公民連携エージェント


入江 智子 著

内容紹介

公民連携で住み続けたくなるまちづくりを

「コンクリートの大きな箱はもう要らない」「外から”この地域に住みたい”と言われるまちを」そんな声に応えるために、市役所を退職。地域の価値を上げる公営住宅+商業施設事業「morinekiプロジェクト」、メディア・マーケット事業などを実現した公民連携エージェントが語る、住み続けたくなるまちをつくる方法。

体 裁 四六・216頁・定価 本体2200円+税
ISBN 978-4-7615-2840-9
発行日 2023-02-10
装 丁 テンテツキ 金子英夫

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はじめに

1 公務員が公民連携エージェントになった理由

・公営住宅革命をおこしたい!
・エージェントとは
・公民連携条例のあるまち
・市民、民間と一緒に公共サービスをつくる
・マーケットと向き合い、エリアの価値を上げる
・民間が求めるものは潜在的な集客と「そこにしかない魅力」
・エリアの価値を上げるのは民間主導の公民連携事業とそれに共鳴する民間事業
・「公民連携でしかできないこと」で地域経済を回す
・ハコモノからマルシェ・メディア事業、健康づくり事業へ
Column 「社会課題で儲ける!」とか言っても、変な顔されない。

2 市営住宅営繕担当者としてぶつかった壁

・このままで良いのか!? 市営住宅
・「地域の象徴のようなコンクリートの大きな箱は要らん!」
・FM(ファシリティマネジメント)の観点から
・まちづくりの主役を公共事業から民間事業へ

3 公民連携まちづくりの最前線、紫波町オガールで学んだこと

・株式会社オガール代表・岡崎正信氏のもとで実務を経験
・仕事は納期・予算・品質の順に優先せよ
・テナント先付け逆算開発
・金融機関と向き合い事業を強いものにする
・テナントが「ここで商売をし続けたい」と思える環境づくり
・周辺家賃を牽引する気概を持つ
・まちづくりに事業として取り組む

4 エージェント型PPP手法による市営住宅建て替え事業

・大東市の都市経営課題
・PPPとPFI
・大東公民連携まちづくり事業株式会社(コーミン)の設立
・公民連携に法的根拠を
・テナントリーシングの壁
・工事費の壁
・金融融資の壁
・組織の持つ動機をリンクさせよ

5 エリアの価値を上げるしかけづくり

・道路を使って稼ぐマルシェ事業「大東ズンチャッチャ夜市」
・「すっぴん女子」と創るローカルメディア『Nukui』で地元を磨く

6 まちを使う人を元気に! 結果を出す健康事業

・体操で元気な人を増やし全国の介護給付費を削減 地域健康プロフェッショナルスクール
・全国初! まちづくり会社が運営する基幹型地域包括支援センター
・独居の孤立・孤独リスクを減らすためのツール、ドキドキドッキョ指数

7 公民連携エージェントの可能性

・公民連携エージェントの存在意義
・まちづくり会社の経営

おわりに

入江 智子

株式会社コーミン代表取締役。NPO法人自治経営理事。
1976年生まれ。兵庫県宝塚市出身。京都工芸繊維大学卒業後、大阪府大東市役所に入庁。建築技師として、学校施設や市営住宅などの営繕業務に従事する。2017年に大東公民連携まちづくり事業株式会社(現コーミン)に出向、駅前道路空間を活用した「大東ズンチャッチャ夜市」をはじめる。2018年に市役所を退職し、現職。2019年、高齢者の総合相談窓口である基幹型地域包括支援センターの運営を開始、まちづくりと健康づくり両輪の会社となる。公民連携エージェント方式で市営住宅の建て替えを行なった「morineki」が2021年春にオープン、2022年「都市景観大賞」国土交通大臣賞を受賞した。

自治体に本当に求められているのは、公共サービスの質を高め、経費を削減し、加えて税収を増やすことではないでしょうか──。地域再生プロデューサーとして知られる清水義次さんのこの言葉を聞いた時、はじめは半信半疑でした。経費をかけずに公共サービスの質を高める? でも今となっては、「公共サービス」の「質」が最も高まるのは「経費削減」と「税収増」とセットで考えられ、相互に作用した時なのではないかと思うのです。ここで言う「公共サービス」とは、行政が提供するものに限らず、公民連携でやるものや、パブリックマインドのある民間のサービス、ご近所同士の助け合いまで含めます。誰にでも開かれていて、市民全体の利益や幸福につながるものです。入り口から費用がかかるものではなく、所得が低い人でも楽しめるものです。質を高めるとは、ニーズに刺さる、とも言い換えられます。

変革のポイントは、行政が経費をかける「時期」と「内容」を変えるところにあります。「時期」は事業を始める前、「内容」は事業費そのものではなく人材育成やビジョンづくり、マスタープラン作成など、事業の準備にかかるものが重要です。本当はそのもっと前、常日頃から職員がまちに溶け出していると良いです。本書の舞台である大阪府大東市はこのやり方で民間と連携し、古い市営住宅エリアを賃貸住宅、オフィスの他、北欧の暮らしをテーマにした商業施設や芝生の都市公園などにつくりかえました(morinekiプロジェクト)。子育て中の市民にとってはまさに刺さる場所となり、古くからそこに住んでいる市営住宅の住民や周辺住民の生活には、ちょっとだけ自慢できる風景と、焼き立てパンの香りが加わりました。市には今まで1円も生んでいなかった市有地から土地の賃料収入、固定資産税、法人税が入り、加えて前年度比125%とアップした周辺の地価の影響や不動産取引の活発化に伴う税収増が見込めます。

福祉の分野では、自治会や民生委員などにただただ頑張ってもらうのではなく、彼らの困りごとに訴求し、活動しやすくなるような提案をすることが大事です。住民に一番近いところにいる町内会役員のような人たちが笑顔になると、そこでも豊かな公共サービスが生まれます。立派な福祉施設などは要りません。家から歩いてすぐのところに、自分たちの健康や福祉を自分たちで守れる小さな居場所があれば良いのです。「寝たきりならんで儲かりまっせ」「長生きを長イキイキに」のようなメッセージを共有することで、個人の意識が変わり「アンタまだ元気やのに介護保険なんか使うたら私らの保険料まで高うなるやないの。それよりもな…」とご近所の人へのお節介がはじまると最強です。

ジェネラティビティとは、次世代のために役立ちたいという中高年期の人たちが抱く気持ちで、自身に子どもがいるかどうかとは関係がなく、これが満たされている人の精神的健康状態は良好だと言われています。それも中高年側の独りよがりではだめで、行動が感謝されたと感じられないと幸せ感も得られにくいのだそうです。次世代側からすると、自慢話よりも失敗談の方が響きます。事業者は試行錯誤の背中を見せ、企業人も偉い人になるのではなく、慕われる中高年になりましょう。地域金融機関、不動産オーナーの方などは、どうぞ若い人たちの地元でのチャレンジを応援してあげてください。

若者の大企業離れが続いています。スタートアップや地域での仕事が職業の選択肢として入ってきたことを感じます。良い流れです。世界を股にかけるビジネスに成長するかも知れませんし、少なくとも素敵なご近所は自分たちの手でつくれます。難しくはありません。一歩ずつプロセスを踏めば、やるべきことは目の前に現れてきます。そのまちの出身者でなくとも、良いと思います。私も、結婚を機に大東市に移住したのが約20年前で、出身は兵庫県宝塚市です。外部の目から見ると地元の人には見えにくいことが見えたりもします。次世代の人たちはどうか流されず、スモールスタートをして自分の好きなことを突き詰めてください。公務員の仕事も、どんどんクリエイティブになってきています。安定だけではない、本当に格好良い、子どもたちの憧れの職業になることを期待しています。私たちの実践である本書がそのヒントの一つとなれば幸いです。

マーケットとは、「付加価値の高いもの、サービスニーズの多いものに対して高い対価が支払われる構造である」と聞いた時に美しいとさえ思ったのは、行政のまわりではそれがいかに崩れているかを実感していたからです。金融機関は信頼できるところには安い金利で多くのお金を貸してくれますが、その逆も然りです。取引先からの信用も1日にして成らず、コツコツと実績を積み上げるしかありません。一足飛びにはいかない、これもマーケットの原理です。が、補助金はこの原理すら崩してしまいます。

地元資本の良質なマーケットをまもり、つくることができるまちは、今後も生き残る可能性が高まります。「そこに行けば◯◯が得られるだろう」と期待して出向いたところで、期待以上のものが得られ、さらに人の明るさや聡明さ、優しさなどに出会うと、胸の中に爽やかな風が吹きます。謙虚な気持ちになり、例え高い対価を支払ったとしても感謝の気持ちが生まれます。再び体験したいと思い、その良さを人にも伝えたくなります。これが付加価値の高いものです。「そこに行けば◯◯」が明確に発信され、付加価値の高いものとして受信されると、ファンが増えサービスニーズの多いものになります。求める人が多く、かつ提供サービスのクオリティを下げない工夫ができれば、安売りをする必要がなくなります。提供側に余裕が生まれ、良い条件で楽しく働くことができます。そんな大人たちを見た若者が新たな挑戦をはじめ…という好循環のサイクルが回り出します。これらを地価や人口構造の適正化にまで持っていくこと、私たち公民連携エージェントの仕事の成果はそこにあります。

行政のエージェントとして都市経営課題解決の一翼を担う一方で、まちの変化を拾い、サイレントマジョリティとつながる、ジャーナリスト的な役割も大きいと気づきました。縮退の時代、公だけでやると、また民に任せすぎてしまうとまちはどうなってしまうのか。公民連携でどんなことができるのか。現状の課題とその解決の糸口となるような活動の芽や、日常の隠れた良さなどを、市民、国民に分かりやすく伝える仕事です。それを事業としてやっている訳ですが、さらに1冊の本にしてはどうかと学芸出版社の岩崎健一郎さんにお声がけいただいた時、思い浮かんだのは新聞記事でした。父が新聞社勤務だったこともあり、小学生の頃から新聞だけは毎朝必ず読んできました。恐れながら署名記事を書くつもりで、私たちの活動をルポライトしたのが本書です。書いているうちにも活動は日々マイナーチェンジされ、新しい事業が生まれています。本当に完成や成功の瞬間はないのです。古い市営住宅はまだまだありますし、もりねきのまちには本や自転車のコンテンツを加える計画も進めています。地域リハビリテーションの文脈から派生した、子どもの心身を健やかに養育する公民連携教育事業にも取り組もうとしています。これらもまた随時発信していけたらと思います。

介護保険料が上がり続けているのは要介護な高齢者が増えるから仕方がないことだとされていますが、その制度を使い家に取り付けた、おそらく一生取り外すことのない普通の手すりが、月額約5000円のサブスクとなっていることを国民のほとんどは知りません。個人負担1割として、残りの4500円がケアマネのプラン料と福祉用具のレンタル費用として毎月事業所に入っていると聞くと穏やかではいられないでしょう。財源は我々の納めた保険料と税金です。この手すり問題を大東市はどう解いたのでしょうか、一度政策を調べてみてください。ズンチャッチャ夜市やもりねきにも遊びに来てください。本書をきっかけに、一歩を踏み出す人や自ら考えて動く自治体が増えることを祈っています。一緒にやりましょう。楽しんで!

最後に、いつも事業を支えてくれているメンバー、大東市役所の方々、執筆にあたりご協力いただいた全ての方に感謝申し上げます。仕事や学校帰りに寄って、夜市や音市を遅くまで手伝ってくれる家族も、いつもどうもありがとう。

入江智子

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