素が出るワークショップ

饗庭伸・青木彬・角尾宣信 編著

内容紹介

まちづくり・アート・福祉の現場で問い直す

アイスブレイクは盛り上がれば良いの?WSをすることがアリバイになってない?コミュニティ活動では本気で語りあえている?今ある価値観に固まってしまってない?そんな問いに応えるべく、まちづくり・アート・福祉の現場で追究された22の技術と本音の議論。模造紙と付箋だけがWSじゃない!WSの現場で悩むあなたの羅針盤に。

体 裁 四六・304頁・定価 本体2500円+税
ISBN 978-4-7615-2752-5
発行日 2020/09/20
装 丁 美馬智


紙面見本目次著者紹介まえがきあとがき関連イベントレクチャー動画

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1章 アイスブレイク── 盛り上げる場から語りの場へ

1 くせの再演

── 演じ合って見えてくる”生活”と”表現”のボーダー

2 青い山脈ノリノリ法

── 語り始めるきっかけになる、懐かしの一曲

3 将軍ゲーム

── 関係づくりのスタートになる、体操アイスブレイク

4 公園間違い(?)探し

── 「何かがいつもとちょっと違う」、まちの変化を見つけて気づくこと

Discussion1 語りの場をつくり、日常の見方を変える

2章 ブレインストーミング──アリバイづくりからコミュニケーションづくりへ

5 川崎景観ボードゲーム─

─ まちへの愛着が可視化されるゲーム

6 夢見る都市計画家ゲーム

── 夢とアイデアの実現手段が無数に編み出されるゲーム

7 マネーボートワークショップ

── おもちゃの紙幣がワクワク感と予算感覚を生む

8 Place It!

── 思い出の場所を再現し、公共空間の課題を話し合う

9 WANDERING

── 地域の人と出会い直し、よりよく知り合うためのヒアリング術

10 シルバーシネマパラダイス!

── 人と地域の記憶を掘り起こす、懐かしの映像鑑賞

11 人生デザインゲーム

── みんなの「人生」を積み重ねて見えてくる、「より良い暮らしと社会」のイメージ

Discussion2 コミュニケーションを積み重ねていく

3章 コミュニティ活動── 本音が動くと活動は続く

12 上北沢の小さなおうち耐震改修とみんなのキッチンづくり

── 空き家の使い方・続け方を自分ごとにする

13 えいちゃんくらぶ(映像メモリーちゃんぽんくらぶ)

── パーソナルな映像制作活動が、人と地域の記憶になる

14 ファンファンレター

── 手間と時間をかける広報紙づくり

15 リカちゃんハウスちゃん

── 住民とアーティストの言葉のやりとりから生まれた漫画キャラクターの成長

Discussion3 本音を動かし、活動を動かす

4章 実験ワークショップ──価値観をほぐし、広がる世界を共有する

16 八戸の棚 Remix!!!!!!!!

── 街なかの「余白(空き店舗)」を市民の表現の場に

17 URBANING_U

── 都市を体験し直す方法

18 穴アーカイブ

──地域に眠る映像アーカイブを掘り起こし、幽霊たちとともに語り合う

19 サンセルフホテル

── 団地の一室がホテルに、住民がホテルマンに、本気のごっこ遊び

20 ラジオ下神白

── 被災者というレッテルでは括れない、一人ひとりのエピソード

21 憲法ボードゲーム

── ”もしもの世界”を想像することで、現実を知る

22 一緒につくりながら考える農業公園づくり

──あったらいいなを自分たちでつくる

Discussion4 小さな練習の積み重ねで、人は素になっていく
著者紹介(五十音順)

編著者

饗庭伸(あいば しん)

1971 年兵庫県生まれ。東京都立大学都市環境学部教授。早稲田大学理工学部建築学科卒業。博士(工学)。東京都立大学助手などを経て2017 年より現職。専門は都市計画・まちづくり。著書に、人口減少時代の都市計画の理論をまとめた『都市をたたむ』(2015 年・花伝社)、昭和の津波から東日本からの復興にいたるまでの東北の小さな村の時間をまとめた『津波のあいだ、生きられた村』(共著、2019 年・鹿島出版会)など。

青木彬(あおき あきら)

1989 年東京都生まれ。インディペンデント・キュレーター。首都大学東京インダストリアルアートコース卒業。様々なアートプロジェクトを通じて、日常生活でアートの思考や作品がいかに創造的な場を生み出せるかを模索している。社会的擁護下にある子どもたちとアーティストを繋ぐ「dearMe」企画・制作。まちを学びの場に見立てる「ファンタジア!ファンタジア!─生き方がかたちになったまち─」ディレクター。都市と農村を繋ぐ文化交流拠点「喫茶野ざらし」共同ディレクター。

角尾宣信(つのお よしのぶ)

1985 年東京都生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程在籍。専門は映画研究、表象文化論。共編著を担当する『渋谷実 巨匠にして異端』(水声社)が2020 年10 月出版予定。主な共訳書に、ボリス・グロイス『アート・パワー』(現代企画室・2017 年)など。研究の傍ら、都内や近郊の介護施設での映像鑑賞プロジェクト「シルバーシネマパラダイス!」、高齢者の方との映像制作プロジェクト「えいちゃんくらぶ」を企画運営。

著者

アサダワタル(あさだ わたる)

1979 年大阪府生まれ。文化活動家。2000 年代半ばより「社会活動としてのアート」を、全国各地の街なかや学校、福祉施設や復興住宅などで展開。2008 年に「住み開き」を提唱し話題に。2019 年より品川区立障害児者総合支援施設にてアートディレクター(社会福祉法人愛成会所属)。近著に『住み開き増補版』(ちくま文庫)、『ホカツと家族』(平凡社)、『想起の音楽』(水曜社)など。東京大学大学院、京都精華大学非常勤講師、博士(学術、滋賀県立大学)。

安藤哲也(あんどう てつや)

1982 年千葉県生まれ。明治大学大学院理工学研究科建築学専攻博士前期課程修了。都市計画コンサルタント事務所を経て独立。様々な現場での実務をとおし、まちと人のインターフェースをデザインすることが重要だと考えるようになる。本業である「まちづくり」と、副業である「ボードゲーム」を融合させた「ソーシャルデザインゲーム」を開発し、大切な社会課題をゲーム化し、楽しく遊びながら知り・学び・考えさせることを目指している。現在は柏アーバンデザインセンター(UDC2)の副センター長と、ボードゲームカフェ武蔵新城の店長がメイン業務。

角屋ゆず(かくや ゆず)

1981 年東京都生まれ。一般財団法人世田谷トラストまちづくり主任主事。昭和女子大学生活科学部環境デザイン学科(建築学コース) 卒業、同大大学院生活機構研究科修了。在学中、大地の芸術祭越後妻有アートトリエンナーレへ研究室で参加。街なかに住民とインスタレーションを仕掛ける。暮らしに根付いたまちづくり支援を志し、現職。世田谷まちづくりファンド、空き家等地域貢献活用事業などの担当を経て、現在は、市民参加型の公園づくり、近代建築の保全活用他を担当。

羽原康恵(はばら やすえ)

1981 年高知県生まれ、広島、三重育ち。特定非営利活動法人取手アートプロジェクトオフィス理事・事務局長。筑波大学国際総合学類卒業、同大大学院人間総合科学研究科修了(芸術支援学)。院在学時に取手アートプロジェクト(TAP)インターンとして関わり、2007 ~ 08 年(財) 静岡県文化財団での企画制作を経て取手に戻り現職。TAP の芸術祭型から通年型活動への転換を担い、郊外におけるアートプロジェクトの実践を続ける。

── 小さな冒険を成功させる22の技術

●小さな冒険を始めるために

いろいろなところで、初めての人と出会い、短い時間で意気投合をして、何か新しい、ためになることを一緒にやってみる、そんなことは随分と当たり前のことになってきた。特別な、一世一代の大冒険ではなく、普段の日常と地続きにある、「小さな冒険」としてである。

「都市型社会」ということが言われてから半世紀近くが経ち、私たちの社会は、好景気も不況も、民主主義の発達も後退も、超高齢化も少子化も、人口増も人口減も、平等も格差も、開発も保存も、自然災害も復興も経験してしまった。いいことと悪いことがコインの表裏のようにおきるなかで、私たちはそのバランスを少しだけ「いいこと」に傾けられるよう小さな冒険を積み重ねている。

この本におさめられているのは、その小さな冒険をうまく進めるための、小さな技術である。初めての人と出会い、打ち解け、コミュニケーションを重ね、アイデアをまとめ、人のつながりをまとめ、いろいろな実験をして、多くの人たちを巻き込んでいく技術。それは、いろいろな分野でソーシャルデザインやアートやまちづくりやコミュニティデザインやワークショップと呼ばれているものであり、この本は、それぞれの分野で実践を積み重ねている専門家の共同作業としてまとめられた。

●「素が出る」とは

共通して何が大事なのだろうか。こういった技術は、どういう注意のもとで使われないといけないのだろうか。議論を重ねて辿り着いたのが「素が出る」という言葉である。例えば編者(饗庭)の専門とする都市計画では、公園設計のワークショップは、設計のための情報を集めるために開かれる。緑と遊び場所のどちらを重視するのか、園路をどのようにつくり、どうベンチを配置するのか、公園の管理は誰がどう担うのか。ワークショップの技術は限られた時間の中で、最大多数の最大幸福を実現する計画に最短ルートでたどり着くために使われる。しかし技術が磨かれれば磨かれるほど、集まった人の余分なお喋りが消えていくことがある。それはお喋りができないような、教室のような窮屈な場になってしまうということではなく(それは単なるワークショップの失敗である)、全てのお喋りが機能的に統合されていく、ということである。ワークショップは参加者に「機能的な新しい喋りかた」を提案する。参加者は誠実に、なんとかその喋りかたにあわせようとする。そのことによって普段とは違うことを喋れるようになる一方で、喋れていたことが喋れなくなることがある。新しい喋りかたの中で、どうすれば、普段のその人らしさが現れるのか、どのようにその人の素が出てくるかということに技術は注意しないといけない。人間はややこしいもので「素を出してほしい」と言われると、余計に素が出せなくなり、やはりそこにも技術が必要である。機能的であると同時に、素を出せる技術、本書ではそれを集めることにした。

●この本の構成─4つの章と22の技術

本書では22の技術を4章に分けて紹介している。初めての人と出会ってから、多くの人たちを巻き込んでいくところまでの順序にあわせて4つの章を構成した。1章「アイスブレイク──盛り上げる場から語りの場へ」では、初めての人と出会い打ち解けるための4つの技術をまとめた。2章「ブレインストーミング──アリバイづくりからコミュニケーションづくりへ」では、コミュニケーションを重ね、アイデア化するための7つの技術をまとめた。3章「コミュニティ活動──本音が動くと活動は続く」では、人のつながりをまとめるための4つの技術をまとめた。4章「実験ワークショップ──価値観をほぐし、広がる世界を共有する」では、実験をして、多くの人たちを巻き込んでいくための7つの技術をまとめた。そして各章の最後に、それぞれの章の解題となるよう、執筆者による座談会(ディスカッショ
ン)を収録した。

●使ってみよう

理屈っぽいことはさておき、この本を開いて、「面白そうだ」と思った技術からまず使ってみていただきたい。現場ですぐに使えるように、手順をできるだけ詳細にまとめたつもりである。しかしテキストには限界があり、手取り足取り、事細かにやり方を示せているわけではない。どうやったらいいのか迷った時に、思い出して欲しいのが「素が出る」という言葉である。あなたの前にいる参加者の顔を思い浮かべながら、どうやったらその人の素を無理なく引き出せるか、そんなことを考えながら、実践に移していただければと考えている。

2020年7月17日
饗庭 伸

すでに二年も経ってしまったとは嘘のように思えるけれど、2018年の初夏、新たなワークショップの本を作ろうと、編著者である饗庭伸、青木彬、角尾宣信が声を掛けた本書の執筆陣が集合した。海外で出版されたワークショップ研究書Design as Democracy: Techniques for Collective Creativity (David De La Penaet. eds., Island Pr., 2017) をみんなで読み込んで、実際にワークショップをやってみることから企画は動き出した。こうして、まちづくり、アート、介護、福祉、ソーシャルデザインなど、様々な分野の専門家たち、自らの専門分野で活躍しつつ、その他の分野の「ワークショップ」も気になってしまう好奇心旺盛な人たちが一堂に会するようになったのだが、それでもはじめのうちは互いにジャブを飛ばし合うような緊張感もあった気がする。同じ「ワークショップ」という語を使っても、分野ごとにその内実は大きく異なるからだ。合意形成を前提としないワークショップというのは、アートの分野ではよくあるものだが、まちづくりの分野では企画段階で認可されるかどうか。付箋や模造紙を活用するワークショップは、まちづくりの分野では頻繁にみられるが、アートの分野ではあまりお目に掛からない。そして、半世紀以上前の映像を活用するワークショップも、介護の分野以外ではあまり実践がない。同じ言葉なのに、内容がまるで違う。だから正直なところ疑いもあった。それって本当にワークショップなの? 効果あるの? しかし、毎月のように顔を合わせて話をし、海外文献に当たってみたり、お互いのメソッドをプレゼンしたり、実際にそのやり方を試してみたりしているうちに、次第に分野ごとのプロテクションも外れていった。お互いのメソッドの特徴や他分野から見ることで判明する新たな活用法も分かってくるし、各人の思い入れや問題意識も湧き出てくる。そうして案外、分野は違ってもやろうとしていること、目指そうとしていることは似てるね、と結構イイ仲になってしまって、目次はどうする? 座談会もあったら実地での声も反映できて良いかも、などと話し合いながら、楽しくあっという間に二年が経ち、本書ができ上がった。

すると、本書の制作過程こそが「素が出るワークショップ」だったのかもしれない。そうだ、最後にもう一つ付け加えよう。「共通のことばで本を作るワークショップ」、これも素が出るメソッドの一つだろう。普段出会わない様々な人たちが、各自なりに思い入れのある共通のことばを一つ設定し、それにまつわる論集を作る、というもの。期間は二年ほど、いやZINEなどにすれば一か月でもできるだろうし、経費は、減らそうと思えばいくらでもコストダウンできるだろう。

みんなが無理のない頻度で会合し、対立、和解、協力など様々な局面を経て一つの論集にまとまったら達成感があるし、その過程で各人の素が見えてきて深い仲になれるだろう。実は本書は22+プラスワン1のメソッドを紹介するものだったのだ。看板に偽りあり。ご寛恕いただきたく。

本書を編むに当たっては、様々な方にお世話になった。東京都立大学饗庭研究室の学生のみなさん(岡村芙美香、小島みのり、鈴木萌佳、西昭太朗、持田茉椰)には、海外文献の概要のまとめや各ミーティングでのサポートなど、学業に就活にお忙しいなか快くご協力いただいた。お礼を申し上げるとともに、みなさんの今後のご活躍を楽しみにしている。また、Place It! の共同開発者の一人で、本書での当該手法の紹介をご快諾いただいたジェームズ・ロハス(James Rojas)さんにも感謝したい。そして、編集を担当してくださった学芸出版社の井口夏実さんには、一冊の論集にまとめるにはあまりに多様な分野および文体の原稿をとりまとめていただいた。編者側の様々な要望、時に無理難題にもご対応いただいた。感謝を申し上げる。

本書で紹介したメソッドが、一層多様な分野で展開されることを願いつつ、また一層豊かな出会いと素とを開花させるのを心待ちにしつつ。

2020年7月17日
角尾宣信

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