ゼロカーボンシティ

ゼロカーボンシティ 脱炭素を地域発展につなげる
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内容紹介

経済効果をもたらし暮らしの質向上を実現!

2050年カーボンニュートラル宣言を受け、自治体によるゼロカーボン政策が加速している。本書では、脱炭素先行地域における産業、交通、家庭、建築物など多分野にわたる具体的施策、自治体の役割を先進的な事例とともに紹介。シナリオのつくり方や、脱炭素を地域発展につなげるポイントを、政策と現場の両面から解説する。


諸富 徹 編著 藤野 純一 編著 稲垣 憲治 編著
著者紹介

体裁四六判・224頁

定価本体2300円+税

発行日2023-08-01

装丁美馬智

ISBN9784761528591

GCODE5674

目次著者紹介はじめにレクチャー動画関連イベント関連ニュース

はじめに

第1章 日本の地域脱炭素政策

1・1 脱炭素における地域の取組の重要性

1 国の脱炭素目標と地域脱炭素ロードマップ
2 脱炭素社会に向けた地域の取組の重要性

1・2 脱炭素が引き起こす地方創生

1 経済活性化・経済循環
2 防災・減災
3 住民の暮らしの質の向上
4 その他の地域課題解決

1・3 環境省の地域脱炭素施策

1 地域脱炭素に取り組む自治体の状況
2 脱炭素の計画づくり ─まずは地域を見つめ直し、チームづくりを行う
3 脱炭素先行地域 ─先進的な脱炭素型の地域をつくる
4 重点対策─地域全体で脱炭素を進め、地方創生を実現する
5 脱炭素の人材支援 ─脱炭素を進める体制をつくる
6 公共部門の脱炭素化 ─まず公共施設の脱炭素化から始める
7 金融支援 ─地域金融機関との連携、脱炭素化支援機構
8 地域の中小企業支援

1・4 地域脱炭素の今後

第2章 なぜゼロカーボンシティか、どう進めるか

2・1 いま置かれている状況

1 私たちのまちは、さながら穴のあいたバケツ
2 気候正義とバケツ

2・2 ゼロカーボンに関する3つのポイント

1 気候変動(Climate Change)の影響
2 ゼロカーボンで地域経済活性化
3 低い断熱性能を高くして、快適に命も守る

2・3 ゼロカーボンシティに向けて

1 まずは現状を把握しよう!
2 地域のお金の流れを知る
3 具体的な対策を考える
4 脱炭素先行地域を検討してみよう
5 温暖化対策実行計画をつくろう!

2・4 ゼロカーボンシティの先進的取組と報徳仕法

第3章 脱炭素先行地域を徹底解剖

3・1 脱炭素先行地域の取組・実施体制の傾向

1 再エネ種別
2 エネルギーマネジメント手法など
pick up 広がりつつある「オンサイトPPA」
pick up 高くなる電気代

3 地域課題解決や住民の暮らしの質向上
4 実施体制
5 自治体人口規模別の脱炭素事業内容の傾向
pick up 地域新電力の検討が相次ぐが、市場環境は厳しい

3・2 脱炭素先行地域に選定された自治体の特徴

1 脱炭素は部署横断
2 応募の目的は再エネ推進交付金や地域ブランディング
3 どのような自治体が採択されているか
4 どのような経緯で応募されたか、誰が担ったか
5 採択を獲得できる職員の在籍年数は「長い」
6 事業実施に向けた課題

第4章 地域の発展につなげるゼロカーボンシティ戦略─脱炭素先行地域から

4・1 川崎市:産業都市における脱炭素アクション

1 川崎市の地球温暖化対策
2 脱炭素の取組を見える化する
3 脱炭素モデル地区「脱炭素アクションみぞのくち」
4 脱炭素先行地域の取組と地域エネルギー会社の連携
5 プロジェクトの活性化に向けて

4・2 さいたま市:公民学共創による地域エネルギーマネジメント

1 公民学によるグリーン共創モデル
2 最先端の住宅街区:美園地区
3 次世代自動車とスマートエネルギー特区
4 スマートホーム・コミュニティの特徴
5 ローカルグリッドの構築
6 今後の課題

4・3  米子市・境港市:非FIT再エネの地産地消と自治体連携CO2排出管理

1 山陰の交通の要衝である2つのまち
2 地域新電力「ローカルエナジー」の取組
3 脱炭素先行地域でのエネルギーの取組
4 ゼロカーボンから地域課題の解決に向けて
5 地元企業の参画と自治体の連携

4・4 真庭市:森とくらしの循環で自立する地域づくり

1 中国地方山間部の木材の産地
2 バイオマスの取組
3 脱炭素を起爆剤に
4 バイオマス発電所増設と生ごみ等資源化施設の整備
5 関係者との連携
6 地域の力で推進

4・5 梼原町:雲の上の町の地域エネルギーを活かした挑戦

1 風・光・水・森─恵まれた自然の力
3 再エネ課題を克服する動き
4 地域マイクログリッドの構築
5 逆境を逆手に

4・6  佐渡市:EMSを活用した自立分散型の再エネ導入

1 自然豊かな国内最大の離島
2 島のエネルギー事情
3 温室効果ガス排出の実態
4 自立分散型の電源確保と電力の見える化
5 これまでの取組と次のステップ
6 3つの課題と事業展開の特徴
7 脱炭素先行地域における取組
8 生物多様性が育む離島の今後

第5章 地域におけるゼロカーボンシナリオのつくり方

5・1 ゼロカーボンシナリオの果たす役割

5・2 ゼロカーボンシナリオ策定の実践

1 CO2排出量の推計の基本的な考え方
2 温室効果ガスの排出構造を把握する(現況推計)
3 地域の再生可能エネルギー資源の確認
4 将来シナリオを作成する

5・3 ゼロカーボンシナリオ策定のための補助ツール

第6章 脱炭素に向けた自治体の役割と実務

1 家庭部門─住民の理解と参加を促す
2 運輸部門─公用車の電動化が初めの一歩
3 業務部門─まずは省エネ診断
4 産業部門─水素実証やRE100エリアの認定
5 伝え方の工夫も重要
6 地域にとって良いコンサル・要注意コンサル
7 地域主体での事業組成と自治体の役割
8 重要になる自治体公務員の役割

第7章 脱炭素を地域発展につなげる

1 脱炭素化は地域の競争力強化につながる
2 電力システムは「集中型」から「分散型」へ
3 分散型電力システムへの移行を地域にとってのチャンスに
4 地域経済循環とエネルギー自治
5 人口減少時代の地域課題と「日本版シュタットベルケ」
6 地域発展戦略の中核としての可能性
7 ゼロカーボンシティへのブリッジとしての脱炭素先行地域

座談会 ゼロカーボンシティの実現に向けて

編著者

諸富 徹

京都大学大学院経済学研究科教授
1968年生まれ。2010年3月から現職。これまで、環境省「中央環境審議会」臨時委員などを歴任。主著に、『環境税の理論と実際』有斐閣(2000年:NIRA大来政策研究賞、日本地方財政学会佐藤賞、国際公共経済学会賞を受賞)、その他『環境〈思考のフロンティア〉』岩波書店(2003年)など多数。

藤野純一

(公財)地球環境戦略研究機関(IGES)サステイナビリティ統合センタープログラムディレクター、大阪大学大学院国際公共政策研究科招へい教授。
1972年生、東京大学(工学博士)、国立環境研究所を経て現職。著書に『低炭素社会に向けた12の方策』『マンガでわかる脱炭素(カーボンニュートラル) 』『どれだけ出てるの?二酸化炭素ずかん』等

稲垣憲治

一般社団法人ローカルグッド創成支援機構 事務局長
1981年愛知県生まれ。文部科学省、東京都庁を経て、地域活性化や地域脱炭素への思いが高じ、2020年から現職。これまで自治体の脱炭素施策企画・実行、地域新電力の設立・運営などに従事。著書に『地域新電力─脱炭素で稼ぐまちをつくる方法』(学芸出版社)など。

著者

三田裕信

環境省大臣官房地域政策課 課長補佐

小川祐貴

㈱イー・コンザル 研究員

井田 淳

川崎市環境局脱炭素戦略推進室 室長

神田 修

さいたま市都市戦略本部未来都市推進部 主査

山﨑静一郎

さいたま市環境局環境共生部環境創造政策課ゼロカーボン推進係 主査

森 真樹

ローカルエナジー㈱ 専務取締役、㈱中海テレビ放送 取締役 経営企画室長

杉本隆弘

真庭市産業観光部林業・バイオマス産業課エネルギー政策室

石川智也

梼原町環境整備課 副課長

笠井貴弘

佐渡市企画部秘書広報課 課長

榎原友樹

㈱イー・コンザル 代表取締役、㈱能勢・豊能まちづくり 代表取締役

「ゼロカーボンシティ」は地域で脱炭素化を実現し、それが同時に地域発展につながるような都市形成を意味している。これは、まったくの夢物語ではない。地域レベルでのカーボンニュートラル達成に道筋をつけ、そのモデルとなる地域の形成を狙った「脱炭素先行地域」事業は、まさに「ゼロカーボンシティ」形成政策と言ってもよい。
この事業は、民生部門(家庭・業務その他部門)の電力消費にともなうCO2(二酸化炭素)排出を実質的にゼロにし、運輸部門や熱利用なども含めた温室効果ガス排出削減についても、国全体の2030年度目標と整合する削減を地域レベルで実現することを目的としている。2025年度までに、少なくとも100か所の脱炭素先行地域の創出が目指されている。
第1回選定(2022年4月26日公表)では、79件の計画提案から26件が選定された。また第2回選定(2022年11月1日公表)では、50件の計画提案から20件が選定された。そして第3回選定(2023年4月28日公表)では、58件の計画提案から16件が選定された。
本事業は、環境省の政策の中でもっとも成功した政策の一つだと言えるのではないだろうか。筆者は「脱炭素先行地域評価委員会」の座長として、第1回及び第2回の選定に関わったが、自治体の採択へ向けた熱意、その執念は予想をはるかに上回るものだった。申請団体へのヒアリングでは、首長や副市長など自治体トップが自ら出席、提案内容を説明して質疑にも応じるケースも複数みられた。第1回選定結果公表の際には、様々なメディアで全国的に報道がなされ、社会的な注目度がきわめて高いことを実感した。
その意味でこの政策は、たしかに自治体のカーボンニュートラル実現に向けた関心を掻き立て、彼らの背中を後押しすることに成功したのだ。それまで自治体の温暖化対策といえば地味で、社会的注目を集めることもなかった。ましてや、首長が自ら温暖化対策予算獲得の先頭に立つなど考えられなかったことを考え合わせると、脱炭素先行地域への注目の高まりは、かつてとは隔世の感がある。
なぜ、これほど大きな変化が起きたのだろうか。最大の要因は、菅義偉前首相が2020年に2050年までにカーボンニュートラル実現を宣言し、2030年の温室効果ガス排出削減目標を、2013年比でそれまでの26%減から46%減に一挙に引き上げたことが挙げられる。これが自治体に、地域脱炭素化の加速を迫ることになった。
こうして自治体の関心が高まったときに、本政策がタイミングよく打ち出され、しかもこの種の政策としてはきわめて潤沢な予算(2022年度で総額200億円、23年度の予算要求額は総額400億円)が準備されたことも、自治体の意欲を高めることにつながった。採択されれば、5年間にわたって事業費の4分の3~2分の1が交付される。これは自治体にとって、応募への強いインセンティブになっただろう。
だが筆者は、変化の要因はそれだけではないと感じている。自治体が脱炭素化を「温暖化対策」としてだけでなく、まちづくりそのものとして捉え、またそれが「地域経済発展戦略」に他ならないと認識し始めたからこそ、関心が高まっていると考えている。
実際、脱炭素先行地域の選定要件には、「地域課題の解決」や「住民の暮らしの質の向上」が含まれる。これは、脱炭素化に向けた取組がCO2排出削減だけでなく、地域の経済社会にプラスのインパクトをもたらすことを意図している。具体的には、地域課題の解決が図られたり、新しいビジネスモデルの創出により所得・雇用が増えたりすることで、住民の暮らしの質が向上することが想定される。
長年、自治体が旗を振ってもなかなか地域の温暖化対策が進まなかった一因は、「温暖化対策を行えば地域が良くなる」という連関が見えず、またそうした確信も持てなかった点にあるのではないだろうか。むしろ温暖化対策はコストであり、地域を疲弊させると認識されてきた。こうした観念が、脱炭素先行地域でようやく打ち破られつつあるのは喜ばしいことである。
さらに言えば、これまでは温暖化対策に充てられた自治体の権限、人的資源、そして予算が小さく、温暖化対策の担当部局がやれることは基本的に啓蒙・普及しかなかった。だがカーボンニュートラル実現には、現行の経済社会の仕組みを前提に、省エネなどの努力を一歩一歩積み上げるだけでは到底到達できないとの認識が広がってきた。つまり、地域の産業、エネルギー、交通、住宅建築物などのあり方を、根本的に見直すことが必要だとの理解が広まったのだ。脱炭素先行地域は、まさにこうした動きを促進するきっかけとなる。
脱炭素化とは地域にとって、地域をつくり直すことを意味する。規制で地域経済を抑え込んでCO2を減らすのではなく、新しいプロジェクトの立ち上げにより、まちの構造を変えつつCO2を減らすのだ。それには投資が必要になる。しかもそれは、自治体による税金を原資とした公共事業ではなく、地元の民間企業、地域金融機関、環境NPOなどを巻き込んだ官民共同プロジェクトとして推進することになる。ゆえに新しい投資は地域全体の利害関係者を巻き込んで波及し、所得と雇用を創り出して地域経済を活性化させる。
こうして地域に「がまん」を強いるのではなく、むしろプロジェクト立ち上げにより、地域関係者がみな協力して新たに「持続可能な地域発展」に挑戦するのが脱炭素化だということに、多くの自治体が気づいた。これが、脱炭素先行地域への自治体の大変な関心と熱意を巻き起こしているのだと思う。
本書は、脱炭素先行地域や広く地域脱炭素化に関心を持つ官民のあらゆる分野の方々に向けて編まれている。脱炭素先行地域の狙いとその内容をわかりやすく、しかし徹底的に解説するとともに、選定された脱炭素先行地域の具体的事例の紹介を通じて、何が選定ポイントなのかを読者の皆様が掴んでいただけるよう工夫している。
本書を読んでいただければ、脱炭素先行地域応募に向けた必須のマニュアルとして活用して頂けるだけでなく、それを超えて「ゼロカーボンシティ」の構築を通じた持続可能な地域発展に向けた手掛かりとしても活用頂けることが理解されるだろう。地域の脱炭素化に関わる関係者だけでなく、広くまちづくりや地域発展に関心を持つ多くの方々に手にとって読んでいただければ望外の喜びである。

諸富 徹

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