建築と造園をつなぐ ランドスケープデザイン入門
内容紹介
ランドスケープを建築設計の味方につけよう
建築設計に関わるランドスケープデザインの基本的な計画や歴史、植物の知識と配植ポイント、プレゼン手法、職種や職能までを豊富な図版で解説した入門書。各章冒頭にディスカッション問題、章末には住宅の庭や公共施設の広場、歩道などのデザインを考える演習問題と解説も掲載。建築士製図試験の外構対策にも役立つ一冊。
鈴木 あるの 著
著者紹介
体裁 | B5判・156頁(カラー80頁) |
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定価 | 本体2800円+税 |
発行日 | 2025-01-15 |
装丁 | テンテツキ 金子英夫 |
ISBN | 9784761529109 |
GCODE | 1101 |
販売状況 | 予約受付中 (店頭発売:2025年1月10日頃) |
関連コンテンツ | 試し読みあり |
ジャンル | 造園・緑 |
教科書分野 | 造園・ランドスケープ |
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課題の解答用紙
以下からPDF(A4サイズ)でダウンロードいただけます。
はじめに:ランドスケープを味方につけよう!
Lesson1 基本を知る
1.1 デザインの基本
建築と共通する基礎/環境芸術やランドアートとの違い/隅々まで設計する/客観的な図面に表す/施工と管理まで考えて
1.2 プランニングの基本
誰のための仕事?/何のためのデザイン?/「住宅」とひとくちにいっても/商業施設/公共施設
エスキス課題1 私の庭
Lesson2 敷地をわりあてる
2.1 敷地分析
接道と周辺環境/建築や設備との関係/自然環境/敷地の現状/敷地の過去と未来
2.2 動線とゾーニング
まずどこから始めるか/自動車の進入路/敷地内のゾーニング/動線の分離と歩車分離/敷地内の避難通路
エスキス課題2 住宅の外構
Lesson3 描いて伝える
3.1 ドローイングの基本
線には必ず意味がある/図面らしいフリーハンド/面の塗りつぶしかた/ラベリングのしかた/着色のしかた
3.2 ランドスケープの描き方
プレゼンテーション用の図面/地表面の仕上げの描きかた/樹木の描きかた/実施設計の図面/断面図やパースを描く場合
エスキス課題3 住宅地の小公園
Lesson4 植物をとりいれる
4.1 植栽の基本
建築的な配植/規則的配植のすすめ/植栽のスペース/地被類/芝生
4.2 都市緑化
都市に連れてこられた自然/樹木を安定させる/屋上緑化/壁面緑化/インテリアグリーン
エスキス課題4 屋上庭園
Lesson5 植物を選ぶ
5.1 造園植物
植物学との違い/市場に出回っている植物/ガーデニングとの違い/造園植物の分類/学名:名は体を表す
5.2 生育環境
日照条件/水やりと土壌/その他の生育条件/自然の植生地を参考に/気候と微気象による変化
エスキス課題5 植栽計画
Lesson6 外構をしつらえる
6.1 舗装材料
小舗装材/コンクリート/アスファルト/砂利・砂・土/石・タイル、その他
6.2 エクステリア
塀、フェンス/カーポート、サイクルポート/デッキ、テラス/照明と電気設備/椅子、ベンチ
エスキス課題6 エントランス広場
Lesson7 楽しい場所にする
7.1 遊具
児童公園から街区公園へ/遊具の今むかし/インクルーシブ公園/遊び場の安全衛生/水遊び場
7.2 休憩施設・便益施設
ピクニックテーブル/あずまや、パーゴラ/ゴミ箱/公衆トイレ/簡易スポーツ施設
エスキス課題7 街区公園
Lesson8 高さをつなぐ
8.1 造成と排水
等高線を読む/切土と盛土/擁壁/水勾配/敷地内の排水経路
8.2 階段とスロープ
バリアフリー/階段の寸法/待機スペース/手すり・踊り場・経路/スロープの傾斜
エスキス課題8 坂道の家
Lesson9 機能を高める
9.1 視線の調整
古典から学ぼう/焦点と眺望/誘導と暗示/見え隠れ/縁取り
9.2 環境の調整
室温の調節/水のもたらす効果/光の調節/騒音と風の低減/鳥や昆虫
エスキス課題9 集合住宅の共用庭
Lesson10 命をまもる
10.1 防犯と事故防止
デザインによる防犯/「見える化」をすること/公衆トイレ問題/避難路の確保/歩車分離
10.2 防災
防風林/防火林/砂防林/防災施設/緊急車両
エスキス課題10 駐車場
Lesson11 歴史からまなぶ
11.1 伝統的庭園
日本庭園/中国式庭園/ヨーロッパ整形式庭園/イスラム式庭園/イギリス自然風景式庭園
11.2 日本庭園の要素
見られる方向/庭園要素の意味/風景画として、舞台として/抽象化されたストーリー/自然を際立たせる
エスキス課題11 ポケットパーク
Lesson12 近現代を生きる
12.1 皆のためのデザイン
公園の誕生/都市の中の公園/日本の造園のはじまり/作品化するランドスケープデザイン/環境意識の高まり
12.2 動きのデザイン
歩車分離のはじまり/自転車道とランニングコース/動くスピードに応じたデザイン/歩道も生活空間に/街路樹を植える心得
エスキス課題12 歩道と街路樹
Lesson13 つながりをつくる
13.1 歴史と観光
歴史的景観/日常との調整/映えスポット/テーマパークとレプリカ/縮景
13.2 賑わいのデザイン
歩けるまち/ヒューマンスクール/行動をうながすデザイン/使われない施設/持続させるために
エスキス課題13 にぎわい広場
Lesson14 仕事を知る
14.1 海外の動向
ランドスケープアーキテクチャーへ/米国の免許登録/米国の教育制度/ヨーロッパの動向/世界的な潮流
14.2 日本における可能性
ランドスケープ関連の資格/事務所の開設/緑をとりいれた建築/さらに学びたい人のために/庭職人の将来
エスキス課題の解説
おわりに:建築と造園のあいだ
Column:建築と緑の呼応
Further Reading:おすすめ図書リスト
ランドスケープを味方につけよう!
この本は、建築設計に関わるランドスケープデザインの基本を、大学や専門学校での設計演習に求められるレベルまで学ぶための入門書です。敷地の中に残った空白スペースを眺めながら「どうしよう?」と手が止まっている、あなたのための本です。また、身近な屋外空間を設計するための基礎知識を確認する手引書、建築士の製図試験の外構を埋める際の参考書としてもお使いいただけるでしょう。
英語の“Landscape”は、「風景」「景観」「横長」など様々な意味をもちます。そして「ランドスケープアーキテクチャー」(→ p.112)は、庭のデザインや景観デザイン、自然の生態系に配慮した環境計画、人々の営みを中心に考えるまちづくりやコミュニティデザインといった領域まで幅広く含むと理解されています。なお本書では、「環境デザイン」という言葉を建築やランドスケープデザインも含むものとして使用します。
「ランドスケープアーキテクチャー」や「ランドスケープデザイン」が片仮名で呼ばれることが多いのは、幅が広すぎて日本語に訳しにくいためだと思います。生物学、化学、地学、心理学、社会学、工学、美学など文系理系にまたがる様々な要素を含む学際分野です。本書では、その名称の定義に踏み込むことはしません。ランドスケープアーキテクチャーの中の、より小規模で身近な外構デザインと造園設計をまとめて「ランドスケープデザイン」という名称で呼ぶことにしておきます。
ランドスケープデザインの「作品」は竣工時には完成しません。植物は成長に時間がかかり、成長後も変化し続けます。不特定多数の人々が利用する空間は設計者の思い通りには使われません。「それって建築も同じじゃない?」と、賢明な皆さんならお気づきですね。建築に社会性や持続性が重視される時代になりました。それを昔から担ってきたのがランドスケープデザインです。
本書では、主に専門業者が行う外構や造園の施工や管理をランドスケーピング、住民や利用者が自ら行う植物を中心とした庭づくりをガーデニングと独自に定義しておきます。そして園芸的な要素の強いガーデニングや、農学や環境科学の知識を必要とする環境保全計画や、大規模な開発計画には深入りせず、小さな屋外空間や建築周りのランドスケープデザインに絞って話を進めます。
内容は、大学の建築設計演習において、学生さんが悩みがち、あるいは見落としがちなところを中心に構成しました。建築系か造園系かにかかわらず、誰もが知るべき最低限の知識です。全体像を素早くつかんでいただくため、文章量を極力抑え、思い切った単純化をしています。さらに専門的かつ実務的に学びたい方は、p.150で紹介する他の詳しい書籍を読んでみてください。
各課は冒頭のDiscussionという問題から始まります。皆さんに考えていただくための問題なので、すぐに解説を見ず、まずは3分間ほど自分なりに考え、あるいは誰かと話し合ってみてください。そして「答えはなんだろう?」という気持ちで本文を読んでいただきたいと思います。皆さんの理解をさらに深めるための参考写真や参考イラストもつけてあります。なお外国の写真の地名は、日本で通用している省略形の国名で表記しました。
さらに各レッスンには、30分程度の短時間に机上でできるエスキス課題がついています。クリエイティブに創作するというよりは、学んだ基本的な知識を確認するための演習なので、問題解決するつもりで取り組んでください。住宅・店舗・公共など様々な種類の建築が登場しますが、A4 判の紙面でできるよう、小さな敷地としています。独学も可能ですが、正解は一つではありませんので、指導者のもとで行うことをお勧めします。
本書で学ぶことにより、皆さんの図面の謎の空白スペースが、建築の価値をさらに高める機能的な屋外空間に変身することを願っています。そして捉えどころの難しい「ランドスケープデザイン」の概要をつかみ、環境問題や社会問題への意識をより一層高められることを期待しています。
建築と造園のあいだ
皆さんの身の回りにいかにランドスケープデザイナーの仕事が多いか、お分かりいただけたでしょうか? ひと昔前までは「GL±1,000mmの範囲の仕事」「人の足に踏まれてなんぼ」の仕事であると自虐的に紹介していました。しかし今では、緑を中心とした狭義の意味でのランドスケープデザインですら、建築物の壁や屋上や屋内にも入り込み、その活躍の範囲を大きく広げています。
ランドスケープアーキテクトは緑のことだけを考えているわけではなく、緑を用いてより良い生活環境をつくることが仕事です。ひと昔前にはハードスケープだけのアート的なランドスケープデザインが最先端と思われた時期もありました。しかし現在は、気候変動への対策も含め、緑を積極的に用いることが、建築でもランドスケープデザインでも主流となっています。
近年、熱波による森林火災、豪雨による洪水、台風、干ばつなど、異常気象による被害が深刻化しています。日本でも観測史上最高の猛暑記録を更新し、街路樹がなければ外を歩けないような夏を経験しました。そのような中、二酸化炭素排出削減、地下水や川の流量のコントロール、パッシブデザイン、生態系への配慮など、ランドスケープデザイン的な思考が求められています。
しかし今のところ、ランドスケープデザイナーやランドスケープアーキテクトといわれる職業の仕事における立場や優先順位そして社会の中での注目度は、まだ建築家ほど高くありません。この職能の先進国である米国においてすら、ランドスケープアーキテクトの平均年収はいまだにアーキテクトの8割程度です)。そこは正直にお伝えしておきたいと思います。
建設プロジェクトの予算の中で真っ先に削られてきたのも緑でした。自治体で緑被率などを数値で定めても、なんとか誤魔化して植栽を少なく済ませようとする事業者や設計者が後を絶ちません。長い目で持続性を考える、社会全体への影響を考えるという姿勢は、目先の利益や「コスパ」に負けてしまいがちです。街路樹は邪魔、落ち葉は迷惑というユーザーも少なくありません。
かつて米国の環境デザイン大学院で学んでいた時、建築とランドスケープとの合同設計スタジオがありました。確かにデザイン力は建築学生の方が上だったため、建築の学生は「なぜランドスケープの学生と一緒にやらなければならないのですか」と教授に苦情を言いました。すると建築の教授は「彼らは樹木を描くのが上手いから(They draw nice trees)」と言いました。
それを知ったランドスケープ学科の学生たちは怒り、「我々は樹木を描くのが上手い(We draw nice trees)」と皮肉を書いたお揃いのTシャツを着て無言で抗議しました。そのような険悪な雰囲気で始まったスタジオでしたが、ランドスケープ学科の学生がどのような意図をもって植物を選び配置しているのかを知った建築学科の学生は、感嘆し、敬意を表するようになりました。
「所詮は縁の下の力持ちじゃないか」と物足りなく思う方もあるかもしれません。確かにランドスケープアーキテクトには国際的な賞もありませんし、メディアに登場することも少ないでしょう。それは実際に建築を作り上げている実施設計者や現場監督や職人さん達にしても同じことです。多くの方々は、人知れず重要な役割を担い、誇りをもって仕事をしています。
「どんなかたちにしてもらいたいか、材料の声を聞きなさい」といったのは建築家のルイス・カーンですが、材料も構造も技術でいかようにもできるようになった現代、材料の特性を考える機会が失われ、フェイクやハリボテが横行しています。樹木や自然を比喩した建築も流行しているようですが、樹木や自然といったものへの理解がどうも表面的であるような気がしてなりません。
「They draw nice trees」と言った教授は、「建築の添え物としていい感じに樹木を描いてくれる」くらいの意味で言ったのだと思いますし、大学の建築設計演習で描かれる庭はほとんどそんな感じです。しかしランドスケープデザインを学んだ今、ユーザーにも環境にも植物にも優しい、本当の意味で“nice”なデザインができる方が増えてくれたら嬉しいです。
開催が決まり次第、お知らせします。
メディア掲載情報
公開され次第、お伝えします。