郊外戸建住宅地 次世代につなぐ戦略

郊外戸建住宅地 次世代につなぐ戦略
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持続可能にするための具体的戦略を提言

整ったインフラがあるものの時代のニーズに合わなくなった郊外戸建住宅地。住み続けたい人にも、住み替えたい人にも厳しさが増している。空き家への対策、魅力だが維持管理が難しい緑環境の向上、共稼ぎやテレワークに応じたサービスの創出。そしてこれらの問題解決の担い手の再構築。綿密な調査と自らの実践を踏まえた提案

室田 昌子 著   

体裁 A5判・216頁
定価 本体2600円+税
発行日 2026-01-20
装丁 丸山太央
ISBN 9784761529543
GCODE 5722
販売状況 予約受付中 (店頭発売:2025年1月16日頃)
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はじめに

第1章 郊外戸建住宅地とは

第1節 なぜ郊外戸建住宅地をとりあげるのか

1 郊外住宅地の歴史と本著の対象
2 開発年代別、距離圏域別に俯瞰する

第2節 郊外住宅地の発展と入居年代別の特徴

1 郊外化と逆郊外化─郊外住宅地の発展プロセス
2 老朽化・空き家化に直面する60・70年代の開発
3 質の向上と分散化・遠郊外化が目立つ80~90年代の開発
4 小規模化が進む2000年代以降の開発

第2章 次世代に住み継げる戸建住宅地に向けた課題

第1節 住まい手の変化と社会変化による課題

1 住まい手の変化─均質な第1世代から多様性の高い第2世代へ
2 社会の変化─仕事・生活環境と自然環境の重視へ

第2節 民間戸建住宅地の利便性や環境特性

1 1都3県の民間戸建住宅地の特徴とは
2 利便・環境コミュニティ指標から把握する

第3節 次世代継承型まちづくりの必要性

1 次世代継承と居住者の懸念
2 次世代継承型まちづくりとは

第3章 空き家・空き地問題と予防戦略

第1節 郊外住宅地の空き家の特徴

1 空き家の動向と問題化のプロセス
2 市場性によって異なる空き家問題と対策
3 郊外住宅地の空き家の特徴と流通・予防

第2節 高齢期の健康的な住まい方を促し空き家予防につなぐ

1 高齢期の健康的な生活・住まい方の選択と空き家予防
2 高齢期の生活を考えることから住み継ぎにつなぐ
3 新規住民への住み継ぎ支援

第3節 住民、市民による空き家の管理と活用戦略

1 自治会町内会で進める空き家対策
2 市民資本による空き家活用

第4節 空き地の暫定活用戦略

1 空き地の動向と郊外戸建住宅地でのコミュニティ活用
2 菜園・農園活用と地目区分
3 空き地の有効活用の事例

第4章 豊かな緑を維持創出する再生戦略 S101

第1節 郊外戸建住宅地の緑とその効果

1 戸建住宅地の緑の減少と管理不全化
2 地域の緑によるプラス効果
3 緑による効果の定量化

第2節 庭と地域の緑に関する住民意識と緑化政策のギャップ

1 庭の緑の関する住民のストレスや管理実態と地域緑化活動
2 郊外住宅地の緑に関する支援政策

第3節 緑を維持創出するための5つの戦略

1 多様な緑の効果の可視化によるモチベーションアップと資金循環
2 緑の担い手の拡大とリーダーづくりと人材プラットフォーム
3 近隣地域の小規模な緑と地域管理
4 自治体・造園業のwin-winの関係づくり
5 緑の維持は義務的活動から主体的活動へ

第5章 多様化する新規ニーズへの対応戦略

第1節 高齢者が生活を楽しめる住宅地へ

1 「地域内住み替え」によるコミュニティの継続
2 コミュニティで活躍する高齢者たち

第2節 子育て世帯に選ばれる住宅地へ

1 共働き世帯と子育て環境づくり
2 地域での原体験を増やす─コミュニティスクールとまちづくりワークショップ

第3節 働く場としての郊外住宅地へ

1 郊外住宅地における働く環境の重要性
2 郊外住宅地で働く人を支える─「まちなかbiz」のチャレンジ

第4節 新たな機能を強化する

1 サービスの整備標準
2 郊外戸建住宅地でのサービス機能の検証

第6章 住民による地域独自の魅力の創出戦略

第1節 地域資源の変化をきっかけとした魅力づくり

1 地域資源の老朽化や衰退化を生かす
2 空き店舗化をきっかけとした花と緑とコミュニティ再生─都筑区中川エリア

第2節 外部との連携による魅力づくり

1 周辺地域や施設との連携による魅力づくり
2 ウォーキングコースづくりを地域魅力づくりへ

第7章 住民と行政の役割・担い手づくり

第1節 担い手としての住民の役割

1 多様な自治会町内会と住宅地再生での役割
2 住民の自由な活動を課題解決や魅力づくりに結びつける

第2節 地元自治体の責任と役割

1 持続可能な地域づくりと立地適正化計画の活用
2 住み継ぎのための計画づくり・地区計画の活用

第3節 主要な担い手確保に向けて

1 郊外戸建住宅地の再生と担い手確保の難しさ
2 企業・NPOなどの役割
3 エリア再生を進めるうえでの中核となる調整・事務局機能

第8章 郊外戸建住宅地を次世代につなげるために

1 次世代継承型まちづくりの重要性
2 次世代継承型まちづくりの提案のまとめ
3 次世代継承型まちづくりを進めるための体制
4 次世代継承型まちづくりの進め方

巻末資料

室田昌子(むろた・まさこ)

東京都市大学名誉教授 / 横浜市立大学客員教授
2000年に東京工業大学社会理工学研究科博士課程修了。2003年から武蔵工業大学(現・東京都市大学)講師。2007年から同准教授。2013年から同教授。2019年10月~2021年3月東京都市大学環境学部学部長。2023年4月より東京都市大学名誉教授、同8月より横浜市立大学客員教授
著書に『ドイツの地域再生戦略-コミュニティマネージメント』(学芸出版社、2010)、『世界の空き家対策-公民連携による不動産活用とエリア再生』(学芸出版社、共著、2018)他

戦後に全国各地で開発された郊外戸建て住宅地は、現在、急速に老朽化が進んでいる。長らく住んできた人々は高齢化し、人口減少も進んでいる。日本全国で高齢化と人口減少は進んでいるが、郊外住宅地はそれとは異なっている。すなわち、一時期に一気に開発され一斉に入居しそのまま定住し続けたことによって引き起こされるものであり、その変化がドラスティックである。

郊外戸建住宅地は1960年代後半以降に開発が進み、開発年代によって特徴を変えつつ進められてきた。初期の住宅地は60年が経過し、老朽化と空き家化が進んでいる。後に続く住宅地は利便性が低下する傾向にあり、このままでは、今後さらなる空き家化が進んでいく。次世代に円滑な住み継ぎがされないと、たとえ良質な住宅地であってもゴーストタウン化する懸念があり、2030年代に入ると、一層、深刻化していくと考えられる。

郊外住宅地に住む多くの住民は、現在、地域に問題や不安を感じている。幼稚園や小学校、近くの店舗が閉鎖し、バスが減便や廃止となり、道路や歩道の傷みが目立ち、公園が荒れて街路樹が老木化している。近所には空き家が目立ち、急速に環境が悪化し始めている。

次世代に住み継げない住宅地は、居住者の将来生活への不安に直結し、人生の安心感や幸福度、QOL(生活の質)を下げるものである。住宅地を使い捨てる社会システムであり、居住環境の低レベル化や土地の利用価値の低下を招く。環境負荷の点からも大きな問題である。安心できる社会と効果的な国土利用という観点からも、既存住宅地を次世代に円滑に住み継ぐ必要がある。

老朽化する戸建住宅地を次世代に継承するための大きな問題は、住宅地の再生を誰が担うのかという点である。戸建住宅地は住機能の特化と均質性といった特徴を有し、中心となる団体が特にないことが多い。自治会町内会は高齢化が進み、現在抱える活動だけで手一杯で、なかには解散を考えている地域もある。また再生には専門知識も必要であり、プライバシーや個人資産に関係する問題もあり、住民団体のみでは対応がむずかしい。

一方、自治体は、インフラが整備され環境が整っている住宅地に対して、再生などの支援をすることに後ろ向きなところが多い。また、民間企業は、既存住宅地の再生に関与する方法や収益確保のめどが立っているとはいえない。

本著は、郊外戸建住宅地を次世代に住み継ぐためにはどうすればよいか、その戦略をまとめたものである。安心して住み続けられること、住み替えが必要であれば売却して健康的で豊かな住まい方を実現すること、そのためにはどうすればよいのか?

次世代に持続的に継承するためには、住宅地の地域と住まいの価値を上げていくことが必要であり、本著の目標でもある。そのための戦略として、空き家・空き地の予防や活用、緑の維持創出、多様化する居住者の新たなニーズへの対応、地域独自の魅力づくりに関する各戦略をまとめている。また、その担い手と役割、組織について提案している。郊外戸建住宅地が住み継がれるためには多くの変革が必要であり、そのために行政、住民、市民団体、企業がすべきことを提案している。

従って本著を、郊外戸建住宅地を有する自治体の職員や関係者、また住宅地に住み不安を抱える住民、自治会町内会や地域団体で活躍する方々、NPOや市民団体、コミュニティスクールなどの関係者に読んでいただきたい。さらに戸建住宅地でビジネスを行う方々にも仕事上のヒントになるはずだ。例えば不動産の流通や管理を担う企業、鉄道事業、ハウスメーカーやリフォーム会社、工務店、造園、さらに空き家活用、福祉や介護サービスの方々である。もちろん専門家や学生も対象にしている。対象者が幅広いのは、郊外住宅地に関わっていただきたい関係者が多岐に渡るためである。

本著は、空き家・空き地問題、緑の管理や再生、高齢世帯・子育て世帯やテレワーカーの環境づくり、地域まちづくりやコミュニティ活性化を扱っており、これらの問題に関心のある方々も対象としている。

日本は様々な社会改革に迫られているが、郊外住宅地の問題も同様である。適切な改革が実行できないと、居住者は安心感や豊かさが得られず、国土は疲弊し住環境はレベルダウンしていく。これを食い止めて、逆にバージョンアップしていくことを強く願っている。そのような意識を持っている方々の何らかのヒントになれば、大変嬉しい限りである。最後に、本著をまとめるにあたり前田裕資氏に大変お世話になりました。ここに記して感謝申し上げます。

2025年11月20日 室田 昌子

開催が決まり次第、お知らせします。

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