ゆるい場をつくる人々
内容紹介
出入り自由でフラットで楽しいから参加する
今「強制されない自発性=ゆるさ」が地域に、人に必要だ。出入り自由、フラットな関係、事務局が目立たない、楽しいから参加する、あるのは人の数だけあるやりたいこと。コワーキングスペースやまちの学び舎、コミュニティ農園、シェア本屋、女性やシニアの仕事場、減災・防災活動、医カフェなど、17のサードプレイスの物語
石山恒貴 編著/秋田志保・大川朝子・小山田理佐・片岡亜紀子・北川佳寿美・近藤英明・佐々木梨華・佐藤雄一郎・谷口ちさ・平田朗子・本多陽子・宮下容子・森隆広・八代茂裕・渡辺萌絵 著
著者紹介
体裁 | 四六判・320頁 |
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定価 | 本体2400円+税 |
発行日 | 2024-09-20 |
装丁 | 美馬智 |
ISBN | 9784761529079 |
GCODE | 5696 |
販売状況 | 在庫◎ |
関連コンテンツ | 試し読みあり |
ジャンル | コミュニティ・ソーシャル |
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序 ゆるい場としてのサードプレイス(石山恒貴)
1 ゆるさとは何か、なぜゆるい場が生まれるのか
2 ゆるい場の特徴と条件
3 ゆるい場をつくる人々
4 本書の4テーマ
1章 行きたい時に行ける場所
事例1 「まちの非武装地帯」としてのコワーキングスペース──チガラボ|神奈川県茅ヶ崎市(石山恒貴)
1 まちの非武装地帯
2 理想のサードプレイスが存在した
3 ゆるい場をつくる人:清水謙さん──新しいことに1人で挑戦し続ける
4 チガラボという実験の始まり
5 交流×学習×実践のコミュニティ
6 まち自体が実験場になればいい
事例2 まちの学校、コラーニングスペース──HLS弘前|青森県弘前市(石山恒貴)
1 まちの中でこそ実現する教育
2 ゆるい場をつくる人:辻正太さん──「ルイーダの酒場」(冒険する仲間を探す場所)をつくりたい
3 体育教師を目指した学生時代
4 中高一貫校の教師に
5 弘前で「ルイーダの酒場」を実現する
5 HLSの始動と成長
7 学校教育に戻る
事例3 全員で運営するコモンズ農園──EdiblePark茅ヶ崎|神奈川県茅ヶ崎市(平田朗子)
1 会員制コミュニティ農園というチャレンジ
2 ゆるい場をつくる人:石井光さん──気さくな近所のお兄ちゃん
3 地主の13代目として辻堂で育つ
4 「巻き込まれ事故」のような流れで代表に
5 時間をかけて共存できるようになればいい
事例4 みんなでみんなに大丈夫力をつける──サステナブルライフ研究会@湘南|神奈川県藤沢市(秋田志保)
1 有志のご近所メンバーでゆるく知識をシェアする会
2 住む人一人ひとりの安心感、大丈夫という感覚
3 ゆるい場をつくる人:齋藤佳太郎さん──生活用品の手作り実験から生まれたつながり
4 決めすぎない運営、選びすぎない人選
5 「軒先の未活用フルーツ」で湘南地域をつなげたい
2章 自分が行きたいと思える場所づくり
事例5 十人十色、オトナたちのまちの学び舎──こすぎの大学|神奈川県川崎市(本多陽子・森隆広)
1 武蔵小杉に生まれた学び舎
2 ゆるい場をつくる人:岡本克彦さん──堅苦しくない伸び伸びとした居心地の良さ
3 会社以外の誰とも交流しない日常に気づいて
4 月1回、地域の懇親の場に新旧住民が集う
5 メンバーの思いはみんなバラバラ
6 住民の「やりたい」を後押しする、地域のハブ
事例6 都心のコミュニティ菜園──そらとだいちの図書館|東京都新宿区(渡辺萌絵)
1 図書館の空地を活用したコミュニティ菜園
2 ゆるい場をつくる人:渡辺萌絵さん──場所も、資金も、人脈も、スキルも無い
3 自分にできる小さなことから──町内会長へ宛てた手紙とイラスト
4 空地を使った菜園イベント、多世代をつなぐ家族食堂、そして充電期間へ
5 ずっと気になっていた図書館の空地活用計画
6 試行錯誤しながら走り続ける
事例7 イベント未満・カウンセリング未満の話せるシェア本屋──とまり木|神奈川県茅ヶ崎市(片岡亜紀子・谷口ちさ・平田朗子)
1 街に「リアルに話せる場所」を
2 とまり木に惹かれる理由
3 ゆるい場をつくる人:大西裕太さん──社会復帰から始まった場づくりの構想
4 みんなでつくるとまり木
5 訪問者が思い思いに過ごせる場所
3章 女性もシニアも心地よく働けるコミュニティ
事例8 誰もが心地良く暮らし、働ける場をつくる──非営利型株式会社Polaris|東京都調布市(秋田志保・片岡亜紀子)
1 非営利型株式会社とは
2 ゆるい場をつくる人:市川望美さん──言葉と理念の人
3 誰もが自分で自分の働き方を選べるように
4 成長と拡大を経て感じた変化
5 生き方の選択肢を増やす
事例9 シニアと仕事と地域をつなげる──NPO法人セカンドワーク協会|神奈川県茅ヶ崎市(小山田理佐・宮下容子)
1 シニアも現役世代も、共にセカンドワークを手に入れる
2 なぜNPO法人なのか──社会貢献活動への覚悟
3 ゆるい場をつくる人:四條邦夫さん──長年の会社員生活、起業、そしてNPO法人設立
4 試行錯誤した経験がつながっていく
5 仲間が増え、組織基盤を整えて活動の拡大を目指す
事例10 「企業研修」をきっかけに会社員が地域にゆるく関わっていく──株式会社machimori|静岡県熱海市(佐々木梨華)
1 まちづくり会社が行う企業研修事業
2 ゆるい場をつくる人:佐々木梨華さん──machimoriの企業研修事業を立ち上げるまで
3 売るプログラムがない、顧客もいない、体制もない
4 machimoriの企業研修事業部のこれから
4章 楽しいから楽しい、地域活動
事例11 富士山が微笑む若者のまちづくり── 一般社団法人F-design|静岡県富士市(石山恒貴)
1 若い世代が富士市を盛り上げる
2 個性が異なる3人の若者
3 ゆるい場をつくる人:大道和哉さん──F-designを立ち上げるまで
4 ゆるい場をつくる人:川上大樹さん──F-designに出会うまで
5 ゆるい場をつくる人:井出幸大さん──F-designに出会うまで
6 路線変更と信頼関係
7 社交交流型サードプレイスから、目的交流型サードプレイスへ
事例12 人と農を結ぶ暮らしの創造──NPO法人湘南スタイル|神奈川県茅ヶ崎市(小山田理佐・近藤英明・佐藤雄一郎)
1 農業支援からはじまった湘南の老舗NPO法人
2 ゆるい場をつくる人:渡部健さん──農と食を通じて地域を盛り上げたい
3 やりたい人に任せる、緩いつながりの運営
5 街の人事部──住民が共に成長し支え合う
事例13 楽しく備える新しい減災・防災のかたち──溝の口減災ガールズ|神奈川県川崎市(本多陽子)
1 減災・防災を「自分ごと」に
2 ゆるい場をつくる人:山本詩野さん──被災地へ支援に行ったつもりが、逆に刺激を受けて帰ってくる
3 近隣連携の副産物──「溝の口減災ガールズ」の誕生
5 マジメだけど軽やかに
6 できる時に、できるひとが、できることを
7 いざという時に手がつなげる安心感
事例14 多様な関係人口とのつながりがまちを変える──ARUYO ODAWARA|神奈川県小田原市(大川朝子)
1 多様な関係人口が行き交う都市のコミュニティ
2 ゆるい場をつくる人:コアゼユウスケさん──人生は学校ではなく、すべてタワーレコードから教わった
4 住民・移住者・リモートワーカーが集まる場で好循環が生まれる
5 楽しく生きる大人を増やす
事例15 面白そう、楽しそうでつながる里山のコミュニティ─ ──バー洋子・焚き火編集室|福岡県宗像市(北川佳寿美)
1 多彩な顔をもつデザイナー
2 ゆるい場をつくる人:谷口竜平さん──田舎での暮らしと、都会への屈折した憧れ
3 かっこいい大人とかっこいい仕事
4 「田舎はいい」が初めて腑に落ちた瞬間
5 一万坪の里山でゆるく地域とつながり続ける
事例16 定年後に地域とゆるくつながる──ながはま森林マッチングセンター・星の馬WORKS・もりのもり|滋賀県長浜市(八代茂裕)
1 山を活かす、山を守る、山に暮らす
2 マッチングセンターとのゆるく心地よい関係
3 ゆるい場をつくる人:橋本勘さん──強い思いは、あまりない
4 マッチングセンターを取り巻く人々
5 地方は元気なシニアのサードプレイス
事例17 医療をもっとカジュアルに語りたい──医カフェ・CoCo-Cam|青森県弘前市(秋田志保・平田朗子)
1 医学生が経営するカフェの誕生
2 筆者2人とCoCo-Camとの出会い
3 ゆるい場をつくる人(初代):白戸蓮さん──医学部では学べない社会的テーマを追求したい
5 ゆるい場をつくる人(2代目):佐々木慎一朗さん──遊びの天才ならではの実行力
6 仲間と共にビジョンを実践する
7 全国に医カフェができていく未来
終章 ゆるいからこそつながれる、続けられる(石山恒貴)
1 ゆるい場をつくる人々が歩む共通プロセス
2 ゆるい場は共振する
事例1のチガラボについて原稿を書き終え、やれやれ、やっとやり遂げたと思った時のことです。清水さん(謙さん)に内容を確認いただくため、筆者は原稿をFacebook メッセンジャーで送りました。それに対して謙さんから返信されてきたメッセンジャーを読み、驚きを禁じえませんでした。謙さんは原稿についてお礼を述べるとともに、チガラボを2024 年3 月末にクローズする、とメッセージを送ってきたのです。
その理由は次のようなものでした。2017 年1 月にチガラボがスタートし、人のつながりから数多くの「たくらみ」が生まれ、個性ゆたかな地域のプレイヤーが増えたこと。チガラボから生まれたサステナブルライフ研究会@湘南(サス研)やとまり木に代表されるように、「たくらみ」を支える素晴らしい場が育ってきたこと。それを象徴するように、「湘南のきさきフルーツプロジェクト」という取り組みがトヨタ財団の2023 年度 国内助成プログラムとして採択されたこと(35)。そう考えると、チガラボは一定の役割を果たし終えたと思えること。さらに、まち自体がゆるやかなラボ(実験の場)になっていくのではないかと思えること。そして謙さん自身が、新たな挑戦に取り組みたいと思っていること。
事例1では、新しいことに挑戦し続ける謙さんの姿を描いていました。またチガラボの今後の展開としては、最終的にはチガラボという存在がなくても、まち自体がラボ(実験の場)になればいいという謙さんの思いについても記載していました。ただ筆者は、「最終的にはチガラボという存在がなくなる」ことは遠い将来のことではないかと漠然と思っていました。まさか本書が世の中に上梓される前に、チガラボがなくなってしまうとは、筆者は夢にも思っていなかったのです。名残惜しいということが率直な気持ちでした。
同時に、謙さんらしいなと思いました。謙さんの今までのキャリアを考えてみても、常に新しい分野に挑戦し続けてきました。そうなると、チガラボで一定の役割を果たし終えたと感じたのなら、次の分野に挑戦したくなることもよくわかると筆者には思えたのです。
その後、チガラボを訪問した時に、湘南のきさきフルーツプロジェクトについてサス研の齋藤さんから詳しくお話を伺いました。このプロジェクトは、サス研がリーダーで、湘南スタイル、チガラボ、とまり木をコアメンバーとして結成されたもの。本書でいえば、事例1、4、7、12 のゆるい場が協働したプロジェクトです。東北から湘南に移住してきた齋藤さんにとっては、各家庭でよく見かける軒先のフルーツがとても珍しいものに見えたそうです。それは湘南の気候の温暖さ、ゆるやかな暮らしを象徴する美しい風景です。同時に齋藤さんには、それらの軒先のフルーツが利用されないままになってしまっていることが、とてももったいなく思えました。
軒先のフルーツを、未利用の資源として活用する。そして地域の有志がフルーツを収穫することによって、ご近所同士のつながりを深めていく。収穫されたフルーツは、新たな湘南ブランドを冠されることで6 次産業化していく。これは、まさに謙さんが感じたように「地域にひらいたプロジェクト」であり、まちをラボとする象徴的な取り組みでしょう。そして東北からやってきて、チガラボで成長した齋藤さんだからこそ思いつくことができたプロジェクトでしょう。謙さんがチガラボは一定の役割を果たし終えた、と感じた理由を体感することができました。
クローズ間近のチガラボで、メンバーの何人かにクローズの感想を聞いてみました。感想として共通していたことは、正直名残惜しいと思うものの、チガラボが目指してきたことを自分たちが茅ヶ崎で継続したいという思いでした。やはり、ゆるい場としてのチガラボの思いは多くの人に継承されているのです。
そして謙さんは、今後は日本全国での不動産そのものなどハードとしての場づくりに貢献するための取り組みに挑戦したいということでした。今までの謙さんのキャリアはソフトとしての場づくりに関する取り組みが中心。それを全く異なる方向に変えていく挑戦。さすがだと思いました。
チガラボのクローズはゆるい場の本質を示していると筆者は思います。つくり上げたゆるい場そのものを維持することが重要なことなのではない。その本質が多くの人々や団体に共振し、受け継がれていけばいいのだ、ということなのです。
本書は研究室のメンバーとのフィールドワークを中心として編纂されました。2021年12月における新宿区のそらとだいちの図書館と戸山ハイツ団地へのフィールドワーク。2022年8月において、チガラボとmachimoriを訪問した茅ヶ崎と熱海での夏合宿。2022年11月においてHLSを訪問した弘前でのフィールドワーク。2023年3月において、マッチングセンターのお話を聞いた長浜での春合宿。こうした研究室の取り組みそのものがゆるい場となり、執筆者一同の思いがなにがしか社会に共振していくことになれば、望外の喜びです。
また本書は、学芸出版社代表取締役・井口夏実さんが企画に共感いただいたことにより実現し、世に問うことができました。井口さんの本書出版に関する多大なご支援に心より感謝いたします。
2024年2月に訪問したクローズ間近のチガラボで 執筆者を代表して
石山恒貴