がくげい連載「都市はどうなっていくのか会議」第2回 “都市の公共性とはなにか”
主催 | 学芸出版社 |
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※詳細は主催団体等にお問い合わせください。 |
10/9に千鳥文化さんで開催された「がくげいラボvol.8」。がくげいラボは、学芸出版社・編集部の「今これが気になる!」に答えてくれる方々をお呼びし、参加者の皆さんを交えてざっくばらんに議論したい!という企画です。
今回、がくげいラボvol.8から派生して、全7回の連載「都市はどうなっていくのか会議」がスタート!
\当日の登壇者 都市の自由研究会(※)と参加者の皆さんによる、今直面している都市の問題や課題についての議論を、レポート形式で連載します。/
第2回「都市の公共性とはなにか」
連載第2回目は、近藤さんと榊原さんのプレゼンをレポートします!
まずは、とんがるちから研究所の近藤さん。
とんがるちから研究所、通称とんち研とは、滋賀を中心としたフィールドで実践者が集まるNPO法人です。
例えば、空き家問題の解決には、リノベーションによってモデルを示すような手法もありますが、そもそもその物件のポテンシャルに左右されることが多くあります。
しかし、そういった使える物件すら出てこなくなった地方都市では、やる気があっても空き家問題が深刻化する一方です。とんち研は、そういったコンサルや大学も扱わないような課題に、’とんち’をもって挑む組織です。
近藤さん:東日本大震災の後、それまで勤めていた大学を辞めて、NPOでこの6~7年の間、自転車や公共交通について考えてきました。今はさまざまな計画づくりに携わる一方で、現場で実践しつつ、都市計画とか環境計画のはじっこをさまよいながら、仕事をしています。
さて、そんな近藤さんは以下の3枚を持ってきてくれました。
①シェアサイクル(ドイツ・コンスタンツ)
②笠松競馬場(岐阜県)
③スミス記念堂(滋賀県・彦根市)
―シェアサイクルの新たな可能性
1枚目は、去年9月にドイツへいったときの1枚。自転車の国際学会のポスターセッションで、とある社会実験の報告を見つけたそうです。その実物を、現地で見つけてきたのがこの写真。専用アプリと連動し、人も荷物も載せられるカーゴバイクのシェアサイクルです。システム的には他の事例となんら変わりないものです。
近藤さん:このシェアサイクルは、もう一度、自転車を何人かで一緒に乗りあう、コミュニティで荷物を運ぶために使いあうという点で、新たな可能性を示唆しているのではないでしょうか。
しかし、石原さんが紹介してくれたポートランドでは、電動キックボードのような個人の移動手段が増えたために、公共交通の利用が減ってきた問題があります。
近藤さん:シェアサイクルは個人の移動の自由を担保するものですが、移動が自由になる一方で、バスや鉄道などの公共性をどう考えるか、というのは重大な課題だと思います。日本、特に滋賀の自転車まちづくりは現状、自転車産業や業界の再構築にとどまっています。私自身は、自転車に関わることをこれからどうしようか、という岐路にあります。
―近代都市計画の齟齬
2枚目は、笠松競馬場(岐阜県)の競馬開催日ではない日の様子。
院生時代、「都市の排除の論理」に関する研究をしてきた近藤さん。明治時代以降の地方競馬場の変遷の研究をしていたそうです。
競馬場は、そもそも公園の一つとして海外から導入されたわけですが、地方競馬場は、あるときから徴税施設(マシーン)に化していきます。ギャンブルで集まったお金は税収に回されていましたが、その役割が次第に機能しなくなると、いつの日か集客施設の役割があたえられます。
近藤さん:そもそもは欲望にまみれた空間だったにも関わらず、現在はお洒落なカフェなどができたり、このエリアは全く違う使われ方をしています。
このような地方競馬場を捉えた1枚の写真からは、地方都市の現状とだぶります。
近藤さん:本来は人間のドロドロとした欲望があるのにも関わらず、さまざまな計画やデザインにまみれていく過程でぽろぽろとそれが削ぎ落とされ、結果としてつまらない施設になっていく、ということを問題に捉えています。
―運営の担い手は誰か
そして3枚目には、彦根城の堀端にあるスミス記念堂のお写真。正面奥に彦根城、手前に芝生がひろがっています。そばには高層マンションがそびえ立っています。
この写真のエリアは、彦根の一等地にあたる場所で、このマンションは、彦根で一、二を争う高級マンションだとも言われています。
近藤さんは、写真の記念堂の維持管理と利活用を長年担っているNPOに参加されています。
このようにこのマンションの価値が上がり、居住者が増える一方で、隣にある公園はなかなかその恩恵が受けられない現状にあります。
この記念堂は、もともと少し離れたところにあった教会の礼拝堂が移築されたもので、その際の移築再建費は市民の募金だけで賄ったと言います。関係者のなかには、地域へのこだわりが強く、現状ではこの公園でマーケットなどのイベントを開催することを望まない人もいます。
しかし、一方で、施設の維持管理には費用が欠かせません。マンションも自治会が異なり、別の自治会がこの芝生の管理を担っているという現状があります。
近藤さん:公園の利用者が多いことは良いことですが、日常的な維持管理の担い手とそれを支えるしくみが必要です。
さらには、地方都市では近代化遺産の価値に対する理解が薄いという問題もあります。
近藤さん:彦根は彦根城で世界遺産を目指していますが、その歴史を支える町屋や景観はどれほど残っているのでしょうか。一方で、その江戸時代をふまえてはぐくまれた近代化遺産をどうやって育てていくのかなど、都市の中での近代化遺産の見直しは重要だと思っています。
続いてはRADの榊原さん。
榊原さんは、京都を拠点に建築やまちのリサーチ、プロジェクトなどのマネジメントなどをやられています。他の方のような研究者や専門家という役回りというより、プロジェクトを立ち上げ実現までを担当する立場です。
最近は、京都市立芸術大学の移転プロジェクトや、愛知県岡崎市のシティプロモーションのディレクションをされています。
榊原さんは以下の3枚を持ってきてくれました。
①ミッションドロレスパーク(アメリカ・サンフランシスコ)
②岡崎まちづくり(愛知県・岡崎市)
③京都市立芸大の移転プロジェクト(京都・崇仁)
今年の夏に24日間、NYからぐるっと一周のアメリカ旅行をされ、帰国されたばかりの榊原さん。京都市芸大の移転プロジェクトのための視察で、アートセンターやアートスポットに行かれたり、岡崎市の公共空間活用プロジェクトに生かすため、様々な公園を見てこられたそうです。
そうした各事例を通して、同じ時代におけるそれぞれの都市の違いを知ることができたと言います。
―都市における流行とはなにか
この写真の公園には傾斜があり、都市が見晴らせるビーチのような場所です。写真のとおり人が多く、非日常のフェスなどではなくこれが日常的な風景だそうです。気候の良い休みの日には大体こんな感じだとか。ここは元々ゲイカルチャー・ゲイコミュ二ティが強い地区でしたが、次第にゲイじゃない人たちも使うようになっていきました。
榊原さん:ここはずっと昔からこのように賑わっていたわけではなく、ある種流行的な場所です。しかしそれは、ゲイカルチャーという文化的背景を含みこんだ上での流行だと言えます。
このような多様性のある場所は、とても都市的な風景だと考えられます。
榊原さん:流行とは、何かしらの制限から自由になった状況、と言えるかもしれません。翻って日本の公共空間で、こういった流行を感じられる場所はあるのでしょうか。
―車社会での公共空間利用
2枚目には、愛知県岡崎市の写真。まちづくりの五カ年計画に参加し、地域の人たちと協働で、市と連携した情報発信や、観光戦略の検討、インフォメーションデザインの検討、公共空間活用やシビックプライドの醸成などを進めていらっしゃいます。
この活動のきっかけは、市を南北に分断する川の存在です。川西につながるエリアを活用する機会がなく、公園や図書館の前の広場など、市の公共空間が活用されない状況にありました。
現在はそういった場所に関わっている人たちの活動によって、公共空間の利用に対するボーダーラインが下がってきたと言います。
しかしそもそも愛知県は車社会。車で点と点を結ぶように移動することが多く、都市空間の中に人が滞留するという場面があまり見られません。
また、鴨川で気候の良い休日に、友人たちと集まって遊ぶという榊原さん。自分や周りの人たちにとっては、このように外で集まることが楽しくて好きでも、こういう層は特徴的であり、あまり一般的ではないのではないか、と思うそうです。
榊原さん:車社会の人たちに、公共空間を自由に使いましょう!というような決まり文句を言って、果たしてどれだけ魅力的に見えるのでしょうか。都市における自由がそもそもどういうものなのか考えることから取り掛かっています。
―自由と公共性
3枚目には、京都市立芸術大学の移転先である崇仁エリアのお写真。ここは京都駅から徒歩10分程度というアクセスの良い場所で、元々は被差別部落でした。
市有地が多く、市有化された途端に土地を囲むフェンスがたってしまいます。このような周囲にフェンスが張られている場所に芸術大学が移転する予定で、プロジェクトではこの場所をどう活用できるか考えます。
榊原さん:誰でも自由に使えるような空き地にする、という手もあるかもしれませんが、一方で公共性も担保しなければなりません。このプロジェクトを通して、場所の使い方や将来像を考えています。
第2回目には、とんち研の近藤さん、RADの榊原さんのプレゼンをご紹介しました。
「都市的課題を象徴する写真」というテーマに対し、モビリティサービスの原点回帰、近代都市計画と現状のズレ、施設運営の担い手、都市の流行、無意識層への働きかけ、場所の開き方、といった課題が投げかけられました。
それぞれに通底しているのは、都市における公共性。多様な人々が入れかわり立ちかわり訪れる都市空間を私物化することはできず、しかし一方で思い思いのままに過ごしたいという純粋な欲求も譲れるものではありません。
都市を生業に生きる人々にとっては、その押し合いへし合いのバランスを取りながら活動を続けていくことが求められているようにも思えます。
今回のプレゼンでは、欧米や関西圏におけるその具体像が垣間見えてきました。
さて次回は園田さん、竹岡さんのプレゼンです。果たしてどんな写真がピックアップされたのでしょうか・・・?
(連載第3回目は11月15日公開予定です!)
担当:中井希衣子