向けて、ほぼ1年にわたり研究会を続けてきたが、執筆者には、公団でのマンションに関わる実務経験を通じて得られた技術的内容をベースに各章で一つずつのテーマに関して自由に記述してもらった。執筆者数も多く各自の個性も出ており、かつ、本全体として統一性あるいは体系性に欠ける点もみられるが、事典的な本でもありお許しをいただきたい。
本書の執筆者の方々には忙しいなか、また、厳しい出版スケジュールであったにもかかわらず、手弁当で関連資料あるいは図版等を収集し原稿にしてもらった。また、研究会内で事務局を立ち上げ、日常的にはここで本書の内容について方向づけを行なってきた。そして、学芸出版社の前田裕資さんには事務局の会議には毎回出席してもらうなど、本づくりに関して素人集団である我々を随分と助けて頂き大変お世話になった。同時に、同社の井口夏実さんにも事務的なことはもちろん、内容表現に関しても色々な提案をもらった。執筆者の皆さんと研究会事務局の方々、及び、学芸出版社のお二人には深く感謝したい。
増永理彦
『地域開発』((財)日本地域開発センター) 2003. 7
日本におけるマンションの歴史はあまり長くはないが、この半世紀で急速に供給量が増大し、都市住宅の典型の1つとしてその地位を不動のものとしている。この趨勢は今後とも続き、都市居住者の生活変容に対応しつつ多種多様な平面形態、空間構造あるいは設備システム等を持ちつつ定着していくことは間違いないだろう。
そんな中、マンションに関する多くのハウツーモノや専門書が書店に並んでいるのに対し、マンション実務者からの疑問に応え得る手軽な事典的解説書というものは存在していなかった。
そこで、本書ではそのニーズに応えるべく、マンションに関して基礎的かつ広範な知識を網羅した内容となっており、大きく(1)企画(2)設計(3)環境(4)ストック活用とマンションの今後の4つから構成され、マンション本体の物的・空間的仕組みだけではなく、どのようにしてマンションが企画・設計されているか、今後のマンションがどうなるかということについて述べられている。
『住宅』 2002. 3
1998年総務庁住宅統計調査によると、集合住宅は全国の住宅総数の41.9%を占めるまでになり、大都市圏では5割を超えた。いうまでもなく、わが国において鉄筋コンクリート造の集合住宅が本格的に建設されるようになったのは戦後であり、中でも公団住宅が果たした役割は大きい。とりわけ初期の公団住宅は、生活の近代化の象徴として戸建住宅を凌ぐ魅力を備えていた。その後の高度経済成長に伴う全般的な住宅水準の向上や地価の高騰によって、「土地付き一戸建て」が「住宅双六」の上がりと考えられるようになった。そして現在、バブル経済の崩壊を経て、ようやく住まいは「土地神話」から解放されつつある。今後、少子高齢化、小家族化、男女共同参画社会などの一層の進展が予測されるが、このような社会の到来によって、安心して暮らせる共同性および協働性の高い集合住宅や多様なライフスタイルに応じた暮らしが実現できる集合住宅にたいするニーズは一層強まるだろう。また、循環型社会にあっては、長期耐用化、ストック活用、環境負荷の抑制などを配慮した集合住宅が求められる。
本書は、以上のように都市住宅としてますます重要な役割を担っていく集合住宅について書かれたものである。『マンション』というタイトルがつけられているが、分譲集合住宅に限定したものではない。主として3階建て以上の集合住宅について、供給主体や所有形態を問わず、企画、設計、管理について解説されている。扱われている内容は、住戸・住棟設計、構造・構法、設備、材料、環境などの広範囲にわたり、主としてハード面に焦点があてられている。
本書を手にとって思うことは、どうして今までこのような本が出版されなかったのだろうかということである。確かに集合住宅に関する本はたくさん書かれている。しかし、それは設計資料集成や事例集のようなものであったり、管理問題など特定のテーマを扱ったものが中心である。本書のようないわば「集合住宅“丸ごと”事典」と呼べるものはほとんどなかった。大変便利な本である。
本書は主に実務に携わる人々を対象にした入門書であるらしいが、建築学、住居学を学ぶ学生にも是非お奨めしたい。実は、私は現在、大学の設計演習課題で集合住宅を担当している。居住経験があっても、パズルゲームにも似た住戸設計の際に、各部のディテールに無頓着な学生も多い。例えば、玄関の間口寸法がきっちりドア幅しか確保されていないこともしばしばある。こうした事態は集合住宅に限ったことではないのだが、本書では、集合住宅に関して初心者が必ず調べたいと思うディテールが詳しく解説されている。また、本書はマンション管理に携わる方はもちろん、一般居住者にも一読をお奨めしたい。「集まって住む」ためのマナーなどソフト面も重要であることはいうまでもないが、「生活の器」であるハード面の基本的な知識を持ち合わせていると集合の暮らしも随分違ったものになるのではないだろうか。
執筆者は、都市基盤整備公団関西支社の技術職員およびOBである。公団は1955年に「日本住宅公団」として発足以来、「住宅・都市整備公団」を経て今日まで、大都市圏の住宅供給に重要な役割を果たしてきた。考えてみれば短期間に集合住宅を普及させ、技術的にも日本人の細やかさを活かして様々な集合住宅づくりが進められてきたことは凄いことである。技術的変遷についても触れられている本書は、「公団技術小史」として興味深く読むこともできる。
都市居住の歴史からすると集合住宅はまだ「駆け出し」の居住形態であり、21世紀には暮らしを一層豊かにするための器へと高められなければならない。装丁は地味だが、本書にはそのための知恵が詰まっている。質の高い集合住宅を追求してきた執筆者17名の自信と誇りが随所に感じられるのは私だけであろうか。
奈良女子大学生活環境学部/助教授 瀬戸章子
『建設通信新聞』(日刊建設通信新聞社) 2001. 10. 22
「マンションに関する計画から管理まで、実務的な内容について解説する入門書が欲しい」。本書はこうしたニーズにこたえて編まれた。執筆陣は都市基盤整備公団関西支社の技術職員とOBである。マンションを大量に供給、管理する実績をもつ公団技術者による執筆だけあって、日本のマンションの問題点を浮き彫りにしている。
例えば、住棟デザインについて論じている第3章では、日本のマンションのほとんどは経済性を最優先してきた結果、快適性を損ねていると指摘する。「マンションをデザインする際の拠り所は集住体全体計画の方法論ではなく、エレベーターや消防設備の緩和規定、構造上の住棟長制限、バリアフリー施策だといっても過言ではない」と。これからはアメニティやアイデンティティーの導入が必要だと呼びかけている。