事例でみる 住み続けるための減災の実践
内容紹介
自然災害を乗り越え住み続けるための実践集
自然災害を乗り越え、この地域に住み続けるための全国各地の実践集。風土に寄り添い培われた伝統の知恵から近年の大規模災害での対応、住民同士のコミュニケーションを含む未来への備えに至るまでハードとソフト両方の事例を多数紹介。人口減少や気候変動でさらに高まる災害リスクに立ち向かうまちづくり関係者必読の1冊。
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まえがき 後藤隆太郎
本書で紹介する事例
■序章 日本の多様な自然環境と災害の関係性 [鈴木孝男・後藤隆太郎]
■1章 各地で培われた日常的な災害への備え
1-1 かわす
01 ビルトインしたセルフ型シェルター [林和典]
アガリヤ(水害対策)/和歌山県熊野川流域
02 微地形を掘って盛って浸水に備える [後藤隆太郎]
クリーク集落(敷地の浸水対策)/佐賀平野
03 出作り文化が育むしなやかな住まい方 [沼野夏生]
出作り集落(豪雪対策)/福井県大野市打波地区
1-2 やわらげる
04 季節風から家屋を守る人工の森 [浅井秀子]
築地松(風害対策)/出雲平野
05 強風と日差しから集落を守る垣根 [江端木環]
間垣(潮風・遮熱対策)/石川県輪島市上大沢集落
06 厳冬を乗り切るための住宅を守る茅柵 [鈴木孝男]
かざらい(寒風雪対策)/山形県飯豊町
1-3 しのぐ
07 風に呼応する石のカタチ [下田元毅]
石垣(風対策)/愛媛県西宇和郡伊方町
08 生業と共に発展した延焼を防ぐ家の設え [下田元毅]
うだつ(防火)/徳島県美馬市脇町
09 私有地を提供し合ってつくる歩行空間 [鈴木孝男]
とんぼ(防雪・遮光)/新潟県阿賀町津川
10 水との戦いの中で生み出された創意と工夫 [岡田知子]
輪中(水害対策)/濃尾平野
■2章 大規模な災害復興で見られたしなやかな対応
2-1 地域力が活かされた応急対応・滞在避難
01 ご近所交流が育んだ一時的な自宅避難所 [友渕貴之]
東日本大震災(2011年)/宮城県気仙沼市唐桑町大沢地区
02 避難所の6ヵ月に見られた共助と配慮 [佐藤栄治]
東日本大震災(2011年)/宮城県南三陸町
03 住民の発案で民間宿泊施設を避難所に [本塚智貴]
紀伊半島豪雨(2011年)/和歌山県東牟婁郡那智勝浦町
04 住民主体による仮設の災害対応拠点 [本塚智貴]
ジャワ島中部地震(2006年)/インドネシア・ジョグジャカルタ
2-2 復旧と復興に向けたビジョンをつくる
05 生業景を受け継ぐ復興計画 [菊池義浩]
北但馬地震(1925年)/兵庫県豊岡市城崎温泉
06 現地再建で再形成されるコミュニティ [田澤紘子]
東日本大震災(2011年)/宮城県仙台市若林区三本塚地区
07 住宅再建に向けて変わる住民意識 [佐藤栄治]
東日本大震災(2011年)/岩手県釜石市箱崎町箱崎地区
08 集落の核としての公民館 [田中暁子]
東日本大震災(2011年)/岩手県大槌町吉里吉里地区
09 火災への備えで街の賑やかさを取り戻す [鈴木孝男]
糸魚川大火(2016年)/新潟県糸魚川市
2-3 平時のまちづくりに取り込む
10 津波の記憶を継承する [田中暁子]
東日本大震災(2011年)/岩手県宮古市田老町
11 楽しみながら山と付き合い集落を守る [澤田雅浩]
丹波豪雨被害(2014年)/兵庫県丹波市
12 まちづくり活動を創出する復興建築群 [菊池義浩]
北但馬地震(1925年)/兵庫県豊岡市
13 暮らす人と関わる人の相互補完関係をつくる [澤田雅浩]
新潟県中越地震(2004年)/新潟県長岡市ほか
■3章 将来に向けた持続的な減災の取り組み
3-1 事前に復興の手立てを考える
01 被災を前提として町の資源と未来をつくる [後藤隆太郎]
津波避難タワー・防災ツーリズム/高知県・徳島県
02 有事の行動計画を水から考える [下田元毅]
ボッチ de 流しそうめん/三重県尾鷲市九鬼町
3-2 地域全体で教訓を継承する
03 復興への原動力となった郷土芸能 [岡田知子]
獅子振り/宮城県牡鹿郡女川町
04 災害伝承媒体としてのインフラと祭り [林和典]
津浪祭/和歌山県有田郡広川町
05 度重なる被災経験から生まれた年中行事 [菊池義浩]
千度参り/兵庫県豊岡市田結地区
06 模型を活用したふるさとの記憶の見える化 [友渕貴之]
「失われた街」模型復元プロジェクト/被災各地
3-3 次世代の担い手を育てる
07 子ども復興計画から始まる地域づくり [鈴木孝男]
ぼくとわたしの復興計画/宮城県東松島市赤井地区
08 絵地図づくりを通した郷土愛の醸成 [江端木環]
あこう絵マップコンクール/兵庫県赤穂市
09 次世代に思いを繋ぐ若者の語り部活動 [友渕貴之]
語り部活動/宮城県気仙沼市
■終章 減災の社会実装に向けて [友渕貴之・菊池義浩]
あとがき [鈴木孝男]
災害を力で押さえ込もうとする頑強な構造物、それらによって日常風景が一変することに違和感を抱く人は少なくない。災害に備えつつ、いかにして次世代に地域をつなぐべきか、そのための「減災」とはどのようなものか、このような現状に疑問を持ち未来をポジティブに考えようとする創造力があるからこそ、皆さんはこの本を開いたのではないだろうか。
本書の目的は、これまでに被災した各地でのフィールドワークと議論を踏まえ、減災に通じる実践、その実例を皆さんと共有することである。我々は、国土の強靱化やひとつの構造物の設計ではなく、人々が集まって暮らす地域や居住地、自然と関わる生業のある集落の持続を目指す研究者であり、より良い減災の取り組みとは、地域や集落をより強く美しくし、同時にまた、人々の暮らしに活力を与え、地域社会の持続に貢献するものと考えている。そんな都合の良い実践や手法があるのか?と疑問を持つかもしれないが、本書には多数のそうした実例が収録されている。
そもそも日本は火山とともにある島国で、梅雨や積雪をともなう四季があり、時に厳しい自然と向き合わねばならず、その自然と暮らすための無数の知恵が存在する。それらは、我々日本人にとっては普通の風景であっても、外国の人々に「amazing!」と言わしめる魅力がある。それは理念ではなく、「実践」を積み重ねた総体があるからであろう。したがって、本書では、地域や集落、各々の風土、社会背景なども含めて記述することで、一つひとつの事例をリアルに紹介するように努めた。
本書で紹介する事例の多くは月刊雑誌「ニューライフ」での連載「しなやかに災害と付き合う知恵」で紹介していたもので、著者陣が深く関わってきた地域が多い。本書のために改めて研究者としての観点に加え、実際に被災現場に関わるであろう自治体の防災・地域づくり部局の職員、地域づくりの最前線で働く方々にとって、それぞれの状況ごとに、また「減災」の可能性や対応範囲の広さが理解できるよう、できるだけ具体的に書くよう工夫した。また、住民、学生、まちづくりの専門家など、現場に関わるあらゆる方々にもわかりやすいよう、平易な言葉遣いを意識した。このような本書は全体を俯瞰しつつ順序だてて理解を進めることもできるし、興味のままに事例や実践を選んで気楽に読んでいただいてもよい。いずれにしても、現場を歩き、場所や人と対話し、他の地域にも参考になる減災の手法を考え続けてきた我々ならではの内容になっている。
昨今の状況から「災害は身近に起こりえる」と言える。各地で住み続けるためには、自然や災害としなやかに付き合うこと、つまりは減災の理論とその実践が大切であり、それは私たちの文化、生活のアイデンティティの醸成に通じると言っても言い過ぎではない。本書で自然とともにある地域や営みに触れることが、皆さんの地域での減災、暮らし、コミュニティの持続を考え、未来をつくる実践のきっかけになれば幸いである。
2024年8月
著者代表 後藤隆太郎
2024年7月下旬に奥能登を訪れた。空には無数のとんぼが飛び交い、鳥の鳴き声が方々から聞こえてくる。生態系の豊かさを実感する。同年元日の地震で大きな被害を受けたとある沿岸部の集落では、復興に向けて住民の話し合いが始まっていた。前を向いて歩もうとする話し合いの場だが、どうしても大きな課題が立ちはだかる。住宅が全壊しその日その日の暮らしだけで精一杯な生活状況、仕事と便利さを求めて地域から出た人がいること、子どもが減って募る将来への不安、人手不足に悩まされている伝統的なキリコ祭、住民の一言一言が胸に刺さる。他人事でいられない。
我々は農村計画の研究者として、普段から農山漁村をフィールドとして研究調査をさせていただいている。各地の調査結果を持ち寄って、社会の変化に応じた農山漁村のあるべき姿について議論を続けてきたが、奥能登では集落の存続そのものが危ぶまれている。
全国の多くの集落でも、住民やコミュニティの力だけで生活や環境を維持することが難しくなってきており、外の人間も何ができるかと考えなければいけない局面を迎えている。子どもや若者がいない集落はあまりにも寂しい。幸せに暮らせる集落の暮らしを描くことはできるのか、研究者に強く問われている。
本書では、地域の小さな力を繋ぎ合わせ災害としなやかに付き合う住民の実践を噛み砕いて解説した。そのエッセンスを読み取っていただき、少しでも地域で抱えている不安を和らげ、前に進む力になれば嬉しい限りである。
本書の出版にあたり、多くの方々のご支援とご協力をいただいた。まず、学芸出版社の古野咲月さんに心より御礼を申し上げる。構想から長い期間にわたる彼女の的確な助言ときめ細かい編集作業によって、本の質を大いに高めることができた。また、一般社団法人住総研からの出版助成は執筆の大きな支えとなった。直接お会いできなかっ本書の制作に携わってくれたすべての方々にも、この紙面を借りて感謝の意を表する。
そして、我々の調査にご協力いただき、貴重な時間を惜しみなく提供してくださった地域の皆様に、心からの感謝の意を表する。現地の案内やヒアリングを通じて得られた生の情報は、本書を執筆する上で欠かせないものであったし、皆様のご支援と励ましがあってこそ、本書の出版が実現した。本書が皆様のお役に立つことを願っている。
本書の締めくくりにあたり、能登半島地震で被災された皆様に改めて、心よりお見舞い申し上げる。間垣の調査に協力いただいた輪島市大沢・上大沢集落でも被害を受けたとうかがっている。皆様の一日も早い復興と生活の再建を心から祈る。まちづくりに携わる者として、少しでもお力になれれば幸いである。
2024年8月 著者代表 鈴木孝男
開催が決まり次第、お知らせします。