地域新電力
脱炭素で稼ぐまちをつくる方法


稲垣 憲治 著

内容紹介

自治体エネルギー事業を地域発展につなげる

ゼロカーボンシティを宣言している自治体は679。その実現に向け、自治体や地域企業、住民が一体となって地域エネルギー事業に取り組むことで、脱炭素だけでなく地域内経済が循環し、雇用にもつながる。本書では自治体のエネルギー政策、地域新電力について豊富なデータや事例をもとに紹介し、その可能性や課題をまとめた。

体 裁 四六・204頁・定価 本体2200円+税
ISBN 978-4-7615-2820-1
発行日 2022-07-10
装 丁 美馬智


紙面見本目次著者紹介はじめにおわりに関連ニュース関連イベント

sample01

sample02

sample03

第1章 国のエネルギー政策の現状

1.1 エネルギー政策を大きく変えた東日本大震災

1.2 再生可能エネルギーの拡大

1.3 電力システム改革

1.4 新電力の台頭
1.5 日本の温室効果ガス削減

第2章 動き出す自治体エネルギー事業

2.1  いま、自治体が地域エネルギーに 取り組むべき理由

1 地域経済循環―外貨を稼ぐことと同様に重要
2 地域脱炭素―脱炭素の切り札「再エネ」の命運は地域が握る
3 地域課題の解決―エネルギー事業で一石二鳥を目指す
4 地域ブランディング―再エネによる企業誘致
5 レジリエンス向上―非常用電源として活用
column 戦前、自治体が電力事業を担っていた

2.2 自治体のエネルギービジョンと具体的政策

1 鳥取県北栄町―風車を町のシンボルとし売電収入を地域に還元
2 神奈川県川崎市―政令市最大のCO2排出自治体の責任
3 長野県―豊かな自然を生かした太陽光発電と小水力発電普及に力点
4 東京都―再エネ選択を需要家に促す都市型施策
column 雲の上の町 高知県梼原町
column 痒い所に手が届く長野県の充実した「屋根貸し」手引き

2.3 注目の自治体再エネ新施策

1 太陽光発電・再エネ電気の「共同購入」
2 大都市(需要地)×地方(生産地)が連携した再エネ拡大
3 再エネなどの「推進地域」設定―ポジティブゾーニング
column サンフランシスコが町全体で再エネ電力を選ぶ理由

第3章 地域新電力を徹底分析!

3.1 全国に広がる自治体関与の「地域新電力」

3.2 全国74の地域新電力を総力調査!

1 設立数の推移
2 設立経緯による分類
3 設立目的は自治体の人口規模によって異なる
4 出資
5 地域企業が経営に参画すると販売電力量が伸びる
6 地域新電力の約半数が従業員数ゼロという矛盾
7 地域外企業に多くの業務を委託する矛盾
8 調達電源
9 排出係数
10 供給先
11 地域還元策、地域低炭素化事業などの将来展望
12 74地域の調査で見えてきたこと
column 日本の廃棄物発電

3.3 地域新電力の意義

1 地域脱炭素の担い手
2 地域経済循環の担い手
3 自治体の相談相手「ローカルシンクタンク」の役割も
4 地域新電力の責任
5 地域新電力は、ドイツのシュタットベルケになれるのか

3.4 地域新電力の事例紹介

1 地域新電力の先駆け―中之条パワー(群馬県中之条市)
2 地域経済循環でまちを強くする―ローカルエナジー(鳥取県米子市)
3 電力を手段とした地域課題解決―三河の山里コミュニティパワー(愛知県豊田市)
4 混乱時期を経てガバナンスを改革―みやまスマートエネルギー(福岡県みやま市)
5 脱炭素に向けて地域を巻き込む―たんたんエナジー(京都府福知山市)
6 地域課題を深掘りして競争力に―たじみ電力(岐阜県多治見市)
7 行政訴訟を期に存在意義を発揮―いこま市民パワー株式会社(奈良県生駒市)
column 地域新電力と大手電力との連携可能性

3.5 地域新電力の実務と三セクとしての留意点

1 地域新電力の実務
2 第三セクターのトラウマ

3.6 試練にどう取り組むか

1 歴史的な卸電力市場の高騰
2 その時、地域新電力は?
3 地域新電力の悩みの種、容量拠出金
4 他の地域新電力は、競争相手ではなく協力相手
5 地域新電力の特徴・特有リスク・対応策

第4章 地域で稼ぐエネルギー事業に向けて

4.1 地域の稼ぎを測る「地域付加価値創造分析」

4.2 地域新電力による「地域の稼ぎ」の高め方

1 ひおき地域エネルギーの事業内容
2 ノウハウを蓄積し、業務を内製化・地域化する
3 地域新電力の「地域の稼ぎ」を高めるには
4 地域外企業任せにしないことが重要
5 地域貢献を掲げる地域外企業の「責任」
column 地域インフラ会社による電力販売で地域の稼ぎが増す

4.3 地域のためのエネルギー事業とするポイント

1 KPIを設定する
2 ノウハウを蓄積する
3 地域内に再投資する
4 地域企業の主体的な参画
5 地域企業との産業連関を図る
6 地域中核企業による実施

4.4 重要性が増す自治体職員のノウハウ蓄積

1 自治体職員のノウハウ蓄積や地域ネットワーク形成の必要性
2 「自治体業務はルーチンだから異動が必要」なのか?
3 自治体の環境・エネルギー部門に柔軟な人事制度を
4 調査・計画策定は外注ばかり?
5 委託より人材育成
6 東京都庁の人材育成
column 地域人材の確保・育成
column 自治体の仕事は計画策定ばかり?

補論 地域が稼ぐまちづくり事業のポイント

1 これまでのまちづくり事業の失敗
2 まちづくり事業による地域の稼ぎを分析
1 地域全体をホテルに見立てる「まちやど」
2 魅力ある地域店舗が出店する「地域マーケット」
3 地域資源の活用と地域人材による実践が「地域の稼ぎ」を増やす

稲垣 憲治

1981年愛知県生まれ。東京大学大学院修士課程修了。京都大学大学院博士後期課程研究指導認定退学。文部科学省、東京都庁を経て、地域活性化や地域脱炭素への思いが高じ、2020年から一般社団法人ローカルグッド創成支援機構事務局長。これまで自治体の再エネ普及施策企画、地域新電力の設立・運営などに従事。現在は、地域新電力の価値向上に全力で取り組んでいる。
また、京都大学大学院において「地域新電力×再エネ×まちづくり」の研究活動も行う。環境省、経産省、川崎市、練馬区等の各種検討会等委員、総務省地域力創造アドバイザーなどを歴任。。

2011年3月に発生した東日本大震災と原発事故により、多くの地域がエネルギーを自分事として考えるようになった。国の専管と思われていたエネルギー政策は、震災を機に地域のエネルギーセキュリティをどう担保していくかなど自治体の課題としても認識されたのである。
また、地域エネルギー事業に熱い視線が注がれ、自治体が政策支援を行うようになったのは、地域エネルギー事業が地域に稼ぎをもたらし、地域活性化のための1つの大きな手段となる可能性があるためだ。
東京都における再生可能エネルギー戦略(2006年策定)など、東日本大震災前も自治体による地域エネルギービジョンはあったが、環境先進自治体のみで数は圧倒的に少なく、目的は主に地球温暖化防止対策であった。震災を機に、自治体の地域エネルギー事業に対する関わり方は変化し、地域のレジリエンスや地域活性化の観点が前面に出されるようになった。そして、一般的には条件不利と言われる都市化されていない中山間地域こそが再エネ事業のポテンシャルが大きい点も、地域エネルギー事業の魅力を高めた。
また、ここ数年、世界的な脱炭素の流れを受け、ゼロカーボン宣言をする自治体が急増し、その数は2022年3月末時点で679自治体に上る。脱炭素の面からも地域エネルギー事業の意義が再確認され、自治体の取組の機運は高まっている。地域と共生した地域エネルギー事業の拡大こそが、世界的課題である脱炭素の命運を左右すると言っても過言ではないし、脱炭素によって、ブランディングやレジリエンス向上といった地域メリットも生まれつつある。

地域エネルギー事業は、固定価格買取制度(FIT)制定当時は、太陽光発電の開発が中心だったが、震災後10年が経過し、再生可能エネルギー(以下「再エネ」)開発のみならず、地域で開発された再エネからの電力をその地域に販売する小売電気事業も広がってきた。電力の地産地消を目的に、自治体が出資や協定で関与するケースも多く、このような地域新電力の数は全国で約80社に上る(2022年3月時点)。自治体が、地域新電力を通じて、地域の稼ぎ創出や地域脱炭素化を目指すようになってきたのである。本書は、この地域新電力について、その背景、メリット、リスク、そして可能性について多くの紙面を割いている。

第1章では、再エネ政策と電力システムを中心に国のエネルギー政策の現状を概観する。続いて第2章では、自治体がエネルギー事業に取り組むべき理由を、①地域経済循環、②地域脱炭素、③地域課題の同時解決、④地域ブランディングによる産業誘致、⑤レジリエンス向上の5つの視点で整理するとともに、自治体のエネルギービジョンと具体的施策、注目される自治体の再エネ新施策について事例を紹介する。
第3章では、全国で設立が相次ぐ自治体関与の地域新電力について、74地域新電力の調査結果を踏まえ、現状・課題、そして可能性を検討した。また、特色ある地域新電力の事例を多数紹介し、その意義を整理している。加えて、2021年度に発生した市場高騰など新電力の試練やその対策についても詳解した。
第4章では、主にドイツで自治体施策の効果測定などに使用される「地域付加価値創造分析」を用いて、地域新電力事業がどれだけ地域に「稼ぎ」を生んでいるのか、事例をもとに分析した。どのように事業を経営・運営するかによって、地域の稼ぎが大きく違ってくることを示すとともに、地域のための地域エネルギー事業とするポイントを整理した。最後に補論として、これまでのまちづくり事業の失敗を振り返り、近年注目を集めている特徴的なまちづくり事業である「まちやど」と「地域マーケット」の事例を通じ、地域が稼ぐまちづくり事業について検討した。
さて、「地域新電力 脱炭素で稼ぐまちをつくる方法」という本書の題から、この本を手に取っていただいているのは、既に地域エネルギー事業に携わっておられる方・関心のある方、または稼ぐまちづくり事業のネタ探しの方、自治体職員や金融機関の方だろうか。この書で伝えたいことを先に書いてしまうと、稼ぐ地域をつくるエネルギー事業は、地域人材による実践が不可欠であること、そして、地域でやればできることも多いということである。
地方創生はずっと叫ばれ続け、それに向けてのまちづくり事業の試みが全国で延々と続けられている。地域活性化、地方創生の掛け声の中、これまで多くの予算がつき、全国でまちづくり事業が実施されてきた。一方で、少なくない事業企画がコンサルタントなどに丸投げされ、美しい報告書が納品されるが、実行主体がおらず実行されない、実行されても責任があいまいなどでとん挫してしまうなどの話も多い。国からの地方への補助金が、委託を通じ、結局大都市の大企業に流れてしまっているという指摘もある。地域主体で実施しないと地域の稼ぎがうまれてこないことは徐々に分かり始めている。本書においては、様々な地域事例が出てくるが、どれも地域の担い手が本気になって取り組み、地域に稼ぎを生み出しているという点で共通している。
本書で言う「稼ぐまち」とは、地域人材自ら事業を実践することによって地域に循環するお金を増やし、さらに事業ノウハウを地域で蓄積していくことで、持続的に発展していく地域である。地域の人が担い手にならずに他社に任せしてしまい、地域の稼ぎを生まなかったこれまでのまちづくり事業の失敗を繰り返すことなく、地域に稼ぎを生み出すエネルギー事業が全国に広がることを願ってやまない。
この本をとおし、地域でやってみればできることも多いこと、そして、地域での実践が何より地域の発展に重要だということが共有されれば幸いである。

私が地域でのエネルギー事業を考えるきっかけとなったのは、東京都職員として東京の再生可能エネルギー普及を担当したことがきっかけです。2012年当時、東日本大震災直後の国のエネルギー政策の見直しが行われる中、全国的に地域でエネルギーを考える機運が急速に高まっていた時でした。当時の東京都の環境局は、良いことは新しいことでもどんどんチャレンジしようといった雰囲気があり、様々な施策を提案できる土壌がありました。
また、都には当時、調査企画が通れば、3か月間海外都市に単独で調査に派遣してもらえる制度がありました。それに応募し、ドイツ、デンマーク、イギリス、フランス、アメリカの5国10都市をみっちり単独で調査する機会を得ることができ、地域エネルギーの奥深さ・面白さに心酔してしまいました。日本の自治体の環境施策を海外都市と相対化することができ、自治体の環境施策のアイデアがどんどん生まれ、3か月間、ヒアリングしては日本・東京に導入できたらと毎日わくわくしてたのを鮮明に覚えています。
この海外調査において、ドイツの各都市のシュタトベルケも調査・ヒアリングをし、当時日本で黎明期だった地域新電力に没頭するきっかけとなりました。そしてこれらの調査において、地域エネルギー事業が地球温暖化防止のためのみならず、地域創生の役割を強く期待されていることに気づき始めます。
特に、ドイツのアーヘンの地での調査は思い出深いです。日本で再エネが認知される遥か昔の1995年に、ドイツのアーヘン市では条例により電気料金を1%値上げし、それを原資に、アーヘンのシュタトベルケが固定価格で再エネの電気を買い上げることを保証しました。「アーヘンモデル」と呼ばれたこのモデルは、FITの原型となり、後のドイツのFIT、そして世界のFITにつながったと言われています。自治体とシュタトベルケの取組が、世界の再エネをけん引した事例です。当時のアーヘン市やシュタットベルケの担当者とも意見交換をしましたが、市とシュタットベルケとの有機的な連携が印象深かったのを覚えています。そして、このアーヘンモデルに倣えば、日本の地域新電力でも将来的に①地域新電力が非FIT再エネを発電事業者と長期契約したり、自身で開発したりして再エネを地域に増やし、②その再エネを地域に供給し、③地域需要家がそれを選ぶといった形で、FIT終了後の再エネ拡大を牽引する姿を妄想しました(8年ほどが経ち、地域新電力がその姿に少しずつ近づいていると思います)。
調査後、都から出向していた東京都環境公社において、さっそく地域新電力事業を提案しました。民業圧迫の観点などが懸念され、自社施設のみの供給にとどまったものの、新電力の立ち上げから運営までを経験できたことは今でもとても役立っています。
その後、2017年2月には京都大学大学院の諸富徹教授のもとに押しかけ、研究プロジェクトに入れていただき、業務時間外にも地域新電力の地域経済効果などについて研究を開始しました。この研究をはじめた理由は、当時、地域活性化などを目的に地域新電力がどんどん設立されていたのですが、内情は、従業員もゼロで地域外事業者にすべて業務丸投げと思われる地域新電力が目立っており、自治体が目指す目的と地域新電力の運営方法という手段がずれているのではないかと危機感を抱いたためです。地域新電力の運営方法の違いによって、地域の稼ぎが大きく変化することを定量的に示したかったのです。突然押しかけた私を受け入れていただき、ご指導いただいた諸富先生に厚く御礼申し上げます。
東京都には主に環境局で10年間過ごしましたが、気候変動対策や再エネ推進の意義・奥深さ、仕事の面白さを教えていただいた当時の諸先輩方には深く感謝しています。また、通常は2~3年の異動のところ、私の希望を踏まえ、8年間も部署は変われど再エネを担当させていただいた東京都の懐の深さに感謝したいです。
ローカルグッド創成支援機構の青山前事務局長(現理事)には、どっぷりと地域エネルギーの世界に飛び込むチャンスをいただき人生を変えていただきました。ローカルグッドの会員の皆様、理事・執行委員・事務局の皆様には、いつも親身になって助けていただいています。皆様のご協力なくして本書はできていません。改めて厚く御礼申し上げます。
また本書は、元になる企画書を2016年に学芸出版社の中木氏に持ち込んだことが始まりです。当時は出版に至りませんでしたが、丁寧で、そして温かいアドバイスをいただいたことを覚えています。6年を経て、本書を中木氏に編集いただき、学芸出版社から出版できたことを、とても嬉しく思います。改めて厚く御礼申し上げます。
そして、本書の発行及び本書のもととなった研究にあたっては、公益財団法人トヨタ財団2018年度研究助成プログラム及び一般財団法人第一生命財団2020年度研究助成にご支援いただきました。改めて謝意を表します。
最後に、地域新電力・再エネ・まちづくりへの思いが高じ、40歳目前にして公務員から転職するという挑戦を許してくれ、幼い子どもが3人もいる中、本書を執筆するため、年末年始や休日に時間を与えてくれた妻にはもう頭が上がりません。本当にありがとう。

稲垣憲治

公開され次第、お伝えします。

開催が決まり次第、お知らせします。