直感で理解する!建築デザイナーのための構造技術の基本
内容紹介
難しい数式は必要最小限!手描きイラストと文章でやさしく解説
難しい数式は必要最小限!「いい建築デザイン」はどんな構造技術に支えられているのかを文章と手描きイラストで解説する「直感」シリーズ第三弾。建築デザインの選択肢を増やし、幅を広げるための考え方や、細部にこだわる時の注意点など、建築デザイナーとの打合せの際に構造設計者が考えていることをわかりやすく紹介。
体 裁 A5・216頁・定価 本体2500円+税
ISBN 978-4-7615-2785-3
発行日 2021-08-15
装 丁 Iyo Yamaura
まえがき
第1章 建築デザインの前に共有したいこと
1. 本と建築の類似性
2. 自然現象と自然災害
3. 力を流す経路をどうデザインするか?
4. 耐震設計をイメージする
5. 建築物に必要な鈍感さ
COLUMN / 地震より厄介なもの
第2章 建築デザインの幅を広げる構造技術と発想
1. 躯体のローコスト化を図る
2. 異種材料を組み合わせる
3. 静定構造ですっきり見せる
4. 地盤に浮かべる
5. 建物と建物をつなぐ
6. 柱をランダムに置く
7. 建物を跳ね出す
8. ヨコに伸ばす
9. タテに積む
10. 折って強くする
11. 空間を架け渡す
COLUMN / 壁は強い
第3章 細部のカタチにこだわるための構造的解決法
1. 柱を細く
2. 柱を丸く
3. 部材を傾ける
4. 大ばりをなくす
5. 小ばりをなくす
6. はりせいを抑える
7. リブを見せる
8. バリアフリー化する
9. 庇を薄く
10. アールをつける
11. 階段を浮かす
12. カタチを変えない
COLUMN / 鈍感と敏感のあいだ
第4章 構造設計者の頭の中を覗く
1. ブラウン管TVをそのまま形に
2. 倒れないドミノ
3. 屋根のフォルムを活かす
4. 柱を抜いてウチソトを連続させる
5. 要素の繰り返しで構成する
6. 建築デザインに自由度を与える
7. 積み木細工のようにつくる
8. 茶碗を置く
9. 木組みのイメージを現代の技術で表現
10. 17.4mを跳ね出す
COLUMN / マニュアル撮影のすすめ
あとがき
参考文献
建築物の設計において、住宅、病院、庁舎、オフィス、商業、教育、工場、スポーツなど、個々の施設の専門知識や設計のノウハウを必要とするようになり、特定の建築物に精通した意匠設計者(以下、建築デザイナー)が生まれています。一方、構造や設備の設計者はどちらかと言えば、住宅からスタジアムまで何でも設計できるスキルが求められているように思います。このように専門家としての様相が異なるものの、設計の分業化はどんどん加速しています。
ところが、意匠、構造、設備は互いに独立したものではなく、便宜的に分類しているだけのような気がします。できあがる建築物は一つです。どの設計担当者も「自分のやるべきことはやった。あとは任せた」では、整合のとれた建築物にはなりません。もう少しだけ、お互いの領域に関心をもって足を踏み入れても良いのではないかと考えます。専門的なことはともかく、計画初期の段階で構造に関する基本知識を知っていると、建築デザイナーのデザインの選択肢がもっと広がるように思います。もちろん、これは構造設計者にも当てはまることで、建築計画や設備計画の基本を知って相互理解が深まれば、建築の質もいっそう向上するのではないでしょうか。
本書は、『直感で理解する! 構造設計の基本』『直感で理解する! 構造力学の基本』に続く直感シリーズの第3 冊目となる本です。前2 冊と同様、構造力学の専門書に出てくるような難しい数式を使わず、直感に訴えかけるよう、平易な文章と手描きのイラストで解説しました。本書は、主として建築デザイナーに向けて執筆したものですが、若手の構造設計者にも十
分参考になるものと考えています。第1 章では構造設計の根幹を、第2 章、第3章ではそれぞれ構造技術とディテールについて解説しています。また、第4 章は、実際のプロジェクトで構造設計者としてどういうことを考えていたか、頭の中を覗いていろいろな着想のヒントにしてもらおうと執筆しました。
構造設計に唯一の正解はありません。構造設計者が百人いれば百通りの解が得られるものです。そういう意味では、本書もその解のひとつを示したに過ぎません。経験しないことは書けませんし、ほかを探せばもっと良い解が見つかると思います。ただ、建築はいずれも特殊解です。だからこそ、構造的な着想や課題解決のプロセス、構造技術の使いどころを自分のものとして吸収し、今後の建築設計に活かしてほしいと願っています。
2021 年7 月吉日
山浦晋弘
建築以外のことから建築に関するヒントをもらうことは、たくさんあります。むしろ、建築よりもそれ以外の分野からアイデアをもらうことの方が多いような気がします。趣味の世界などその最たるものです。入社以来、仕事人間になりたくないと思い続けているのも、案外そのあたりが影響しているのかもしれません。
中学時代に夢中になった星新一氏のショートショートからは、異質なもの同士を結びつけて考えると、まったく新しいアイデアが浮かぶ可能性を教えられました。子供が独立して40 年ぶりにギターを弾き始め、新たに参加したジャムセッションでは、他人の音を聞いて音で返すコミュニケーションの大切さを思い知らされました。また、何か音を出さないことにはジャムセッションが成立せず、出して試行錯誤を繰り返すうちに、学生時代にまったく理解できなかった音楽理論がわかるようになったことも、自分にとっては目から鱗でした。
さらに大学の非常勤講師として、高校で文系を選択した学生たちに十年以上にわたって構造力学を教えたことは、難しい内容をわかりやすく伝える貴重なトレーニングになりました。自分で「直感シリーズ3 部作」と勝手に呼んでいる3 冊の本も、実はこうした下地があったからこそ執筆、出版できたと考えています。
本書は、建築デザイナーが構造設計者の着想を共有することによって少しでも視野を広げてほしいという想いで執筆しました。瞬時にポイントを感じ取る、嗅ぎ取る。この直感力は、専門外だからこそ大事な能力だと思っています。「直感力」と同じ読み方で「直観力」がありますが、こちらは本質を見抜く力であって、構造設計者でもない限り必要としない能力です。
直感で「ピンときた」という言い方をよくしますが、これがアイデアの源になるような気がします。アイデアとは言っても、本書で紹介した事例はいずれも実際に設計で検討を重ねて適用したものであり、単なるアイデア集ではありません。工学の分野では、ヒントをもとにこれまで得た知識、技術を使ってアイデアを形にすることに意味があります。本書を読まれた方からさらに新しいアイデアが生まれることを期待していますし、そう願っています。
最後に、本書の出版の機会を与えてくださった一般社団法人日本建築協会ならびに同出版委員会の委員各位に対し、深く謝意を表します。また、株式会社学芸出版社編集部の岩崎健一郎氏、山口智子氏には、企画から編集、出版を通してお世話になりました。さらに本書の執筆にあたり、設計で苦楽を共にしたプロジェクトメンバーをはじめ、社内外を問わず協力いただいたすべての方々に対し、厚くお礼を申し上げます。
2021 年7 月吉日
山浦晋弘