建築設計のデジタル道具箱
内容紹介
小さな事務所こそ、導入したい便利ツール。
建築設計の生産性向上を実現させるためにはデジタルツールの活用が欠かせない。効率的な図面作成や効果的なプレゼンテーションを行うためのツールの使い方を公開。ドローンを飛ばすノウハウ、エスキース時の面積チェック、確認申請図書のための大量の図面をBIMで一気に作成するなど知っておきたい知識が満載。小規模設計事務所必読。
CONTENTS
はじめに
chapter 1 基本設計編:敷地調査からスタディ、プレゼンまで
01 デジタル道具箱の中身はこれだ
02 敷地・法規制の調査は、7割はネット上で調べ切る
03 現地調査はドローンが大活躍
04 ドローン飛行のための申請ノウハウ
05 改修物件の現地調査にはLiDARスキャナが役立つ
06 思考のアウトプットはペーパーレスな手書きで
07 直感的な操作で自由なかたちをスタディ
08 SketchUpのプロフェッショナルな使い方9 選
09 エスキースでもBIMは必須のツール
10 模型からVRへ
11 プレゼンはムービーとVRで第一印象が勝負①
12 プレゼンはムービーとVRで第一印象が勝負②
13 VR体験でモデルを歩いていただく
14 設計モデルをタブレット上でクライアントと共有
chapter2 実施設計編:BIMが設計のハブになる
15 実施設計はBIMで行う
16 デザインツールからBIMへのデータ移行
17 構造設計者・設備設計者とは詳細設計モデルを共有する
18 BIMモデルを100%完成させることは不要
19 平面図と展開図だけではなく、カラーパースを貼り込む
20 家具図や詳細図はモデルを多用
21 BIMの2 次元CAD機能の肝はショートカット
22 線種設定・レイヤー管理からの解放
23 モニター複数台での作業は効果的
24 BIMモデルはマスターデータとして一元化する
25 分担作業が可能に
26 実施図チェックはペーパーレスで同時作業
27 見積り依頼時にはBIMの数量を共有する
chapter3 確認申請編:手戻り最小のノウハウ
28 集団規定/モデルでの検討から申請図書の作成
29 傾斜地で役立つ地盤面の検討
30 単体規定/モデルでの検討から申請図書の作成
31 行政窓口へのデジタルな対処のしかた
chapter4 現場監理編:徹底的にペーパーレス!
32 見積りチェックはiPadで
33 現場着工後は監理モデルにて情報共有
34 いろんな情報を一元化するクラウドベースの議事録
35 情報共有はビジネスチャットツールで
36 現場・会議で受け取る「紙」はその場でスキャン
37 現場検査の帳票も現場でペーパーレスに
38 検査要領事前配布で指摘は激減
39 デジタルツールをつかいこなすためのFAQ
おわりに
私たちが、設計業務のプラット フォームを「2次元CAD」から「BIM」に変更してはや4年、業務のスタイルは大きく変化しました。
2019年にBIMを導入して以降、設計の基本となる2次元の図面は3次元立体モデルとなり、VR導入以降、プレゼンの模型はVRゴーグルで体験する「仮想現実」に変わり、iPad導入以降、大幅にペーパーレス化が進み、ドローン導入後は、敷地は空から調査するようになりました。
図面・模型・パースを用いて伝えていた内容は、仮想現実空間ひとつで十分伝えることができ、クライアントや施工者とは、高いレベルでイメージ共有が実現できるようになりました。もちろん設計契約にもつながっています。
ここで気になる点は導入コストだと思います。特にBIMは買い取りで100万円前後(IT補助金利用がオススメ)、サブスクの維持コストで月2万円前後~です。今まで2次元CADのフリーソフトを使っておられるならば、そう簡単に手は出せないかもしれません。
しかし操作が複雑で難しそうと思われがちなBIMですが、この操作のうち50%を使いこなせるだけでも十分元が取れる便利ツールです。そして、そのプラットフォームから派生するツールの数々によって業務は飛躍的に効率化し、よりクリエイティブな業務にあてる時間を確保でき、一人あたりの対応できる業務量が増したことで大幅なコストカットに繋がりました。
まずは、BIM導入を検討されている方向けの講習会への参加や、無料体験版などを試してみてください。「案外簡単に使いこなせるかも」と必ず思われるはずです。
もちろん導入後、最初の設計には少し手間も時間もかかるでしょう。でも手描きから2次元CADに移行した当初を思い出してください。あの頃も、コンピュータと格闘し、もどかしい思
いをしながら移行したはずですが、今ではもう手描き時代には戻りたくないのではないでしょうか?
住宅などを主戦場とするような小規模設計事務所こそ、人員スタッフを増やす前に、デジタルツールの導入を一度検討されることをオススメします。本書では、私たちが数々の試行錯誤を繰り返したどり着いた方法や道具を、余すことなく目一杯詰め込みました。今現在、2次元CADで図面を描かれていて、スマホやタブレットを使われている方であれば、誰でも使いこなせるものばかりです。また比較的費用対効果の高い、コストバランスの良いツールを厳選しました。
ビジュアルも多く、文章も項目ごとになるべく短く簡潔にまとめましたので、設計事務所の方はもちろん、設計施工をされる方、これから建築設計を学ばれる学生さんにも読みやすい内容だと思います。
本書が昨今の建築業界の技術者不足・人材不足の波を共に乗り越え、より質の高い、こだわりのある建築を数多く世の中に送り出せるお手伝いができる1冊になれば幸いです。
この本では現在私たちの事務所で使っているオススメのデジタルツールを紹介させていただきました。
しかしここに至るまでには様々な紆余曲折があり、常に進化しているデジタルツールの中から何か一つを選ぶのは至難の業でした。
スタッフがいる時にはツール選びの際に皆で相談できますが、スタッフの入れ替わりの激しい小規模事務所や独立したての設計者等の場合、相談する相手がいないことも稀ではありません。幸い私たちの事務所は共同主宰なので常に最低でも二人で相談でき、ツールを取捨選別してくることができました。全部まとめては難しいと思いますが、ぜひ一つでも建築設計の便利ツールとして取り入れてもらえると幸いです。
ツールは機能が多いほど使う人によってクセが出ます。小規模事務所こそトップがツールを使いこなし、事務所内のルールを作って継承していくのがオススメです。図面作成のツールが手描きから2次元CADへ移ったように、この先数年で主流はBIMへと移るでしょう。乗り遅れてしまってから追いかけるのは大変です。人材が集まらない、定着しない今の時代だからこそ、常に最新の情報にアンテナを張り、他より一歩先にデジタルツールを使いこなして自らが何役もこなせる人材になってはいかがでしょうか。トップのその姿勢に周りも感化され、事務所全体のデジタルスキル、そして建築設計スキルも格段に上がるはずです。
ぜひ沢山の方に本書を活用していただき、共にスキルアップできるよう、意見交換などさせていただけると嬉しいです。
最後になりますが、今回この本を出版することを提案してくださり、何度も手が止まる私たちを常に励まし、気持ちを盛り上げてくださった学芸出版社の知念靖廣さんに心から感謝いたします。
開催が決まり次第、お知らせします。