DX時代の広域連携

DX時代の広域連携 スマートリージョンをめざして
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内容紹介

DXで従来の圏域を超えて連携し未来を拓く

新しい国土形成計画決定により広域連携への関心が高まっている。なかでも注目はスマートリージョン。DXにより多様なシステムを円滑に結びつけ、人々のウェルビーイングを高め、産業の創出を促す広域連携の考え方を示す


大西 隆 編著 戸田 敏行 編著 スマートリージョン研究会 編著
著者紹介

体裁A5判・220頁
定価本体2700円+税
発行日2024-01-15
装丁ym design 見増勇介・関屋晶子
ISBN9784761528751
GCODE5560
販売状況 在庫◎
関連コンテンツ レクチャー動画あり
ジャンル 都市・地域の計画
目次著者紹介まえがきあとがきレクチャー動画関連イベント関連ニュース

はじめに DX 時代の広域連携 ──スマートリージョン

1編 ICT の活用と広域連携による課題解決──スマートリージョン

1章 スマートリージョンに向けた日本の課題と新東海地域…大西 隆

1 縮小する日本 人口 経済 科学技術力
2 日本の強みと弱み 外部環境の変化
3 日本の縮図としての新東海地域
4 スマートリージョンの展望

2章 スマートリージョンビジョンの提言──新東海地域を例に …スマートリージョン研究会

1 スマートリージョンの意義・機能
2 スマートリージョンで広がるスマート産業
3 新東海地域におけるスマートリージョンの形成の意義・方向性
4 今後の検討課題

2編 DX による生活の変化とスマートリージョン

3章 デジタル化する自治会と新たな地域社会像…小野 遥

1 地域社会におけるデジタル化の波
2 変化を求められる自治会
3 東三河地域における自治会のデジタル化の動き
4 デジタル社会における新たな地域社会像

4章 リアルとデジタルを繋ぐ可動商店街「軽トラ市」…戸田敏行

1 可動店舗と地域
2 軽トラ市の定義と全国展開
3 「軽トラ市」の持つ持続性
4 軽トラ市のネットワーク
5 軽自動車産業との協働
6 「軽トラ市」のデジタル化とICT リテラシー
7 固定・可動・仮想のベストミックス商店街を目指して

5章 デジタルノマドの誘致によるDX 時代の関係人口の拡大・深化 …幾度 明

1 デジタル技術を活用した関係人口の拡大・深化
2 新しい関係人口の可能性を持つデジタルノマド
3 デジタルノマドの視点から見た新東海地域
4 デジタルノマドを活かした新東海地域の活性化
5 今後に向けて

3編 スマート産業の展開

6章 地域企業からのスピンアウトによるDX関連産業の創出…加藤勝敏

1 起業家精神
2 中核企業の創業
3 中核企業からのスピンアウト
3 その他地域におけるスピンアウト企業
4 地域から新たなDX 産業を生み出す仕組み

7章 物流分野におけるスマート化の動向と今後の期待…髙橋大輔

1 物流の様相変化
2 三遠地域の企業活動と物流動向
3 物流の課題解決に向けた地域の取り組み
4 物流高度化に向けた提案

8章 新東海地域における創造都市施策の提案 ──ソフトウェア産業と芸術関係の職業…藤井康幸

1 創造性と産業・職業
2 創造性の地域経済への展開
3 創造性の地域社会への展開
4 通過型でなく存在感と個性を有する新東海地域を目指して

4編 スマートリージョンへの挑戦

9章 デジタルスマートシティ浜松──国土縮図型政令都市での展開…間淵公彦

1 浜松市の概要
2 デジタル・スマートシティ浜松の推進
3 持続可能な都市づくりの推進事例
4 国土縮図型政令都市・浜松の挑戦

10章 地域交通課題の解決に挑む実証実験「しずおかMaaS」…大石人士

1 地方都市における持続可能な公共交通の構築
2 実証実験を主導する地域主導型MaaS コンソーシアムの組成
3 AI オンデマンド交通を中心に実証実験を開始
4 実証実験用アプリ「しずてつMapS !」の開発
5 中山間地や高齢者を対象としたオンデマンド実証実験
6 次世代モビリティを活用した自動運転実証実験
7 しずおかMaaS の目指す方向性
8 実装への第一歩は 事業成果の“見える化”

11章 多核型で構成自治体が多い市町村広域連携の提案…太田秀也

1 これまでの広域連携の取組みの概観
2 今後の広域連携の方向──構成自治体がより多い広域連携 多核型の広域連携
3 新東海地域における広域連携によるスマートリージョン形成

特別寄稿 東三河フードバレー構想 …㈱サーラコーポレーション代表取締役社長 神野吾郎

1 東三河地域の特色
2 食・農を取り巻く環境
3 東三河の農業の目指す姿
4 東三河フードバレー構想

 おわりに 東三河の持続可能な未来を共創しよう

大西 隆(おおにし たかし)

東京大学名誉教授、豊橋技術科学大学名誉教授、一般財団法人国土計画協会会長、公益社団法人東三河地域研究センター理事会長。
東京大学大学院修了、工学博士。長岡技術科学大学助教授、アジア工科大学院助教授、東京大学教授、日本学術会議会長、豊橋技術科学大学学長等を経て現職。サーラエナジー株式会社取締役(社外)、国際教養大学理事、日本政策投資銀行顧問等を兼務。

戸田敏行(とだ としゆき)

愛知大学地域政策学部教授。
1956 年生まれ。豊橋技術科学大学工学部建設工学課程卒業、同大学院修士課程建設工学専攻修了、同大学院博士課程環境・生命工学修了、博士(工学)。公益社団法人東三河地域研究センターを経て、現職。東三河地域研究センター副理事長、愛知大学三遠南信地域連携研究センター長。

スマートリージョン研究会

正式名称「持続的で多様なスマートリージョンの形成研究会」

会 長    大西 隆
委員長    戸田敏行
委 員    藤井康幸
委 員    舩戸修一
委 員    小野 悠
委 員    幾度 明
地域委員   間淵公彦
地域委員   大石人士
地域委員   加藤勝敏
オブザーバー  中村 達(飯田信用金庫しんきん南信州地域研究所主任研究員)
事務局  ( 一財)国土計画協会・(公社)東三河地域研究センター

小野 悠(おの はるか)

豊橋技術科学大学大学院工学研究科准教授。
1983 年生まれ。東京大学工学部都市工学科卒、同大学院工学系研究科都市工学専攻修士課程、同博士課程修了。博士(工学)。愛媛大学社会連携推進機構准教授、松山アーバンデザインセンター副センター長などを経て2017 年に豊橋技術科学大学講師、22 年1月から准教授、同年4 月から学長補佐(地域振興担当)。日本学術会議連携会員(第25 期若手アカデミー幹事)。日本科学振興協会(JAAS)第1 期代表理事。

幾度 明(きど あきら)

公益財団法人マンション管理センター理事長。
1954 年生まれ。東京大学工学部都市工学科卒、同大学院修士課程都市工学専攻を修了後、国土庁に入庁。国土交通省で地価調査課長、首都機能移転企画課長、水資源政策課長、国土計画局総務課長、大臣官房審議官、政策統括官などを歴任し、2014 年退官。その後、一般財団法人国土計画協会専務理事などを経て、現職。

加藤勝敏(かとう かつとし)

浜松学院大学現代コミュニケーション学部教授。
1959 年生まれ。東京電機大学理工学部建設工学科卒業、同大学院理工学研究科建設工学専攻修了、大阪工業大学大学院博士課程工学研究科都市デザイン工学専攻修了、博士(工学)、財団法人日本立地センター、公益社団法人東三河地域研究センターを経て、現職。技術士(建設部門・都市及び地方計画)。

髙橋大輔(たかはし だいすけ)

公益社団法人東三河地域研究センター常務理事・調査研究室長。
1975 年生まれ。愛知大学大学院文学研究科地域社会システム専攻博士課程修了。博士(地域社会システム)。愛知大学非常勤講師、同大学三遠南信地域連携研究センター研究員、豊橋創造大学非常勤講師。三河港未来戦略会議専務理事、東三河広域経済連合会アドバイザー、東三河広域連合まち・ひと・しごと創生総合戦略推進協議会委員、愛知県東三河振興ビジョン企画委員会委員等。

藤井康幸(ふじい やすゆき)

静岡文化芸術大学文化政策学部教授。
1962 年生まれ。東京大学工学部都市工学科卒、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)建築都市計画スクール都市計画修士、東京大学工学系研究科都市工学専攻博士課程単位満期取得退学。清水建設株式会社、株式会社富士総合研究所/みずほ情報総研株式会社(現、みずほリサーチ& テクノロジーズ株式会社)を経て現職。博士(工学)(東京大学、2017 年)。技術士(建設部門・都市及び地方計画)、AICP(米国認定都市プランナー)。

間淵公彦(まぶち きみひこ)

一般財団法人しんきん経済研究所所長。
1969 年生まれ。専修大学法学部卒。浜松信用金庫(現浜松磐田信用金庫)入庫後、特定非営利活動法人静岡県西部地域しんきん経済研究所(現一般財団法人しんきん経済研究所)へ出向、現在に至る。中小企業診断士。

大石人士(おおいし ひとし)

一般財団法人静岡経済研究所シニアチーフアドバイザー(2023 年8 月退任)。
1956 年生まれ。専修大学経済学部卒。静岡銀行入行後、財団法人静岡経済研究所に出向。研究部長、専務理事、シニアチーフアドバイザー等を経て退任。その間、静岡大学、常葉大学、静岡産業大学、静岡英和学院大学短期大学部等で講師、静岡地方労働審議会会長、静岡県雇用対策審議会会長等の公職を歴任。現在、静岡産業大学総合研究所客員研究員。

太田秀也(おおた ひでや)

一般財団法人国土計画協会専務理事。
1963 年生まれ。東京大学法学部卒、建設省入省。以降、住宅局、河川局、国土交通省総合政策局などで勤務するほか、経済企画庁、運輸省、人事院、内閣府、復興庁、北九州市、水資源機構、不動産適正取引推進機構に出向、研究休職により日本大学経済学部教授、麗澤大学経済学部特任教授。2022 年退官、その後現職。博士(工学)。主な著書:『賃貸住宅管理の法的課題』、『賃貸住宅管理の法的課題2』、『行政活動論』(いずれも大成出版社)

神野吾郎(かみの ごろう)

株式会社サーラコーポレーション代表取締役社長兼グループ代表・CEO。
1960 年生まれ。1983 年慶應義塾大学商学部卒、三井信託銀行㈱(現三井住友信託銀行)を経て、1990 年中部瓦斯㈱入社。2000 年ガステックサービス㈱代表取締役社長、2002年㈱サーラコーポレーション代表取締役社長、2020 年より現職。豊橋商工会議所会頭、公益社団法人東三河地域研究センター理事長、中部経済連合会副会長、愛知県経営者協会副会長、慶應義塾評議員、豊橋技術科学大学特別顧問、愛知大学理事などを務める。

DX 時代の広域連携──スマートリージョン

我が国は縮減社会に突入している。基本指標である人口(国勢調査)は、大正以降の急増から2005 年を頂点に急減している。この縮減社会における地域の持続をめざして、従来の範を超えて地域を結ぶ広域連携が、地域形成の手法として期待されていることは間違いないだろう。一方、ICT(情報通信技術)を活用したデジタル化は急速な進展を見せており、より広域に地域を結びつけたり、多様な主体の連携の可能性を広げている。つまり、DX(デジタル・トランスフォーメンション:広義にはICT を活用した社会変革)時代の広域連携を構想することが、今、重要な課題となっているといえよう。
これまでの広域連携では、隣接・連坦する都市や都市圏・中山間地域が連携することにより、生活利便性の向上や、産業経済の高度化・イノベーションの創出等の効果をめざしてきた。DX 時代の広域連携では、隣接・連坦する多様な資源を相互に活用するだけではなく、域外からも容易にアクセスできる環境整備が求められ、 ICT の活用が必然的に重要性を増すことになる。そうした中で、地域社会におけるデジタル化の目標を何に定めるかが問われることになる。単に効率性を重視し、競争優位性を高めるような地域づくりに留まるのではなく、その地域に住む人、その地域で活動する人、その地域に訪れる人などが、「暮らし続けていける地域、暮らしやすい地域」としての満足度を高め、複雑な社会課題の解決や新たな価値創出実現による持続可能な都市や地域の形成をめざすべきであろう。併せて、人口減少社会、グローバル競争のもとで、新たなスマート産業の創出を促し、地域の多様なシステムを円滑に結びつけることが必要である。これらを目標として、戦略的に連携を進める広域地域を、「スマートリージョン」として提案したい。本書は、スマートリージョンの実現可能性の検討を「新東海地域」において行ったものである。本書がいう新東海地域とは、47 頁に示すように愛知県東三河、静岡県遠州、静岡市を含む静岡県中部、さらに長野県飯田地域にわたる地域であり、首都圏と名古屋圏を結ぶ要衝を占めるとともに、自然に恵まれ、農業も豊かな自立性の高い経済圏をもつ地域でもある。現在国土計画においては、リニア中央新幹線の整備によって首都圏、名古屋圏、近畿圏をより緊密に結びつける大都市圏連携(日本中央回廊)が構想されており、歴史的に国土計画の中で重要な役割を担ってきた東海道沿線地帯をその中に的確に位置づけることが必要である。そこで、ここに新東海地域という枠組みを提案し、スマートリージョンの形成を進めていくことが、国土計画上も、さらには産業や働き方における国際的な連携においても重要なことと考えた。
このような問題意識から、国土計画の調査研究機関である(一財)国土計画協会とローカルシンクタンクである(公社)東三河地域研究センターが共同して、「持続的で多様なスマートリージョンの形成研究会(本書の編者である大西隆と戸田敏行が取りまとめ役、略称:スマートリージョン研究会)」を2021 年に設け、検討を進めてきた。本書は、研究会の成果としての基本的な考えと各委員等によるスマートリージョンへの提案を纏めたものである。4 編構成をとっており、「1 編 ICT の活用と広域連携による課題解決」では、スマートリージョン提案の背景を総論的に示し、研究会としての新東海地域におけるスマートリージョン推進の考え方を述べている。続いて、「2 編 DX による生活の変化とスマートリージョン」及び 「3 編 スマート産業の展開」では、生活面と産業面からスマートリージョンが備えるべき個別の政策を提案し、「4 編 スマートリージョンへの挑戦」でスマートリージョンの地域構想について述べている。最後に、特別寄稿として豊橋商工会議所の神野吾郎会頭による「東三河フードバレー構想」を掲載している。スマートリージョンの具体的な展開のためには、本書が提起する多様な試みが今後実施されていかなければならないだろう。本書はまさにその手がかかりを提供するものである。
スマートリージョンの推進に当たっては、国土計画に示される国内の他地域との連携はもとより、さらにそれを超えた海外との連携が不可欠である。国土計画においては、第三次国土形成計画が決定されたところ(2023 年7 月28 日)である。そして、これからスマートリージョンを盛り込むべき広域地方計画の策定、さらには各地域における具体的な地域振興の段階に入っていくにあたり、本書がヒントとなれば執筆者一同の望外の喜びである。国土計画や広域連携に係る研究者や行政関係者、産業界を始めとする方々にお読みいただき 、DX時代の広域連携に向けた議論が活性化することを期待したい。

大西 隆、戸田敏行

本書の企画が生みだされた母体は、「持続的で多様なスマートリージョンの形成研究会」(略称「スマートリージョン研究会」、以下研究会という)である。2021 年6 月から3 か年計画でスタートしており、本書を執筆している2023 年冬までに10 数回の研究会を開催し、各分野の専門家や行政との意見交換を行いながら、エネルギー、スマートシティ、一次産業、スタートアップ等の各テーマで議論を深めてきた。その過程で、研究会構成員それぞれの専門分野の切り口から、「スマートリージョン」を考察することを通じて、その概念の輪郭を描いて世に問うこととなり出版プロジェクトが進められた。
構成員は、研究会が属する(一財)国土計画協会と(公社)東三河地域研究センターに関連の深い研究者である。両機関が連携することで、DX 時代の国土計画の視点と地域のリアリティが結びついてきた。本書の主題は、我が国が直面している人口減少社会において、デジタル化、カーボンニュートラル化等の動きを可能な限り解き明かし、その社会的実装がもたらすひと(ヒューマン)との相互関係を考え、都市・中山間地域の抱える社会的課題・産業経済課題にアプローチするものである。そして、その際に重要となるのが、交通利便性の向上や情報通信の発達を生かした地域間の連携である。
本書で提起した「新東海地域」は、首都圏と名古屋圏を結ぶ独立した経済圏をもつ地域として、国土構造上に重要な地域であるとの認識を持っている。本書執筆者の多くが、この地域を対象とした地域研究や事業に携わっており、執筆された内容は今後ともこの地域での実践を通してさらに練り上げられていくことを期待したい。
最後に、本書を取り纏めるにあたり学芸出版社の前田裕資氏には、精力的に携わっていただいた。心よりお礼を申し上げたい。

2024年1月

大西 隆、戸田敏行

大西隆×太田秀也「ICTを活かした広域連携によるスマートリージョン」