がくげい連載「都市はどうなっていくのか会議」第1回 “都市の自由とはなにか”

主催 学芸出版社
※詳細は主催団体等にお問い合わせください。

10/9に千鳥文化さんで開催された「がくげいラボvol.8」。がくげいラボは、学芸出版社・編集部の「今これが気になる!」に答えてくれる方々をお呼びし、参加者の皆さんを交えてざっくばらんに議論したい!という企画です。

今回、がくげいラボvol.8から派生して、全7回の連載「都市はどうなっていくのか会議」が始まります!

\当日の登壇者 都市の自由研究会※)と参加者の皆さんによる、今直面している都市の問題や課題についての議論を、レポート形式で連載します。/

 

第1回「都市の自由とはなにか」

例えば皆さんは、街を歩いているときにふと「自由にのんびり過ごせる場所がないなぁ~」と、思うことはありませんか?
近年、社会自体の不寛容化と相まって、 日本の都市における自由度の低さが指摘されはじめ、都市への注目は否応無しに高まってきています。専門領域でも「都市の使い方」や「新しい都市デザイン」をめぐる議論が多くなされるようになり、 「タクティカルアーバニズム」や「社会実験」などの意義や手法論が語られる機会も増えています。

こうした背景のもと、そもそも都市における「自由」とはなにか、と根本的に問い直そうとするのが「都市の自由研究会」の皆さんです。
都市における自由とは何か、なぜ今都市の自由を考える必要があるのか、自由を得るにはどのような姿勢が必要なのか……などなど、考えるべき課題は山積みです。
立場は異なっても、都市に対するモヤモヤはそこに暮らす一人ひとりが持っているものではないでしょうか。

今回は欠席の笹尾和宏さんを除く研究会の皆さん(写真上段左から:石原凌河さん 近藤紀章さん 榊原充大さん 下段左から:園田聡さん 竹岡寛文さん)にご参加いただきました。

さて早速ですが、まずは研究会の皆さんにそれぞれご用意いただいた「都市的課題を象徴する」写真について語っていただきましょう!

トップバッターは、防災、さらには災害の記憶の継承について研究を進めている石原凌河さん(龍谷大学講師)。
こんな写真がピックアップされました。

117の集い(神戸市・東遊園地)
電動キックボード Lime(アメリカ・ポートランド)
Salesforce Park(アメリカ・サンフランシスコ)

―公園の多義的な使い方

1枚目は、阪神淡路大震災が起きた日と同じ1月17日に、この都市公園で開かれた追悼の集いの様子です。
この公園は近年、アーバンピクニックやまちライブラリーなどの空間活用が活発な場所ですが、一方で災害の記憶を伝えるための場所としても使われてきました。

石原さん:最近の公園は、いかに活用し儲けるかに重きをおかれますが、追悼ができる、災害のことを考えることができる、という点も公園の大きな役割の一つだと思っています。日常的な使われ方の公園に注目することが多いですが、非日常としての災害の場所というのも公園の重要な役割です。

実際に災害が起これば、公園が避難場所や仮設住宅の設置場所になる可能性も高く、そうした側面から、公園は多面的な機能を果たしていることがわかります。

①117の集い(神戸市・東遊園地)

石原さん:宗教とは違いますが、こうして追悼の場になったときの公園は、祈りの空間に変わります。近代都市計画のなかで、政教分離のように祈りや宗教的な意味をもつ場所は排除されてきました。それにも関わらず、現代の公園が祈りの場になりうる、という多義性におもしろさを感じます。そしてそれは、多重性を担保している公園という空間だからこそ実現できることではないでしょうか。

―小型化する都市内の移動手段

次に2枚目は、今年9月に学生さんと行ったポートランドのお写真。
まちなかの至るところにある電動キックボード「Lime」は、専用アプリを使えば今どこにあるかがわかり、
返却する場所も自由だそうです。

石原さん:このような都市型モビリティは、都市の自由を担保している大きな要素だと思います。

ほかにも「Bird」という電動スクーターも導入されており、米国ではこうした都市の小型モビリティが進んで活用されています。

②電動キックボード Lime(アメリカ・ポートランド)

企業が運営する公共空間

そして3枚目は、9月に学生さんとサンフランシスコへ行った際の1枚。
Salesforce Parkは、低層部はバスターミナルで、屋上が公園として整備されています。今年8月にオープンしたばかりですが、サンフランシスコのハイラインと称されるほど、注目されている場所です。

公園の名前でもあるSalesforce.comは、世界的にも有名な企業で、企業が公園をつくり運営している点に新しさがあります。隣接するオフィスビルと公園が直結していて、働く人々が行き来できるように設計されています。

石原さん:いま日本で議論されている「パブリックスペース(公共空間)としての公園」のような課題からかけ離れて、もはや企業が庭として管理し、開放していることが面白いと思います。良くも悪くも、公共性よりも企業の庭としてのプライベート性が重視されています。

この公園は朝7時~夜9時頃までの間のみ開放され、それ以外の時間帯は閉まるそうです。日本では24時間施錠のない公園が一般的であるため、果たしてこれは公園なのか、とも問われそうですが、本が自由に借りられたり、遊び道具があったり、公園の可能性を広げる事例かもしれません。

③Salesforce Park(アメリカ・サンフランシスコ)


第1回目には、防災をご専門とする石原さんのプレゼンをご紹介しました。
「都市的課題を象徴する写真」というテーマに対して、追悼という一時的機能からみる公園の多義性、都市内の移動を担保するものはなにか、さらに公共空間の管理主体は誰か考えられるか、といった問いが投げかけられました。
そして、神戸からポートランド、サンフランシスコまで、同時代に存在しながらそれぞれが固有に変化し続ける公共空間の姿が見えてきました。

さて、次回のプレゼンターは・・・?(連載第2回目は11月13日公開予定です!)

(※)都市の自由研究会とは、正式名称が「都市生活における自由度の価値化と、その職能に関する研究ユニット」と言い、「都市の自由について研究する」「小学校の自由研究のように自発的に研究する」というダブルミーニングを持ちます。
この研究会には、都市生活が経済活性化など大きな社会的制御のための手段に据えられようとしている、という問題意識があります。本来、都市生活は手段でなく目標・目的であるべきだとし、目的が手段化すると、自由度の低減という課題が浮き彫りになります
そこで、改めて都市の「自由」とはなにか、まちづくり・福祉・モビリティ・防災・デザイン・・・などなど、都市生活を取り巻く様々な側面から問い直してみよう、というのが研究会の趣旨です。


担当:中井希衣子


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