住宅が傾かない地盤・基礎のつくりかた

住宅が傾かない地盤・基礎のつくりかた 設計者なら知っておきたい 診断・補強技術
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内容紹介

災害にも強い住宅地盤・基礎づくりの入門書

阪神大震災以降、地盤調査と地盤補強は一般化したが、まだまだ不同沈下のトラブルは減らない。昨今の災害の激甚化を受け、住宅地の安全性の確保は建築業界の主要なテーマだ。強い住宅地盤・基礎をつくる方法を第一人者が説く。


髙森 洋 著 日本建築協会 企画 
著者紹介

造成地など、昔は人が住んでいなかった場所にも家が建っているのが今の日本。不同沈下、斜面崩壊、液状化などの言葉は、多くの人にとって他人事ではありません。設計者など、地盤が専門ではない建築実務者向け入門書ですが、住宅購入前に読む本としてもわかりやすいと思います。
編集担当I
編集担当I
体裁A5判・216頁
定価本体2700円+税
発行日2024-09-05
装丁テンテツキ 金子英夫
ISBN9784761529031
GCODE8272
販売状況 在庫◎
ジャンル 建築施工・材料・積算
目次著者紹介はじめにおわりにレクチャー動画関連イベント関連ニュース

はじめに

Ⅰ部 不同沈下の原因を知る

1章 平時の不同沈下

1.1 住宅の傾きと不同沈下防止
1.2 住宅でも地盤調査が必要になった
1.3 不同沈下の原因を知る
コラム 聞き慣れない用語の説明
1.4 盛土と空隙(≒空気)への無関心が事故を起こしている
1.5 地盤判断ミス・設計ミス・施工ミスによる事故の例
1.6 水分の多い粘土地盤で起こっている圧密沈下
コラム 地盤のことは保証会社に任せておけばいい?

2章 自然災害による不同沈下

2.1 大規模自然災害で平時の190余年分の不同沈下が発生している
2.2 一瞬にして命を失う斜面崩落
2.3 地盤の液状化による被災
2.4 浸水・洗掘により宅地の土が持ち出されて傾く
2.5 「自然災害は仕方がない」では済まされない
コラム 不同沈下は“現代病”?

Ⅱ部 敷地・地盤の調査・評価方法

3章  立地の調査

3.1 自然災害の恐れがある場所の見分けかた
3.2 地名を知れば減災への備えができる
コラム 古地図・地名から敷地を見る

4章 造成宅地の調査

4.1 盛土(人工地盤)と地山(自然地盤)の違い
4.2 盛土の有無を確認する方法

5章 地盤調査

5.1 安価で普及しているが万能ではない「SWS試験」
5.2 地層の判別ができるが高くつく「標準貫入試験」
5.3 貫入能力に優れる「ラムサウンディング試験」
5.4 地盤支持力度を直接評価する「平板載荷試験」
5.5 地盤に穴を開けずに調査できる「表面波探査」
5.6 土の力学的性質を調査する「土質試験」
5.7 現場の過去と周囲を見る、これで減災を図ろう

6章 地盤調査結果の評価

6.1 評価は「点」でなく「断面」で行う
6.2 「水平、同厚、同質盛土」、これで不同沈下は防げる
6.3 厄介な超軟弱地盤
6.4 地盤推定断面図を描いてみよう
6.5 盛土地盤での地盤の支持力度算定式や沈下量算定式は、そのまま用いないのが良い
6.6 立地・土質・地歴・支持力などを総合評価

Ⅲ部 平時・災害時の不同沈下対策

7章 平時の不同沈下対策

7.1 表土を固めて支持する地盤改良・補強
7.2 深部の硬い地盤で支持する補強工法

8章 不同沈下している建物の修復

8.1 土台下にジャッキを入れて持ち揚げる「土台揚げ工法」
8.2 基礎下の地盤に耐圧版を設置して持ち揚げる「耐圧版工法」
8.3 基礎横に打ち込んだ鋼管杭を反力として持ち揚げる「管内落下工法」
8.4 建物の重さを反力にして押し込んだ鋼管杭で持ち揚げる「アンダーピニング工法」
8.5 耐圧版下の地盤に薬液を注入して持ち揚げる「注入工法」
8.6 安価な沈下修正の新機軸「モードセルアンカーボルト工法」

9章 自然災害時の不同沈下対策

9.1 「運」を味方に地震・豪雨時の減災対策
9.2 戸建て住宅での液状化対策
9.3 豪雨時の浸水・洗掘対策
コラム 「宅地の災害耐力カルテ」でチェックしてみよう

※各種調査・工法のコスト・メリット比較表
おわりに
参考・引用文献

髙森 洋(たかもり ひろし)
1947年 岡山県生まれ。大阪工業大学土木工学科卒業。1970年積水ハウス入社、住宅の基礎地盤の研究開発と普及、自然災害地において復旧のための諸業務に従事。2005年、株式会社WASC基礎地盤研究所設立、代表取締役に就任。2024年6月、事業承継のため代表取締役を辞し、取締役(会長)に就任。2006年以降大阪と東京で「基礎塾」を毎年開講し、延べ塾生は1100名以上。著書:『地盤と基礎100の疑問』(PHP、2009)、『すぐできる 地震に強い家にする80の方法』(講談社、2011)。『日経ホームビルダー』『日経アーキテクチャー』や建築業界団体誌での寄稿・記名コメント多数。2020年2月26日放送の『ホンマでっか!?TV』(フジテレビ系列)に「傾き住宅評論家」として出演。

岡山県北の農家に生まれ、農繁期には田んぼを手伝い、農閑期には山や川が遊び場、夏は川で魚とり、秋は柿、いちじく、松茸を採り、山芋を掘り、腹一杯食べた。
父と川原で集めた砂、砂利と、農協で買ったセメントを鉄板の上で練り混ぜてコンクリートを作り、家の石垣、小規模な小屋などを作った。草木に囲まれ、土を触った経験は、住宅の基礎、地盤の仕事で大いに役立っている。
1971年、社会人2年目の時、突然、住宅の基礎の直接施工を命じられた。筆者と土工4名。ツルハシとスコップで布掘り → 玉石を小端立て → 転圧 → 配筋(鉄筋現場加工 → 組み立て) → 底版コンクリート打設 → 立ち上がりコンクリート打設 → 脱枠 → 埋め戻し → 天端均しで完成。しかし、全員、住宅の基礎工事は未経験であり、日数が倍以上かかりながら図面通
りの施工ができず、周りの人々から散々怒られ、怒られることから逃げたい一心で、小型バックホウ(当時は特注)での掘削、溶接鉄筋、発売直前の鋼製型枠を使い、コンクリートポンプ車でのコンクリート1回打設工法を完成できた。
基礎施工を確立してホッとしていた時、「家が傾いたので直せ」と言われた。傾いた住宅の直しは、低い箇所を持ち揚げて高い箇所と同じ高さにすることである。この持ち揚げ工事をしていくうちに、この住宅が不同沈下した原因が自ずとわかるようになり、新築前の地盤調査が必要、と進言した。
多くの地盤調査方法の中から「手軽」「素人でも扱える」「狭い場所でも試験できる」「費用が安価」なスウェーデン式サウンディング試験(以下、SWS試験、詳細は後述)を採用した。全棟試験していくうちに問題、疑問点が浮上したが、この試験方法を使いこなすことに注力した。それまでの地盤対策(べた基礎、基礎スラブ幅の拡幅及び木杭)だけでは不足と思い、全国の超軟弱地盤で、数種の地盤対策工法を施した実大基礎による長期載荷試験を実施して、各工法の特徴を把握して日常の業務に反映させた。
住宅での地盤調査と傾かせない地盤対策は当時先進的であったが、建築主、行政から理解を得るのに苦労した。しかし、1995年の阪神淡路大震災での被災状況から、その効果が明らかになり、以降、多くの会社が地盤調査、対策工法に関心を寄せ、一気に活気づき現在に至っている。
戸建て住宅の基礎・地盤に関わり50余年。住宅に求められる性能は時代とともに変わり、今は脱炭素や省エネルギーがキーワードとなっている。
しかし、根本は“寛ぎ”と思う。その寛ぎ、脱炭素、省エネルギーを支えるのは安全・安心な構造であり、それを支えるのは基礎であり、基礎を支えるのは宅地地盤である。すなわち、地盤が住宅性能の全てと思う。
50余年この道一筋と言えば恰好良いが、多くの失敗もしてきた。この経験と知りえたことを後輩の方々に伝え「不同沈下事故0」へ役立てていただきたく本書を執筆した。現在でも事故はかなり発生しており、居住者を苦しめている。その原因の多くは次の「2つの無関心」にあり、意識を変えれば容易に事故を防止できる。

○SWS試験の数値に頼りすぎて、盛土、埋め戻し土に無関心
○自然災害での住宅被災を「自然災害は免責」とする無関心

住宅関係会社に入社した若い方々に面白く読んでいただけることを願い、筆者の経験に、少しだけ工学を重ね、戸建て住宅の傾きを防止できる地盤の見方、対策の実務書を目指して述べる。
筆者は社会人1年生の時購入したある本を今でも読み返して大事にしている。そのような役に立つ本になれば嬉しい。

多くの方々から怒られ、教えていただけたお陰で、生涯現役の道を歩きつつあり、感謝しかない。その感謝の気持ちを表す手段として本書の執筆に臨んだ。書き始めると生まれてから高校生までの田舎での生活を思い出し、またページごとに今までお世話になった方々の顔が浮かんできた。
これらの方々から言われたこと、教えられたことを仕事の中で確かめ、ある時は文献で類似の表現を発見し、「なるほど」と思ったものが、今も毎日の生活や仕事で活きており、それを元に書いた。役立つことなら伝承したい、との思いで。

また35年勤めた住宅会社では、入社2年目以降、基礎・地盤、自然災害対応の仕事を、泥んこになりながら自由にさせていただけた。その経験と記憶が今の糧であり、言い尽くせないほど感謝している。
読んでいただけた方々の中で「これは!」と思い、納得していただけるものがあり、それを受け止めていただければ嬉しい。
そしてこの1冊が、住宅の平時の不同沈下防止に留まらず、常態化した自然災害時代を乗り切るために、役立ってほしいと願う。
筆者は“温故知新流の現場一筋”であるため、計算式、計算結果に間違いがあるかもしれない。気づかれた方はご指導をお願いしたい。
それにしても、最初、書き上げた原稿はひどかった。それを見捨てず、親切、丁寧に導いていただいた学芸出版社のスタッフの皆様と西博康様をはじめ日本建築協会の皆様にお礼を申し上げます。
ありがとうございました。

著者