中心のある家 建築家・阿部勤自邸の50年


阿部勤 著 藤塚光政 写真

内容紹介

411点の図面や写真等で辿る古びない家の軌跡

1974年に竣工し50年目を迎える今も、「毎日発見がある」という〈中心のある家〉。建築家自身が竣工時の原形を活かしながら、空間をつくり、手入れし、住まい続けてきた。図面・スケッチ164点、撮り下ろし写真34点、記録写真などの関連資料213点で辿る、日々繰り返される小さな改良や成長する庭とまちの関係、古びない家の軌跡。

体 裁 A4変・140頁・定価 本体4000円+税
ISBN 978-4-7615-4098-2
発行日 2022-09-25
装 丁 加藤賢策(LABORATORIES)


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はじめに

アベキン邸の一日 藤塚光政

対談│塚本由晴×阿部勤

1│着想

住まいの履歴 1938-1974
家を建てる:最初の設計案
内と外の組み合わせ:タイでの経験
中心の発見と二重の囲い:最終の設計案

2│空間構成

まちの原風景
十字路と4つの庭:配置計画と平面計画
低い立ち姿:断面計画
方形屋根と連続窓・壁の開口:エレベーション
私の家の顔:十字路・ファサード
垂れ壁とベンチで囲う:玄関・アプローチ
階段と高窓:玄関ホール
多視点の抜け:玄関ホール
吹抜けとモノリス:1階側廊
“空っぽ”な中心:1階 中心の空間
二重の囲い:1階 中心の空間
外的な内・内的な外:ヌック・テラス
立体ワンルーム :ダイニング・キッチン・コージーコーナー
機能的な動線 :キッチン・パントリー
変化に富んだ居場所 :2階 階段・踊り場
混構造の窓辺:2階 連続窓の空間
鳥の巣のような安心感:2階 連続窓の空間
770mmの高さがつくる「奥」性:2階 中心の空間
二重の囲いから飛び出すサービス空間:2階 水まわり
150mm厚シングル配筋の壁:構造・施工

3│暮らしの空間と時間

1980:三人家族の日常と子どもの成長
1995:多目的な一人暮らし
2000:人とものの集う家:思い思いにくつろげる場所
2010:つくりながら食べる、話す:ペニンシュラキッチン
2030:これからの住みこなし
変化と普遍:掲載誌1975-2022
私のお気に入りのものたち
集い、食べること
一緒の時間:小さな社会を内包する
緑に埋もれた私の家
素材の手触り、光の陰影
「素形」を探す
column:原形としての〈中心のある家〉


おわりに:いつも発見がある家

【著者】

阿部 勤(あべつとむ)

建築家。1936年東京都生まれ。1960年早稲田大学理工学部建築学科卒業後、坂倉準三建築研究所勤務。1966年よりタイ国職業教育改善計画プロジェクトに携わる。1974年に自邸である〈中心のある家〉を手掛ける。1975年に室伏次郎とともに株式会社アルテック建築研究所を立ち上げ、1984年には株式会社アルテックを設立。早稲田大学、東京藝術大学、日本大学芸術学部の非常勤講師を経て現在に至る。2004年以降、〈中心のある家〉〈五本木ハウス〉〈美しが丘の家〉〈賀川豊彦記念松沢資料館〉〈スタンレー電気技術研究所〉〈桜台の家〉にて日本建築家協会25年賞を6度受賞。その他主な作品に〈横浜雙葉学園〉〈蓼科荘レーネサイドスタンレー〉など。
著書に『中心のある家 (くうねるところにすむところ―子どもたちに伝えたい家の本)』(インデックスコミュニケーションズ、2005)、共著書に『暮らしを楽しむキッチンのつくり方』(彰国社、2014)。

【写真】

藤塚光政(ふじつかみつまさ)

写真家。1939年東京都生まれ。東京写真短期大学卒業。月刊『インテリア』編集部を経て1965年独立。大型カメラが主流であった建築写真界で35ミリカメラを駆使し、周辺環境や人間を含めた建築のライブな姿を記録。「2017毎日デザイン賞・特別賞」受賞。2022年ベルリンにて「日本木造遺産」展を開催。著書に『どうなってるの?身近なテクノロジー』(新潮社、2002)、共著書に『意地の都市住宅』(ダイヤモンド社、1987)、『詠み人知らずのデザイン』(TOTO出版、1987)、『建築リフル』(全10巻 TOTO出版、1995)、『藤森照信・特選・美術館三昧』(TOTO出版、2004)、『BRIDGE』(大野美代子作品集、鹿島出版会、2009)、『SENDAMAN 1000』(仙田満作品集、美術出版社、2011)、『木造仮設住宅群』(ポット出版、2011)、『日本木造遺産』(世界文化社、2014)、『JAPAN’S WOODEN HERITAGE』(JPIC、2017)、『日本の住宅遺産』(世界文化社、2019)など。

「正しく古いものは永遠に新しい」。スウェーデンの画家、カール・ラーションの言葉だ。彼のつくった家の天井にこの言葉が描かれている。

私の家は、1974年に竣工した。50年近く経つが、建物として劣化していないと同時に、住まいの空間デザインも、古くなったと感じたことはない。

古くならないどころか、時とともに環境に馴染み、住まい手に馴染み、年月を経て味が増し、住み心地がますます良くなっている。未だに美しいシーンを発見しワクワクすることもあり、すっかりこの家が気に入っている。

家を気に入っているのは私だけでない。訪れる人も皆気に入ってくれ、居心地が良いと長居をしていく。パーティ好きなので、今も毎週末のように多くの人が訪れる。

建築家にも北は北海道、南は沖縄まで、遠方から来てもらった。若い学生もよく訪ねて来る。一時代前は“カワイー!”を連発していた。最近は“ヤバイ”である。“ここに住みたーい”なんてドキンとするようなことを言う女子学生もいる。特に子どもが喜ぶ。嬉々として走り回り、吹抜けから下階の人に声をかけたり、ハンモックをブンブン揺らす。さながら遊園地である。

古く感じないのは、流行を追ったデザインではなく、いつも変わることのない、住まうことの原点を考え、設計したからであろう。光の力も大きい。光により表現される形や空間のデザインは、色褪せることなく永遠に輝き続ける。

素材も重要だ。木、土、石、といった人類が何万年と付き合ってきた気心の知れている素材は、新建材とは異なり、人の心と良い関係を取り結んできた。時間とともに馴染み、味が出る。

外壁が物理的に劣化していないのは屋根で覆われているからであろう。屋根の庇や、出窓の水切で雨から守られているのである。

竣工以来、建築雑誌、一般誌、TVなどから50年近く、毎年まんべんなく取材があり、100件以上になる。どうして私が長い年月、変わることなく気に入っていられるのか、また皆に気に入ってもらえるのかを改めて考えてみた。

2022年8月 阿部勤

いつも発見がある家

一度つくった住まいは、長く住み続けられるものであってほしい。単に物理的に長持ちしているだけでなく、住まい手、まわりの環境とも良い関係を保ち続けられるものでありたい。

用・強・美は建築の基本要素と言われる。用は便利さ、使い勝手などを担保するFUNCTION(機能)。強は構造、環境工学の合理性を兼ね備えるENGINEERING(技術)。美は文字通り美しさ、デザイン性などのART(意匠)である。物理的な建物として長く使えるという観点からみると、機能、技術は大切な要素である。しかし長く住まわれる建築にとっては、意匠が大切である。美しい、楽しい、安らぐ、居心地が良い、拠り所となる……どれも住まうことの根源に関わる、人類のDNAに組み込まれた快適さだ。それらをもちあわせた空間を「素空間」と呼んでみる。素空間は、矩形や方形などの「素形」と、木や土や石などの自然がつくる「素材」で構成される。私の家で言えば、二重の囲いであるが、設計する上で大切なのはそれを探し出すことだと思う。壁、柱、階段、床、開口などの機能の背景に、変わることのない確かさや心の拠り所として、骨格や品格となる「格」がある空間、とも言い換えられる。

素空間を探し出すために大切なのは「目的」である。自然環境、社会環境、歴史環境、住まい手の目的に合った空間でなくてはならない。住まい手に、設計段階から家づくりに深く関わり楽しんでもらうよう心がけているのは、目的を共有するためである。「あなたの家をつくるのですから遠慮はいりません、私が辟易するくらい関わってください。どんな細かいことでも、矛盾することでもかまいません。思いつくままあなたの家のイメージを話してください。一緒にあなたの家を探しましょう」と伝えている。住み続けられる家にはそれに関わった人の思いも大きく関係する。住まい手だけでなくつくり手にも、できるだけ深く思い入れをもって、深く関わってもらいたい。早稲田大学時代の恩師、今井謙次先生が著書『建築とヒューマニティ』(早稲田大学出版部、1985)の中で紹介したエピソードがある。今井先生は若いころに早稲田大学の図書館を設計している。休日、工事中の現場に出向くと、エンタシスの柱を仕上げる左官職人の傍らで、奥さんと子どもたちがゴザに座ってお父さんの仕事ぶりをジーっと見つめていたそうだ。ようやく仕上がった柱を家族全員でしばし眺め、現場をあとにしたその姿を見て、今井先生はいたく感動したという。

「素空間」は変わることのない確かさをもっている。だが同時に、状況の変化に応じて変わることができる可変性や、多様性を受け入れる寛容性、ルーズさをもったシンプルさも、もちあわせなくてはならない。ヴェートーヴェンも、「テーマがシンプルな程その展開の幅は広い」というようなことを言っている。前述したが、人と人、人ともの、人と空間の「関係性」が建築である。これらの関係性を築き上げるのにも、長い時間がかかる。だから大切なのは、十分に時間をかけて「馴染ませる」ことである。地道に長く住み続けること。住まい手が自分の家に愛着をもてること。若い頃、高田馬場に気に入ったバーを見つけて、何十年と通ううちに馴染みの店になった。毎回同じ席に座って、毎回同じようにハーパーの炭酸割を頼む。昔ながらのバーカウンターは、カーブのエッジがよく腕に馴染む。坂倉準三建築研究所時代に担当したホテルのバーカウンターの設計で、坂倉先生にエッジのカーブを何回も修正させられたことを思い出す。ある店が気に入って何回か通ううち、馴染みの店になるわけだが、店と客がそういう関係を築くにも、当然時間が必要である。道具が手に馴染むのも同様だ。ナイフの柄を持ちやすいように削ったり、ヤスリで磨いたりするうちに手に馴染んだ道具となり、それを使う時、何ともいえない喜びと心地良さを味わうことができる。

私と家の関係もそんな感じだ。50年間小さな改良を重ねながら住みこなし、ますます馴染み、お気に入りの空間になってきた。私の家は、今もなお日ごと発見がある。毎日が美しくて、面白くて、興味深くて、不思議で、意外で、知的な刺激に満ちていて、私に馴染んで、50年経とうとする今もなお、生き生きとありつづけている。

2022年8月 阿部勤

開催が決まり次第、お知らせします。

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