証言・まちづくり
内容紹介
地域の中でささやかに、しかしまっとうに生きることと、世界の現代史の最先端を生きることとが共振し合うような、そんなまちづくりのトップランナーとして知られている人たちに、どうしてその世界に入っていくことになったのか、運動として広げる契機はどこにあったのかをお話いただき、リーダーシップの姿を明らかにした。
体 裁 A5・264頁・定価 本体3000円+税
ISBN 978-4-7615-3194-2
発行日 2011/08/01
装 丁 KOTO DESIGN Inc.
まちづくりとリーダーシップ―日本の「まちづくり」はどのような想いに支えられてきたか― 西村幸夫
市村次夫 -小布施- 産地から王国へ
栗の町・小布施
北斎と田んぼの中の美術館
栗菓子屋の文化戦略
町並み修景事業
産地から王国へ
イベントの展開
セーラ・マリ・カミングス
まちづくりの発想
まちづくりのきっかけ
町並みをコーディネート
小布施のブランドづくり
空間の快適性
知的刺激を受けて豊かな生活を目指す
石田芳弘 -犬山- 城下町犬山 都市再生の視座
地方自治体を取り巻く課題
無愛不立(愛なくば立たず)
都市計画道路の拡幅問題
まちづくりの哲学
祭りは最高のソフトウェア
住民主導によるまちづくり検討会 63
外の人の意見を聞く
川を媒体とした交流
まちづくりの歯車が回り出す
歴史を見せることが観光
町の歴史を読み解く
瀬戸 達 -大聖寺- 楽しく、無理をせず、こころと形に残るように
小さな城下町大聖寺
まちづくり活動のきっかけ
一里塚の再生
山の下寺院群の景観整備
さまざまなまちづくり活動の展開
NPO法人の設立
全国町並みゼミの開催
まちづくりの活動拠点の整備
屋形船の運航
まちづくりの失敗例
町並み景観広場の整備
もてなしトイレ案内処
文化財レスキュー隊
心のタッチパネル
まちづくり活動はまず民間から
まちづくりのサイクル
大聖寺が大好き
感じたものだけが心に残る
町とうまく関わることが生きるすべとなる
笹原司朗 -長浜- らしさを捨てろ 長浜の挑戦
観光カリスマになって病気が治った
戦国の通り道・長浜
楽市楽座で栄えた長浜
中心市街地の衰退
株式会社黒壁の誕生
「らしさ」を捨てろ
ガラスの文化をまちづくりに
口コミによる宣伝
土産屋は入れない
一千万人が交流する町へ
まちを良くしないと自分の幸せはない
村八分になる
ガラス文化の発信と古い町並みの整備
ガラス文化を学び続ける
まちづくり役場
ガラスを伝統に
祈りのあるものが祭り
まちづくりの核を見つける
川端五兵衞 -近江八幡- 死に甲斐のある終の栖のまちづくり
商人の町・近江八幡
ヘドロで埋まった八幡堀
堀は埋めた瞬間から後悔が始まる
堀再生のための四つの課題
死に甲斐のある終の栖
堀の再生に向けて
官からのまちづくり
景観に対する市民意識の五段階
現風景から原風景へ
リバーシブル・ディベロップメント
八幡堀再生の裏話
市民権を得た八幡堀清掃キャンペーン
西の湖の保全、重要文化的景観へ
末端行政から先端行政へ
観光は終の栖の内覧会
歴史を知る者は未来を透徹する
熱い想いが新たな道を切り開く
高橋 徹 -伊勢河崎- まちづくりは継続すると、ジャンプアップする時期が来る
伊勢のまちづくり
河川改修によって壊された町並み
町並み保存活動のはじまり
蔵の再生、町並みの保存
行政との対立から協調、協働へ
伊勢河崎蔵バンクの会発足
NPO法人伊勢河崎まちづくり衆の設立
住民主体の自治まちづくり
伊勢の生活のサイクル
まちづくりを継続する気持ちが大切
勢田川の改修について
空き蔵の仲人事業
伊勢河崎商人館の管理運営
伊勢河崎の暮らし体験
天の時、地の利、人の輪でまちづくりが進む
御木曳について
外の人間だからしがらみがない
NPO法人伊勢河崎まちづくり衆の活動について
自立するまちづくり活動へ
中村英雄 -徳島- できる人が、できる時に、できる事を
徳島の真ん中・ひょうたん島
ヘドロで汚れていた新町川
上流をきれいに
ひょうたん島周遊船の運航
多彩なイベントの開催
儲けようとしないから、皆が応援してくれる
まずは自分たちが楽しむことから
男のロマンより女の不満
何のためにするかという大きな目標が大切
川を媒体とした交流
活動を続けるということの大切さ
ビジョンを掲げ活動を続ける
溝口薫平 -由布院- まちづくりは、企画力・調整力・伝達力が必要
誰も名前を知らなかった温泉町
まちづくりへの「想い」
ゴルフ場の建設反対
ドイツに学ぶ
旅館ありきではなく、まず地域ありき
由布院観光総合事務所の設置
各旅館の情報を共有する
由布院のイベントは手づくり
確かなまちづくりへの挑戦
二人のリーダーが町を育てる
町長が保証人になってくれた
地域を守る
ナンバーワンよりオンリーワン
由布院の景観と観光の問題について
一つの旅館が地域を育てていく
あとがき 埒 正浩
本書は、「西村幸夫町並み塾」におけるゲストの講演と西村先生によるインタビューを基本としており、前著の『証言・町並み保存』の続編という位置づけにある。
町並み塾は、二〇〇四年に全国町並み保存連盟の年一回のイベントである「全国町並みゼミ大聖寺大会」を石川県加賀市で開催する際に、前年の奈良県橿原市で開催された「第二十六回全国町並みゼミかしはら・今井大会」で、西村先生から大聖寺での全国町並みゼミを一過性のイベントとして終らせて良いのか、もっと町並み保存やまちづくりについて勉強する必要があるのではないか。さらに、町並み保存やまちづくり活動が始まって三十数年がたったといわれるが、その活動を最初に行った方々がご高齢になっておられるため、先達の貴重な証言をきちんと記録に留めて全国発信する、そういう活動が必要なのではないかというご提案をいただいた。それを聞いた人たちが、ぜひやろうと盛り上がり、加賀市やかがPAP財団のご支援を受けて、スタートしたのである。
町並み塾は、①全国における町並み保存やまちづくりのリーダーの方々をゲストとしてお招きし、生の声を聞きだし記録にまとめること、また、②ゲストには自分史を含めて、その地域での活動をお話していただき、町並み保存やまちづくりに対する考え方を学ぶこと、そして、③ゲストの情熱やノウハウを参加者が共有し、これからのまちづくりに活かしていくことを目的としている。現在は、この塾を通して、北陸はもとより全国各地のさまざまな町並み保存やまちづくり組織が連携し、お互いに交流することや、各ゲストと参加者、参加者同士の人的なネットワークが広がることを期待しながら、開催している。さらに、北陸の地から全国に向けて町並み保存やまちづくり活動の情報発信をしたいと考えている。
また、町並み塾は年四回の開催であり、今年で八年目を迎えている。二〇〇六年までの第一期は、主に町並み保存のリーダーの方々を対象としたものであった。町並み保存の草創期におけるリーダーの方々へのインタビューは、すべての方とはいえないが概ね完了したので、前著の『証言・町並み保存』としてとりまとめた。現在は第二期目に入っており、まちづくりのリーダーの方々に対象を広げて、インタビューを重ねている。開催回数は、番外編を含めて既に三十回を数えた。まさに、継続は力なりである。
これまでの町並み塾の開催地は、北陸の石川県金沢市、加賀市、小松市、福井県福井市、坂井市、大野市、富山県富山市、南砺市である。番外編で愛知県豊田市足助町でも行なった。
町並み塾のゲストは、北は北海道の小樽から南は沖縄の竹富島まで、全国各地からお越しいただいている。前著の『証言・町並み保存』には、北海道では、小樽市の峯山冨美さん(故人)、函館市の村岡武司さん、東北では、秋田県角館町の高橋雄七さん、中部では、長野県南木曽町妻籠の小林俊彦さん、愛知県豊田市足助町の小澤庄一さん、中国では、島根県大田市石見銀山の松場登美さん、四国では、愛媛県内子町の岡田文淑さん、沖縄では、沖縄県竹富町の上勢頭芳徳さんに登場していただいた。
一方、本書には、北陸では、石川県加賀市大聖寺の瀬戸達さん、中部では、長野県小布施町の市村次夫さん、愛知県犬山市の石田芳弘さん、近畿では、滋賀県長浜市の笹原司朗さん、近江八幡市の川端五兵衞さん、三重県伊勢市伊勢河崎の高橋徹さん、四国では、徳島県徳島市の中村英雄さん、九州では、大分県由布市の溝口薫平さんに登場していただくこととなった。これまでのゲストの方をすべてご紹介することはできないが、まさに全国各地で活躍されている方々にお越しいただいたことになる。
各ゲストの活躍されている地域が異なるため、同じ日本といえども文化や風習は異なるが、どの方もまちづくりに対する思い入れは熱く、地域を良くしたいという志は同じである。また、ゲストの方々は、まちづくりで活躍されている地域以外の出身地の方が多いのも特徴であり、しがらみがないから、自由な立場や公平な視点でものがいえるのではないかと考えられる。さらに、リーダーとしての資質を備え、地域のまちづくりに対して確固たる信念を持ち、そして人をひきつけるような、個性的で魅力的な方ばかりである。
町並み塾の運営は、北陸の各地域で活躍されているNPOやまちづくり協議会などと私たち町並み塾実行委員会が主体となり、行政や商工会議所、観光協会などのサポートをいただきながら開催している。最初の二年間は、加賀市で開催したが、現在は、北陸の各都市で開催させていただくようになってきた。いずれの都市での開催も、ボランティアで支えていただいている皆さんの善意によるものであり、会場の設営や駐車場での案内、受付や写真係などをサポートしていただき、本当に感謝している次第である。
町並み塾の開催都市や地域を決める際には、まず、北陸三県で開催することと、申し訳ないが行政のイベントとして開催しないことを原則としている。もちろん、行政の支援を受けて開催できた都市もあり、感謝を申し上げたい。ただし、行政の方にサポートしていただく場合は、黒子に徹していただくようにお願いしている。それは、開催都市における市民主体のまちづくり活動を支援することを、この町並み塾の理念としているからである。町並み塾は、例えば、まちづくり組織を立ち上げようとしている地域や、組織はでき上がったがどのように活動すればよいか手探りの状態の地域、さらに、まちづくりが停滞して、今後の進め方を悩んでいる地域などに、ぜひ活用していただきたいと考えている。
町並み塾はボランティアの活動であるため、資金もないことから、寺や町家、公共施設などをお借りして利用させていただいている。参加者は、毎回、六十名から百名くらいである。少しずつであるが、この塾に参加していただく常連の方が増えてきた。参加者は北陸の方が多いが、各ゲストや西村先生にお会いしたい、お話をお聞きしたいと関東や関西などの遠方から参加される方もおられる。これは、やはり各ゲストが魅力的であることや西村先生のお人柄のよさが、参加者をひきつけているのだと思う。
町並み塾は毎回盛況で、各ゲストの熱のこもったお話や、ホスト役の西村先生による参加者の方々が聞きたいことをゲストから引き出す巧みなインタビューで、大いに盛り上がる。また、町並み塾の終了後には、開催地の方々のご案内で町並み散策をして、その地域の魅力にふれている。さらに、必ず行われる懇親会が楽しく、ゲストや西村先生、参加者の方々とまちづくり談義に花が咲き、塾では聞けないような本音の話が飛び交い、夜遅くまで議論が尽きないのである。
また、エピソードとして、ある都市で開催する前日に、欧州出張中の西村先生が、航空会社のトラブルに巻き込まれて帰国が一日遅れることになったと連絡をいただいたことがあった。その際は、ロンドンのヒースロー空港におられる先生とメールで何度もやりとりし、開催地の方々にお願いして、町並み塾を翌日に急きょ変更させていただいたが、それ以外は大きなトラブルもなく、毎回、塾を開催できている。
今後も町並み塾は継続していきたいと考えており、西村先生とは四十回を一つの目標にしようと約束しているが、私個人としては、できれば、さらにそのあとも続けたいと考えている。町並み塾の開催を楽しみにしている方々も多く、次はどこで、いつ開催するのかと問い合わせもあることから、可能な限り継続していきたい。
私は、この取り組みをある種の市民活動だと考えている。私たちのこの活動は小さなものであるが、北陸をはじめ、全国で町並み保存やまちづくり活動をされている方々に少しでも参考になれば幸いである。
本書では、紙面の都合もあり、町並み塾に来ていただいたすべてのゲストの方を掲載することができないため、申し訳ないが、ゲストのうち、各地域のまちづくりのリーダーとして活躍された先達を、私たちの判断で八人に絞らせていただいた。
八人のゲストは、まちづくりという言葉すら世の中に認識されていない時代において、その地域の住民や行政を巻き込みながら、まちづくり活動をリードされた方や、現在、まさにまちづくり活動のリーダーとして地域を牽引され、大活躍されている方々ばかりである。
このインタビューのエッセンスは、『季刊まちづくり』(学芸出版社)に二〇〇七年の十七号から二十五号にわたり掲載された。季刊まちづくりでは紙面の都合により五ページに要約する必要があったため、本書は惜しみながら削った部分も含めて再編集したものである。編集にあたり、できるだけ各ゲストの生の声を残すとともに、読者の理解の手助けとなるように写真や図版、まちづくり年表、参考文献を掲載した。
本書の作成にあたり、まずは八人のゲストに、感謝を申し上げたい。遠い北陸の地に足を運んでいただき、また、各地域での町並み保存やまちづくり活動について熱心にお話をしていただいた。さらに、町並み塾の開催地である石川県金沢市では、金沢まちづくりサロンや金沢市役所の皆さん、加賀市では、NPO法人歴町センター大聖寺や加賀市役所の皆さん、小松市では、こまつ町家委員会や小松市役所の皆さん、福井県福井市では、福井青年会議所や東郷ふるさとおこし協議会、福井市役所の皆さん、坂井市では、みくに歴史を生かすまちづくり推進協議会や坂井市役所の皆さん、大野市では、大野建築研究会や大野市役所の皆さん、富山県富山市では、水橋中部まちづくり協議会や上滝地区自治振興会、富山市役所の皆さん、南砺市では、世界遺産合掌街道実行委員会や南砺市役所の皆さんなど、多くの方々にお世話になった。特に、石川県では、瀬戸達さん、岡田宜之さん、坂本英之さん、安江雪菜さん、福井県では、玉森慶三さん、大和久米登さん、富山県では、山口誠さんなど、すべての方のお名前をあげることはできないが、多くの方々に支援していただいた。さらに、町並み塾の開催と本書の編集を献身的にサポートしていただいた同僚の五島真由美さんにも感謝を申し上げたい。最後に、学芸出版社の前田裕資氏、森國洋行氏に出版にあたりお世話になった。改めてお礼を申し上げたい。
二〇一一年六月
埒 正浩