新訂 日本建築
内容紹介
昭和13年初版、同29年に新版発行されたロングセラーの新訂版。各種日本建築の計画・構造・施工を容易に習得し、すぐ応用できるよう詳述した名著を完全リニューアル。第Ⅰ部では実務者として身につけておくべき伝統建築の諸知識を、第Ⅱ部では在来工法の計画から施工までを1400点の図表により解説。一生涯役に立つ、必携の書。
体 裁 B5変・480頁・定価 本体6800円+税
ISBN 978-4-7615-4088-3
発行日 2009/07/30
装 丁 KOTO DESIGN Inc.
第Ⅰ部 伝統建築
1 門
1 棟門
2 上土門
3 薬医門
4 大棟門
5 四脚門
6 重層門
7 三門
8 楼門
9 唐門
10 高麗門
11 櫓門
12 長屋門
13 穴門
14 八脚門
15 随身門、仁王門
16 築地塀
2 玄関
1 玄関構え
2 足元と軸部
3 軒回り
4 妻飾り
3 茶室、茶屋
1 お茶について
2 茶と禅
3 数寄屋の発生
4 四畳半
5 茶室、茶屋、数寄屋の区別
6 茶室の配置と必要設備
7 茶室の構造
8 茶席の利用
4 土蔵
1 土蔵と湿気
2 伝統的な土蔵
3 現代の土蔵:木軸ラス貼工法
4 現代の土蔵:鉄筋コンクリート造
5 現代の土蔵:コンクリートブロック造
5 神社建築
1 特徴
2 神社建築の体系
3 各種本殿の様式
4 主な造の詳細
5 鳥居
6 寺院建築
1 寺院建築
2 時代ごとにみる伽藍配置と建物の変化
3 寺院の各建築
4 堂塔の基礎回り
5 本堂の軸組
6 組物
7 軒回り
8 入母屋、千鳥破風
9 屋根瓦葺
7 宮殿建築
1 貴人の住宅の歴史
2 縁
3 出入口と窓
4 床と天井
5 彫刻意匠
8 詳細部1
1 向拝2
2 向拝の構造3
3 唐破風造5
4 縋破風9
5 桧皮葺9
9 彩色
1 彩色装飾
2 彩色の下地ごしらえ
3 置上げ極彩色の手順
4 その他の彩色
10 庭園
1 庭の変遷
2 庭園のテーマ
3 庭園の分類
4 和風庭園の分類
5 作庭の心得
6 築山と泉水
7 石組
8 飛石と敷石
9 樹木の移植
10 芝植え
11 築山庭の景物
12 平庭の景物
13 庭園の手入れ
第Ⅱ部 木造在来工法
11 敷地の選定
1 利便性
2 敷地の地勢
3 敷地の形状と地盤の状態
4 公共設備
5 関連法規の確認
6 建物の配置
12 建築環境
1 日照と日射
2 風
3 音
4 色彩
5 環境の汚染
6 家相方位
13 建築構造
1 組積構造
2 架構構造
3 一体構造
4 木造の在来工法
5 他の木構造
6 建築の寿命
14 計画の要素
1 与条件
2 経年変化
3 晴と褻の世界
4 収納
5 現場調査
15 平面計画
1 必要諸室の摘出とゾーニング
2 平面の形式
3 平面計画構成のための各部屋の再検討
4 外構、エクステリア
16 建築設備計画
1 電気設備
2 給排水衛生設備
3 ガス設備
4 空調設備
17 建築設計
1 平面と高さの基本寸法
2 基本設計
3 実施設計
4 設計図書
5 積算見積り
6 建築工事の方法
7 業者の選定
8 確認申請
9 事前協議
10 確認申請書
11 請負契約
12 工程表
18 敷地の整備
1 石垣と擁壁
2 地業工事
3 地業
19 建前工事
1 木材
2 構造用金物
3 軸組
20 床組
1 床組
2 足固め
3 大引
4 床束
5 簡単な床組
6 根太
7 改め口と揚げ板
8 二階床の構造
9 胴差
10 二階梁
11 二階根太
12 床板
21 小屋組
1 小屋
2 建前と上棟式
3 和小屋(和式小屋)
4 洋小屋(洋式小屋)
5 和小屋の小屋梁
6 小屋束、小屋貫、小屋筋違
7 母屋と棟木
22 屋根野地
1 隅木と谷木
2 垂木
3 軒先
4 野地
5 妻(傍軒)の仕舞
23 屋根
1 勾配
2 屋根葺材料
3 瓦葺の施工法
4 金属板葺(銅板、鉄板、アルミ板、鉛板)
5 金属板葺の施工法
6 スレート
7 石類
8 アスファルト類
9 板葺(木端板葺、木賊葺、スレート葺)
10 樹皮葺、草葺
24 樋
1 降雨量と樋の大きさ
25 壁
1 和風壁下地
2 日本壁
3 洋壁
4 外壁仕上
5 タイル、石工事
26 造作
1 縁側
2 窓
3 庇(廂)と戸袋
4 内法(敷居・鴨居)
5 天井
6 床の間と床脇
7 階段
27 建具工事
1 金属建具
2 木製建具
3 建具用金物
28 ガラス工事
1 板ガラス
2 ガラスブロック
3 ガラス繊維(ガラスウール)
4 その他のガラス製品
29 塗装工事
1 塗装の目的
2 塗料の構成
3 塗料の種類
4 塗料の施工
30 床仕上材と工事
1 畳
2 織物類
3 床タイル
4 床シート(長尺床材)
索引
筆者が建築の実務に携わり始めた昭和30年頃から、木造建築でわからないことがあると、本棚の『新版 日本建築(上)(下)』に助けてもらっていた。この本は渋谷五郎・長尾勝馬両先生の共著で、建築関係者必携の参考書であった。内容は、木造在来工法の全般にわたり詳細に述べられ、さらに茶室、庭園、社寺建築、宮殿建築まで網羅されている。しかし、刊行されてすでに50余年の日々が経過しており、その間のはげしい社会変化によって、現在ではその当時と異なったものになったり、消えてしまったものもある。そこで、この名著『新版 日本建築』を再び甦らせ、現在に通用するものに改めるため、自らの浅学非才をも省みず、おおいに躊躇したが、蛮勇を奮って書き直し、加筆した次第である。
第Ⅰ部伝統建築で扱う範囲は、門、玄関、茶室、土蔵、神社建築、寺院建築、宮殿建築、庭園である。
茶室については、茶の発生から発展期の安土桃山時代の茶室、そして建築に最も大きな影響を与えている数寄屋についても述べた。
土蔵では、伝統的な木造の土蔵と、新しい工法の土蔵についても述べた。
神社建築では、その発生と経緯を歴史的に考え、古代発生の社殿について木割等を詳述した。
寺院建築については、古代、中世、近世の堂宇の変遷、構造の変化、組物等を詳述し、屋根、軸部、内部のしつらえや天井、装飾用部材にいたるまで述べた。
宮殿建築では、奈良後期時代の住宅から書院造までの変遷とその詳細を述べ、また書院造を形成する帳台構えや建具等についても詳述した。
庭園は建築ではないが、日本庭園は原則として建築とともに存在し、建築とは切り離せない造形である。近代の考古学により発見された古代の庭園から、近世の大名庭園にいたる経過を解説し、各部名称も述べた。もちろん、茶庭(露地)にも言及した。
これら伝統建築については、一般には住宅ほど身近に存在するものではなく、ある特殊な人たちのものと考えられがちであるが、建築に携わる者は、教養・知識として知っておかねばならないものばかりである。またその中に先人の考えた意匠、構造が満ちあふれており、それが材料となって新しい意匠、構造を生み出すためにおおいに役立つものであると考え詳述した。なお、戦後の考古学発展の結果、発見されたもの等を加え、一般の木造建築と異なる用語等のうち難読のものには振り仮名をつけた。
第Ⅱ部では、木造在来工法を扱う。現在これ以外に多くの工法があるが、木造在来工法はわが国で営々と培われてきた工法である。世界的に見ても非常に優秀な工法であるが、現在種々の条件からその継承が危ぶまれているのを感じる。本書では、この優秀な意匠・工法を残し、新しい材料・工法を加味して、さらにすばらしい建築を提供するため、過去の工法の再認識が不可欠であると考え、現代に通用する木造在来工法を取り上げた。
戦後の社会変化は想像を絶するもので、建築も、計画、施工、材料、構造それぞれがおおいに変化した。また、これに伴う建築設備も同様である。建築家はこの変化を把握しておかないと、職方との信頼関係が築けない。また職方も、その職種に関連するところを理解する必要がある。
用語は、一般に現場等で用いられているものを使用した。この方がスムースに打合せ等が行われ、間違いも少ないと考えたからである。地域によって差異等があるかもしれないが、ご容赦いただきたい。
本書を書くにあたって、旧著の精神を逸脱することなく、古い伝統もより多く残すことに努めた。ただし、断面表示や規格等は戦後決まったものが多く、図面は旧著のものをすべて描き直し、あるいは新規追加した。
建築に携わろうとする人や建築を学ぼうとする人々にとって、種々役に立つ本であると信じている。
2009年7月
妻木靖延
「新版 日本建築」はしがき
終戦後の混乱期を脱して、昨今ようやく世態人情も軌道にもどり、文化国家としての再起の槌音も聞かれるようになったので、予てから斯界の各層、権威ある学究や技術家を初とし、各地方の青年技術者・学生・現場関係者等から、しきりに督促されていた本書の再版に対し、私も若がえって大改訂の意欲が起り、昨年以来駑馬に鞭を加えて日夜に稿を練り、これを長尾君に提示して意見を交換し、茲に面目を一新、社会にまみえる事にしたのが、この新版「日本建築」である。
すでに下巻の原稿も出来ていることでもあり、上下を合本にしたいと思ったが、何分文学書などとちがって、説明上非常に多くの図版を必要とするので、その費用も巨額に嵩むのと、長い日時を要するので、順序として上巻から出すことにした。
幸に、京都・学芸出版社の竹原君の義挙によって、煩雑な図版を持つ本書が茲に先ず上巻から実現を見るに至った事を感謝すると共に、著者としての私自身も及ばぬ綿密さと熱心さで、一字一句、図版の一点一画にさえも嵩費を惜まず、改版稿正をかさね、社会に出た本書に恥なからしめんとする同氏の努力に対して、深く敬意を払わずにはおけないのである。以上の点に於て、十分自信の持てる積りでいるが、なお諸賢のご叱正を得ば著者の本懐とするところである。
やがて明年巻を追って出版されるさるべき下巻に、より大なる期待をかけて頂くことが出来れば幸いである。
昭和28年9月23日 中秋名月の夜
恩師斎藤兵次郎先生の風貌を想念しつつ
阪急沿線清荒神清宝園寓居にて
著者 渋谷五郎
本書を執筆していると、自身の浅学さがひしひしとわかってくる。それを補うために原著『新版 日本建築』を数回熟読した。たいへん勉強になったが、原著の偉大さが、さらに浮き上がってくる。それゆえ原著の内容を全部載せたいのであるが、頁数の関係が諸々に影響を与えるので調整がいる。付け加えるところはあまり苦労はないが、省くところは相当の覚悟と決断力が必要となる。
例えば、現場での仕口は割合簡単なものが多く、本格的な仕口が使われることが少ないので、省いてしまうことを考えた。しかし省いてしまうと、本格的な建物が建たなくなってしまい、やがて消えてしまう。したがって、留める必要のあるものはほとんど残し、省けると思ったものは、身を切る思いで省いていった。その結果、不行届きの部分等も多々あることと思うが、お気づきの点があればお知らせいただければたいへん幸せである。
本書執筆にあたり、原著者渋谷五郎・長尾勝馬両先生の業績の偉大さを改めて認識するとともに、このような形での『新訂 日本建築』発行をご快諾いただいた原著著作権継承者渋谷晧夫・長尾ち子両氏に、心より御礼申し上げます。
また、多くの人々からアドバイスと励ましとを頂戴して、力をいただきました。特に矢ヶ崎善太郎・末川協両先生には貴重な忠告とご指導を賜り、深く感謝いたしております。また、本書刊行にあたり、その機会を与えて下さった学芸出版社の京極迪宏氏、ならびに全般にわたって、ご苦労とご指導賜った永井美保さんに心から御礼を申し上げます。ありがとうございました。最後になりましたが、日夜我慢を重ねて見守り、期待してくれた妻悦子に礼をいいます。
2009年7月
妻木靖延