アクティブシティ戦略 暮らしているだけで健康になるまちづくり

アクティブシティ戦略 暮らしているだけで健康になるまちづくり
Loading...

内容紹介

幸福な「健康人口」が増えるまちの条件とは

“健康で幸福に暮らせるまち”はどうつくれるか? 生活・運動習慣をめぐる最新のエビデンスから健康観を捉え直し、15分都市やウォーカブルシティ、プレイスメイキングなど国内外の先進都市による施策例を紹介しながら、現代人を健康行動に誘うまちづくりのポイントについて解説。「健康人口」が増えるまちの条件がわかる1冊


原田 宗彦 著   

払っている会費に見合うほどジムに通えていませんが、1日8,000歩の生活は常々意識しています。“どういうまちであれば、不健康な誘惑に弱い現代人を、健康な生活習慣に誘えるのか”が本書の裏テーマ。皆さんのまちやコミュニティで実践されている「つい身体を動かしてしまう仕掛けや取り組み」、ぜひ教えてください。
編集担当M
編集担当M
体裁四六判・248頁
定価本体2500円+税
発行日2025-06-20
装丁テンテツキ 金子英夫
ISBN9784761529291
GCODE5715
販売状況 在庫◎
関連コンテンツ 試し読みあり
ジャンル 自治体・自治・都市政策
試し読み目次著者紹介まえがきあとがきレクチャー動画関連イベント関連ニュース
このコンテンツにアクセスするには、まち座プラス会員としてのご登録が必要です。新規登録いただくか、登録がお済みの場合はログインしてください

ログイン

新規登録

新規登録フォーム

ログインできない方/登録が完了しているかわからない方へ

仮登録完了後に届くメールで、ご登録のメールアドレスを認証しています。メールが届かない場合、誤って迷惑メールフォルダに振り分けられているか、登録されたメールアドレスに誤りがある可能性がございます。
お問い合わせはこちらから。

■Chapter 1 アクティブシティ戦略の見取り図
――なぜ「幸福で健康なまち」を目指すのか

1|定着するニューノーマルな暮らし

日常の価値観を転換させたコロナ禍
自然回帰のトレンドが高まった消費行動の変容

2|健康と幸福の実現に必要な「アクティブ」さ

幸福だから健康なのか、健康だから幸福なのか
生産性に大きく関わる「ウェルビーイング」
健康と幸福に貢献するアクティブライフ

3|住民の「幸福」を支えるまちづくりとは

アクティブなライフスタイルが実践できるまちへ
地域の課題解決を図るインナー政策
交流人口・関係人口にアプローチするアウター政策
ウェルビーイングを実現するまちづくりに必要な4つの視点
日常生活圏域の環境を変えていくために

■Chapter 2 現代人の生活と健康行動
――人はどうすれば健康になれるのか

1|人はなぜ不健康な誘惑に弱いか

超加工食品の魅力
継続的な運動の難しさ
本能的な欲求との戦い

2|どれくらいアクティブなら健康でいられるのか

健康維持に必要な運動の強度とは
「1日1万歩」の呪縛からの解放

3|人はどうすればアクティブになれるのか

「レクリエーション」的要素を加える
参加ハードルを極限まで下げる
マインドセットの転換を助ける
意欲が高まる「目的」を用意する

■Chapter 3 スポーツまちづくりとしての実践
――国内都市の現在地と課題

1|「スポーツまちづくり」によるまちの改善

ハード・ソフトの両面からまちの改善を図る
各地で進むスポーツまちづくり

2|地方創生におけるスポーツ・健康まちづくり

まち・ひと・しごと創生総合戦略とスポーツ基本計画

3|国内先進自治体の取り組み

必要となるインナー政策とアウター政策の同時展開
スポーツでまちの振興を図る
健康づくりの支援を明確化する
成果のエビデンス化に挑戦する
自治体のアクティブシティ推進をサポートする

■Chapter 4 欧米都市のアクティブ化最前線
――実践例と背景事情

1|世界に広がる都市のアクティブ化

都市のアクティブ化は何をもたらすのか
コペンハーゲン市(デンマーク)――道路のインフラを自転車に最適化
ニューヨーク市(米国)――公民連携で進む環境づくり
バルセロナ市(スペイン)――「私たちが決める」街路再編計画
リバプール市(英国)――スポーツ・身体活動でイノベーションを起こす

2|なぜ欧米でアクティブ化が進むのか

都市住民の運動不足解消が喫緊の課題
都市封鎖を契機に注目された「15分都市」構想
ロールモデルとなったニューヨーク市の「アクティブデザインガイドライン」
英国で推進される「アクティブシティガイダンス」

■Column 都市のアクティブ化を可視化するチェックリスト

■Chapter 5 アクティブな都市生活の誘発
――仕掛けと遊び心の実装

1|活動を誘発する「ナッジ」

意思決定の環境をデザインするちょっとした「仕掛け」
ナッジの4要素
健康まちづくりへの導入例

2|効果を最大化する「ゲーミフィケーション」

遊びとゲーム
ゲーミフィケーションとは何か
まちのアクティブ化への活用
歴史の古いアナログ型×まち歩きタイプ
ストレスなく参加しやすいアナログ型×スポーツ/レクリエーションタイプ
まちのPRを兼ねるIT型[独自開発]×まち歩きタイプ
生活と運動の接近を図るIT型[独自開発]×スポーツ/レクリエーションタイプ
リアル・バーチャル両面でまちを開拓するIT型[プラットフォーム]×まち歩きタイプ
ユーザーのコミットが盛り上がりをつくるIT型[プラットフォーム]×スポーツ・レクリエーション
都市の課題にゲーム感覚で取り組む

■Chapter 6 スペースからプレイスへ
――場と活動の発想転換

1|都市空間の捉え直し

自由空間から自遊空間へ
プレイスメイキングによる自遊空間の創造
都市に必要な祝祭空間

2|都市公園とアクティビティ

変化する都市公園のマネジメント
進展する都市公園のリニューアル
公園・まちを拠点にした新しいランニング文化

3|都市におけるスポーツの変化

アーバンスポーツの可能性
“スポーツ共創”によるアクティビティの創造

■Chapter 7 ウォーカブルな環境整備
――移動手段としての歩行を促す

1|アクティブな移動手段としての歩行促進

人力による移動手段の選択肢
安心・安全に歩ける都市
自動車依存からの脱却
予防医療からみた歩行のメリット
アクティブデザインがもたらす総幸福量

2|ウォーカビリティの高いまち

ウォーカブルシティの条件
思わず歩きたくなるまちに必要な要素
シームレスな回遊行動を阻害しない街路のデザイン

3|“ひと中心の空間”に向けたデザインと法整備

“ひと中心の空間”とは
歩行者最優先の空間への転換
「歩道体験」を街路デザインに組み込む
アクティブシティを可能にする法整備

■Chapter 8 健やかな都市の変化
――まちにもたらされる恩恵

1|都市の価値尺度をどう測るか――経済性から人間性へ

定量的に測られてきた「住みやすさ」
「質」を重視する時代への移行
“迂回”する経済という発想の転換

2|歩行者の消費活動がもたらす経済的メリット

歩行者の増加による沿道への経済効果
購買意欲がない人も滞在時間が長いほど消費額は多い
回遊性を高める「スポット」「パス」「ノード」の最適化

3|アクティブライフを引き立てる緑の効用

都市生活者の命を救う緑化
行政が主導する緑の空間づくり
実証されつつある犯罪抑止効果
空気だけでなく心にもポジティブに作用
医学的な効果も認められている森林浴

4|健康・スポーツを軸に支えあうコミュニティの形成

ソーシャルキャピタルが育む社会・地域の健康
住民を結びつけるスポーツの力

5|スマートなアクティブ化の課題

アクティブシティとスマートシティ
アクティブなエンゲージメントを高める技術例

原田宗彦(はらだ・むねひこ)

1954年大阪生まれ。京都教育大学教育学部卒業、筑波大学大学院体育研究科修了、ペンシルバニア州立大学健康・体育・レクリエーション学部博士課程修了(Ph.D.)。フルブライト上級研究員、大阪体育大学教授、早稲田大学スポーツ科学学術院教授、大阪体育大学学長を経て、現在は学校法人浪商学園理事・大阪体育大学学事顧問。一般社団法人日本スポーツツーリズム推進機構(JSTA)代表理事を務める。著書に、『スポーツイベントの経済学』(単著、2002年、平凡社新書)、『スポーツマーケティング』(編著、2008年、大修館書店)、『スポーツ都市戦略』(単著、2016年、学芸出版社、不動産協会賞受賞)、『スポーツ地域マネジメント』(単著、2020年、学芸出版社)、『スポーツ産業論第7版』(編著、2021年、杏林書院)、『実践 スポーツツーリズム』(共著、2022年、学芸出版社)、『スポーツエンターテイメント』(編著、2025年、大修館書店)ほか。

本書は、学芸出版社から刊行した『スポーツ都市戦略』(2016年)と『スポーツ地域マネジメント』(2020年)に続く、スポーツまちづくりに関する3冊目の書籍である。1冊目は、スポーツをキャタリスト(触媒)とした都市経営について論考したもので、スポーツツーリズムを地方創生に結びつける方策について述べた。2冊目は、視線を都市から地域に移し、スポーツ×文化×観光というキーワードを用いて、地域資源の効果的な活用スキームの紹介を試みた。3冊目となる本書では、「暮らしているだけで健康になるまちづくり」をテーマとし、アクティブシティを具現化するために、どのようにまちや地
域をリデザインすればよいかについて提案したいと考えた。
筆者は長い間、体育・スポーツの分野で教育と研究に携わってきたが、政府や自治体が進めてきたスポーツ振興策では、スポーツの実施率を増やすことは困難であった。義務教育の小・中学校や高等学校では、体育がカリキュラム化されているため、授業としての体育・スポーツの実施率はほぼ100%である。しかし一旦学校を離れると、日常生活の中でスポーツに参加する機会は激減し、身体的に不活発な状態に陥ることが多い。その理由としては、「時間がない」「仲間がいない」「場所がない」という回答が一般的だが、その一方で、人々は健康でウェルビーイング(幸福)な生活を望み、アクティブな生活の実践が不可欠であるということを理解している。
そこで本書では、スポーツという概念を、日常生活の中で容易に実施することが可能な、アクティブな〈レジャー〉や〈レクリエーション〉を包含する「活動」(例えば犬の散歩やガーデニングなど)や「行動」(例えば階段をできるだけ使うといった振る舞い)へと拡張し、〈アクティブな生活が容易に実践できるまち〉をどうデザインするかについて考えをまとめることとした。
本書が提唱するアクティブシティは、まちに住む人のウェルビーイング(精神的・肉体的・社会的に満たされた幸福な状態)とレジリエンス(困難をしなやかに乗り越えて回復する力)を最重要課題とするものであり、本文では、アクティブなライフスタイルやアクティブなコミュニティの創出などに加え、公共空間のリデザインによる商業活動の活発化や、脱炭素化による周辺環境への配慮といった問題にも触れた。
具体的な戦略としては、「プレイスメイキング」や「ナッジ」、そして「ゲーミフィケーション」や「空間デザイン」といった4つのエレメントを使ったまちづくりの提案であるが、ちょっとした工夫やイノベーションの導入により、まちが抱える問題点の解像度を高め、具体的な対応策を練ることが可能となる。さらにこれらのエレメントを存分に活用することによって、まちに住む人が幸福でアクティブな生活を送れるようになり、同時に、域外から観光客やビジターが訪れ、そこで生まれる様々な交流によってコミュニティが活性化することで、アクティブシティのあるべき姿が徐々に鮮明になるのである。
本書は8つのChapterから構成されており、Chapter 1は「アクティブシティ戦略の見取り図」と題して、先に述べた4つのエレメントとアクティブシティの全体像を紹介した。Chapter 2は、「現代人の暮らしと健康行動」であり、人はどうすれば健康になれるのかについて述べた。Chapter 3とChapter 4は、「スポーツまちづくりとしての実践」と「欧米都市のアクティブ化最前線」という内容で、スポーツまちづくりを推進する国内外の先進地域の例に触れた。続くChapter 5では、「アクティブな都市生活の誘発」と題して、ナッジとゲーミフィケーションを使った〈仕掛け〉と〈遊び心の実装〉について論考
し、Chapter 6では、「スペースからプレイスへ」という内容で、アクティブライフを誘導するプレイスメイキングについて考究した。さらにChapter 7では、「ウォーカブルな環境整備」という内容で、移動手段としての歩行を促す公共空間のリデザインについて考察を深めつつ、最後のChapter 8では、「健やかな都市の変化」と題して、アクティブ化の結果、どのような恩恵がまちにもたらされるかについて論じた。
まちのアクティブ化とは、まちや地域のデザインが、車中心から「人間中心の設計」へとシフトすることであり、その延長線上においてのみ、健康で幸福に、そして楽しく愉快に暮らせるまちの実現が視野に入ってくる。本書が、今後の地域デザインやまちづくりの一助になれば幸いである。

原田宗彦

都市のアクティブ化はグローバル規模で進展している。経済性を重視した「車中心の都市」から、快適性と健康を重視した「人中心の都市」へと向かうトランジション(移行)の速度は予想以上に速い。身近な例として、2025年の大阪・関西万博を目途に、都市空間の再編を進めてきた大阪市の御堂筋がある。

御堂筋は、大阪を南北に貫く、本線4車線に側道2車線を加えた6車線のメインストリートで、道路幅は44mと広く、距離は4.2kmと長い。道路に沿って4列の銀杏並木が整然と並ぶ、大阪市を代表する美しい景観を誇るとともに、地下を走る大阪メトロの御堂筋線は、1日100万人以上の利用客を運ぶ交通の大動脈である。

戦前の御堂筋は、道幅わずか6mで、北の淡路町から南の長堀まで約1.3kmの狭く短い道であったが、当時の関一市長が、自ら提唱した「都市大改造計画」の中核事業に位置付け、拡幅工事に取り組んだ。その結果、当時の日本としては画期的な大通りが1937年に完成し、その後の大阪の発展を支える交通インフラとして重要な役割を果たしている。

現在でも、買い物のための商業施設や、会社などの業務施設等の都市機能が集積し、都心部として多様なポテンシャルを有しているが、未来を見据えて、新しいビジネスやインバウンド観光客を呼び込むと同時に、市民のウェルビーイングを高めるために、車中心から人中心のストリートへの転換を図るプロジェクトが2023年10月にスタートした。

2025年の5月時点では、2車線ある側道の歩行者空間化が進められており、すでに自転車道を含む幅13.5mの歩道(両側で幅27m)が一部完成している。この計画は今後も続き、2037年には幅44mの御堂筋をすべて歩道に転用する〈人中心のフルモール化〉が実現する予定である。

すでに工事が完了した御堂筋側道の歩行者空間化(出典:筆者撮影)

美しく整備された広大な街路空間は、今後、滞留や交流の場所として利用されるとともに、住民組織の一時的・実験的な介入によって、新しい街路空間の使い方が提案されるなど、「タクティカル・アーバニズム」や「プレイスメイキング」の手法を用いて、心地よい空間に再構築されることになる。

本書で紹介したアクティブシティをつくるために必要な原則は、(1)まち自体がコンパクトで、ヒューマンスケールな空間構成であること、(2)住む人が誇りに思えるまちであり、夢中になれる街並みがあること、そして(3)まち全体が、生活回遊性と観光回遊性が連動する文化・歴史・生活と深い関係性があることの3つである。

これらの原則を満たすまちは、住民の(地域に対する)愛着心を高めてくれる。その結果、住民は、自分たちのまちに満足し、まちを自慢するようになる。そしてそのような場所には、観光地としての「磁力」が発生し、国内外から観光客やビジターがやって来る。御堂筋の例は、まさにこれらの3つの原則にあてはまる好事例であり、今後長きにわたり、アクティブライフの起動装置として機能し続けるに違いない。

そこに住み、暮らしているだけで人が健康になり幸福になれるアクティブなまちづくりへの動きは、過度に偏重した車中心社会への反省から、今後も不可逆的なトレンドとして世界規模で続いていくだろう。私は、都市の未来は「アクティブさ」で決まると信じている。今後、本書が提案するアクティブシティ戦略が、多くの自治体の共感を呼び、まちづくりや都市開発のきっかけづくりに貢献すれば、それは著者の望外の喜びである。

最後に、長い間筆者に寄り添いながら、原稿の完成に向けて適切なアドバイスと叱咤激励を頂戴した編集者の松本優真氏と、2拠点生活に辛抱強く付き合ってくれたパートナーの原田純子氏には深く感謝の意を表したい。

2025年4月25日 上野坂にて
原田宗彦

開催が決まり次第、お知らせします。