DX時代の広域連携
内容紹介
DXで従来の圏域を超えて連携し未来を拓く
新しい国土形成計画決定により広域連携への関心が高まっている。なかでも注目はスマートリージョン。DXにより多様なシステムを円滑に結びつけ、人々のウェルビーイングを高め、産業の創出を促す広域連携の考え方を示す
はじめに DX 時代の広域連携 ──スマートリージョン
1編 ICT の活用と広域連携による課題解決──スマートリージョン
1章 スマートリージョンに向けた日本の課題と新東海地域…大西 隆
1 縮小する日本 人口 経済 科学技術力
2 日本の強みと弱み 外部環境の変化
3 日本の縮図としての新東海地域
4 スマートリージョンの展望
2章 スマートリージョンビジョンの提言──新東海地域を例に …スマートリージョン研究会
1 スマートリージョンの意義・機能
2 スマートリージョンで広がるスマート産業
3 新東海地域におけるスマートリージョンの形成の意義・方向性
4 今後の検討課題
2編 DX による生活の変化とスマートリージョン
3章 デジタル化する自治会と新たな地域社会像…小野 遥
1 地域社会におけるデジタル化の波
2 変化を求められる自治会
3 東三河地域における自治会のデジタル化の動き
4 デジタル社会における新たな地域社会像
4章 リアルとデジタルを繋ぐ可動商店街「軽トラ市」…戸田敏行
1 可動店舗と地域
2 軽トラ市の定義と全国展開
3 「軽トラ市」の持つ持続性
4 軽トラ市のネットワーク
5 軽自動車産業との協働
6 「軽トラ市」のデジタル化とICT リテラシー
7 固定・可動・仮想のベストミックス商店街を目指して
5章 デジタルノマドの誘致によるDX 時代の関係人口の拡大・深化 …幾度 明
1 デジタル技術を活用した関係人口の拡大・深化
2 新しい関係人口の可能性を持つデジタルノマド
3 デジタルノマドの視点から見た新東海地域
4 デジタルノマドを活かした新東海地域の活性化
5 今後に向けて
3編 スマート産業の展開
6章 地域企業からのスピンアウトによるDX関連産業の創出…加藤勝敏
1 起業家精神
2 中核企業の創業
3 中核企業からのスピンアウト
3 その他地域におけるスピンアウト企業
4 地域から新たなDX 産業を生み出す仕組み
7章 物流分野におけるスマート化の動向と今後の期待…髙橋大輔
1 物流の様相変化
2 三遠地域の企業活動と物流動向
3 物流の課題解決に向けた地域の取り組み
4 物流高度化に向けた提案
8章 新東海地域における創造都市施策の提案 ──ソフトウェア産業と芸術関係の職業…藤井康幸
1 創造性と産業・職業
2 創造性の地域経済への展開
3 創造性の地域社会への展開
4 通過型でなく存在感と個性を有する新東海地域を目指して
4編 スマートリージョンへの挑戦
9章 デジタルスマートシティ浜松──国土縮図型政令都市での展開…間淵公彦
1 浜松市の概要
2 デジタル・スマートシティ浜松の推進
3 持続可能な都市づくりの推進事例
4 国土縮図型政令都市・浜松の挑戦
10章 地域交通課題の解決に挑む実証実験「しずおかMaaS」…大石人士
1 地方都市における持続可能な公共交通の構築
2 実証実験を主導する地域主導型MaaS コンソーシアムの組成
3 AI オンデマンド交通を中心に実証実験を開始
4 実証実験用アプリ「しずてつMapS !」の開発
5 中山間地や高齢者を対象としたオンデマンド実証実験
6 次世代モビリティを活用した自動運転実証実験
7 しずおかMaaS の目指す方向性
8 実装への第一歩は 事業成果の“見える化”
11章 多核型で構成自治体が多い市町村広域連携の提案…太田秀也
1 これまでの広域連携の取組みの概観
2 今後の広域連携の方向──構成自治体がより多い広域連携 多核型の広域連携
3 新東海地域における広域連携によるスマートリージョン形成
特別寄稿 東三河フードバレー構想 …㈱サーラコーポレーション代表取締役社長 神野吾郎
1 東三河地域の特色
2 食・農を取り巻く環境
3 東三河の農業の目指す姿
4 東三河フードバレー構想
おわりに 東三河の持続可能な未来を共創しよう
DX 時代の広域連携──スマートリージョン
我が国は縮減社会に突入している。基本指標である人口(国勢調査)は、大正以降の急増から2005 年を頂点に急減している。この縮減社会における地域の持続をめざして、従来の範を超えて地域を結ぶ広域連携が、地域形成の手法として期待されていることは間違いないだろう。一方、ICT(情報通信技術)を活用したデジタル化は急速な進展を見せており、より広域に地域を結びつけたり、多様な主体の連携の可能性を広げている。つまり、DX(デジタル・トランスフォーメンション:広義にはICT を活用した社会変革)時代の広域連携を構想することが、今、重要な課題となっているといえよう。
これまでの広域連携では、隣接・連坦する都市や都市圏・中山間地域が連携することにより、生活利便性の向上や、産業経済の高度化・イノベーションの創出等の効果をめざしてきた。DX 時代の広域連携では、隣接・連坦する多様な資源を相互に活用するだけではなく、域外からも容易にアクセスできる環境整備が求められ、 ICT の活用が必然的に重要性を増すことになる。そうした中で、地域社会におけるデジタル化の目標を何に定めるかが問われることになる。単に効率性を重視し、競争優位性を高めるような地域づくりに留まるのではなく、その地域に住む人、その地域で活動する人、その地域に訪れる人などが、「暮らし続けていける地域、暮らしやすい地域」としての満足度を高め、複雑な社会課題の解決や新たな価値創出実現による持続可能な都市や地域の形成をめざすべきであろう。併せて、人口減少社会、グローバル競争のもとで、新たなスマート産業の創出を促し、地域の多様なシステムを円滑に結びつけることが必要である。これらを目標として、戦略的に連携を進める広域地域を、「スマートリージョン」として提案したい。本書は、スマートリージョンの実現可能性の検討を「新東海地域」において行ったものである。本書がいう新東海地域とは、47 頁に示すように愛知県東三河、静岡県遠州、静岡市を含む静岡県中部、さらに長野県飯田地域にわたる地域であり、首都圏と名古屋圏を結ぶ要衝を占めるとともに、自然に恵まれ、農業も豊かな自立性の高い経済圏をもつ地域でもある。現在国土計画においては、リニア中央新幹線の整備によって首都圏、名古屋圏、近畿圏をより緊密に結びつける大都市圏連携(日本中央回廊)が構想されており、歴史的に国土計画の中で重要な役割を担ってきた東海道沿線地帯をその中に的確に位置づけることが必要である。そこで、ここに新東海地域という枠組みを提案し、スマートリージョンの形成を進めていくことが、国土計画上も、さらには産業や働き方における国際的な連携においても重要なことと考えた。
このような問題意識から、国土計画の調査研究機関である(一財)国土計画協会とローカルシンクタンクである(公社)東三河地域研究センターが共同して、「持続的で多様なスマートリージョンの形成研究会(本書の編者である大西隆と戸田敏行が取りまとめ役、略称:スマートリージョン研究会)」を2021 年に設け、検討を進めてきた。本書は、研究会の成果としての基本的な考えと各委員等によるスマートリージョンへの提案を纏めたものである。4 編構成をとっており、「1 編 ICT の活用と広域連携による課題解決」では、スマートリージョン提案の背景を総論的に示し、研究会としての新東海地域におけるスマートリージョン推進の考え方を述べている。続いて、「2 編 DX による生活の変化とスマートリージョン」及び 「3 編 スマート産業の展開」では、生活面と産業面からスマートリージョンが備えるべき個別の政策を提案し、「4 編 スマートリージョンへの挑戦」でスマートリージョンの地域構想について述べている。最後に、特別寄稿として豊橋商工会議所の神野吾郎会頭による「東三河フードバレー構想」を掲載している。スマートリージョンの具体的な展開のためには、本書が提起する多様な試みが今後実施されていかなければならないだろう。本書はまさにその手がかかりを提供するものである。
スマートリージョンの推進に当たっては、国土計画に示される国内の他地域との連携はもとより、さらにそれを超えた海外との連携が不可欠である。国土計画においては、第三次国土形成計画が決定されたところ(2023 年7 月28 日)である。そして、これからスマートリージョンを盛り込むべき広域地方計画の策定、さらには各地域における具体的な地域振興の段階に入っていくにあたり、本書がヒントとなれば執筆者一同の望外の喜びである。国土計画や広域連携に係る研究者や行政関係者、産業界を始めとする方々にお読みいただき 、DX時代の広域連携に向けた議論が活性化することを期待したい。
大西 隆、戸田敏行
本書の企画が生みだされた母体は、「持続的で多様なスマートリージョンの形成研究会」(略称「スマートリージョン研究会」、以下研究会という)である。2021 年6 月から3 か年計画でスタートしており、本書を執筆している2023 年冬までに10 数回の研究会を開催し、各分野の専門家や行政との意見交換を行いながら、エネルギー、スマートシティ、一次産業、スタートアップ等の各テーマで議論を深めてきた。その過程で、研究会構成員それぞれの専門分野の切り口から、「スマートリージョン」を考察することを通じて、その概念の輪郭を描いて世に問うこととなり出版プロジェクトが進められた。
構成員は、研究会が属する(一財)国土計画協会と(公社)東三河地域研究センターに関連の深い研究者である。両機関が連携することで、DX 時代の国土計画の視点と地域のリアリティが結びついてきた。本書の主題は、我が国が直面している人口減少社会において、デジタル化、カーボンニュートラル化等の動きを可能な限り解き明かし、その社会的実装がもたらすひと(ヒューマン)との相互関係を考え、都市・中山間地域の抱える社会的課題・産業経済課題にアプローチするものである。そして、その際に重要となるのが、交通利便性の向上や情報通信の発達を生かした地域間の連携である。
本書で提起した「新東海地域」は、首都圏と名古屋圏を結ぶ独立した経済圏をもつ地域として、国土構造上に重要な地域であるとの認識を持っている。本書執筆者の多くが、この地域を対象とした地域研究や事業に携わっており、執筆された内容は今後ともこの地域での実践を通してさらに練り上げられていくことを期待したい。
最後に、本書を取り纏めるにあたり学芸出版社の前田裕資氏には、精力的に携わっていただいた。心よりお礼を申し上げたい。
2024年1月
大西 隆、戸田敏行
開催が決まり次第、お知らせします。